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10 邪神の影

 魔王が現れて、それが邪神の出現のきっかけになっちゃうのだから、端から見ればえらい迷惑だと思う。


 邪神と魔王が直接的に結びついてた訳じゃないの。えーっと、魔王を倒した後を対処してくれたというか、後始末を任された人物が問題だったのよね。


 魔王を討ち果たしたのはいいのだけれど、大きな遺骸が残っちゃったのだ。このままだと瘴気の温床になっちゃうから、これを浄化して滅する必要がある。でもこれは数年はかかると判断されたのね。だから、最良の選択は聖女であるシスティーナが残って浄化すること。


 そこで同行した神官の一人が名乗り出たのだ。

「システィーナ様は女王になるべきお方。一刻も早く魔王討伐の吉報を持って、王都へと戻られるべき」

と。大きな遺骸を浄化して滅するのを代わりに自分が行なうと申し出てきたのだ。


 ただ、普通に考えれば一般的な神官ができる様なことではない。そこへ(いにしえ)から伝わるという魔法陣を示してきた。

この魔法陣は、初期発動に聖女の魔力を封入し、その後は神官が継続して魔力を注ぎ込むことで少し時間はかかるが、浄化できるというものだと。


 これが作成されたのは、聖女が現れない時でも魔王が出現した時があって、それで魔王を浄化するためにその時代の人々が作り上げたものだと説明を受けた。だからシスティーナの魔力でなくても問題はないのだと。

それでも、最初にシスティーナの魔力でブーストをかければ安定して浄化がよりよく進むだろうという事で、最初に彼女が魔力を注いだの。


 システィーナも王位を継承することやアレックスとのこともあったものだから、その提案を受けることにした。でも、今考えるとあの何事も先を見通す彼女にすれば、手落ちにも感じる。それは結末を知っているから言えるのかもしれないけれど。まあ、いいか。弘法も筆の誤りっていうものね。


 それで魔法陣に魔力を注いで、システィーナは魔王の遺骸周辺にも瘴気が漏れ出ないように念の為に結界も張った。


「王都に戻ったら、ここに増員を送ります。必要とあれば私も戻ってきます。何かあればすぐに連絡を」


 システィーナはそう言い残し、一部の人々を浄化のために残し私たちは国に凱旋した。きっと王国に到着した後に、彼女は手配したのだと思う。


 でもね、後始末を引き受けて残った神官さん。原作だと彼はシスティーナに憧れ、彼女を手に入れようと力を欲し魔王の遺骸を使って自分にその力を取り込もうして、その結果、邪神を呼び込んでしまったらしい。


 システィーナを手に入れたくて、彼にはそんな方法しか思いつかなかったということなんでしょうね、はた迷惑よ、ホントに。でも、最初からそんな考えだったわけじゃなく、魔王の瘴気に当てられた部分もあったみたいだけど。


まあもう旅の終盤辺りは、システィーナとアレックスの関係性は見え見えだったもの。あの間に入ろうと思ったら、それくらいしか手がなかったのかもしれない。

私は、まあ、うん、なにもできなかったから。いや、ちょっとは頑張ってみたんだけど、何もかも遅かったというか、うん。まあ、私のことはいいでしょう、もう。


 原作ではその辺そんなに説明なかったんじゃないかな。というか、あまりよく覚えていないからそうなんだと思うのだけれど。


それにある意味、狙いは悪くないのかもしれない。邪神を鎮める為に聖女を要求するって、理に適ってる気がする。でも、結局勇者に打ち倒されるんだけどね……。あー、でも邪神があの神官さんってわけではないのよね? どうだったかしら? 


 自分の前世を思い出した直後は、自分のことで手一杯。落ち着いてから邪神のことを思い出して、慌ててあの場所に行ったのよ。だって、あんなのが出現したらえらい迷惑でしょ! だから、なんとか阻止できないかと思って、魔王を倒した場所へ向かったの。


でも遅かった。あの場所には何も無かった。いえ、正確には地に刻まれていた魔法陣だけが残されていた。それ以外の何もかもが消えていたの。私には、彼らを見つける術はない。

それにシスティーナは増員を送ったはずだもの。彼女だって現状を認識したはず。邪神のことまでは分からないかもしれないけど、なんとか手を打つだろう。


 邪神についての情報を彼女に伝える気はない。そんな事をすれば私を見つけてくださいっていうようなものだし、まだシスティーナとアレックスに会いたくない。

 ごめん。きっとあの二人が中心となって何とかしてくれるわよね、私は諦めた。でも、その後のことを考えれば、他人事のように考えていたバチが当たったのかもしれない。




「ライルって、強いのね」

 いやホント。右足の完治した彼は、別人の様だ。実験だ! なんて森で魔獣と対応していたけど、彼の強さにおんぶに抱っこだ。


殺さずに無力化するって大変なのよ。それを軽々とやってのけるのだから、段違いの強さを見せつけられているよう。


 私の言葉にふっと笑うライルは、自分の強さをきちんと把握しているのかもしれない。アレックスだと、ここで「いや、まだまだだよ」なんて謙遜するけど。


「この程度、造作もない。君とサザンカのおかげで前よりも体が動く。今なら魔王討伐にでも抜擢されるよ」


 笑ってそう言う貴方様は、ライル様ね。でも、本当に魔王との決戦の場に彼もいたならば心強かっただろうって思う。アレックスとの二揃の活躍、見てみたかった気もする。


「そうね。頼りにしてるわ」

 私の返事に、嬉しそうにしてくれるその様子は、褒められて喜んでいる大型犬のようだわ。


 そんな日々を送っていたのに。その日魔の森からギルドへ戻ると、凶報がもたらされた。


「魔の森に暗黒竜が出現した。彼の者はこの街に向かって来ている」


 暗黒竜のその(あゆ)みがゆっくりなのは、この街で暮らす人々の絶望や苦悩を増大させ、瘴気の糧とする為だ。


 とうとう物語の第二部が始まってしまった。魔王が討ち果たされて穏やかな日々を過ごす中、凶報が舞い込む。邪神の先触れである暗黒竜が出現するのだ。この暗黒竜が各地に混乱と瘴気を振りまきながら、聖女システィーナのいる王都へと向かう、という段取りになっている。


暗黒竜の通った場所は瘴気にまみれ、それらの場所は邪神出現とその維持のための贄の地となってしまう。


「その地域にこの場所も入っているだなんて、聞いてない!」

 と、思わず叫びたくなった。


 魔の森の奥から、邪神の先触れである闇を纏いし暗黒竜が現れるなんて。しかも、原作よりも早いなんて。


 ギルド内に緊張がはしる中、ライル静かに言った。

「暗黒竜討伐の依頼、出るんだろう。俺が引き受けよう」

 その姿に周囲の人々の視線が集まる。

「私も行く。貴方にだけ良い格好させられないわ」

 すこしおどけて私がそう告げれば、ライルが口の端を上げる。

いつも誤字報告などありがとうございます。


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