4 ぬいぐるみ会議
「だから、もう引っ越しちゃえば良いと思うのよ」
赤いリボンを結んだ桜色のうさぎが意見を述べる。ちなみに、リボンの色はぬいぐるみの瞳の色とリンクしている。
「引っ越しかぁ、お金がかかるな‥‥」
私がそう言うと、膝の上に乗っているグリーンのリボンを結んだ白色のうさぎから声が聞こえ、下から見上げられる。
「僕達も資金援助をするよ。日雇いバイトとかあるでしょ? 恋か朗がそう言うの得意だから」
「そうだな、どうせなら今よりも条件の良い物件に引っ越して、携帯番号も変えた方がいい。住所と番号は、あいつへの手紙にも書いているからね」
テーブルの上に座ったブルーグレーのリボンを結んだ黒兎も真面目に参加している。
「これ、どこまでが現実なんだろう‥‥まあいっか、喋って動くうさぎのぬいぐるみが可愛いすぎて! 夢ならもう覚めなくてもいいや」
心の声が外へ出た私は目の前の光景に手を合わせた。こんなファンタジーな経験って初めてで尊いわ。
「あら、しぃたん。私の可愛いさにメロメロなのね♡」
恋ちゃんがポージングをしてくれている。思わず携帯のカメラで撮ってしまった。
「恋ばっかりずるい。僕も撮って」
抱っこしている周君のおねだりに、幸せすぎてコタツの天板へ突っ伏してしまう。横を向くと、腕を組んでいる朗君と目が合った。
「楽しそうだな、雫ちゃん」
「うん、とっても」
「なら良かった」
私は普段から各うさぎに役割分担をしていた。世間話は恋ちゃんと、テレビや動画を見るのは周君と、感情が揺れる時は朗君を抱っこすると言う感じだ。
「それで、引越しいつにする?」
恋ちゃんに髪をちょいちょいつつかれる。
「恋ちゃん、引っ越しって言っても、お金がかかるし、やる事もいっぱいあるんだよ」
物件選びから、契約、荷造り、ライフラインの閉栓開栓、引っ越したら住所変更もしないと。
「もちろん、私達も出来ることは手伝うよ! ルームシェア代として毎月一定額を支払うし、新しいお部屋で心機一転、出直そ?」
顔を覗き込まれる。このぬいぐるみはネットで購入したんだけど、顔が可愛くて一目惚れしたんだよねぇ‥‥まん丸な瞳が私を映している。可愛いは正義だ。キュルルンと言う擬音も聞こえて来そうな勢いに心が動く。
「よし、引っ越すか!」
「ちょろ」
「チョロいな」
イケボが二つ重なり、こうして私の引っ越しが決定した。
「ついでに髪も切ろうかなぁ」
そう呟いたら、恋ちゃんがすぐに同意してくれる。
「いいんじゃない? どんな髪型が似合うかしら」
「俺も一緒に選びたいな」
朗くんが参加したら、周くんも私を振り返った。
「僕の意見も聞いてよ。カタログ見せて?」
タブレット端末をみんなで覗き込み、会議が始まる。ぬいぐるみ3体が真剣に話している可愛さに、私は小さな幸せを噛みしめるのだった。