戦う魔法少女
『山本!アニマはどこだ!?』
『第三校舎の方だよ』
山本からアニマ発生の報を聞いた俺は、着替える時間もなかったので制服のまま校舎の中を駆け抜ける。
「高等部の方か!」
まだ行ったことはないが、場所は把握している。
俺はそのまま窓から飛び降りると、第三校舎に向けて一気に走り抜ける。
刺激が強いから出来れば避けて通りたかったが...。
そんな事を考えながら走っていると、第三校舎の方からキャー!と悲鳴が鳴り響く。
俺はその悲鳴を聞きながらズサーっと地面をスライディング、声高らかに叫ぶ。
「そこまでだ!ってぶはっ!?」
そして眼前の光景に思わず吹き出す。
そこには制服が濡れてすけすけのJK軍団がいた!
「ななな何が!?」
俺は唐突なラッキーに目を白黒させながらも、合唱しながらそのJK軍団に視線を向ける。
よくみるとJK軍団の後ろには、体が半透明な人型の何かが鎮座し...。
「スケスケー!」
変な鳴き声で叫んでいた。
『あれはヌレーメンだね、おそらく人の服をスケスケにしたい願望が強かったんだろうね』
なるほど、ロリコーンみたいな変態型のアニマか!
俺は脳内に響き渡る山本の声にイラッとしながらも、すぐさまヌレーメン目掛けて拳を振り上げる。
するとヌレーメンはパシャっと弾け飛ぶが、すぐに元通りになる。
「こいつ!体が水で出来てやがる!」
俺は元に戻るヌレーメンに驚きながらも、すぐさま思考を切り替える。
だがそんなの関係ない、核さえ潰してしまえば倒せるのだ。
「一気に決めるぜ!」
悪いがこちとらアニマ退治のプロなのだ、この程度の相手に遅れをとることは無い。
俺はすぐさまヌレーメンの核を見つけ出し、むんずと掴む。
「弾けて、砕けろ!」
そしてそのまま核を握りつぶすと、ヌレーメンは形を崩しぼとぼととその場に水溜まりを作る。
『ミッションコンプリート、山本、記憶操作頼む』
『任されたよ』
『しかし今回は弱かったな』
『キミも大分戦いに慣れてきたからね』
俺が水溜まりになったヌレーメンを見ながら山本と話していると、ユリが近づいてくるのが見える。
どうやら心配してついてきてしまったようだ。
「ひろさん!大丈夫ですか!」
「ああ、もう終わったよ」
ニッコリと笑みを浮かべると、ユリが安心したように息を吐く。
と、やばいな、アニマを倒したから変身がとける。
流石にここでといたらヤバい。
ユリは俺の事女の子だと思ってるしな。
男バレするのが怖い俺は、急いでその場を離れようとする。
「ユリ、悪いけど少し席を外し...」
しかしここで違和感に気がつく。
いつもなら変身がとける感覚に襲われるのだが、今日に限ってその兆候が見られない。
『一体何が...』
そんな事を考えていると、どこからかパチパチと拍手の音が聞こえてくる。
「いやーお見事お見事」
「!?」
その声に後ろを振り向くと、いつぞやのアニマがいやらしい笑みを浮かべていた。
「つむじかぜ!?」
まさかここでまたあいつに出会うとは!
俺はすぐに臨戦態勢に入る。
「おやおや、今日はわたくしが相手ではありませんよ?」
つむじかぜがそういいながら何かをヌレーメンの水溜まりに垂らすと、なんと水溜まりがボコボコと泡立ちだす。
「な、なにが...」
その異様な光景に目をまるくしていると、水溜まりがヌレーメンの形を取り戻していく。
「復活した!?」
俺は咄嗟に距離をとろうとする。
しかし復活したヌレーメンが触手のように腕をのばし、俺の足を掴んで吊り上げる。
「このっ!」
俺は触手を拳圧で吹き飛ばし、ベチャッと地面に着地する。
「何度復活したって...!」
再びヌレーメンに接近、先程と同じように核を握りつぶす。
しかし俺に握りつぶされた核は、パシャっと音を立て弾け飛び、再び元の形に戻る。
「なんだと!?」
「スケスケー!」
驚く俺にヌレーメンが拳を振り上げると、水のような拳を俺の顔に叩き込む。
俺はヌレーメンの水圧を至近距離で受け、地面をゴロゴロと転がる。
核まで水のようになってる、こいつ...さっきまでのヌレーメンじゃない!
俺が顔についた水を拭いながらヌレーメンを睨みつけていると、つむじかぜはケラケラと笑い出す。
「さぁヌレーメンよ!あの魔法少女をスケスケにするのです」
その言葉と共にヌレーメンが空中にいくつもの水玉を浮かびあがらせると、弾丸のようにこちらに向けて射出する。
「うわ!?とと!?」
水玉が当たった地面はえぐれ、グラウンドがでこぼこになっていく。
こんなの当たったらスケスケどころじゃないぞ!?
俺はなんとか水玉を避けながらヌレーメンに接近するが、核を潰してもやはり復活してしまう。
「こんなの!どうやって倒せば良いんだ!」
焦りながら回避を続けるが、徐々にまともに立っていられる地面がなくなっていく。
『このままじゃやられる!』
なんとか綺麗な足場に着地した俺にヌレーメンが水をぶっかけようとして...。
「スケ?」
突如飛んできたテニスボールに気を取られる。
見るとそこには投擲したポーズのまま固まるユリの姿。
「ばか!何やってんだ!」
「あ、その」
どうしたものかとオロオロし出すユリ。
そんなユリにヌレーメンは水玉を浮かばせる。
「危ない!」
俺はすかさずユリと水玉の間に割り込む。
しかし水玉の勢いが強く、お腹の辺りから血を吹き出しながらゴロゴロとユリの方に転がっていく。
「おえ...だ、大丈、おえ...」
ものすごい不快感に襲われながらユリを確認する。
「ひ、ひろさん...」
ユリが涙目で俺を抱き抱える。
良かった、無事そうだ。
しかしこのままではまずい、なんとか彼女だけでも逃がさないと...。
そう考えが頭によぎるが、あまりの痛みに思考がまとまらない。
ユリは泣きながら俺に謝り、逃げる様子がない。
そんな俺たちに向けてヌレーメンが水玉を浮かべる。
『やばいやばいやばい』
ヌレーメンは一際大きな声で「スケスケー!」と叫び、俺たち目掛けて水玉を射出する。
俺はついでくる痛みや悲鳴を覚悟して目を瞑り…。
しかしいつまでたっても来ない痛みを不思議に思いながら目を開ける。
「こ、これは!」
目を開けた俺の視界に入ってきたのは、俺達を囲うように現れた光の膜だった。
そして次に視界に入ってきたのは…。
「ユリ!その衣装は!?」
「え…?」
可愛らしい衣装に変身したユリの姿だった。