魔法少女、大ピンチ
『やつは怪人リア充にくみだね』
俺の頭の中に山本の声が鳴り響く。
なんで毎回そんなへんてこな名前をつけるんだ!
そうツッコミながら、俺はにくみに接近を試みる。
だがにくみが触手を動かすと、その方向に小さな爆発が起きる。
「くそ!これじゃ近づけないぞ」
射程範囲は3Mといった所か、間合いを詰めれば即座に触手を動かすので距離を詰めることができない。
ならばと魔法弾を生成、青く光るそれをにくみに向けて解き放つ。
「よし、当たった」
魔法弾はにくみに命中、謎の液体を噴出しながらにくみはよろけ…。
俺に向かって謎の液体をぶっかけてくる。
「うわ!?なんだこれ…」
俺は飛び散ってきた液体をえんがちょしていると、その正体に気がつく。
「これ…がそりん!?」
頭の血が引くのを感じながら、視界の外でにくみが触手を鳴らすのが耳に聞こえてくる。
「まずっ!」
ドカーンという爆発音と共に、俺の周囲一体が爆発、壊れた人形のように吹き飛ばされる。
「いっ…てぇ…」
初めてアニマ戦でまともにダメージを受けたかもしれない。
黒いのもロリコーンもそこまで火力無かったし…。
よろよろと立ち上がると、にくみを正面に見据える。
近づけない、遠距離攻撃もダメ、打つ手ないぞこいつ!
というかいってぇなぁ…!ほんといてぇ!
痛みで思考がまとまらないのもあり、俺にはどうやってもにくみを倒す術は思いつかなかった。
「うおーーー!!ひろたんをいじめるなでござるー!!!」
そんなピンチに現れたのは我らの田中。
どこで準備したのか、燃え盛る松明のような物をにくみに投げつける。
そしてその火がにくみの頭に直撃、炎上させると、にくみは体を大きく仰け反らせ、田中を睨みつける。
「ひぃ!でござるー!」
怒ったにくみは田中にヘイトをうつし、触手をうねらせる。
田中に向けて触手が迫り、爆発する瞬間、俺は田中をお姫様抱っこで救出する。
「ばか!なんであんな危ねぇな事したんだ!」
「だってひろたんがピンチっぽかったでござるし」
何故か顔を赤く染める田中を見ながら、俺は頭痛をこらえる。
「けど助かった、おかげで光明が見えたぜ!」
「ひろたんはツンデレでござるなぁ」
俺はそんな事を言う田中をベシャッと落とすと、にくみに視線を向ける。
「リア…充…!爆発…殺す!」
何かやつの琴線に触れたらしいが、俺の名誉の為に断じてそんなことはないと言い張りたい。
しかし…あいつ、炎でダメージ受けたよな?
ってことはだ。
俺はニヤリと笑みを浮かべ、いつぞやのライターの火をいくつも出現させる。
そしてにくみに向けて解き放つと、にくみが触手で応戦、触手が燃え尽き、苦しそうに呻く。
「やっぱりな!別に本体に炎耐性がある訳じゃねーんだな」
にくみも触手を伸ばして応戦してくるが、こちらの方が射程は長い。
俺は安全に触手を全部処理すると、にくみに向かって走り出し、拳を振り上げる。
「よいしょっと!」
そんな掛け声と共ににくみを殴りつけるが、ぶにょっという音とともに拳が弾き飛ばされる。
「げぇ!?打撃に耐性あんのかよ!」
俺は再び生えてきた触手から距離をとり、炎で燃焼させて爆発を封じていく。
これ以上爆発のダメージを受けることもないが…。
「決定打が…ない…」
いや、正確にはある、あるけど…
「痛いんだろうなぁ」
俺はそんな事を呟きながら、再び全ての触手に火を放つ。
『嫌だなぁ…けどこのまま放置する訳にもいかないし…。』
俺は覚悟を決め、触手が燃えるにくみに急接近。
核に向けて拳を突き出す。
当然前回と同じようにぶよっと弾き返さりそうになるが…。
「これでも喰らえ、ばーか」
俺はそう呟くと、自分の手を中心に爆発を起こす。
するとにくみの液体に呼応するように大爆発が起こり、俺は何バウンドもしながら地面に転がる。
「ひ、ひろたーーーん!」
遠くで田中の声が聞こえるが、それよりも耳鳴りが酷い。
にくみは倒せたのか?俺は無事なのか?
俺は薄れゆく意識の中、誰かに助け起こされる。
「ああひろたん、なんて酷い…ここは王子様の目覚めのキッスが必要でござる」
そう言いながら誰かの口が近づいてきて…。
ボンッという音とともに元の姿に戻る。
そして目と目が合う俺と田中。
「「お、おえーーーー!!!!」」
俺と田中は同時に地面に向けて倒れ込む。
「も、戻るならはやく言って欲しいでござるよひろ氏!」
「おま!何被害者ぶってんだ!大体お前のせいだろ!」
田中とぎゃーぎゃーしてると、遠くからサイレンの音が聞こえてくる、このままここにいたらまずい。
「とにかく逃げるぞ!」
「ちょっとひろ氏〜…怪我は大丈夫でござるか?」
「あれ?そういえばなんともないな」
俺が不思議に思っていると、頭に山本の声が鳴り響く。
『魔法少女の時に受けた傷は元に戻ったら治るよ』
…そういう事は先に言って欲しい。
「あと迎えに来たよ」
「「え?」」
俺と田中が突如頭上から聞こえてきた声に視線を向けると。
デカいサイズの山本が羽を生やして飛んでいた。
「え!?なにその姿!?カッコイイ!」
「これはボクの戦闘フォームさ」
そう言って俺達の前に降り立った山本ははやく乗れとせかしてくる。
「とりあえずお疲れ様、あとはボクに任せると良いよ」
そう言って山本は俺と田中を乗せ、大空に向かって飛び放つ。
「しかしここまで派手に立ち回ると流石の俺もそろそろ警察のお世話になりそうだな」
「そこは心配ないよ、魔法少女やアニマは基本的に直接見ないと認識阻害の術式がきざまれてるからね、それに壊れた建物はボクのマスコット的力である程度は復元するさ」
わーお、ファンタジー。
「ではひろたんの事は拙者とひろ氏だけの秘密でござるな!」
田中はなにやら嬉しそうにはしゃいでいる。
お前さっき俺にした事忘れてないよな?
「近所の子供達には見られてるし、お前とだけの秘密ということは断じてない」
そうキッパリと告げておく。
こうして俺と魔法少女との不思議な物語が幕をあけることになるのだった。
次回!第2章!
ヒロイン追加!?
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