15 正体不明の卵
「ユリア、何故あの7箇所に穴を開けたんだ。意味があったのか」
今更ながらにライルが問う。
「えっ」
言われて何故なんて、考えていなかったのに気がついた。一番効果的な場所、より開けやすい場所をって事を考えながら、スキャニングしていた。
そのことに今になって冷や汗が出る。そんなあやふやな感じでやってたなんて。なんて言えばいいのだろう。
ただ、そうした方が良いという感覚というか、確信はあった。それを何といえばいいのかと、言い淀んでいると。
「深く考えてはいなかったんだな」
『でも、結果オーライってやつだよ。ボクにとっては。魔導師様がボクを討ち滅ぼすためにっていうのだったら、ボクここにいないもん。ボクの要のところに穴が空いてたら、今のボクはなしよ』
勝手に話が進められている。
「そうね、視ることばかりで倒すっていう意識よりも、整えるという意識が高かったのかもしれない、わね」
ちょっと声が引きつる。渋々ながらも認めざるを得ない。何とかしなくてはとは思っていたけれど、その何とかっていうのに、倒すという意識は低かったのかもしれない。
あの時何を考えていたのか、正直覚えていない。スキャニングする事に全力を注いでいた感じだとは思うのだけど。
今世は攻撃魔法が主流の私だけれど、基本の部分では医療従事者という意識がいまだ根付いているとかかな、これは。
とりあえず今回は、一つ間違えたら暗黒竜が元気になっちゃったってことになる可能性があったのかな。そうならなくて本当に良かった。気を付けないといけない。敵を元気にしてどうするのよ、私。
『でも、でも、何度も言うけれど、結果オーライだよ。ボク、初期状態になったもの。なんにでも可、よ』
卵がフルフルと震えて、ライルがやさしく撫でている。
「そうだな、よかったな」
なんて声をかけて。卵とライルが仲良さげに話している。私が考え込んでいる間になんか仲良くなっている、解せない。
『魔導士様と弓士様は、ボクが何なら良いのかな。今ならボク、なんでもありよ』
この卵は一体何を言っているのだろうと、ちょっとライルと顔を見合わせた。
「ちょっと待って。さっきから魔導士様って何。そんな言い方はあんまり好きじゃ無い」
『えー、魔導士様は魔導士様でしょう? それと弓士様でしょう』
「俺も、そんな言われ方は嫌だな。俺の事はライルって呼んでくれ」
「私はユリアよ」
『なんで? 弓士様は弓士様で、魔導士様は魔導士様だよね。だって力がそうでしょう』
「あのね、魔法を使えれば、みんな魔導士になっちゃうって事でしょ。そうしたらどうやってその中の私を識別するっていうの」
『え、なんで別々に識別するの。魔力が高く魔法を扱うのは、皆魔導士様でしょう』
「私は、私だからよ。他の魔導士は私じゃないからよ。同じじゃないわ。名前は個別に識別するもので、大事なの。皆、違うのだから。だから魔導士様じゃなくてユリア、よ」
『ワタシはワタシ。コベツにシキベツ。ミナ、チガウ』
卵がぷるりっと震え、ピタリと止まる。雰囲気が変わった気がする。
『認識しました』
ライルと二人顔を見合わす。さっきまでの子供っぽい口調ではない言い方に、驚いたこともある。
卵イコール子供、そんなイメージを持って話しかけたけど、考えてみればこれは本当に卵なんだろうか。
そういえば、周りの状況で何者かが決まると言ってなかったか。今のこの状態だって周りの状況ではないのだろうか。ちょっと怖いものを感じる。大丈夫なのだろうか。
なんとなく、誰も言葉を発しなかった。
『ボクねえ、ボク。ちゃんと認識したよ。魔導士様は、ユリア、弓士様は、ライルね。家守様は? 』
卵の雰囲気がもとに戻った。
『エルザです』
『うん。エルザね。覚えた』
口調はもとに戻ったけれど、先ほど感じた危機感はなくならない。私が口籠ってしまったが、ライルは通常運転だ。
「よしよし、良い子だ。お前は何ていうんだ」
そんな事を聞いている。
『ボクは、ボクでまだ識別されていないの。ね、ライル。ボクに識別のための名前をつけて』
「卵でいいんじゃない」
ちょっとふざけて、私が言うと。
『えー、卵は個別識別じゃないよ。分類群だよ』
「そうだぞ、ユリア。んじゃ、アレクはどうだ」
その名前を聞いてギョッとしたんだけど、突っ込むまもなく卵が嬉しそうに答えてしまった。
『うん、ボクは、アレクね』
決まってしまった。なんでヒーローの愛称を元暗黒竜に付けるのよ!
『あのね、お願いがあるの。ラルフとユリアなら、きっと出来ると思うの』