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二人の出会い

「やあ、こんばんは。俺のターゲット」

出会いは突然だった。

大学からの帰り道。

もう少しで家に着く、っていうところ。

もう日は沈んでいて、薄暗くなっていた。

音もなく現れた彼は、どこか自信ありげな表情で、にやりと笑った。

「…ターゲット…?僕が?何の?」

僕が眉をひそめて尋ねると、彼はフッと笑った。

「そうや。お前は俺の、殺しのターゲットや」

「殺し…?…そっか、僕、君に殺されるんだね」

落ち着いたままの僕を見て、彼は怪訝そうな顔をした。

「なんや、怖ないんか。殺されるんやで?」

「んー…別に怖くはないかなぁ…」

「………やりたいこととか、ないん?」

「やりたいこと…?あ、一個だけあるよ?」

「何?」

「死にたい」

「は?」

「僕、死にたいんだ。だからね、もし、君が僕を殺さなかったとしても、僕は勝手に自殺するよ」

僕がそう言い切る時には、彼の笑みは消えていた。

「………ふざけんな」

ものすごく低い声でぼそりと言い、じろりと僕を睨みつけた。

「……なあに?君は、僕のことを殺してくれるんでしょ?なら、僕が自殺することもなくなるじゃん」

「…あぁ。殺してやる。絶対に俺がお前を殺す。やから、自殺なんてさせへんわ」

闇の中で光る獣のような瞳を見て、僕はふっと笑った。

「ん。ありがと」


なんとなく帰りたくなくなって、近くの公園のベンチに二人並んで座る。

「お前、名前なんていうんや?」

「え、ターゲットの名前も知らないの?」

「忘れたんや」

「えぇ、馬鹿なの…?まぁいいや。僕はあおいだよ。君は?」

「碧な。分かった。俺は大雅たいがや」

「大雅はさ、どうやって人を殺すの?」

「え?あぁ…まぁ、基本的には暴力やけど」

「え!?やだぁ。痛いじゃん。一発で死ねる死に方が良いなぁ」

僕が顔をしかめると、大雅は笑った。

「なんや、わがままやなぁ。死にたいって言ったんはそっちなんに。死に方は注文するんか」

「だって、暴力って、何回も何回も痛い思いしないといけないじゃん。痛いのはやだよ」

大雅はまるで小さな子を見るみたいに僕を見て、首を傾げた。

「じゃあ、どんな死に方が良いん?」

「ん~、毒、とか?ガスとか?痛くないの!あ、でも、飛び降りとか、ナイフでグサッみたいなのは、痛いけどいいよ。一回だけだから」

「…変わってんな。碧は…」

大雅は目を伏せて、悲しそうな表情をした。

「ん?大雅は、嫌がる人を無理やり殺す、みたいなのが好きなの?」

「は?」

大雅は目を見開いて、僕を見つめた。

「え、違った?」

「なんでそうなるん?」

「だって、いろんな死に方を“いいよ”って言ったら、悲しそうな顔してたじゃん」

「あぁ…。別に。無理やり殺したいんやない」

「ふぅん。まぁ、いっか。てかさ、大雅はどこに住んでるの?」

「隣の県やけど。仕事が終わるまではターゲットの近くに住む」

「へぇ!あ、じゃあさ、もしよかったらだけど、僕の家来る?一人暮らしだし、泊まってもいいよ?」

「…いいん?ここらへん、ホテル空いとらんくて…」

ちょっと眉を下げて、僕をちらりと見る。

「いいよ!友達みたいで嬉しい!」

「友達って……仮にも殺される相手やで?」

大雅がおかしそうに笑う。

「いいじゃん。僕とこんなにいっぱい喋ってくれるの、大雅だけだもん」

「え?」

大雅の表情がすっと消える。

「僕ね、学校でいじめられてたんだぁ…。今はもう大丈夫だけど…」

友達はいないけどね…。

無理矢理笑顔を作って大雅を見ると、ぎゅっと頬をつままれた。

「わ、何?」

「……笑うなよ。そんな笑顔、作んなや…」

大雅は苦し気に下を向いた。

「…大雅……?」

僕が大雅の肩にそっと触れると、彼はびくっと跳ねた。

「………っ。ごめん、気にせんといて」

聞きたいことはいっぱいあるけれど、どうせ死ぬんだし、大雅が気にするなと言っているのだから、踏み込まないでいよう。

「…大雅、家に帰ろう?もう真っ暗だし、寒くなってきたから」

「あぁ…。せやな。行こか…」

元気がないままの大雅の腕を引っ張って、家まで歩く。

大雅の手は、人殺しとは思えないほど、柔らかくてあたたかかった。



「ここが僕の家だよ!」

「おぉ、ここか」

僕は鍵を開けて家に入ると、少し強引に大雅を引っ張った。

「今日からただいま、ね?」

「え…いや、その…碧はさ、俺に気ぃ許しすぎなんちゃう?今ここで殺されてもおかしくないんやで?」

そんなあったかい手で本当に殺せるんだろうか。

「大雅は、本当に殺し屋なの?」

ポロっと口から零れてしまった。

大雅は眉を寄せた。

「なんで、疑うん?」

「だって…手が、あったかいんだ」

「え?」

「手がね、安心するあたたかさなの」

「安、心…?」

理解できない言葉のように繰り返す。

「そう。…僕のことをいじめてくる人たちとは全く違う。優しい手。…ねぇ、大雅はなんで殺し屋をやってるの?言いたくなかったら、言わなくてもいいけど」

「殺し屋を、やってる、理由……」

大雅は考え込む。

「……何でやろうね、本当は、あいつらを殺して俺も死ぬはずだったのに」

「…あいつら?」

「……そう、あいつらだ。あいつらが、未奈みなと俺の人生を滅茶苦茶にして……。あいつらのせいで…」

呪うようにぶつぶつと言い続ける大雅は、怖かった。

殺し屋っていうより、取り憑かれているような…。

「……未奈って、だあれ?」

「……未奈…未奈……」

「大雅?」

名前を呼ぶと、はっとして、僕を見つめた。

「…あお、い…」

「…大丈夫……?」

「…ごめん、大丈夫やで」

とても大丈夫そうには見えないけれど、僕は、気にしていないように笑った。

「大雅は、この部屋を使って?必要なものとかあったら言ってね」

「…ありがと」

「じゃあ、僕は夕飯の用意してくるから!あ、嫌いなものとかある?」

「…ない」

「分かった!」


大雅は、僕を、殺してくれるだろうか。

あの優しい手で、僕の命を奪ってくれるだろうか。


分からないけれど、こんな不思議な生活も、悪くないかもしれない。



僕が大雅に殺されるまで、大雅の手はあたたかいのかな―――――――

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