5 拾い物
それから、森に行って獲物をとってきてギルドで売り、材料を採取してきて自分でポーションなどを作る生活をしている。
獲物で中心なのはお高く売れる狐。季節はもうすぐ冬になるので、毛皮の需要があるみたい。狼やウサギも良さげな値段がついている。
ポーションの原料になる植物も採取できるので、家でポーションを作ってこれを薬師ギルドに卸している。これも冬に向けて、採り貯めしておかないと。材料を色々と揃えれば、痛み止めや虫よけ、かゆみ止めなど、作れるけれど、とりあえずはポーションが一番需要が高いから。
王都で師事したお師匠様が厳しい人で、魔法だけでなくこうした薬などの作り方も徹底して覚えさせられた。私が治癒魔法が全く駄目だったからだ。でも、同行者に聖女様がいるので、問題ないと思っていた。
でも様々な種類の薬品も取り扱えるって事も評価されて、討伐隊のメンバーになったと後から言われた。王女兼聖女様も同行するのに、女性が一人だけっていうわけにもいかなかったんだろうけど。それに旅の最中、すべての治療を聖女様だけに頼れるわけでもない。多様な薬を作れたおかげで旅先でも助かったし、今もこうしてお金になる。
お師匠様、元気かな。そう言えば昔言われてたわ。
「お前は男運が悪そうだから、気をつけなさい」
って。いやー、アレックス一筋だったし彼はいい人だったから聞き流してたけど、お師匠様、慧眼でしたね。
初日に絡んできたあの兄ちゃんたちは、どうも新人さんに声掛けして、色々とアドバイスをしてくれる人たちだったらしい。ギルドの職員さんにあの後教えてもらった。
でも、女の子一人に男三人組が急に来たら警戒しない方が問題だと思うと言っておいた。
「そうよね。女性パーティもいるんだけど、あなた可愛いから彼らが先走っちゃったみたいで。ごめんなさいね」
あの後すぐに私は狐と狼を納品したので、大丈夫だろうと周りが認識してくれたみたい。あれから遠目でみられている時はあるけれど、声をかけられることはなくなった。
電撃がなかなか効いたみたい。
それに私は納品ぐらいしかギルドに顔をださないしね。
毎日、狩りと調合ばかりをしているのかというとそうでもない。図書館にもそれなりに通っている。何が知りたいのかといえば、人体の構造や医学について。
前世の記憶というか静江の記憶があるせいか、そんな事を調べている。簡単な構造とかなら知ってたんだけれど。
ポーションなどの魔法薬があるとはいえ、万能ではない。あれは怪我などには効くけど、病気はそれぞれ治療が必要だから。
治癒魔法は私はできないんでわからないけれど、人によってはこうした知識があった方が良いと勉強している人もいると聞く。
ただ、治癒魔法士はなんとなくどこが悪くてどうすれば良いか感覚的に分かるからって、それで済ます人も多いらしい。
静江の記憶と比較して、私たちの身体は少し構造が違う。魔法を使う魔力神経とか魔力をためておく器官とか、知らないものがたくさんあるようだ。基本的な部分も多少は違うようで。そうしたことを一つ一つ丹念に調べて、自分の知識とすり合わせていくのは、大変だけどどこか楽しい。
で、自分の体と鑑定とかを使ってスキャニングする方法を手に入れた。CTスキャンみたいなものかな。
治癒魔法は相変わらず使えないから、そんな知識を詰め込んでもと思う人もいるかもしれない。でもこれって、趣味に近いかな。新しいことを知るというのは、なんでも楽しい。
で、少し気になった。スコルピオン、大丈夫かな。静江の知識を応用して処置しちゃったんだけれど。体の構造、ちょっと違うじゃないですか。効きすぎている可能性がちょっとね。あの慌てぶりからすると、勃たなくなったのは間違いない気がする。
まあ、少し懲りれば良いとも思うから、いいか。八つ当たりだけど。それに、聖女様に頼れば良いと思うよ、うん。相談できるかどうか知らないけど。彼女ならきっと治せるよ。
あの森で会ったライルさんは遠目で何度か見かけた。私には突慳貪な感じだったけど、よく人と話していて、ギルドの人とのやり取りとか見てても、人当たりが良さそう。
あの隠し果樹園もたまに行く。ちょっと食べる分位を貰いに。オヤツには手頃なんだもの。でも、納品するほどは持っていかない。
お世話になっているので、この前行った時に新しい種子を追加して、ちょっと生長促進の魔法を試してみた。図書館にあったんだもの。試してみたくなるのは、仕方がない。
なんか日常で役に立つ魔法をもう少し身につけようかと。『歩く爆裂弾』とか『大量破壊兵器』とか言われたのも、ちょっとしゃくだったし。
いいじゃん、魔王討伐では役立ったのよ! と居直っても良かったんだけど。魔物一匹狩るには不相応だけど。
魔力も攻撃力も大きすぎて、調整するのには苦労した。大火力がスタンダードだったから。
私にとっては、魔物の氾濫で襲い来る魔物の群れにブチかますより、ウサギ一匹を周囲に影響なく倒すほうが難しかった。
だから、人知れず調整する努力をしていた。単に範囲を狭めるだけでは、その一点がとんでもないことになる。魔王討伐の時は、それが役に立ったんだけどね。
あんまり気が付かれなかったけど、私がつけたビー玉位の傷口、あの化け物みたいな再生能力があった魔王でも再生に物凄く時間がかかってたみたいだし。
威力も調整できるようになったのは、あの魔物討伐の旅のおかげよね。カクテルグラスの中身だけを蒸発させることができる様になったのも、スコルピオンにかました微弱の電撃ができる様になったのも、これまでの努力の賜物だもの。
そう考えれば、あの旅は有意義だったかなあ。
そんな埒もない事を考えながら、森から出てくると、蹲っている人が目に入った。結界石を置いて身の安全を図ってはいるが、放っておいて良い状況だとは思えない。
「どうしましたか」
駆け寄って声をかけると、脂汗をかいて右足を抱えて蹲っているのはライルさんだった。
彼はこちらに気がつくと、痛みを堪えた声で応じてくれた。
「大丈夫だ。しばらくこうしていれば収まるから。結界石もある。放って帰ってくれ」
「何言ってるの、そんな真っ青な顔で。ちょっと見せてみて」
「いや、古傷が時々痛むだけだ。しばらくすれば治る」
言い争いをしている時間が勿体ない。無言で、ちょっと魔法で眠らせる。うん。麻酔みたいなもんだから。うん。
右足を中心に全身をスキャニング。魔法は本当に便利だ。古傷が痛むという右足の状態を把握する。
右足は、ひどいケガをしてポーションと簡単な治癒魔法で治療したんだろうが、神経系がかなり乱れている。しかも魔力神経が上手く繋がっていない。そのせいで魔力溜まりができていて、それが何かの拍子に神経を圧迫して痛みを引き起こしているみたい。
慎重に魔力溜まりを取り除くだけの応急処置。肉体を傷つけないように慎重に吸い上げる。これでしばらくは大丈夫だろう。魔力神経がおかしいので、また魔力溜まりができるから、根本的な治療にはならない。この右足の後遺症でどうも全身に影響もでているみたい。あちこちのバランスが崩れている。
さて、このままここに転がしておくのは寝かしてしまった私としては大変申し訳無い。仕方がないので毛布にくるんで風魔法で浮かせて家まで持って帰ろう。