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「あらあら、目が覚めた? 」

 居間のソファーに寝かしつけておいたライルが上半身を起こす。

「ここは」

「私の家。貴方を運んできたのよ。貴方の家、わからなかったから」


 ライルはムスッとした顔をして苦言を呈す。

「若い女の子が、見知らぬおっさんを家に担ぎ込んじゃ良くないだろう。あそこで放っておいてくれればよかったんだ」


 私はそんなライルの姿をみてクスクスと笑ってしまう。

「大丈夫よ。ここは家守がいる家だから。足の方はどうかしら? 応急処置はしておいたけれど」


 言われて思い出したのだろう。痛みは殆ど気にならないはずだ。

「え、右足が軽いというか、いつもの違和感がない。どうして。君が治療してくれたのか。それならば礼を言わないと」


 ちょっとびっくりしたようにライルが言う。

「さっきも言ったけれど、応急処置だけよ。だけど神経系が乱れているみたいだから、きちんと治療をしたほうがいいわ。

 私がしたのは神経を刺激して痛みを生じさせていた魔力溜まりを取り除いただけなのよ」


 私は簡単に右足の状態について話をした。魔力神経系がおかしくなっていて、それによって魔力溜まりがおき神経や筋肉を圧迫して痛みや違和感になっているのだと。


「私は治癒魔法は使えないの。だから、魔力溜まりを抜いただけ。でも、魔力神経から漏れ出てる関係で、魔力溜まりはまたできるわ。できれば魔力神経系とかを治癒できる魔法師を見つけることをおすすめするわ」


「そんな話は、聞いたことがなかった」

 唇を軽く噛んでうつむくライル。足が軽くなったのは事実だから、私の話を疑いきれないってとこかな。


 自分で言っていて、詐欺だと思われても仕方ないかなとも思う。そうなのよね。この世界には治癒魔法による治癒師もいるけど、薬師や医者もいる。だから、医学書なんてのもあるのだと思う。


 治癒魔法を扱える人間がそれほど多くないから、そうした魔法が無くても治療する方法が必要だからでしょうね。医学書には魔力神経とかのがあるのは知られているけれど、あれは魔力が多い人でないと見極めるのは難しいのだそうだ。

だから、一般的にはあまり意識されていないみたい。


「俺は、腕が良いと言われる治癒師や医師に診てもらった。でも、一時は良くなっても根本的に治癒できないと言われていた」


「多分、魔力溜まりに気が付かないのだと思う。あれ、小さいし魔力が高い人でなおかつそれ(・・)があると意識しないと見えないから」


 私が気がついたのは、スキャニングして魔力神経の乱れが分かったので、意識してみたからだ。それと静江の記憶だろう。彼女が培ってきた治療の経験が役に立ったのだと思う。


「やはり、これは治らないのか」

 ポツリとつぶやきが聞こえる。彼にとってみれば、切実な思いがあるのだろう。


 エルザがお茶の用意をしてくれた。

「まあ、すぐ帰れなんて追い出さないから。お茶でも飲んでって。エルザの作ったお菓子は美味しいのよ」

 なんか重くなった空気を払拭するぐらいの勢いで、呑気な声を出す。

「ありがとう。ごちそうになる」


 テーブルの上に並べられた紅茶とシュークリーム。

「このシュークリーム、上手いな」

 一口、シュークリームを食べたライルが驚いたように言う。そうでしょう、そうでしょう。できたてのシュークリームの皮はパリッとしていて大変美味しい。中身のカスタードクリームの上品な甘さと相まってエルザのシュークリームは絶品なのだよ。


 ふふふっそうでしょうともと自分が作ったわけではないけど、自慢げな私をみてライルが吹き出した。失礼なやつね。

 

 なんとなく話の流れがライルの右足の話になった。

 あの痛みは、年に数回あるそうで短くて半日、長いと丸一日以上続くことがあるそうだ。今回は森に入ろうとした時に起こり、結界石で魔物避けをして痛みが引くのを待っていたところだったとか。


「この傷は、魔王殲滅戦線の戦いに参加した時のものなんだ」


 魔王とは、人にとっては自然災害のようなものだ。巨大な魔物の主が出現し、人の住んでいる地を襲ってくる存在。魔王と呼ばれる存在は一つで、それを退治すれば良いのだが、それに準ずる存在がいくつか各地に現れる。


 その準魔王は、各地域で対応する。その戦いに参加し、生き残った者たちからより優れた者を選出し、魔王討伐部隊が形成される。


「俺は下っ端で参加したんだがな。このザマだ」

 彼は情けない顔でそう言った。魔物から撃たれた一撃で、右足の膝中心に潰れたのだそうだ。


一緒に参加していた治癒師によって足を失わずに済んで感謝していると、付け加えて。


「わかったわ。それでなのね」

 骨や筋肉なんかは割と上手く整えられている。神経はその関係で引きずられてそれなりに再構築されているのだろう。だが、魔力神経系がでたらめだ。戦場だからそれほど細かく治療ができなかったのかもしれない。もしくは、治癒師にそうした意識がなかったのか。


 多分、彼の今の状態だと身体強化とかかけても右足は上手く反応していないはずだ。それであの大狐狩ってたのか、すごいなと感心する。右足さえ万全ならば彼は、かなりの腕前ではなかったのだろうか。


「ものは相談なんだが」

 少し言いにくそうな様子を見せていたが、意を決したのか真っ直ぐにこちらを見る。


「あんたの話だと、俺の右足は魔力神経がおかしくなっていて、魔力溜まりができることであの痛みがあるんだよな。それならば、定期的にその魔力溜まりを取り出してもらうことは可能だろうか。そうすれば、突然痛み出したりはしなくなるのだろう。勿論、謝礼はする」


 そう言って深く頭を下げられてしまった。右足を元通りにすることはできないけれど、そのぐらいだったらできるだろう。脂汗をかいて真っ青になったあの姿を思い出す。物凄く痛そうだった。


「では、月一ということで」

 定期検診を引き受けることにした。

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