魔法少女、潜入する
「今日は転校生を紹介します」
「ひ、ひろです、よろしくお願いします...」
ハロー元クラスメイトの皆さん、本日俺はついに百合園へ 学園へ編入する事になりました。
「まさかまた小学校に通う事になるとはな...」
しかもお嬢様学校、人生何があるかわからん。
俺はもう普通の男子高校生には戻れないかもしれない。
何か大事な物を失ったような目で虚空を見つめていると、クラスメイト達がわらわら集まってくる。
「ひろちゃんよろしくね!私ひなたって言います!」
「あ、ひろです、よろしくお願いします」
少しくせっ毛で、お胸に装甲があるひなたは、少し猫っぽい目を細める。
「ひろちゃん可愛いねー!」
「あ、ども」
やめてくれ、小学生とはいえ女子にそう言われるとなんかむず痒いものを感じる。
「ひろちゃんはどこから来たの?」
「あ、はい、あおはる小学校から来ました...」
「あおはる小学校!確か共学だったよね!」
咄嗟に昔通っていた小学校の名前を出したが、もう少しキャラ設定をしっかりしといた方が良かったかもわからん。
溜息をつきながらも、クラスメイトやひなたの怒涛の質問ラッシュを終えた俺は、朝昼の授業を終え、例の女の子を探し始める。
「探すとしてもどこから探すか...」
百合園は小中高一貫、校舎もばらばらなので、探すのがちょっと大変そうだ。
あの子は見た目中学生あたりだったし、中等部から探していくか。
ちなみに俺は見た目の都合で初等部だ。
山本の力でその辺は高等部でもなんとかなるらしいが、色々刺激が強いのでやめておいた。
見た目女子だが、心は男のままなんだよ俺は。
なんか良い匂いするし、思春期男子には辛い。
「見つかったらさっさと山本に記憶をいじってもらってあおはる高校に戻るぞ...」
俺はなんとなくこっそりしながら中等部を探索するが、例の子は見つからない。
「おかしいな、すぐ見つかると思ったんだが」
そんな事を考えながら教室を回っていると、ドリルが立派なお嬢様にぶつかる。
「あら可愛い子」
「あ、ども」
引き続き探索をしようとしていた俺は、ドリルお嬢様にもみくちゃにされながら初等部に移動する。
中等部だと思ったんだけどなぁ...。
「まさかあの背丈で高等部だったり...?」
あれだろうか、ロリとかいうやつだろうか。
田中のやつが喜びそうだな。
俺は初等部に移動し、探索を再開する。
「あ!ひろちゃん、どうしたの?」
「あ、いや、人を探してて...」
途中すれ違ったひなたに外見を伝えるが、イマイチピンと来ないようだ。
「私記憶力には自信あるんだけどなー」
ひなたはそう言いながら少ししょぼんとしてしまった。
「大丈夫!ありがと!」
俺はなんとも言えない罪悪感を感じそそくさとその場を立ち去る。
小学生にあんな表情させるとか、なんか辛い。
しかし...。
『これは本当に高等部か?』
俺がそんな事を考えていると、予鈴のチャイムが鳴る。
「もうこんな時間か」
まぁ初等部と中等部は別校舎だし、結構時間かかったしな。
けど昼休みの間に見つかると思ったんだがな...。
「って次の時間は体育か、探索は明日だな...」
って待てよ?体育?着替えどうすんの?
いくら俺がロリコンじゃないといっても、女子と着替えるなんて出来ないぞ!?
田中あたりなら、「キター!」とか言って喜びそうだが...。
俺はこそこそと階段下の謎スペースまで移動すると、そこで着替える事にした。
校舎はとても豪華な造りだが、謎スペースはやはりどの学校にもあるらしい。
謎スペースに来る前にひなたに捕まったが、なんとか逃げきれた。
またしょぼんとさせてしまったが、ここは譲れない。
しかしここはやはり心臓に悪い、トイレも周りにいると気を使うから、誰も入ってない時見計らってるし...。
そもそも女子と会話なんて滅多にしないし...。
こんな事なら普段からもうちょっと免疫つけとくんだった。
まぁそれでもお嬢様との会話なんて出来ないだろうけと。
「って、やばい、こんな所まで着替えに来たから時間が」
体操着に着替えた俺は時間を確認してビックリ、そのままグラウンドに向かうため全力で走る。
「いっけなーい、遅刻遅刻〜」
そんな事を呟きながら廊下を走っていると、グラウンドに出た所で誰かにぶつかってしまった。
「あいたた...ごめんなさい」
「こちらこそごめんなさい...あまり前を見てなくて...あら?」
そう言って女生徒が俺に手を差し伸べてくれる。
その顔はどこかで見た事があり、特徴的な金髪のツインテールだった。
「あ!やっと見つけた!」
「もしかして、魔法少女さん?」
俺がそう言いながら女の子の手をとると、女の子は少し驚きながら笑みを浮かべる。
「非常に遺憾だが、魔法少女のひろです」
「中等部2年のユリです、よろしくお願いします」
「よろしくな、ユリさん」
「ユリで大丈夫ですわ、ひろさん」
ユリはそう言うと、目を輝かせる。
「まさかこんな所でお会いできるなんて!」
運命ですわ〜、と口走るユリさんを尻目に、俺は当初の目的を達成する事にする。
「実はユリに言わなくちゃいけない事があっ...あれ?」
しかし俺は続く言葉を言えずに、誰かに首元を掴まれていた。
後ろを見ると、担任の先生が怖い笑顔で俺を見下ろしていた。
「ひろさん、体育の授業におくれますよ」
「は、はいぃぃぃ」
俺はなんとも言えない圧を感じ、大人しく引っ張られる。
「ゆ、ユリ!また後で話しましょう!」
「ええ、お待ちしておりますわ」
ユリはそう言いながら微笑み、ぺこりと頭を下げ行ってしまった。
さっさと話して楽になりたかったが、今は先生が怖いしやめとこう、学年もわかったから後で良いしね。
しかしやっぱり中等部だったか、さっきは運が悪かったな。
そう思いながら先生にずるずる引っ張られていた俺は、ふと先生にたずねる。
「ところで今日の体育の授業はなんですか?」
「持久走ですよ」
先生がにっこりと教えてくれる。
げー!嫌いなやつ!