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すみません。前の話の後半部をちょっと書き直しました。あのままだと絨毯の上ではなく、すでに報告した後のように読めるためです。内容的な変更はありません。
今回は、ちょっと短いです。
帰路途上の絨毯の上。
ギルドへの報告内容などの打ち合わせをすませてたんだけど、まだ家まではしばらくかかりそう。
話が終わってからなんだかライルは押し黙ったまま。私も何か自分から言い出す気にもなれないでいた。卵のアレクはなにか空気を読んだのか、やっぱり黙ったままでチンマリとカゴの中。無言のまま進んでいったのだけれど、お腹はすく。
「ねえ、ライル。そろそろお昼ぐらいじゃないかしら。携帯食を出すわね」
エルザが用意してくれた食料袋を取り出して、二人分のパンとチーズ、ジャーキーや野菜の酢漬けパックなどを取り出す。
絨毯の上で火は扱えないからお茶やスープとかは用意できないけれど、中々のラインナップだと思う。エルザ、愛してるわ。
「こんな事態になったのに、君は何処か他人事のようだ」
ライルはチーズを挟んだパンを手にして、ボソッとそう言った。
「えっ」
彼の顔を見ると、眉間にシワが寄っていて何かひどく不機嫌そうな、戸惑っているようなそんな表情だ。
「邪神が出ると聞いても、何か決められた事をこなすかの様にサクサクと判断している」
そうだろうか、そうかもしれない。もう既に決まった未来だからと、そう行動しているかもしれない。
「もう少し早く着けていたら、邪神が出現しなかったかもしれないんだぞ。
例えば俺が、サザンカを君の家へ連れて行かなければ、もう少し早く出発できた。間に合ったかもしれない」
少し俯いて拳を握り込んで、唇を噛んでいる。
「私、あの時、サザンカの事を見捨ててライルが来ていたら、きっとあなたへの信頼をなくしていたわ。それで間に合ったとして、あとからサザンカの事を知ったとしたら、私は後悔したと思うし貴方を許せなかったと思う。それにそれは結果論よ。本当に間に合ったかどうかなんてわからない」
淡々とそう答えた。邪神の出現を阻止することと比較すれば、サザンカの事は本当に小さな事だろう。
でも、サザンカは友達なのだ。その彼女が困っているのに何もできなかったなんて、そんなのは嫌だ。
それは邪神が出現する事をあるべきものだと思ってしまっているから、こんな事が言えるのかもしれない。邪神はアレックス達が何とかしてくれるからって。
でもね、大事の前の小事として割り切れないわ。人ってそんなに簡単に考えて行動できるものでもないもの。
三分の一にできたから、いいじゃないのかって思っているけれど、それは結果を知っているからに過ぎないのかもしれない。
でも、物語通りならばもしかしたら元々誰かが邪神の力を削いでいた可能性はありなのかしら。ここでは偶々その役回りが私とライルになっただけという事もあり得るのかも。
考えすぎかな。でも、私達はヒーローでもヒロインでもない。
三番目に間に合わなかったのは、残念だと思う。でも、出来ることはしたとも思う。何でも思い通りにはいかないものだわ。
それでこの先、被害は発生するだろう。それに思いを馳せて、責任を感じて後悔すべきなんだろうか。
それもなんだか違うと思う。そもそも邪神を呼び出した奴が諸悪の根源ではなくて。それを直接止められなかったのも確かだけれど。
あらあら、私ってば失敗続きじゃない。そこまで考えて、失笑してしまった。
「何がおかしいんだ」
考え込んで黙ってしまった私が突然くすっと笑ったせいなのか、鋭くライルに睨まれる。
「ごめんなさい。自分がずっと失敗続きなのに気がついたの。今回の事だけじゃないのよ。私、上手くいかないことが多いわ」
そう溜息交じりにいった私は情けない顔でもしてたんだろうか、ライルが口ごもる。
「こんな言い方はズルいかな。運命ってあると思う? 邪神が現れるのはきっと運命だったと思っているのね、私は」
「ユリア……」
ライルは明らかに戸惑っているような声を出した。私がおかしくなったと思ったのかもしれない。
「でも、だからって邪神出現を阻止できなかった事を残念に思っていないわけでもないの。でも、そうなっちゃったものは諦めるしかないでしょう」
召喚するのを見逃してしまい、今また暗黒竜を邪神にすることを止められなかった。自分自身がスコルピオンと結婚しないですんでまんまと逃げおおせたからって、結局のところ大筋は同じ方向に進んでいる。
変わったのはスコルピオンと私の事だけで、他には何も変化がない。それは私自身には大きな違いだけど、それだけだ。逃げられればいい。それだけ思ってエルザとここに来た。
でも、今になって思うのは、何から逃げたかったのかしら。スコルピオンとの事だけ? 本当に、アレックスの事はどうでもよくなっていたのかしら。
「そうね、貴方の言うとおりかもしれない。邪神が現れたっていうのに、どこか他人事っていうのは」
乾いた笑い声がでる。
「でもね、ライル。身の程っていうのがあると思う。偶然、本当に偶然、卵のアレクを解放できたからって、運命には敵わないんだって。そう思うわ」
私ができたのはスコルピオンから逃げることだけだ。
それ以上、ライルは何も言わなかった。二人ともその後は黙って食事をして、帰路についた。




