魔法少女と告白
「ひ、ひ、もう無理ー!」
俺は普通の学校の二、三倍あるグラウンドを走りながら涙を流す。
「なんで、授業で、こんな、走らなきゃ、ならんのだ!」
またもひなたに追い抜かれながら、俺は地面に突っ伏す。
「ひなた...体力ありすぎだろ...」
・・・
「あー、疲れた...」
午後の授業が終わりやっと解放された俺は、満身創痍になりながらも中等部に向かう。
「2年って言ってたから2階だな」
ヨロヨロと階段を登り、2学年の教室の前まで来ると、すぐにユリを見つけることに成功する。
なにやら難しい顔でプリントを見ているが...。
話しかけづらいなーとこそこそ見ていると、ドリルが視界を塞ぐ。
「あらあなたは、また来ましたのね」
「げぇ!ドリルお嬢様!」
「誰がドリルお嬢様ですか!」
俺はドリルお嬢様にわしゃわしゃされながら、その魔の手から逃れるように体をよじり、なんとか逃げ出す。
そんな俺をドリルお嬢様は少し寂しそうに見ている。
「それで?どういったご要件ですの?」
「ああ...ユリ...さんに用があって」
「ユリさまですわね、おまちになって」
ドリルお嬢様はそう言うとユリに向かって歩き出し、プリントと向かい合っていたユリに声をかけてくれる。
するとユリはこちらを振り向き、満面の笑みでこちらに向かってくる。
「ひろさん!きてくださったのですね!」
「まぁね、話したいことあったから」
「話したいことですの?」
ユリはそう言うと首を傾ける。
その仕草は美少女なのもあり、一々可愛く見える。
「うん、ちょっと人に聞かれたくない内容だから、どこか人目につかない場所で話がしたいんだけど」
「人に聞かれたくない内容ですの?...ま、まさか!」
ユリは顔を真っ赤にしながらコクコクと頷く。
「でしたら私の部の部室へいらしてください!」
「え?部室だと人多くない?」
俺がそう言うと、ユリは残念そうに首を横に振る。
「残念ながら私の部には私しかいませんの」
...一体なんの部活なんだ。
俺は少し怖いなぁと思いながらも了承する。
「ではまいりましょう」
そう言いながらユリはカバンをとってくると、嬉しそうに俺と歩き出す。
「ご機嫌だね」
「ええ!憧れの魔法少女さんと話せるんですもの」
「あー、出来れば魔法少女さんはやめて欲しいかな」
「はっ!そうですわよね!隠してますわよね!」
ユリはしまった!と口を抑える。
まぁ人に聞かれたところで、何言ってんだこいつ程度にしか思われないんだろうけど...。
いざとなったら山本に記憶を弄ってもらえば良いし。
そんな事を考えていると、ユリが「それにしても」と首を傾ける。
「同じ学校でしたのね、私全校生徒の顔は覚えてるつもりでしたのに」
「ああ、今日転入してきたばかりだからね」
俺がそう言うと、ユリは「そうでしたのね!」と、合点がいったように頷く。
「しかし全校生徒の顔を覚えてるってすごいな」
「一応生徒会役員も兼任してますので」
ユリはそう言うと照れ照れ。
生徒会やばいな。
そんな他愛もない会話をしながら歩いていると、ユリが1つの教室の前で立ち止まり、中へ通してくれる。
「ここですわ!」
俺は1人の部にしては豪勢な部室に目がクラクラ。
え?この学校は一人一人にこんな良い部室貸し与えてんの?
そんな事を考えながら出された紅茶をコクコク。
「ちなみに何部なの?」
「魔法少女部ですわ!」
「へぇ...ふーん」
なんとなくなぜ1人なのかわかった気がする。
しかしそんな部によく部室貸し与えたな百合園。
出されたクッキーをパクリ。
「で、本題なんだけど」
「は、はい!」
俺はクッキーをもしゃもしゃしながら話を切り出す。
どうでも良いが、なぜユリは顔を真っ赤にしてツインテールをいじってるんだ?
「実はユリには魔法少女の素質があるらしいんだ」
そう言うと、ユリは目を丸くする。
「魔法少女の素質...ですか?」
「そうそう、だから魔法少女になって俺と一緒に戦ってくれないかな」
俺のそんな言葉に、ユリは黙り込むと体を震わせる。
まぁ急に言われても困るよな、相手はお嬢様オブお嬢様だし、戦えと言われても困るだろう。
1人でうんうん頷いていると、ユリが目をキラキラさせながら俺の手をとる。
「ぜひ!ぜひやらせてください!」
「あ、はい」
まぁお嬢様って言っても魔法少女部の人だしな、食いつかないわけがなかったわ。
「そ、それで!どうやったら変身できますの!?」
ユリはいてもたってもいられないといったように、俺に顔を近づける。
「ええと...気合いで...」
「気合いですの!?」
ごめんて、でも俺も山本からそう教わってるんだよ。
ユリはそんな俺の言葉に少し悩むように考えると、ソファから立ち上がる。
「テクマク〇ヤコンピンプル〇ンプルピーリ〇ピリララ、ムー〇プリズム〇ワー」
そう言いながら決めポーズ。
はい、可愛い。
俺がニコニコと拍手をすると、ユリは悲しそうに肩を落とす。
「だめですわ...」
「まぁ俺もどうやったら変身できるかイマイチわかってないし、そのうち変身できるんじゃないかな」
俺はなんて言えば良いがわからなかったので、適当にそれっぽい事を言っておく。
なんか山本に似てきたな俺。
『ボクの事をリスペクトしてくれるのは嬉しいけど、アニマの気配だよ』
『アニマだって?というか勝手に人の思考を読むんじゃないよ』
俺は脳内に響き渡る声に文句を1つ。
ユリと向かい合う。
「ごめんユリ、アニマが出たみたいだから行ってくる」
「アニマ….ですの?」
ああそうか、ユリにはそこから説明しないとダメなのか。
「とりあえず魔法少女が戦う悪の怪人とでも思っといて!それじゃ!」
「あ!私も...!」
ユリが何か言いかけたが、俺はそれを無視して廊下に飛び出す。
さて、今日はどんなやつが相手だ!