魔法少女に…なってる!?
「うぇー!?なんで!?どうして!?」
顔をぷにぷにとしながら、俺は声高らかに叫ぶ。
車に反射する姿は見慣れた俺の姿ではなく、完全に少女のそれになっていた。
しかも絶賛ふりふりな魔法少女のような格好。
なんで!?どうしてこうなった!?
いつからだ?化け物に恐怖を感じなくなった時か!?
困惑する俺は気持ちの悪い視線を感じ、田中の方を見る。
待て。
この姿で俺は戦っていたのか?
だとしたら、これはもしかして...。
そんな俺に、田中が擦り寄ってくる。
「ああ...なんという事でござろうか!まさか本物の魔法少女に出会えるなんて...くんかくんか」
「ひぃぃぃぃ」
魔法少女に会えた感動からか、田中の気持ち悪さが天元突破していた。
這うように俺に近づいてきては手の匂いを嗅いでくる。
俺はひいっと顔を青ざめさせ田中から距離をとる。
「田中、俺だよ俺!」
「俺っ娘キター!デュフフ、拙者もう我慢出来ないでござるー!」
そういいながら、即座に距離をつめてきて俺の手を取る田中。
ええい触るな!揉むな!
だめだ!今の状態でこいつに何を言ってもきかない!!
全く以って全然、話を聞いてもらえる状況じゃないぞ!
幸いにも他に通行人はいないし、警察沙汰にはならないだろう。
なったとしても田中に全部任せてしまえば良いや!
兎に角今、俺はこいつから逃げないとまずいことになる…!
俺は尚もまとわりつく田中を引き剥がすと、一目散にかけ出す。
なんだかさっきより体が重いぞ!?
「ああ!待ってくだされ!せめて名前を!名前をー!!!」
後ろで田中が何か言っているが無視だ無視。
気にしたら負けだ。うん。きっとそうだ。絶対そうだ。
俺は自分でも驚く程の速さで田中の前から逃げ出すと、我が家にダッシュで帰宅した。
そして、洗面所で自分の姿を改めて確認する。
そこにはなんとまぁフリフリした衣装を着た可愛らしい女の子の姿。
黒い衣装は魔法少女のような形状をしているし。
黒かった髪は青くなり、頭には長い三つ編み。
目は金色になっていて、ぱっちりとした可愛い形に。
そして何より、身長はぐんと下がっていた。
「なんだこれは!?何が起きてる!?」
俺は自分の顔をぺたぺたと確認する。
『簡単な話さ、君は魔法少女になったんだよ』
ここに来て、先程黒い化け物と対峙した時の声が聞こえてくる。
俺はきょろきょろと周りを見回す。
しかしそこには誰もいない。
「さっきから何なんだ!?」
俺の叫びに答えるかのように、目の前に小さな穴が空くと、そこから小さなカバのような生き物が現れる。
なんだこいつ!?また変なのが現れたぞ!?
俺は内心怯えながらも、カバに相対する。
「お前は一体...?」
「山本さ」
「...なんて?」
「山本さ」
唐突に現れた山本と名乗る生き物に、俺はますます頭を混乱させ、しかし唐突にスンッと落ち着いた。
山本?山本っていったのか、こいつ。
なんでこんな不思議な生き物なのに、名前はそんなリアルなんだ。
...いやいや、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
「君は魔法少女になったのさ。」
は?魔法少女になった?
再び混乱し、頭にはてなマークを浮かべている俺をよそに、山本と名乗る目の前のカバは話を続ける。
「街にはさっきみたいな怪物…アニマが時折出現している、アレを倒して街を平和にしようじゃないか」
ホワッツ?
こいつは何を言っているんだ?
落ち着こう、まずは 1 つずつ整理していこう。 こういうときは、物事を1つずつ考えることが大事だと昔遠い親戚のばあちゃんが言ってた気がする。 知らんけど。
「山本って何者なんだ?」
「魔法少女のマスコット的存在さ」
魔法少女のマスコット。
魔法少女のマスコットね。
うんうん。
...なるほど、さっぱりわからん。
そういうのは田中の専門だ。
次だ、次。
「アニマって?」
「あの怪物のことを総称してそう呼ぶのさ」
なるほどね、あいつにはそんな名前があるのか。
「君はあのアニマとの戦いで覚醒し、魔法少女に変身したのさ」
「変身した!?.どうやって!?ああ!あのステッキか!」
確か変身前に田中が俺の家に置いて行ったあのステッキが光っていた。
あれが実は本物だったってオチか!
まさかあれが原因でこんな姿になるとは...。
「違うよ、あれはただのおもちゃさ」
「じゃ、なんであの場面で光ったんだよ!」
あの光には何の意味もなかったのかよ...。
その事実に俺はガックリと肩を落とす。
「大体なんでこんな女の子の体に...。変身とかって大体ライダーものとかそんな感じだろ...」
「それは多分、君が心の中で願ってたんじゃないかなぁ」
まじ!?俺ってそんな趣味あったの!?
しかもなんかふわっとしてるし...。
多分、とか。
じゃないかなぁ、とか。
さっきからよくわからんことと適当なことしか言わないぞこいつ。
「兎に角君はこれからこの街の悪と戦うのさ」
「ええ...やだぁ...」
「決定事項だよ」
「そこに俺の意思はないんですか…?」
俺が山本とそんなやり取りをしていると、ガチャリと玄関が開く音がする。
「ひろく〜ん、ただいま〜」
母、帰宅。
ああ、もうそんな時間か。
俺はいつもの癖で、思わずおかえり〜と返そうとして慌てて口を両手で抑える。
今の俺の声は絶賛美少女声なのだ。
こんな声でおかえりなんて言ったらまずい。
俺はひそひそと山本に詰め寄る。
『おい!どうやったら元に戻るんだよ!』
『怪物を倒したら自然と元に戻るよ』
『戻ってないんだが!?』
『気合いが足りないんじゃないかな?』
『なんだよ気合いってーーー!!』
尚もふわっとした言動を繰り返す山本の首をしめ前後に揺らす。
「ひろく〜ん?」
そんな事をしてる間にも、母が2階の俺の部屋を確認、いないとわかって洗面所に近づいてくる。
「ひろく〜ん?どうしたの〜?」
ヤバいヤバいヤバい!どうする俺!?