よく来たな、ここは中二病中学校0年Σ組!!
「いったい、これはどこに向かってるんですか? 俺をこんな目に遭わせておいてタダで済むなんて思ってないですよね?」
数名の大人に無理やり車に乗せられ、俺は今、どこかへ運ばれている最中らしい。
目隠しをされてどこにいるか全く見当がつかないが、信号で車が止まる様子もなく、ゆっくりと移動していることからどこかの山道を走行しているのだろう。
「そろそろ教えてくれてもいいでしょ。大体、俺がなにをしたっていうんですか」
返答はなく、ただただ車が土を踏みしめる音しかしない。さっきまでかかりつけの病院にいたというのに、なんでこんなことになったんだ。
「なにも話さない気ですか。それとも俺様の言ってる意味がわからない脳ミソが空洞のおバカさん」
「おい黙れ運転してんだろ」
「はいすいません」
急な返答にビックリして思わず謝ってしまった。ごめんなさいほんと調子乗ってました。年頃なんで許してください。
おさまっていた足の震えが思い出したようにガタガタとまた震えだす。もうめっちゃ怖い早くおうち帰りたい。お母さんどこにいるの。
「お前中学二年だろ? もう少し口のききかた勉強しとけ」
「すいませんすいませんっ」
「いや、そんな怒らなくても。こいつのイタい行動、だいぶ逸材だと思いますよ」
助手席側からフォローの声がする。
「確かに言えてるな。おい、もうすぐ着くから黙って乗っとけよ」
「はいっ、ありがとうございます」
遂に誘拐犯にまでお礼を言う始末。
こんなことになったのも、全部この忌々しい能力のせいだ。こんな能力に目覚めなければこんなことには……。
「ふう、相変わらず遠いな。おい、早く降ろせ」
しばらくして車が止まると目隠しをしたまま車から降ろされる。
「あばよ。達者でな」
降りてソワソワしていると、近くで車の音がして、段々と遠くなっていった。
恐る恐る目隠しを外すと俺をさらった人たちの姿はなく、一人ポツンと立っているのみ。完全に置いていかれた。
え、え、マジヤバい。なにこれなんでこうなったの?
俺はただ、最近なんか体が変で、お母さんと一緒に朝イチで病院に行っただけなのに。なんでこんな目に合わないといけないの?
「そうか。俺は、ここで死ぬんだ」
「もう。いいから早く来て転校生」
「え?」
突然人の気配がして、振り向くと困り顔の男性が立っていた。メガネでスーツ姿の男性の背後には学校らしきものも確認できた。よく見ると今いるのは校庭だ。
「早く。みんな待ってるから」
「え? え、え?」
先生に手を引かれ、俺はあれよあれよという間に校舎の中へと入っていく。
少しだけ冷静になった俺は、自分の能力のことを思い出し、先生の手をふりほどいた。
「なにどうしたの?あ、最初のクラスの挨拶まだ考えてない感じ? でもあんまり引っ張るとハードル上がっちゃうから」
「いや、僕、最近体が変で……じゃなくて! なんで急にさらわれて学校に連れてこられてるんですか!?」
「うーん、ここで説明するのは野暮かな。さ、とりあえず教室へ。みんな待ってる」
先生は俺を置いて歩いていく。もうこうなったら仕方ないので気が進まないながらもその背中を追いかけた。
「はいみんな転校生きたよー!」
先に教室に入った先生の声がして、ワー!! 歓声が上がる。
「ほら、早く来て」
先生に言われ、ぬるっと教室へ入ると拍手したり口笛吹いたりと思い思いの歓迎をしてくれた。
二十数名のクラスで男女比は同じくらい。歳も俺と変わらない中学二年生程度に見える。
「よし、じゃあ軽く自己紹介して」
「え、えっと」
目まぐるしい状況に圧倒されていると、俺の右腕の制御がきかなくなる。
「ヤバい、ちょ、腕が……」
うずく右腕をおさえ、必死に抵抗する。マズイ、これじゃ変な奴だと思われる。
「もう、ダメ、だ」
限界に達した俺の右腕から放たれたのは、ささやかな風。手のひらから出たそれは肉眼でも確認できて竜巻の子供みたいだ。やがてゆっくりと時間をかけて進行方向にあったカーテンへ当たると、ファサっとカーテンが軽く翻る。
ヤバい、死にたい。
俺の体に変化が起きたのはつい最近のこと。なんだか手から風が出るようになり、たまにこうして制御のきかない時もある。そう、ほんとあくびとかおならみたいに。
中二ということもあり、これは能力に目覚めてしまったかと思い、この体に起きた異変をちょっとポジティブに捉えていたものの、その能力のショボさたるや。
せいぜい机の上にある鉛筆を転がせる程度で、威力はこれ以上全く上がらない。こんなの人にバレてしまったらこの変な能力よりもそのショボさに驚かれてしまう。
だから誰にも言えずにいたのに母さんが様子がおかしいからと病院に渋々連れていかれたらこんなことに。誰か殺してくれよもう。
「おい、お前」
恥ずかしさでいっぱいの俺に誰かが話しかけてくる。笑うならいっそ豪快に笑ってくれ。そっちの方が気が楽だ。
「すげえよ。風使いか! こりゃとんでもない能力だ!」
「え?」
顔を上げるとみんな嬉々とした表情を俺に向けていて、教室に入ったときより大きな歓声と拍手で賞賛された。
「ヤバくない? 今カーテン動いたよ! すさまじい威力だ!」
「風、ってことはエアロキネシスか。とんでもなくかっこいいな」
「あんな能力を持って今まで社会に溶け込んでいたなんて。信じられれない」
クラスメイト達が口々に感想をこぼす。というかよく見ると眼帯付けてたり、指ぬきグローブ装着してたり包帯巻いてるやつまでいやがる。
中二病かよこいつら。
「中二病、と彼は心の中で言いました」
「は?」
一番前に座っていた男子がニヤリと答える。
「すごい、流石原田君のテレパシー!」
「半径50cm以内の相手の心の声が最初の三文字までわかる……おそろしい能力だ」
なんか誰かが解説してくれてるが、テレパシーって文字数制限とかあんの? 半径50cmって俺とギリギリの距離じゃねーか。だから一番前の席いんのコイツ。
「安心したまえ。もう勘のいい君なら気づいていると思うが、彼らも君と同じ『能力者』だ」
「なんか口調変わってないですか?」
先生は演技かかった口調で語り出す。
「中学二年、多感な時期に発現するこの能力のことを我々は『中能力』と呼ぶ」
「そこまで寄せるならもう『超能力』でよくないですか?」
チッチッチッと指を振る先生。ヤバいめっちゃ鼻につく。
「超能力って言うほど能力の威力は高く?」
「ない、ですけど」
「そう、だから『中能力』。他にも物体を1cmだけ動かすことができるサイコキネシス。0.1秒先の未来を見る未来予知。特別な力だが、社会的に脅威とはなりえない能力をことをいう。そしてその中能力が発現した子供たちが集められる場所がこの学校ってわけだ」
先生はチョークを走らせ黒板に文字を書く。
「よく来たな、少年。ここは国立中二病中学校0年Σ組」
先生は決まったとばかりにドヤ顔だ。
なにやらややこしい事態を嘆くつつも、少しだけワクワクした気持ちが湧くのを感じる。
胸の高鳴りに身を任せ、今度は自ら風を手から放出する。
クラスメイトが「おおっ」とざわつき、またカーテンへと向かっていく小さい竜巻は、今度は何事もなかったかのようにカーテンへと吸い込まれていった。
「いや、えっと」
みんな固唾を飲んで見守ってくれていただけに、かなり恥ずかしい。
「ま、そういうこともあるよね!」
「でもそのほんと、すごい! すごいよマジで!」
気遣いが胸に染みる。挨拶をそこそこに終えた俺は、自分の用意された席へととぼとぼと向かった。
やっぱこんな能力いらねえ!!
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