魔法少女とピンチ
TOILE…トイレ。
それは人生において最も落ち着く場所。
明治以降に開発された腰掛け式トイレにより、人類は人生におけるオアシスを発掘したと言っても過言ではないだろう。
そんなオアシスに今、1人の男…いや、少女は苦渋の選択を迫られていた。
・・・
俺は便所の前で立ちションしようとして固まる。
「え、どうすんの、どうやれば良いの?」
当然いつもついてるブツはない。
ああそうか座れば良いんだ。
俺はよいしょと座ると、いつものようにションベンをしようとして…。
「あっ、なにこれ、いつもとでる感覚が、あふ…」
1人悶えていた。
「…当たり前だけど女の体って出る位置が違うのな」
そしてそのまま立とうとした所で、田中が外から声をかけてくる。
「ひろたん、トイレの後はちゃんと拭くのでござるよ?」
「拭く…?」
俺は未知の言語に頭の中がコスモスする。
「ちゃんとお股の間を拭くのでござるよ」
え、ちょ、まじか。
え?触るの?大丈夫?犯罪じゃない?
まさか田中のやつ騙してないだろうな…でもこんなしょーもない嘘つくとも思えないし…。
というか終わったってなんでわかった?
俺は恐る恐るトイレットペーパーを手に取る。
「んっ…!」
・・・
「おはようスイートハニーでござる」
「やぁひろ、おはよう」
「…おはよう、山本、田中」
翌日目を覚ました俺は、珍妙生物2人の挨拶にツッコむ気すら起きず、うだるようにベッドから降りる。
そして談笑してる田中と山本から距離を置いて座る。
「なに?2人はいつの間にそんな仲良くなったの?」
「ひろたんが寝てる間でござるよ」
ウィンクをしながら教えてくれる田中、朝からやめてくれ、頭痛がひどくなる。
「というか山本は昨日の夜どこ行ってたんだよ、大変だったんだぞ」
「寝てたに決まってるじゃないか」
膨れっ面でそう抗議すると、山本はコーヒーを飲みながらやれやれと答えてくれる。
こいつ本当にはっ倒してやろうか。
下手なアニマよりよっぽど害悪だろ。
「そんなことよりひろ、今日は買い物にいくんだってね」
山本はそう言うと真っ直ぐな瞳で俺を見つめてくる。
なんだろう、魔法少女なんだし人前に出たらダメとかあるのだろうか。
そんな事を考えながらドキドキしていると、山本が静かに口を開く。
「お土産を期待してるよ」
こいつほんっと!!!
そんなやりとりをしながら朝が終わり、俺はいよいよ田中とお出かけをする事になったのだが…。
「え?俺ん家に来るようなファッションで行くの?」
「デュフフ、何を当たり前の事を」
大丈夫か?絵面的に大分犯罪だぞ?
こいつ俺との買い物で通報されないだろうな。
「大丈夫でござるよ、拙者、今日はひろたんのおにいたまでござるから」
何も大丈夫じゃないんだよなぁ…。
俺は田中の気持ち悪さを再確認しながら、近所のショッピングモールに辿り着く。
「…おい、緊張してきたぞ」
「ななななにを緊張するでござるか!今ひろたんは立派な女の子でござるよ!」
女性物のアパレルショップの前まで来た俺と田中は、ここに来て挙動不審になっていた。
おいおい、男子高校生2人で来るような場所じゃねーよ。
「ひひひひろたんにはこんな服が似合うんじゃないでござるかなぁ?」
「そそそそうだな田中!こんなの良いかもな!」
2人でガクガクしながら買い物をし終え(大体田中チョイス)、俺と田中はお昼のマグロナルドで一息つく。
「いやー、大漁でござるなぁ」
「…そーだな」
買い物が終わり、ご満悦な田中。
何故か可愛い系ばかり選ばれたが、戦力外だった俺が文句言える訳も無いし…まぁ今回は良しとしよう。
「しかし以外と通報されないもんだな」
「どこからどうみても仲の良い兄妹にござるからな」
どう考えてもロリコン高校生と近所の女児なんだが?
そんな事を考えていると、唐突に頭に声が鳴り響く。
『ひろ、アニマの気配だよ』
『その声は山本!?どこにいるんだ!?』
『ボクは今田中の家さ、なんか魔法的な何かで君の脳内に直接語りかけてるんだ』
相変わらずふわっとしてるなぁ!
「おい田中!アニマが近くにいる」
「ななななんですと!?」
田中は前会った黒いアニマの事を思い出したのか、ガクブル震え出すと俺の後ろに隠れキョロキョロ。
「けどどこにも見えないでござるよ?」
田中がそう口にした瞬間、ショッピングモールに爆音が鳴り響く。
「な、なんだ!?」
突然の爆発に周りの人間はパニックを起こし、店内からの爆発とわかるや、我先にとショッピングモールの外に逃げ出そうとする。
そしてその逃げゆく人々の合間に、俺はやつを見た。
ぬらぬらと光る液体を頭から滴らせ、何本もの触手をマントの中にひそませるおぞましい何かを。
「あいつだ!あいつがアニマだ!田中、避難誘導任せた」
「がってんでござる!」
俺は田中に避難誘導を任せ、アニマの前にシュタッと降り立つ。
「そこまでた!」
アニマはゆっくりとこちらを振り向くと、本来顔があるであろう場所が三日月のように歪む。
…こいつは初めてあった時のアニマみたいに不気味なやつだぜ…。
そう油断なく構える俺に、アニマは口を開く。
「りあ…ば…ろ」
「こいつも喋るタイプのアニマか!」
俺はアニマを見据え、何を言っているのか耳をすませる。
「リア充…爆発…しろ」
台無しだよ!!!