6 迷惑な人
新居は角部屋の1LDKだ。偶然、隣も空室だったので、そちらは朗くんの名義で契約したらしい。
お金のこととか気になったけれど、聞いても『大丈夫だよ』と言う返事があるだけだった。
彼の部屋も見せて貰ったけれど、カーテンが設置されているだけで、家具や家電は全く無かった。
「部屋は借りてるけど、俺も雫ちゃんと一緒に住むから」
黒うさぎの朗くんがそう宣言した。私も今まで通り一緒が良かったので、その言葉は嬉しかった。
今夜もコタツの天板の上で、ぬいぐるみ会議が開かれている。人型になるかは、その日の気分で決まるらしい。
「それよりも、例のお客さんは、また来たの?」
恋ちゃんが私の顔を覗き込んだ。いつ見ても可愛いなぁ。
「うん‥‥また話だけして帰って行ったよ」
私はショッピングモール内の雑貨屋で働いている。その店舗はネット販売も展開しており、私は実店舗の販売員兼ネットの注文処理、発送なども手伝っていた。
大人用の、ちょっと高級なものを中心に革製品のカバンや小物も取り扱っており、客層も30代〜の女性が主だった。
数日前に、店頭に出していたワゴンのセール商品を1点購入した男性がいたのだけれど、それ以降、なぜか毎日来店して私に延々と話しかけるようになった。
女性の常連客で、たまにお話をして帰られる方はいらっしゃるけれど、男性は初めてだ。
私も仕事なので、世間話を中断して彼に他の商品を勧めてもそれは断られ、すぐに自分の話に持っていく。
「雫ちゃんが可愛いから、狙っているのね‥‥髪をショートにして、メイクも少し変えてから、更に可愛いくなったものね」
恋ちゃんがため息をつきながら言う。
「彼の外見はどんな感じ?」
「えっと、年齢は30代後半ぐらいで、顔が濃くてすごく太ってて私服が似合ってない人」
「不合格ね。性格は?」
「うーん‥‥遠慮がなくて粘着質かな。話題も、自分の趣味の話ばっかりだよ」
「ダメダメね。逃げた方がいいわ」
「店長が、今度来たら対応してくれるって」
「それがいいわね。心配だから、帰りはお迎えに行こうかしら?」
「そうしてよ。僕も気になる」
私の膝の上で周くんも同意している。
「お仕事で愛想良くしてる雫の事を、自分に気があるって勘違いしてるかもしれないし、十分気をつけようね?」
周くんに念を押され、とりあえず頷く。
「恋、何かあったら僕も呼んで」
「わかった。その時はよろしくね」
内心そこまでするのは大げさじゃないかなと思ったけれど、そうでもなかった。