18 あきらめましょう
次の卵の場所は、いや暗黒竜の場所への方向は来た方向からみると真逆だという。ということは、家を経由して行けるんじゃないかな。
「んじゃ、一回家に戻ってから次の場所に行くのでもいいかな。ちょっと顔だけだしときたい。長くなるならば絨毯も軽くチェックしておきたい」
ということで、サザンカの様子も見ておきたかったから家に寄ることにした。
「ただいま」
エルザとサザンカがお茶をしているところに戻ったようで、丁度サザンカがケーキを口にパクリとしたシーンが展開していた。
サザンカはどうやら少しは持ち直しているようだ。慌てて、ケーキを飲み込む。
「おかえりなさい」
なにかその笑顔をみてほっこりした。少しは落ち着いたみたいで、良かった良かった。
それでお茶に加えてもらって、少しサザンカと少し話をする。
「それでね。仕事がまだ途中なのよ。これからもう一回行ってくるから、留守番をお願いね」
そのお茶の時間でちょっと休憩。
卵のアレクは先の暗黒竜との距離から考えると、次の暗黒竜との距離は1日半ぐらい離れているという話だったので、3日か4日ぐらいで戻れるだろう。エルザにはその旨を伝える。
ちなみに2つ目の卵はまだ収納の中。揃ったらみんなでお話ししましょう、っていう感じかしら。収納の中だと寝ているみたいな感じになるから、しばらくはその方が良いと卵のアレクにアドバイスを受けたから。アレクに比べると暗黒竜でいる時間が長かったので、その分疲れているんじゃないかって。
ちょっとお茶で一息入れて、それから絨毯のメンテナンスを。魔道具はね、マメに手入れしておくのは当たり前だけど、空飛ぶんで途中で具合が悪くなるのは遠慮したい。その間にエルザに頼んで食料なんかも支度してもらった。
「じゃ、行ってきますね」
結局、軽く夕飯を食べてから向かったのだ。
絨毯の上での移動で朝を迎えた。まだ次の暗黒竜までには距離があったけれど、急に卵のアレクが布を引いた籠の中でプルプル震え出す。
「どうしたの、アレク」
「うーん。ねえ、戻ろう。繋がりが切れちゃった。これ以上行くのは、危険」
私はライルは顔を見合わせる。
「残りの一人は、変化しちゃったんだと思う。間に合わなかった。もう、ボクとは完全に違う存在になっちゃった」
時間切れ、間に合わなかったんだ。残念に思う反面、やはりシナリオ通りに進んでしまうのだろうかと思わなくもない。
「なあ、アレク。その三体目は何に変わったのか判るか」
そっか。その質問になるよね。私が何に変化したのか知っているのは前世の知識からだ。ライルには知る由もない。
「多分、邪神とかいうのだと思う。だって、なんかそんな事を言われた。それに瘴気を練り上げてたのだもの」
ぐっとライルが拳を握る。
「そうね。戻りましょう。今の私達程度じゃ、対抗するのは無理ね」
私は絨毯の方向転換をしようとすると、ライルが異議を唱える。
「暗黒竜はなんとかなったじゃないか。今の俺達ならば……」
彼の気持ちは分からないとは言わない。でも、進んでも意味は無い。
「私達が暗黒竜をなんとかできたのは、それが儀式を行っていたからに過ぎないわ。無防備だったからよ。
あの存在が万全だったら、私達二人が立ち向かっても何もできなかったでしょう。塵と散ってただけよ。その事は、判っているでしょう」
私の言葉に、ライルは口ごもった。
「こうなったら、私達が行ってもなにもできないわ。今、できる事は一刻も早くこのことをギルドに報告することじゃなくて」
だが、ライルは諦めきれなかったのだろうか。
「それでも、報告するならば確認だけでもした方がいいのでは」
「だめ、行ったらだめ。ボクら巻き込まれる。まだ不安定だもん」
卵のままだけど、姿があったら半べそだったんじゃないかと思えるような雰囲気の卵のアレク。
「大丈夫よ近づかないから。もう、帰るから。ギルドへの報告に関しては、どこまで明かすか打ち合わせをしておきましょう」
卵のアレクの様相で、ライルは諦めてくれたみたい。もしかしたら、魔王討伐に参加できなかった事が、未だに引きずっているのかもしれない。
ライルと打ち合わせをする。彼はギルドに寄ったときに、暗黒竜についての調査を続行する方向で話をしてきたという。それならば、その暗黒竜を追っていった末で、遠くにいたままでも分かるほどに状態が変化したという事にして報告する事にした。視認できるほど近づけなかったけれど、瘴気が増大して異常な感じになったため、引き上げてきたと。ただ街の方角からは離れる一方だったので、報告のために戻ってきた事にした。命がけで確認しろとは、向こうも言うまい。ただ、暗黒竜の進行方向については、卵のアレクに確認したうえで伝えてもいいかもしれない。
私の個人的な意見として、邪神化した可能性がありそうだという事を付け加えておくことにした。根拠は、私が昔読んだ書物から考えられるものとして。魔法士は古典をいっぱい読んでるものなのよ。古い魔法を調べるためとか。温故知新ってやつでね。実際、私は邪神についての書物をチェックしているから嘘じゃない。だって気になったのよ前世の記憶が蘇ってから、次は邪神が来るのは知ってたから。
ライルとの打ち合わせで、ここまでを決めた。
できれば防ぎたかったけど、仕方ない。きっと物語のようにアレックスとシスティーナ達が何とかしてくれるわよ。私は抜けたけれど、本来の三分の一にはなっているんだから、大丈夫よ、多分。
それに魔王の時と同様に大規模な討伐隊が組まれると思う。そうなったら、この地域の討伐隊にライル共々参加することになるかな。
でも、その前にもう一個の卵を交えてお話し合いね。これは家についてから。彼らの事を今の所は報告する気はないけれど、どうしましょうね。