26 決起集会
「光の御名の下に集いし勇士たちよ。邪神という未曾有の脅威に、その剣、その杖を捧げてくださることに心より感謝を捧げます」
各地から集まった兵士や冒険者を前にした決起集会。システィーナの声が、会場に凛と響き渡る。
「これから往く皆様の険しき道に、絶えぬ導きがあらんことを。今より一人ひとりの御魂に、神の息吹を分け与えましょう」
これは参加者一人ひとりを把握するという意味もある。祝福を授けるだけではなく、相手の魔力量や波長を知るという役割もあるのだ。前回の魔王討伐の時もそうだったから、私は知っている。その情報が、作戦立案に大きく寄与したのだと聞いている。
今回は、ちょっと偽装させてもらうわね。やり方は分かっている。フレアの魔力を私の魔力に少し混ぜて、波長をずらすだけ。どちらにせよ、従魔を連れてきたことで多少の変質はしているはずだし。それにフレアとアレクの力も隠蔽しておかないと、何をさせられるかわからないから。ついでに魔力量も小さく認識されるように細工を施しておく。
全員が整列する中、彼女は一人ひとりにほんの僅かな時間、祈りを捧げていく。下っ端で今回が初参加の私たちは最後の方なので、その様子を観察することにした。魔王討伐の時と比較して人数が少し多いかしら。それから今回が初参加の人は半分より多めね。なるほど、なんて考えながら待っていた。
「聖なる光が、あなたの歩みを支えましょう。主の加護を」
私たちの順番が来た。一人ひとりといっても、グループごとにまとめてはいる。そうでもしないと時間が掛かりすぎるものね。そう言って祈りを捧げてくれた時、システィーナはふと眉を顰めた。
「あなた、どこかでお会いしたことがありましたかしら」
私の顔をじっと覗き込み、首を傾げる。
「いいえ。初めてお目にかかります。今回、邪神討伐隊に推薦されて参りました。聖女様にお会いできて光栄です」
心のなかで(この姿では)と付け加えながら、さっと礼を取ってにこりと笑う。システィーナの後ろに控えていたカエサルの片眉が上がり、こちらをじっと視ているが、無視、無視。引っ掛かりは感じたのだろうが、彼女は「そう」と呟いて戻っていった。その後ろ姿を見送る。カエサルは去り際、一度だけ振り返った。
(あら、カエサルは何か気がついた?)
そんなやりとりを、足元のフレアとライルの頭の上のアレクが興味深そうに眺めていた。心配そうにサザンカがぎゅっと私の服の袖を掴む。だから安心させるように、その手をポンポンと叩いてみた。
サザンカとライル、二人には何も話をしていないけれど、思うところがあるのかもしれない。でも、知らないほうが良い。知らなければ、巻き込まれることはないのだから。
その夜、宿屋にカエサルが訪ねてきた。
「ユーリ君。君と少し話がしたい」
なにか思うところがあるんでしょうね。案内されるままに建物の一室に通された。
「単刀直入に聞こう。君はユーリア・ファガスタを知らないか」
きつい視線が向けられる。なるほど、カエサルは腹芸ができない人だから、そう来るのね。
「知っていますよ。前の魔王討伐で活躍した魔術師ですよね」
何を言っているのか分かりません、というように少し困ったような表情を作ってそう答えた。さあ、どう出てくるかな?
「それ以上の事は、知らないと?」
「それ以上の事とは?」
そう切り返すと、ムッとしたような表情を向けてくる。
「君の雰囲気は、彼女によく似ている。だから、近しいものではないかと思えたんだ」
システィーナは鋭いわね。私の魔力の波長から、本人じゃなくても親戚筋ではと推測したわけだ。でも、怪しんだのならばアレックスを寄越せば良かったんじゃないかしら。あ、でも駄目かも。アレックスは割と単純だから探るのは苦手だろうし。まあ、カエサルも向いていないと思うけどな。
「有名な冒険者に似ているなんて、光栄です。でも残念ながら僕はギルドの噂で彼女の活躍を聞いた程度です。それに、彼女の出身国はそちらのプリモス王国ですよね? 僕はティルティウス出身で国も違います。なぜ、そんな事を?」
思いっきり、しらを切る。嘘は言っていない。
「もしかして、どなたかが僕のことを気にかけてくれたんですか?」
ちょっと意気込んで聞いてみる。
「え、もしかしたら魔法を教えてもらえるとかあるんですか?」
なんて調子に乗って勢いづいた感じで迫ってみた。
「いや、そういう事ではないんだ。少し気になったことがあってな。今回、彼女は色々とあって参加していないんだ」
カエサルはちょっと鼻白んだ。言いにくいわよね、ユーリア・ファガスタが行方不明だなんて。そういえば、出奔してから調べてないけれど、私の扱いはどうなったんだろう。
「そうですか。それは残念です」
それから話がグダグダになって、面談は終わった。
「そうだよな、男なんだからありえないよな」
小声でブツブツ言いながらカエサルは戻っていった。まあ、ひとまずは誤魔化せた、かな。だけどシスティーナは鋭いから、今後とも気をつけないと。
自分の部屋に戻るとサザンカが心配そうに声をかけてきた。
「ユリ、いえ、ユーリ。あのカエサルって人はなんの用事だったの?」
そう、私たちは「恋人同士」だから同じ部屋にしてほしいと頼んである。ふらちな男たちから恋人のサザンカを守るという体だ。一緒に来たライルは別の部屋で、フレアとアレクと一緒に過ごしている。
「大丈夫。なんか似ている人がいるんだって。でもその人女性みたいなんだけど、男の僕に声を掛けてくるなんてね。今の僕、男なのに」
いたずらっぽく笑いながら言う。
「でも、あの人は、あんまりいい人には見えないわ」
昼間のライルとメリッサのやり取りの感想だろう。あれは、自分の奥さんを守るためにライルを牽制してたんだと思う。それが結果として、ライルの周囲にいる人間にまでに及んでしまったんだろうけれど。それから、やはりシスティーナ至上主義みたいなところがあるから、治療で名を馳せているサザンカを警戒したのかもしれない。
「問題ないわよ。全然気が付かれなかったし。もう寝ましょ。明日は早いから」
サザンカはまだ不安げだったけれども、「そうね」と頷いた。




