表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/25

11 暗黒竜

「暗黒竜の討伐依頼は出ないぞ、いくらなんでも」

 ギルドマスターが少し呆れた口調で口にする。確かに、この討伐依頼はここのギルドだけで出すようなレベルじゃないわね。報酬やら何やらを考えれば、簡単に出せる依頼じゃないものね。


「まずは街の人間の退避の補助だ。今のところ、この街の方向を目指しているようだからな。理由はまだ分からないが、あれはゆっくりとこちらに向かっている可能性が高い」


「討伐依頼を出さなくとも、調査依頼は出るよな。移動についてはどのくらい情報を掴んでいるんだ。動向など探る必要はあるだろう。他に情報はあるのか? 」

 ライルが淡々と言う。この人、どんだけ戦いたいんだろう。ふとそんな事を思った。


そう思う反面、別のことが頭を過る。もしかしたら、魔王討伐隊に参加できなかった事が引っ掛かっているのかもしれない。もし、参加できてさえいれば幼馴染みをみすみす他の男に渡さなくても済んだかもしれないから、とか。


でもさ、魔王討伐に加わっていたとしても、幼馴染みと上手くいくとは限らない。それともライルはちゃんと言葉で態度で示していたのかしら。彼女、さっさと他の人と結婚しちゃったのをみるとそうは思えないんだけど。うーん、同病相憐れむってやつ? ちょっと、心の中だけで溜息をつく。


 そんな事を考えちゃったが、今はそんな場合じゃない。ライルとギルドマスターのやり取りに一口加わる。どうも、情報は少ないようなので。

「じゃ、今どんな感じか見てきましょうか?」

 軽い調子で言った私の言葉に、ギルドマスターは顔をしかめる。そうよね、このガキ、何言っているんだってな感じになるわよね。ここのギルドマスターとは初めて会ったのだもの、胡散臭く思われても仕方ないわね。


だから、気配消しの魔法をその場で使ってみせた。目の前の私が突然消えたので周囲がざわめく。

「はい、声を出したりすると駄目になっちゃうけど、わりと効果は高いですよ。偵察向きです」

 声とともに再び現れた私を見て、再び驚いたようだ。

「時間はどのくらいだ? それから範囲は」

「そうですね、使用可能時間は1時間足らずぐらいで、範囲は人数で私を含めて2人ぐらいです」


 本当はもう少し長いけど、正直に申告するつもりはない。それに声を発すると無効になっちゃうから、大したものではないと思う。偵察とかには便利だけど、集団で使えるようなものではない。人って意識しなくても思わず声が出ちゃうことってあるから。


「1時間か……」

 この気配消し、1時間というのは長い方なのよ。二人ぐらいならば近づける方法もあるからと説得し、暗黒竜の動向調査依頼を出してもらう。んで、ライルと二人で受けることとなった。魔の森の奥に行くとしても、ライルならば問題はないと判断されたようだ。


「大丈夫、びゅっと行って帰ってきましょう」

 街の外に出て、収納から二人乗りが可能なサイズの絨毯に魔法陣を付与して乗り込んだ。ちょっとライルに引かれたのは解せない。え、空飛ぶ絨毯って憧れない? 

「空飛んでいけば、すぐじゃない。任せて、落っこちたりしないから」

 恐る恐る乗り込んだライルだったけど、すぐに空の旅に慣れたようだ。あっという間に魔の森へGO! かなり離れた場所からだというのに、大きな黒い姿が見える。


「ライル、あれに近寄るために気配を消すから私が良いって言うまで、声を出さないでね」

「おう」

 そんなやり取りをしてから暗黒竜に近づき、暗黒竜の頭よりちょっと高めの高度で少し離れた場所から暗黒竜を眺めている。気配を消しているせいかこちらに気がつく気配はなさそう。暗黒竜は飛ぶことなく反閇のようにして、歩をゆるりと進めている。空を飛ぶこともなく、何故のんびりと歩いているのかしら。最終的に進む方向はあるようだけれど右往左往しているようにも見える。


(ああ、もしかして暗黒竜は……)

 原作知識だと確か暗黒竜は邪神の先触れのはず。ゆっくりと進むその軌跡から瘴気が溢れ出している。暗黒竜が一歩踏み出せば、その場所が瘴気で汚れていくのが分かる。

ライルに手信号で合図を送って、絨毯の高度を上げる。もう少し全体を俯瞰できるように。ライルは黙って暗黒竜を観察し続けている。

その高さから見下ろせば、暗黒竜の軌跡が大きく簡略な何らかの図形を描いているようにも見える。図形というよりも帯かな? ある程度の幅の間に絵柄を描くかのように進んでいるみたいだ。だから右往左往しているように見えたのね。


 暗黒竜によって大地に穿たれた帯は、邪神を呼び込むもしくは邪神の力の元となるモノを満たすためのものではなかっただろうか。確か、暗黒竜の役割についてそんな記述があった気がする。帯っていう表現ではなかったけれど。軌跡だったかな? この帯の描くラインは確実に街の方向へ進んでいるように見える。すなわち、暗黒竜の進む方向は街だ。暗黒竜は複数いたと思う。彼らはそれぞれがこの帯を描いているのだろうか。この帯が結びつけ、魔法陣になるのだろうか。う~ん。


正直、原作についてはこのあたりはうろ覚え。いや、そもそも何度も読み直したりしていないのだから、細かな事まで覚えていない。今更ながら、もう少し読み込んどけば良かったのに、とここにきて思わなくもない。


(仕事関係の知識とかなら明瞭に思い出せるのに)

 と、少し悔しい気持ちもあるにはあるが、人間先の事なんて分からないもの。あの原作の世界に転生するなんて考えもしなかったんだから。小説で読んだ転生者は、なんであんなに自分が転生した世界について詳しいのかしら、と半ば八つ当たり気味に思わなくもない。


(そうよ、それにすでに私は原作とはズレた行動をしているんだから、知っていたからといって役に立つとは限らないわ)

 そう、自分に言い聞かす。それでも基本設定はきっと変わっていないはずなんだとも思うけど、そんな基本設定なんて知らない。小説を読むぐらいで、そんな細かな設定なんて思い至らない。小説で書かれていたのは暗黒竜が先触れとなり、邪神が出現するというぐらいよ、多分。


 そんな事を考えながら、暗黒竜の周囲を偵察して一旦離脱した。


▲▼▲▼▲▼▼▲▼▲▼▲▼▲


 暗黒竜は愉しんでいた。遠くに見える街までなぞ、ひとっ飛びなのだが、そんなもったいないことはしない。十分に時間を与えれば、それだけで人々は恐れおののき、何もできずに逃げ惑う。


 街にいる人間が逃げていくのは分かっている。それでいい。何もできずに逃げ惑う人間たちは、逃げた場所で安心するかもしれない。それでも恐れが心のなかに根付く。暗黒竜の到来した場所は瘴気に塗りつぶされて、もはや帰還することはできない。そして、再び我らが近づくことで、彼らは逃げられないことを思い知らされることになるのだ。どこに逃げようとも、我らの行く手を遮れる者はいない。恐れおののき、絶望するがいい。それが我らの糧ともなる、と。


 ゆるりと移動する。暗黒竜の歩みにより瘴気が大地に打ち込まれ、復活した邪神の生命力への供給源ともなるのだ。()の者の歩みは浄化とは逆に大地を穢すことに他ならない。ゆるりと力を込めて大地により深く瘴気を刻み込む。魔法陣よりももっと原始的なものだ。大地を邪神のものへと変化させるもの、生まれ変わらせるものである。


 ユリアが反閇の様だと思ったが、実際には逆の意味合いだった。だが、暗黒竜からすればそれは確かに反閇の意味合いがあったかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ