9 幼馴染み
「えー、ライルって幼馴染みとパーティ組んでたんだ」
私の家でライルとサザンカと三人で夕飯をご馳走することとなった。勿論、作ってくれたのはエリザなんだけど。美味しいお酒を持ってきてくれたのはライル。デザートはサザンカが担当し、私だって美味しい材料を買ってきたんだから、いいじゃない。
雷針治療でライルは被験者とは言え、三人でああだこうだとやってきたためだろうか、女二人に男一人とはいえ色っぽい雰囲気は無い。なんだろう、雰囲気は仲間という感じだ。
そのせいか時々こうやって集まってはご飯を食べたりしている。
今日も一緒にご飯を美味しく食べながら、色んな話をしていたのだが、美味しいお酒が手伝ってかちょっと打ち明け話大会っぽくなってしまったのだ。話の発端は一緒にご飯を食べているサザンカ。
この頃忙しくなってしまって疎遠になってしまったサザンカとその彼氏の話に突入したのが不味かった。きっかけは私の何気ない一言。
「この頃、忙しいんでしょ。ちゃんと休みとってる?
サザンカの彼氏、ウィリア厶君だったっけ、ちゃんとフォローしてる? あんまりほっとくと変な虫付いたりするから気をつけた方が良いよ」
みたいな事を冗談めかして口にしたのだが。それを耳にしたサザンカが急に顔を歪める。
「酷いんですよぉ~。浮気されたのです。別れるのです。別れ話は昨日したのです」
サザンカが、ベソベソしだしてしまったのだ。慌てたのは私とライルだ。そんな展開が待っていたとは思いもしなかった。
ライルを治療していた頃は、私が一緒とはいえ気になったらしくてサザンカの彼氏はよく治療室に顔を出していた。どうにも自分の存在をアピールして、ライルを牽制していた様子だったのだが。
「相手は良く行く食堂のウエイトレスみたいなんです。ギルドの受付のローズさんが、二人がイチャイチャしているの見たって。でも、信じられなくて……」
それで、はじめはウィリアムに問いただしたらしい。彼はしらばっくれていたらしいのだが、様子がおかしかったのでお相手の方にも話をしにいったのだという。
「ウィリア厶は自分と結婚の約束をしてくれたって」
勝ち誇ったように言われたのだそうだ。サザンカがこの所忙しくしていたので、その隙を狙われたのだろうか。自慢気にウィリアムから貰ったという指輪を見せびらかしてくれたのだとか。
「それで昨日、ウィリアム君に再び問いただしたのです。お相手に結婚の申し込みしたって聞いたと。もう、一線も越えたって聞いたって。だから、もう別れましょうと言ったですぅ」
そうしたら、ウィリアム君、逆ギレして。仕事が忙しいと言って、今まで晩ご飯を作ってくれたり、部屋の掃除をしてくれていたのが減ったのが気に入らないとか、この前自分の治療を後回しにしただとか、色々と言われた挙げ句に。
「お前が悪い! だから俺に見捨てられるんだ!」
とか、散々言われたのだそうだ。いつの間にか別れ話を持ちかけたはずのサザンカが、ウィリアム君に捨てられた話になってしまったという。
なんということでしょう。昨日も今日もギルドに行っていなかったから、知らなかった。ライルも私もお口あんぐりです。
「あー、うん。浮気男はまた浮気するから。そんな男、別れて正解よ」
取り敢えず、そう慰めた。
「そうよ、ライルもそう思うでしょ」
急に振られてライルはびっくりした様子だが、頬を掻きながら同意してくれた。
「あー、そうだな。別れたほうが良いかもな」
なんとなく歯切れが悪い。
「何、ライル。あなたサザンカに気があるの? それなら今から取り持つわよ」
私がそう言うと、慌てて否定する。それを見たサザンカはずんと落ち込む。
「やっぱり、私に魅力がないから、ウィリア厶君も……」
「そんな事はないぞ。サザンカは十分魅力的だと思うよ。ギルドでサザンカは可愛いって話をよく聞くぞ。ウィリアム、結構周りを牽制して回ってたから、サザンカに言い寄る連中がいなかっただけで。
ただ、俺は忘れられない人がいるだけで。いや、俺の片思いだったんだけど、忘れられなくてな。いや、俺のことはいい」
焦ったライルがそんな事を口にしてしまう。で、それが幼馴染だという話に発展していったのだ。彼はその幼馴染みの彼女が好きだったらしいが、なかなか告白できずにいたのだと。
そうこうしているうちに、魔王が出現する事態となり、魔王殲滅戦線へパーティで参加することに。その戦いで怪我を負ったライルはパーティを抜けたのだという。
今回の魔王討伐隊の選抜では自分がいたパーティーは幼なじみを含めて選出されたのだそうだ。
「で、討伐隊で知り合った相手と結婚すると連絡が来た」
そう言ってライルは苦く笑った。魔王討伐部隊に抜擢され、拠点にしていた街から出立する時に見送ったのが彼女を見た最後になったと。無事に魔王討伐がなされてしばらくしてから、幼馴染からの手紙で彼女の結婚を知った。
「結婚式に呼ばれたんだが。別の国の王都ってこともあって、お祝いだけを送った。俺は足が悪いから、長旅は無理だってことで。お相手はその国の騎士団長だというから、彼女がこの国に訪れることももう無いだろう。俺も、拠点地から離れてここに来たしな」
サザンカがそれを聞いておいおい泣き出し、ライルが慌ててオロオロしだし、その場はグダグダになった。
同病相憐れむ、かな。ライルについてちょっと感傷的な気持ちが心を過ぎったのは、多分それね。