10 ショッピング
私はボトムスやアウターは古着でもいいかなと思っているので、たまに古着屋さんにも行く。数ある商品の中から、自分に合ったものを探し出すのも楽しい。
「わあ、お洋服がいっぱいだね」
恋ちゃんが嬉しそうに私を見た。
「しぃたんに似合いそうなもの、私も1着選ばせてね♡」
「僕も選ぶからね?」
反対側に居た周くんも参加する。
数日前に朗くんとお茶をした事が二人に伝わり、自分達も雫と一緒にカフェに行きたいとおねだりされたので、ついでに古着も見てみようと言うことになった。
店内に入り、別行動を取っていると、恋ちゃんが興奮したように駆けてきた。
「ねえねえ! しぃたんこれ見て!」
私の前で一枚のTシャツを広げる。そこには、レインボーカラーの水滴が大きくプリントされていた。
「これって、雫って意味でしょ?」
水滴マークを指差して聞かれたので、私は頷いた。
「そうだよ、私の名前と一緒」
「でしょでしょ? 私、このTシャツ欲しい!」
恋ちゃんがそう言うので、手に取って確認する‥‥素材はオーガニックコットン100なんだ、少し厚手で手触りもいい。大きさや形も恋ちゃんに合いそうだ。
ただ、このデザインは正直微妙すぎる。
値段を見た。ワンコインだった。
「ねえ恋ちゃん、本当にこれが欲しいの?」
再度聞いてみたら、満面の笑みで肯定のお返事がある。
「そっか、じゃあいつもお世話になってるから、お礼に買ってあげるよ」
「わあ、嬉しい! しぃたんありがとう♡」
美女に抱きつかれ、笑ってしまう。
「ねえねえ、これ見てよ!‥‥えぇ、僕が目を離した隙に何してるの?」
他の売り場から戻った周くんが私達の間に割って入る。手には服を持っていた。
「周くん、何かいいものあった?」
話題を逸らそうと尋ねたら、周くんは得意げに手元のTシャツを広げる。
「ほら、これ! 僕これが欲しいな」
そこには、さっき見たレインボーカラーの雫プリントTシャツが、サイズ違いで展開されていた。
「なんだ、メンズもあったんだ?」
恋ちゃんが少しがっかりしたように言う。
「ほんとだ‥‥強気のサイズ展開だね」
「え、何二人とも? 驚かないの?」
周くんが不思議そうにしているので、私はさっきカゴに入れた例のTシャツを取り出して見せた。
「ああ、そう言うこと‥‥恋とお揃いなのは嫌だけど、まあいいや」
上機嫌なタロットの精霊二人に挟まれて、お店を出る。二人はそれぞれ私の服も選んでくれたけれど、至って普通のセンスの良い可愛いものだった。
三人でカフェに入る。
「私はランチセットにしようかな。二人はどうする?」
「私達は必要がないから食べないけど、別に食べられない訳じゃないのよ」
恋ちゃんはそう言って周くんを見た。
「せっかくだから、コーヒーでも頼んどく?」
「そうだね、雫ひとりだと食べ辛いし」
恋ちゃんは頷いて小さなバッグからカードを取り出した。
「ここの支払いは、黒ウサのカードでするね。さっきTシャツ買ってくれたから、奢ってあげる♡」
「え、いいのかな?」
「自由に使っていいって言われてるから、気にしないで。あいつは人間界に詳しいから、お金もそれなりに持ってるのよ」
「雫、朗のこと気にするくらいなら、僕のこと気にしてよ」
また間に周くんが入る。恋ちゃんの様子が大丈夫そうだったので、お言葉に甘えてごちそうになった。
お昼過ぎに自宅に帰ると朗くんが居たので、ランチのお礼を言っていると、恋ちゃんと周くんがTシャツの自慢をし始めた。
朗くんは笑いながら聞いていたけれど、
「あと、もうこのしぃたんTシャツの在庫はないからね? 朗のぶんはないよ?」
と恋ちゃんに告げられ、
「うん、俺はいらないかな? 雫ちゃん本人が側にいてくれるし」
みたいな事を返していて、二人に非難されていた。