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ポツリ、ポツリとサザンカが話をし出した。なんでもウィリアムがサザンカに寄りを戻そうとギルドで迫ってきたのだそうだ。
昨夜は急病人が出た関係でサザンカはギルドの医務室で徹夜していた。そこへウィリアムがギルドにやって来て、帰り支度をしていたサザンカと鉢合わせしたとか。サザンカを見つけたウィリアムが近寄ってきてよりを戻してやる、一緒に住んでやるとか言い出したところにライルが来たのだという。
「なんで、今更、サザンカにつきまとってるのよ。お相手のウエイトレスに捨てられでもしたの」
私が眉を顰めてそう言うと、ライルが溜息を一つついて頷いた。
「ああ、暗黒竜で街に避難勧告が出ただろう。それでウィリアムは避難するために家財道具やら財産なんかをまとめたらしいんだ。それでな、一切合切が入ったカバンを件のウエイトレスに持ち逃げされたらしい」
「へ⁉ 」
ウィリアムは冒険者ではなく薬師だったと思う。別の町に移動するために必要な道具類や備蓄の薬草など結構あると思うのだけれども、それらを全部入れられる収納カバンも中々のものだと思う。しかもそのウエイトレス、荷物を持って別の男と逃げたのだそうだ。それは避難が撤回される前の出来事だったようで、火事場泥棒みたいなものかしらねと、的外れな感想が浮かんだ。
「それで、そのウエイトレスの女の捜索をギルドに届けに来たんだと聞いている」
その依頼をした後に、帰り支度を終えたサザンカが眼に入ったらしい。なんと間の悪いこと。ウィリアムはそこでサザンカにやり直そうと話しかけたのだという。
「僕はあの女に騙されたんだ。僕にはやはり君のように誠実な女性がいいんだ」
とかなんとか。その上で、呆気にとられているサザンカを良いようにとってとんでもないことを言い出しいた。
「僕から別れ話をされて、君を傷つけてしまって申し訳なかった。やり直そう。そうだ、今日から一緒に暮らそう」
まあ、ウィリアムにしてみればほぼ文無しになっちゃったから、どうにかしたかったのだろう。サザンカと暮らせば食住はなんとかなるとおもったんだろうなぁ。
それでサザンカの方はっていうと、徹夜明けのテンションだったわけで。
「何言っているの! 私の方から貴方に愛想尽かして別れましょうっていう話だったのよ。あんたみたいな男とやり直すわけないでしょう」
などと、言いたいことをぶちまけたのだとか。
それでまあ、色々と積み重なっていたもんだから沸点が低くなっていたウィリアムがサザンカに殴りかかったのだそうだ。
「前はあんなに暴力的な人ではなかったんですよ」
サザンカ、別にそんな屑をかばわなくてもいいのにそう残念そうに口にした。そうだとしても殴ったことにかわりはないし、最低だと思う。
サザンカは治癒要員だから、薬師とはいえ男の人には敵わない。殴ったところにライルが居合わせて、ウィリアムをふん縛ったそうだ。
頭を冷やすようにと、今はギルドにある保護室へ収監されているという。ギルドの保護室は何か仕出かした人間を一時的に隔離するためにある場所だ。酔っ払いなどが暴れた時や、一時的に預かった罪人などを収監するためにあるのだと聞いたことがある。ウィリアムが収監される際に、簡単な照会が行われた関係でライルはウィリアムがギルドにいた経緯を耳にしたそうだ。
ギルドの地下に設置されている保護室を思い出した。あそこは前世でいうトラ箱って奴みたいな感じの場所のはずだ。だから、ウィリアムは落ち着けさえすれば釈放されるんじゃないだろうか。ずっと収監しておくような場所じゃないからね。
「あー、災難だったわね。しばらく家にも戻らない方がいいかも。ギルドの仕事はしばらく休んで、ここにいなさいな。この家にはエルザがいるから余計な奴は近寄ることさえできないから、大丈夫よ。ギルドには私から話をしておく」
彼女も最初は遠慮していたが、このまま自宅に帰るのは恐かったのだろう。
「ありがとう。とても申し訳ないけれど、しばらくお願いします」
か細い声で了承してくれた。
「で、エルザ。サザンカに何か暖かいものを用意してくれるかしら。それから、客室の用意をお願い」
エルザは頷くと、部屋を出て行く。
「サザンカ。私とライルはちょっと仕事があるの。だからエルザと一緒にここで待っていてくれるかしら。明日中に帰ってこれるかどうかは判らないんだけれど、エルザが食事でもなんでも手配してくれるから、彼女に聞いてね。自分の家だと思ってゆっくりと寛いでくれていいからね。
じゃあ、ちょっと今からギルドに行ってくるから。サザンカの件を伝えてくるわ」
ライルには家にいてもらって、サザンカと一緒に昼食をとってもらうことにした。ライルならサザンカも気心がしれているだろうから、問題は無いだろう。
ウィリアムとばったりなんてこともあると思うので、私一人でギルドに行くことにしたのだ。ウィリアムと私はお互いによく知らない関係だから、釈放された彼と出会ったとしても私に突っ込んでは来ないと思うので。まあ、突っ込んできたら突っ込んできたで、いくらでも対応しようはありますけどね。
ギルドにつくと受付で話を通してから、ギルドマスターの部屋で話をしてきた。サザンカは私の方で預かっておくから、しばらくは治療室はお休みにしてほしいと。ギルドマスターは色々と聞いていたんだろう、問題なく了承してくれた。
「悪いな。よろしく頼む」
とまで言われた。
そこまで済ませてから、ようやく出発することになった。ライルとエルザ、二人と一緒に話をしたり食事をしたりしたためか、サザンカも落ち着いているみたいで良かった。
「いってらっしゃい」
エルザと二人で見送ってくれた。
卵のアレクがいってた近い方の場所に辿り着いたときには、もう夜だった。丁度満月だったおかげで、月明かりの下で暗黒竜がゆっくりと進んでいるのが遠目にも確認できる。
「夜明けまで待ちましょう」
十分な距離をとって野営をすることにした。ずっと絨毯の上にいたので軽くストレッチをしてから、結界石を配置して交代で休むことにする。夜明けまでは5~6時間ぐらいだろう。
そうして翌朝、私達は二つ目の卵を手に入れた。
いつも誤字報告ありがとうございます。大変助かっております。
とんでもないところを間違っていたりして、お恥ずかしい限りです。




