魔法少女とはじめての…。
ヌレーメンとの戦闘後、山本の記憶操作やらなんやらが終わった百合園は、スプリンクラーの破損とかそんな感じの事件という事で終わりを迎えた。
グラウンドなのにスプリンクラー?と思ったが、誰も気にしている様子はなかった。
山本の記憶操作は思ったよりもヤバいのかもしれない。
ちなみにアニマを倒したので変身は解けている。
部外者という形で聞いた限りの情報だ。
とまぁそういう訳で無事帰還した俺は、現在田中のアパートにお邪魔していた。
「という訳で、無事ユリをスカウトする事に成功しました」
はい拍手〜、と、田中&山本と共にパチパチ。
「お疲れ様だったね、ひろ」
「お疲れ様でござるよ〜、ひろ氏〜」
2人から労いの言葉を貰った俺。
今回は本当に頑張った。
「いやー、これで元の高校に戻れるよ」
俺がホッと息を吐きながらそう言うと、山本は頭の上にクエスチョンを浮かべる。
「何を言ってるんだい?アニマと戦うにあたって、ゆりと常に行動を共にするぐらいの気構えでいないと」
「え?でも後から合流すれば良いし、最悪ユリだけで倒してくれるんじゃあ…」
「ゆりはヒーラーだよ?1人じゃ戦えないよ」
そうだった!あの子戦闘能力ないわ!
「でもでも俺が百合園に通い続ける必要は…」
「キミはゆりと連絡先を交換したのかい?」
「うっ…」
尚も最悪の事態を避けようとする俺の肩に、田中がポンっと手を置く。
「諦めるでござるよ、ひろ氏」
「い、嫌だぁ!」
俺が年甲斐もなく床でだだをこねていると、田中がちょっと引き気味に俺を見下ろす。
「そういうのはひろたんの状態でやって欲しいでござる」
田中の癖に生意気だなぁ!
なんかもう色々疲れた俺は、ため息を吐きながら机の前に座る。
すると田中がズズいっと俺に顔を近づけてくる。
「ところでひろ氏〜お願いがあるでござる〜」
「…なんだよ」
俺は田中の顔を引き離す。
「拙者に新しい魔法少女たんを紹介して欲しいでござる〜」
「絶対ダメ」
「なんででござるか!?」
なんでも何もないだろ。
ユリに田中を近づけたくない、色んな意味で。
俺がそんな事を考えていると、田中がハッとしたように息を飲む。
「ちょっとひろ氏〜そういう事でござるか?安心してくだされ、拙者はひろたん一筋でござる〜」
こいつ本当にぶち殺してやろうか。
・・・
ところ変わって翌日の百合園にて。
「どどどどうしよう」
俺は教室の椅子の上で頭を抱える。
昨日山本と色々話した結果、俺は本日重大ミッションを与えられたのだ。
それは…。
「女子と連絡先の交換とかどうすれば良いんだ!」
そう、魔法少女としての情報交換やら色々な事の為、ユリと連絡先の交換を言い渡されたのだ。
なんでも山本の頭に話しかけるあれは、担当の魔法少女にしか出来ないらしく、ユリと直接話す事は出来ないとの事。
魔力のパスがなんたらこうたらと言っていたが、俺にはわからなかったから話半分だ。
という訳で現在俺はスマホを両手で抱えながらオロオロしている。
だって今まで女子と連絡先の交換した事ないんだもん!
きっとあれだ、俺が連絡先教えてとか言ったら。
「え、ひろさんとLINEの交換…ひきますわ…」
とか言われるに決まってる!
そんな事を考えながらうわーっと机に突っ伏していると、ひなたが面白そうに俺に近づいてくる。
「ひろちゃんどうしたのー?」
「あ、ひなた…」
俺がどうしたものかとスマホをチラチラしていると、ひなたは「あ、そうだ!」と、自分のスマホを取り出す。
「ひろちゃんLINE交換しよ!」
そう言いながら満面の笑み。
この子は天使かな?
「ひなた…お前は本当に良いやつだな!」
俺はひなたの頭をわしゃわしゃしながらお礼を言う。
目的の相手ではないが、女子の連絡先が俺のスマホに初めて入った瞬間だった。
でもこれで少しハードルが下がったぞ。
俺はその後ひなたと他愛もない話をしながら授業まで時間を潰すと、放課後に魔法少女部に足を進める。
そして部室の扉の前をウロウロ。
「よし、あと30秒たったら中に入ろう…」
深呼吸をスーハー。
「よし、あと1分したら…」
手に人の文字を書きながらウロウロ。
「あともう1分たったら…!」
「ひろさん、どうされたんですの?」
そんな事をしていたら、部室の中のユリにバレてしまった。
「あ!やぁ!ユリ!今日は天気がよいね!」
「そ、そうですわね」
ユリはどうされたのでしょう、といった顔で俺の顔を見ると、とりあえず部室の中に案内してくれる。
そして前に来た時に座ったソファに座った俺に、クッキーを出してくれる。
「どうぞ」
「あ、ども」
俺はクッキーをもしゃもしゃ。
喉の乾きは最高潮に達していた。
『い、言うんだ!LINEの交換しよって言うんだ!』
そんな事を念じながらユリを見ていると、ユリがキラキラした目を向けてくる。
「それでひろさん!魔法少女について色々教えて欲しいのですけど!」
「あ、ふぁい」
結局言い出せないままユリに持ちうる限りの情報を伝える。
「なるほど、街で悪さするアニマさんですわね…」
ユリは難しい顔をしながらクッキーをサクっと食べる。
「ああ、そいつらと戦うのが当面の俺達の目的かな、最近ではアムニスフィアとかいう秘密結社も出てきてるな」
「先日のつむじかぜというお方ですわね」
ユリの言葉に強く頷く。
「あいつとは1度戦ったけど、今の俺じゃあ歯が立たなかったよ」
「そうなんですのね」
悔しいがあいつは相当強い。
たった1発で俺を沈めたうえに、姿を消す術ももっている。
正直言って勝ち筋が見えない。
俺の真剣な表情に、ユリはゴクリと唾を飲む。
「そ、そこでなんだけどさ…ユリには俺と一緒に戦って欲しいんだけど…」
ここぞとばかりにスマホを取り出す。
そんな俺の様子にユリはハッと息を飲む。
そんなユリを見ながら俺は目を瞑ると、思いっきりスマホを掲げながら頭を下げる。
「お、俺とLINEを交換してください…」
言ったー!
俺言ったよ!頑張ったよ!
勇気を出した自分を褒めながら、チラリとユリを見る。
するとユリは少し困ったような表情を浮かべている。
「あっ…やっぱ嫌だよね…ごめん」
俺はやっちまったー!と、心の中でorzしながら叫ぶ。
そんな俺の様子を見て、ユリは慌て出す。
「ち、違うんですの!」
そしてもじもじしながら口を開く。
「…私…スマホ持ってないんですの」