7 ライルの治療
家守がいるとは。もし、この家盗みに入ろうとしても入ることはできない。また、家の中で不埒な事に及ぼうとすれば、それを主が望んでいなかった場合は叩き出される。
とはいえ、女性の家に月一とはいえ男性が通うのはどうだろうということで、話し合いの上、ギルドの医療室を借りることになった。右足を診るには寝かせる場所が必要なので、それを鑑みての医療室。
現在、医療室は治癒師の見習いの人が滞在している。治癒師の彼女にはギルドを介して医薬品とかの取引をしている関係で顔見知りになった。そうしたことから、相談してみたらOKがでたというわけだ。
「こんな治療は、初めて見ました」
治癒師の見習いのサザンカは、ほえ~という感じで私の治療を見ている。そりゃあそうだろう。図書館などで調べたが、ここには鍼灸みたいな医療はなかったから。治癒魔法や魔法薬が一般的だもの。それでもマッサージの様なものなどもあるのだけれど、治癒魔法をかけながら行うことで威力を増しているようだ。
それに、体の構造が違うのでそのまま前世の知識が使えるわけじゃない。だから、こちらの医学書を読み漁った。それに有用だったのはスキャニングと鑑定、魔力の流れが視えるだけの魔力。下地のお陰でこの世界の人間の経絡や経穴などについて一気に理解できたっていうのもある。身体のつくりは前世の世界の人間とは違うので、そのままでは使えないみたいだけれど経絡なんかの考え方は使える。
それに鑑定をもっているおかげで、ツボがなんとなく読めるというのもある。私の鑑定、人体関連にはもの凄く強いみたい。他のものについては大雑把なんだけどなあ。これも前世の記憶って奴の影響なのかしら。でも、役に立つならばなによりよね。
色々と試した結果、この魔力神経系の再生に鍼治療が案外効力があるのではと思ったのだ。
いや~、ちょっと酔いも回ってたし今思えば八つ当たりもあったけど、スコルピオンに電気流したのが効いたじゃない? だから、いけるんじゃないかと自分が捻挫したときに試してみたら、あら不思議。かなりの有用性がみこめたのだ。
それでライルと直談判した。
「言い方が酷いのは分かるのだけれども、貴方に実験台になってほしい」
と、無茶苦茶だと自分でも思ったのだけれどもそう申し出た。言葉を上手く言いつくろいたくはなかった。だって、本当に実験台なんだもの。私には治癒魔法は使えない。
だけど、それ以外の方法でこの魔力神経の乱れを少しでも整えることができるかもしれない。そう、《《かもしれない》》に過ぎない。
それに、上手くいけば右足が良くなるかもしれないが、悪くなる可能性もある。そういったことも含めて、正直に話した。
「治療魔法や薬でもこの足は治らないと言われた。少しでも良くなる可能性があるのならば、やってみてもらえないか。歩くことができなくなるのは困るから、あまり悪い方向にならないでくれると嬉しい」
と言ってくれた。
「ありがとう。万が一、あなたが歩けなくなったら、私が一生面倒見るから」
嬉しさの余りそう答えたら、ライルは吃驚した顔をして吹きだした。
「分かった、よろしく頼む」
ただ、使ったのは鍼じゃなくて、魔法で生成した雷針。だって電気流すのが有用って経験として判っているからね。でも、こちらの世界には電気は動力として使われていない。動力系統は魔力が中心になっているから、発想として生まれてないのだと思う。だから、電気といってもピンとこないけど、雷魔法はあるからそこからとって雷針と命名した。
そうして、ライルとサザンカ、私の三人は月に一度から週に一度になったけれど、ライルの右足を中心に治療方法を模索することになった。
色々とやってみて判ったのは、魔力神経系って器官として存在していなかったのだ。いえ、存在はしているのよ。ただ、普通の神経みたいに細胞が作り出す器官じゃなくて、魔力の通り道として開いているものだったのよねぇ。
魔力を貯める器官はあるのに。そのせいで、治癒魔法師の腕の差か認識の差なのか、わかんないけれど器官として存在しない空間が再生されない場合があるということらしい。
サザンカから色んな話を聞いた。怪我を治療した人の中には、よく分からない後遺症で悩んでいる人が案外多いという。魔力神経は見えない場合が多く、治癒魔法師達にはあまり意識されていないようだ。そう考えるとライルと同じような症状なのかもしれない。
私自身が治癒魔法が使えないんで、どうしてそうなるのかはよく分からない。だけど、ライルの様に後遺症が残るのはそういう事だからじゃないかと思う。で、この魔力の通り道が塞がれて、魔力がきちんと身体を上手く流れずに、魔力溜りをおこしているのじゃないだろうか。小さな魔力溜りが神経や筋肉を圧迫して、痛みなどを生じさせているのかもしれない。
半年以上かかったのだけれど、ライルの右足は見違えるほど良くなった。すこし足を引きずっていた部分もあったのだけれど、それがなくなりケガする前のように動けるようにもなったと感謝された。




