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ファンタジーの片隅にて  作者: クロイナニカ
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スライムを狩りに行こう

 王都を中心として囲うように、半日馬を走らせたところに何本か空高く伸びた塔がある。

 その数八本。さらに円の形で並ぶその外側を囲うようにさらに十六本。


 王都に住む人々はその塔のことを柱と呼んでいたが、塔の周辺に住む人々は櫓と呼んでいた。


 塔の中は非常食や納税品などが収められており、塔の上では町や町の周辺を見回す役人が立っている。

 そして塔の地下には、特殊な魔法陣が組まれていた。

 

 その効果は魔法陣の周辺区域に魔物の生成を抑制する効果と、魔物が近づくことを防ぐというものだ。

 ただし、範囲はそれほど広いものではなく、完全にそれらを防げるものではないらしい。


 その陣は王都の地下にも組み込まれていて、周辺に同じ陣を起動することで王都の守りを強化している。

 つまり塔の地下にある魔法陣は塔の周辺に住む人々を守るためのものではなく、王都の人々を守るためであり。

 塔自体は、魔法陣が設置してある場所を判別するための目印なのだ。


 そんな数ある一本の塔の近くに住んでいる俺は今、新人の冒険者『ロゼ』と一緒に町の外に出ていた。


 今回受けた依頼(クエスト)は『スライムの肉片収集』というものだ。

 スライムは全ての魔物の起源と云われていて、半球体で上から覗けば地面が見えるほど透明な魔物だ。

 その肉片は切り落としてから少しするとドロリとしたとろみのある液体になり、良く燃える。

 果汁などと混ぜると少々腹持ちが良い酒になり、火をつけるときの着火剤になるなど様々な用途がある素材だ。


 そのため、冒険者組合(ギルド)では年中依頼を出して収集している。

 スライムの数も多く依頼が競合しても問題ないため、掲示板には束になって依頼書が掛けられていた。


 なんなら依頼を受けると申請しなくても納品できる。


 しかし、スライム自体はちょっと腕力がある子供なら一人でも簡単に狩れる魔物で、その報酬もそれだけで日々を過ごしていけるほど高くはない。

 持って帰れる量も頑張っても二匹分ぐらいで、着火剤として利用するだけなら一匹の半分ほどの量で一月分ぐらい賄える。

 そんな価値の素材なので、冒険者の間では他の収集依頼と併用してついでに納品するか、町の子供たちの小遣い稼ぎ。

 あるいは新人の冒険者の教育で受けさせるような、そんな簡単な依頼という扱いだ。


 スライムの発生しない区域は存在しない、という話がある。

 これ自体は嘘らしく、王都の一番外側を囲う塔よりさらに遠くの場所ではスライムが出ない場所があるのだそうだ。

 ただそれでもそんな話が上がるほど、スライムの発生する場所というのは多岐にわたる。

 何処かでは町の中でも発生したことがあるらしい。

 町と町を繋ぐ馬車道はもちろん、森に入って最初に目撃するのがスライムなんてことも多々だ。


 それほど普段どうでもいいときに見かけるスライムを、現在俺たちは草木をわけて探していた。

 腹立たしいことに、探しているときほど、こういうのは見つからないのだ。


「そういえばネロさんっておいくつなんですか?」


 先ほどから、いないいないと呟いていたロゼは、藪から棒に問いかける。


「十一」

「あ、同い年なんですね」


 それはどうだろう。

 俺は自分の年齢を正確には覚えていない。

 一時期死に物狂いで生きていた時期があり、時間の感覚がなくなっていたのだ。

 十一才とは言ったが、一か二ぐらいズレがあるかもしれない。

 そもそも……。


「どれぐらいこの仕事をやってるんですか?」

「さて……、四年ぐらいじゃないか?」


 冒険者組合に登録するには七歳以上という制限がある。

 登録するときに人間に具わっている魔力を記録されるのだが、そのとき年齢も調べることができるらしい。

 ただそれも正確なものではなく、生まれて間もなくの赤子でも七才と判定されたり十を超えても六才以下と判定されることもあるので、ほとんど自己申告制になっている。

 制限がある以上、俺も七歳と登録したときには答えたが、実際のところそのときの自分の年齢はわからない。

 さらに言うと、年齢という概念があることを知ったのは、それよりもずっと後の話だ。


「他の町とかも行ったことあるんですか?」

「まぁ、それなりにな」

「へぇどんなところに行ったんですか?

 あ、クローネって町の名前ですよね。どんな町なんですか?」


 矢継ぎ早に問われたが、最後の質問には思わず首を傾げる。

 が、よく考えれば、彼女は最近町の外から来たのだろうと予想していたことを思い返す。


「クローネはウォンデの前の町の名前だよ。

 昔、領主が事件を起こしたとかが原因で今の領主の名前に変わったんだ」


 何処か気まずそうにそうなんですねと答えた少女を尻目に、俺は目的の獲物を見つける。


「いたぞ」


 水の塊のような半透明半球体で中心に核を浮かべたスライムは、なぜ気が付かなかったのかと言わんばかりにそこにいた。




 さて、と、俺はスライムに向かいながら隣に立っているロゼに声をかける。


「じゃあ早速スライムを狩ろうか」

「……え、私一人でですか?」


 少女の疑問に、俺はまたも首を傾げる。

 前述のとおり、スライムは子供でも狩れる魔物で、その狩り方を知らない者はまずいないだろう。

 一人で狩るのは当たり前で、スライムを複数人で袋叩きする様など見たこともない。

 いや、あるいは箱入り娘ならそんなこともあるのだろうか。

 町の外から来るぐらいにはアグレッシブなのに。


「そんな難しいことじゃない。

 中心に核があるだろ、あれが壊れればスライムは死ぬよ。

 ちょっと力はいるけど、その魔法銃なら柄で殴っても倒せるだろ」


 話は変わるが、スライムの肉は安いが、スライムから取れる魔石という素材は、半年飲み食いに困らないぐらいに高く売れる。

 スライムの肉はかなり弾力があり、素手で殴って倒せる人もいるがそれなりの力が必要になる。

 また、生きている間のスライムの肉は柔らかいのに千切れない。

 柔らかすぎるので剣で叩いても核を叩き壊せるが、核の周りだけ先に切り落とすというのはかなり難しい。

 そんな核の中に魔石があるのだが、魔石の強度は核のほかの部位とほぼ同等で魔石に少しのヒビが入るだけでも価値が大きく下がる。


 なので取り出すのにかなりの技術が必要なスライムの魔石は、スライムの数に反して大変貴重な素材なのだ。

 ちなみに何に使うかは俺も知らない。


「核を狙う。……うん、やってみます」


 ロゼは自分に言い聞かせるように答えると、静かに魔法銃を構える。

 その仕組みに詳しくはないが、魔法銃は込められた魔術弾という道具に魔力を込めて引き金を引くと、魔術弾に刻まれた魔法が発動するというものだそうだ。

 魔法陣を描いたり呪文を唱える魔術師たちからすると、応用が利きづらいなどの不満を漏らすし。

 剣や槍を振るう者たちからすれば強くなれる実感がないと、触りもしない者も多いとか。


 かく言う俺も、短剣と簡単な魔術具で立ち回るが魔法銃を使ったことは片手の指の数もない。

 身体技能を補助、強化する『流動術』という魔法に魔力を使うので、魔力を込めながら立ち回る必要があった魔法銃とあまり相性が良くなかったのだ。


 そんなこともあったなと魔法銃を懐かしく思うように見つめていると、ロゼが意を決して引き金を引く。

 そして大きな破裂音を立てながら飛び出た弾頭は見事、スライムの核を砕いた。

 ……え、火薬弾?


「やった、やりましたよ!」

「ん? あぁそうだな。じゃあ袋にスライムの肉を詰めて。

 まぁそんな直ぐに溶けるわけじゃないけど、あんまり時間が経つと肉が溶けて袋に入れられなくなるから」


 そのことを聞くやいなや、慌ててロゼはスライムの死体に近づく。

 慌てすぎて回収用の袋を探すのに手間取るほどだ。


 さて、火薬弾とは魔術弾を参考に作られた銃弾である。

 魔術弾が作られる前は、銃に直接火薬という爆発する粉や液体を入れていたらしく、火薬を爆発させたときの力を利用して鉄の塊を飛ばす武器だったらしい。

 火薬弾は、そんな爆発する粉や液体を魔術弾に使われるような筒に込めて使うことで、連射力を大きく上げた物だ。

 ただし威力が魔術弾よりも弱く、魔術弾と違って使い捨てなので使用者はまずいないそうだ。

 魔法銃に魔力を使われるのを嫌って火薬弾を使う人は全くいなくはないらしいが、大半は魔力を身体強化に使うなら殴った方が早いし強い。

 その他の使い方だと、大きな音が出ることを利用して味方に位置を教えたり、何らかの警告や威嚇のために使うぐらいだとか。


 そんな性能の火薬弾を使うのは彼女の趣味か無知か、あるいは魔法銃を買うときに騙されたか。

 いや、ウォンデの町では取り扱ってる店がないと聞いたので、後者の可能性はなさそうだ。


「よし、詰め終わりました!!」


 戦果を見せつけるように、ロゼはスライムの肉が入っているであろう袋を掲げる。

 その屈託のない笑顔をみて、俺の中で火薬弾を使うのが彼女の趣味である可能性が消えつつあった。

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