8 スパダリ要素
休日の朝、とてもいい香りに目が覚めた。お腹空いたなと思う。
伸びをしながら起き上がり、洋室からリビングへのドアを開けると、朝食の配膳をしていた恋ちゃんが笑顔でこちらを見た。
(現在は1LDKの部屋です)
「おはよう、しぃたん。目が覚めた?」
「うん、恋ちゃん、周くんおはよう。いい匂いだね」
座ってテレビを見ていた周くんは、私に挨拶を返す。
「おはよう雫。朗が朝から張り切って君の朝食を作ってるよ」
「そうなんだ?」
テーブルの上には、私が昨夜卵液に浸して仕込んでいたフレンチトーストとサラダ、ポタージュスープが並んでいた。
「ソイラテも、すぐ出来るからね?」
恋ちゃんがそう言ってオープンキッチンへ向かう。私も挨拶をしようとその後を追った。
キッチンでは、長身でイケメンの朗くんが余ったスープを保存容器に取り分けている。
私がいつもスープを作る時に、多めに作って冷凍してるから、合わせてくれてるのね?
「朗くん、おはよう」
「おはよう、雫ちゃん。勝手にキッチン使わせて貰ってるよ」
いつ見ても色っぽくて爽やかな笑顔だ。
「うん、ありがとう‥‥朗くんってお料理できたんだね! しかも盛り付けめちゃくちゃ綺麗」
私みたいにただ並べるだけじゃなくて、ちゃんと立体的になってるとこがすごい。
「そうかな、ありがとう。休日くらい、雫ちゃんにゆっくりしてほしくて」
「えー! 何それ嬉しいありがとう」
思わず笑ってしまう。朗くんって、スパダリ要素満載なのではないだろうか。
「雫ちゃんが昨日仕込んでたパンペルデュ、勝手に焼いたよ、ごめんね」
「ううん、朝食で食べたいと思ってたから、ちょうど良かった」
「はいはい、ごめんなさいね〜」
ソイラテ入りのマグカップを持った恋ちゃんが、私と朗くんの間を通り抜ける。
私は、朗くんと二人で顔を見合わせてくすりと笑った。
買った覚えのないフルーツの盛り合わせまで並んでいた。これは、朗くんからのプレゼントだそう。
「俺、そろそろバイト始めようと思うんだよね」
隣でテレビを見ながら、朗くんが言う。
「そうなんだ? 何がしたいとかあるの?」
パンを美味しく頂きながら尋ねると、綺麗な横顔がこちらを向いた。
「何でもいいかな? できれば、雫ちゃんと休みを合わせてくれるとこがいいな」
そんな嬉しい事を言われると、頬が熱くなる。
「あら? しぃたん赤くなってない?」
すかさず恋ちゃんにからかわれ、周くんは
「僕だって、いつも雫の側にいるのに」
拗ねたようにそう言った。
恋ちゃんや朗くんは、たまに私のお世話を焼いてくれるけれど、周くんは甘えてくる事はあっても、進んで誰かの面倒を見たりはないようだ。でも三人とも私を好意的に思ってくれているのは伝わるので嬉しい。
あの困ったお客様は、あれ以来姿が見えない。本当に周くんが縁を切ってくれたのなら、すごい能力だと思う。