友達の難しさ
「…ともだち…!」
今日の僕は少しわくわくしています。
なぜなら友達が出来てから初めての大学だから。
今日も講義被ったりするかなぁ。
「…あおい…、おはよ」
「あ!おはよう大雅!」
「…べんと、作ってん?」
相変わらず寝起きの機嫌は悪めの大雅。
元々低い声をさらに低くして唸るように言った。
「うん!ちゃんとハンバーグ入れとくからね!」
「……!あり、がと……!」
心なしか瞳が光った気がする。
大雅はよっぽどハンバーグが好きなのだろうか。
「はい!できたよー!ここ置いとくね、僕もう行かなきゃだから!」
「りょーかい…いってらー」
「あー!碧だ!!おはよ、となり座っていい?」
「しゅん、くん…!」
僕が彼の名を呼ぶと、彼はぱぁっと顔を輝かせた。
「覚えててくれたんだ!」
「うん、さすがに昨日の今日で忘れはしないよ…」
呆れながら笑うとしゅんくんは照れたように頬をかいた。
「だってやっとまともに話せたんだし…!そりゃ嬉しいだろー」
「もっと早く話しかけてくれてたらもっと早く仲良くなれてたかもね」
いたずらっぽく笑うと今度は拗ねた顔をする。
「碧が見てくれてないのも問題だろー?」
「あはは、ごめんって」
誰かと笑い合うなんて、何年ぶりだろう。
安心して人と話せること自体がもうすっごく久しぶりな気がする。
しゅんくんからは少しも邪気が感じられなかった。
彼とならこれからも仲良くできる。
何の根拠もなくそう思った。
僕が殺される運命だってことを忘れて___
「うわ!碧今日弁当なの!?え、もしかして自分で作ったり…?」
「うん、昨日弁当のおかずがいっぱい乗ってるレシピ本買って、作ってみたんだ!」
「うわー、碧料理できる系かよー。軽い裏切りじゃん」
しゅんくんはぶつぶつ言いながら親子丼をテーブルに置く。
「裏切りって何でよ。別に普通でしょ」
笑いながらそう言うとしゅんくんは露骨に顔を顰めた。
「普通とか言うなよ。料理できねえ俺がおかしいみたいじゃん。はぁー、できる奴は違うねぇ」
「何それ」
僕は笑ってハンバーグを口に運ぶ。
うん、美味しい。これならきっと、大雅も喜んでくれる。
「俺も明日ハンバーグ定食にしようかな…」
「しゅんくんはいつも丼なの?」
「いや決めてないけど。俺いつもノート纏めながら飯食べるから、丼の方が楽なんだよね」
「へぇ…!真面目なんだね!」
小さく拍手をするとしゅんくんは何故か居心地が悪そうな顔をした。
僕はすっとここが冷えるのを感じて箸を握りなおす。
いやだな、この空気。
相手がこういう顔をしたときは、怒らせてしまった時だ。
つまり、これから待ってるのは、友達なんかではない、ただ一人の人からの怒り。
「……あ、の。ごめ…っ」
先に謝っても変わらないけど、でもしゅんくんとは友達でいたかったから。
せめてもの誠意を向けなきゃいけない。
「…あーそうなんだよね、はは、俺、意外と真面目ってよく言われるー」
「え?」
「ん?どうした?体調悪い?」
なんでそんな、何もなかったかのように話すの?
怒ってたんじゃないの?僕、嫌われたんじゃないの?
「いや…、しゅんくんが、嫌がってた気がしたから…」
何言ってんの僕。
せっかく気にしないでいてくれたなら、掘り返さなくて良いじゃん。
でも、何故か苦しげなしゅんくんをほっとけないから…。
「…そう見えた?」
少し驚いたあと、しゅんくんは肩をすくめて笑った。
「怒って、ない…?」
「怒る?なんで?俺が碧に対して?」
心底不思議そうな顔を向けられたら、僕はなんて言えばいいのか分からない。
「だって……」
美味しそうな卵焼きが少し寂しく映る。
「あーー、ごめん。俺結構ぼーっとすること多いからそれが怖かったんかな?」
「……そうかも。怒ってないなら、良かった!」
僕は逃げた。
どう考えてもしゅんくんは僕に気を遣った。
僕は完全に甘えちゃったんだ。
こんなときどう言うことをいったら良いのか僕にはわからなかった。
だから
「ごめんね、しゅんくん」
心のなかでそっと謝るしかないんだ。
ともだちって、嬉しくてあたたかくて優しくて、そしてとっても、難しい。