魔法少女と闇堕ち
ちょっとひろ視点が難しかったので第3視点
ひろの中で何か黒い物が溢れ出す。
それは憎悪、憤怒、様々な形でひろの中の何かを蝕む。
すると、ひろから黒い瘴気のようなものが巻き起こる。
「う、あ、あぁぁぁぁぁ!」
そんな悲痛な叫びをあげながら、ひろはつむじかぜめがけて飛んでいく。
「だめだひろ、感情に任せて戦っちゃ!」
山本が焦ったようにひろに叫ぶが、ひろは止まらない。
嵐のように黒い瘴気を撒き散らしながら、ひろはつむじかぜの前までたどり着くと、拳をつきだす。
「おっと、あなたではワタシには…おや?」
つむじかぜはそう言いながら止めようとする。
しかし止めようとした手はひしゃげ、地面をえぐり、海水を割りながら海底に叩きつけられる。
つむじかぜは再び海水が溢れる前に空中に飛び立つと、優雅に紳士の礼をする。
「これは…少々分が悪いですね、今日はこの辺りでお暇させてもらいますよ」
つむじかぜはそう言うと、つむじかぜの姿が空気に溶けて見えなくなる。
しかしひろはそんなのお構い無しにつむじかぜがいた場所に突撃すると、何も無い所を思いっきりぶん殴る。
すると鈍い音と共に、再びつむじかぜが現れる。
「おやぁ?見えてる訳ではないですよねぇ?」
ひろはそんな不思議な表情を浮かべるつむじかぜの足を掴むと、ブンブン振り回し地面に向けて投げ飛ばす。
つむじかぜはクレーターを残しながら地面に叩きつけられる。
「…野生の勘というやつですかねぇ」
ひろはそんな飄々としたつむじかぜにまたがると、つむじかぜの顔を思いっきりぶん殴る。
余波で地面が陥没、地震が巻き起こる。
しかしそんな事おかまいなしに、ひろはただひたすらつむじかぜをぶん殴り続ける。
そんなひろのすぐ側に、聞きなれた声が聞こえてくる。
「これは…一体…」
そこには魔法少女衣装に身を包んだユリの姿があった。
「ひろの体内の魔力が暴走してるんだよ」
これまたすぐそばで腹から血を流し倒れている山本が、ユリに説明する。
「あ、あなたは…?」
「山本さ」
ユリは山本という言葉を聞き、急いで治癒魔法をかける。
「あなたが山本さんですのね」
「はじめましてだね、ゆり」
ユリの治癒魔法を受けた山本の傷が塞がり、いつものマスコット的姿に戻る。
「どうやら力を使いすぎたようだね」
山本は自分の手をグッパしながら、いつもの調子で喋る。
ユリはそんな山本の様子にとりあえずホッとしながら、ひろに視線を向ける。
「ひろさんはどうされたんですの!?」
「今のひろは憎悪に苛まれているんだ、このままだと、闇の魔法少女として世界を滅ぼしかねない」
「そんな…!」
山本とユリがそんな事を話してる間も、ひろは狂ったようにつむじかぜをぶん殴る。
そんなひろにつむじかぜは嬉しそうな視線を向ける。
「いやー素晴らしい、まさかこれほどの力とは」
「うるさい、黙れ」
ひろはそんなつむじかぜに冷たい言葉をかけると、まひろがやっていたように魔法の剣を作り出す。
そしてつむじかぜの核を思いっきり叩き切る。
「くっくっく、あーっはっはっは、今回はワタシ達の負けですねぇ…魔法少女に祝福あれ!」
つむじかぜは最後にそう叫ぶと爆発四散、塵となって消えてしまった。
「や、やりましたの?」
そんな様子を見ながら、ユリははらはらとひろに駆け寄ろうとするが、ひろの周りの瘴気がバチバチっと行く手を遮る。
そしてひろを起点に地面が割れ、大気が揺れる。
「まずいよゆり、なんとかしてひろを正気に戻さないと」
「は、はい、でもどうすれば」
山本は少し考えるように沈黙する。
「なにか衝撃的な出来事でも起こしてひろの動きを止めてくれれば、ボクがなんとかするよ」
「わ、わかりましたわ」
ユリは山本にそう呟くと、ひろに向かって歩き出す。
すると再び瘴気に阻まれそうになるが、自分の周りに結界をはって、嵐の中を突き進む。
嵐の中心では、ひろがブツブツと頭を抱えている。
「俺は、俺は、俺は」
そんなひろをユリは優しく抱きしめる。
「ひろさん、戻ってきてください」
「ユ…リ…」
瘴気が、ユリに反応して少し弱まる。
「はい、ユリです」
「ユリ…」
ひろは正気に戻ったかのように反芻するが、再び瘴気が溢れ出す。
「ああ…まひろ…まひろ…!」
ひろの心が再び憎悪に満ち溢れていく。
ユリはそんなひろの頬をパチンと叩く。
「しっかりしてください!」
そしてひろの唇と自分の唇を重ねる。
ひろは驚きに目を見開き、再び瘴気が薄れる。
「いつもの優しいひろさんに戻ってください」
そう言いながら再びひろを抱きしめるユリに、山本が声をかける。
「よくやったよユリ、あとは任せるんだ」
その言葉と共に山本から魔力が溢れ出したかと思うと、ひろとユリを優しく包み込む。
その暖かな魔力はとても心地よく、ひろはとてつもない眠気に襲われる。
「あ…う…ま…ひろ」
そして世界が暗転するのであった。




