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負けヒロインって言い方、酷くない?  作者: 桃田


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 空飛ぶ絨毯の上でライルは長い筒を巻いていた布を外す。長い筒は矢筒のようだ。上部の蓋を外すとそこから筒よりも長い弓幹(ゆがら)を取り出し、(つる)を掛ける。彼の弓は和弓に似ている。というよりも、私は弓なんて詳しくない。でも、見た目が長いんでそうかなあと。昔見たアーチェリーとかと比べると長いのよね。なんであんなに長いんだろう。この世界にも弓はあるけれど、基本はあっちの世界のアーチェリーとかと同じような感じで、こんなに長い弓は見たことが無い。


「あら、その筒よりも弓が長いのね」

 ポロリと出た私の言葉を受けてライルが答えてくれた。

「ああ、これはこの弓用の矢筒でね。弓も収納できるようにもなっているんだよ」


 彼が弓を得意にしているとは知らなかった。いや、考えてみれば私は彼のことをあまり知らないという事に、今更ながらに気が付く。

「でもライルは瘴気とかは見えないんでしょう。私が孔を開けたとしても、そこに矢を射貫くことなんてできるの?」


「それは大丈夫だと思う」

 ちょっと目をそらして、頬を搔きながら言う。

「この弓はちょっと特殊でな。弓を構えればそういった場所は判る。ただ、そこへ射られるかどうかは持ち主の腕次第だ。それに関しては問題ない」


 シラッとそんな風に言うが本当に大丈夫なのだろうか、ジトッとライルを睨めつけてしまう。私自身が暗黒竜の瘴気の鎧をどうにかできるか分からないから、どちらにせよ出たとこ勝負な感じはするのだけれど。ライルは右手にちょっと変わった形のグローブをはめると矢筒を肩に掛けた。


 私達はまた暗黒竜の近くまで戻ってきている。前回と同じぐらいの距離まで近づいて、スキャニングと鑑定をフル活動。治療の時は直接触れて検査しているのと比較して、距離を取って視るだけでの判断になる。


最初は暗黒竜全体を調べて見たけれども、瘴気が邪魔でよく分からない。それで表面上の瘴気の流れを追ってみる。そう、前にドラゴンをスキャニングした時には、空を飛ぶときに魔力を自分に纏い付かせているのを視たことがあった。そうよね、今まで実験と称してさんざ魔物を視てきたのだもの。それをここで役立てずしていかがせん、てところよね。


瘴気は無造作に覆っているのではなく、暗黒竜の足元から頭の方へ向かって流れ、また頭の方から足元へと流れて言っている様だ。注意深く探る。

(ああ、なるほど)

 体内を巡る魔力の流れと体表面の瘴気が連動しているのか。そこまで診て、いったん離れる。時間切れだ。


 かなり離れて、下に降りて少し休憩と現状報告を。

「大丈夫か。ずいぶんと顔色が悪い」

 心配してくれるライルにちょっと引きつってたかもしれないけれど、笑顔で応える。


「大丈夫よ。ちょっと根を詰めちゃっただけだから。でも、やり方は分かったわ。可能性としては8割で、瘴気の鎧に穴を開けるのはできる」


「そうか」

「ただ、雷針を撃てばこちらに気が付かれるわ。穴があいたと同時に射らないと」

「何箇所だ」


「そうね。七カ所同時になるわ」

 簡単に空中に暗黒竜の画像を浮かべ、その七カ所を示す。額、喉、両肩の付け根、鳩尾、両足の付け根。いずれも然程大きな穴は開けられない。


「どのくらいの時間、その穴が空いている」

「正確にはわからないわ。そうね、最短で10秒、最長で30秒ってとこかしら。そのくらいの速さで瘴気が身体上を流れていると思うわ」


 瘴気の流れを穿ち、新たな瘴気で埋められるのはそんなものだと思う。


 ライルの口角が上がる。

「上等だ」

 彼は矢筒から7本の矢を取り出した。いずれも針のように細く、よく見るものとは違う。


「それが、矢なの? ちょっと変わっているのね」

「ああ、俺用の連射する為のものなんだ。大丈夫だ7箇所ぐらいなら、問題ない」


 暗黒竜、どう考えてもゴジラぐらいのサイズなんだけど。7点って簡単にいうけど、かなり離れているし穴もそんなに大きくは空けられないのだけれど。


「ああ俺、弓のほうが得意なんだよ。この弓は師匠から譲られたものだ。

 ただ、ソロでやるには剣でないと難しいだろう。だからここに来てからは、あまり使っていなかったけれどな」


 ちょっと肩をすくめてそういうけれど。確かに右手にグローブ? をつけてなんか格好を整えた姿は似合っている。剣でもかなりの手練れだと思っていたのだけれど。

「では、いこうか」



 正面に飛ぶ。先程までの観察では斜め前にいたのだけれど、真正面から見るとなんとも禍々しい雰囲気が増大したように感じる。もう一度スキャニングを行なう。先に一度視たせいだろうか、はっきりとどうすれば良いかが手に取るようにわかった。なぜだろう。


 私は雷針の準備をして、ライルの方を向いて頷く。正面やや上方に位置する。数百本の雷針が宙を舞う。暗黒竜は自分に向かってくる雷針にすぐに気が付いたみたいだけど、彼にとってはか細く砂埃程度の影響ぐらいしかないものと判断したからだろうか、避けさえしなかった。自分の瘴気纏に絶対的な自信があるのか、それとも自分の行っている儀式を中断しないためだろうか。


避けられることなどを考えて、多めに同じ場所に針を送り込んだのが杞憂になってラッキーなのかな。思いがけず相乗効果を生み出して、思ったよりも孔が大きく開けられた。とはいっても、20センチぐらいだと思っていた孔の大きさが60センチ程度になったぐらいだけれど。


 それよりも暗黒竜がこちらに気が付き、睨み付けてきて身構える。グルルルッと喉がなり口を開けようとしている。ブレスをはく気だろうか。

ヒュンッ、私の右手後方に立っていたライルから矢が放たれた音がする。矢は光の筋を伸ばしながら、吸い込まれるように暗黒竜に向かって消えた。次の瞬間、暗黒竜が絶叫を上げた。

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