2 タロットとうさぎのぬいぐるみ
「現実だよ、雫」
別のイケボが聞こえたので目を開くと、銀髪の男性がベッドの側にしゃがんで私の顔を覗き込んでいた。目が合うと頭を撫でられる。
睫毛も銀色なんだと見惚れそうになっていたら、女性の声がした。
「雫ちゃん、ハーブティーはテーブルの上に置いとくね」
ふんわり柑橘系の良い香りがする。本当に淹れてくれたんだ‥‥
「状況の説明をした方がいいんじゃない?」
黒髪の男性が銀髪くんの隣に並び、その横に美人さんも座った。
「そうね、ではまず自己紹介から。私の名前は“レン”よ。漢字は恋愛の“恋”ね♡」
美人さんに続き、黒髪のイケメンが口を開く。
「俺は、“ロウ”。漢字は朗らかの“朗”だよ」
最後は銀髪の優しそうな彼だ。
「僕の名前は“シュウ”、周って書くよ」
彼らの名前には、心当たりがあった。だってそれは、私がうさぎのぬいぐるみに付けた名前だったからだ。
枕元に置いている筈のぬいぐるみを探す。
「雫ちゃん、あなたのぬいぐるみはここに居るわ」
美人さんが両手を広げている。よく見ると、私が三体のぬいぐるみに結んでいた色違いのリボンが、それぞれ彼らの首に結んであった。
でも、そんなこと言われても信じられない。
「雫ちゃんは、ぬいぐるみにタロットカードを関連付けて毎晩願掛けをしていたでしょう? その願いを叶える為に、私達は来たの。うさぎのぬいぐるみにタロットの精霊が憑依したのよ」
その言葉を継いで、朗君が微笑む。
「例えば、黒兎の俺は、“悪魔”の逆位置。あいつへの執着を断ち切れますように」
周君も、可愛く首を傾げる。
「白兎の僕は、“死神”の逆位置。全ての終焉、そして新しいスタートを迎えられますように」
最後は恋ちゃんが両手でハートを作った。
「3枚目は桜兎の私、“恋人達”の正位置。また素敵な出会いがありますように♡」
内容が内容だけに、誰にも話せなかった現実を言い当てられて、唇を引き結ぶ。色々思い出して涙も滲んでしまった。
「今まで、ひとりでよく我慢したよね。もう大丈夫だから‥‥これから雫ちゃんは、幸せに向かって歩き始めるのよ!」
ハートを作っていた白い手が、私の手をぎゅっと握った。
「一緒に頑張りましょう♪」
「‥‥そんなの、信じられないよ」
震える声で呟いたら、三人は顔を見合わせた。
「じゃあ、とりあえず、ぬいぐるみに戻ってみる?」
「そうだね」
「会話はできるようになってる筈だから」
言い終えたと思ったら、いきなり三人の姿が消えて、床に三体のうさぎのぬいぐるみが座っていた。
ええええーーーー!!!
思わず叫んだら、隣人が壁をドンと叩いた。