魔法少女、提案される
「うう...ひろたんに会いたいでござる...」
「あきらめろ、そんな事より今日は相談があってきたんだ」
俺はなおも泣き止まない田中にドン引きしながらも、先程あった出来事を田中に話す事にした。
「実はさっきのアニマ戦の後女の子に話しかけられてさ、どうもその子に魔法少女の素質があるらしいんだ」
「ほほう、魔法少女の素質でござるか」
お、泣き止んだ。
どうやら気をそらせたようだ。
「それでその子を魔法少女にスカウトする事になったんだけど、何か良い案ないかな?」
「普通に話しかけるんじゃダメなのでござるか?」
「いや、その子が百合園の生徒だって事以外情報がないんだ、百合園の前で待ち伏せるって手もあるけど、絶対捕まるし」
田中は「なるほどでござる」と言うと少し考え、良い事を思いついたといったように手を叩く。
「はいはいはーい!それなら潜入ミッションを提案するにござる〜」
「潜入...?」
田中はデュフフと言いながらタンスを漁ると、百合園の制服を取り出してくる。
「こんなこともあろうかと、ひろたん用に揃えてあるでござるよ〜」
「うわ、気持ち悪」
「ひどいでござるよ〜、ひろ氏」
いや、だって気持ち悪いもん。
男友達が俺用に女子の制服を準備していたとか、俺の心境も考えて欲しい。
「しかもなんでピンポイントに百合園の制服なんだよ」
「ひろたんに似合う制服といえばこれだと思ったのでござる」
恥ずかしそうにもじもじする田中。
まぁいまさらそんな事言っても仕方ないか、田中だもんな。
俺は田中の奇行をもはや咎める気にもならなかった。
「で?潜入ってのはどゆこと?」
「それはもちろん...ひろたんに変身して百合園に編入するでござる!」
こいつは何を言ってるんだ?
「俺が百合園に?女学院だぞ、あそこ」
「ひろたんは女の子だから問題ないでござる」
「いや、中身男だからな?お前俺を変身させたいだけじゃないか?」
「そんな事言って、拙者に相談してくるってことは、そういうことでござろう?」
田中はデュフフと笑うと、期待するような視線を向けてくる。
「どういう事だよ、それに百合園に行ってる間、俺の高校ライフはどうなるんだよ」
「それは山本氏がなんとかしてくれるでござるよ、なんたって魔法少女のマスコットでござるし」
「いやいや、流石にそんな事は...」
「できるよ」
ってできるんかーい!
「え?はぁ!?人の記憶とかいじれんの!?」
「魔法少女のマスコット的存在だからね」
山本は頭をとんとんっと叩きながら、お菓子を食べる。
「怖いわ!というかそんな事出来るなら何で今までしなかったんだよ!」
「言われなかったからね」
こいつ!ほんとこいつ!
「まぁそういう訳だから、ひろの高校の事も百合園の学校の事もボクに任せてくれて良いよ」
「さすが山本氏でござるな、さぁひろ氏!大人しくひろたんに変身して制服に着替えるでござる!」
「やだよ!お前単に自分が見たいだけだろ!」
「その通りにござるよ!」
田中が机をバンバンと叩く。
こいつ!開き直りやがった!!
「サイズが合わなかったら大変でござるよ!さぁはやく!」
「う、うぅぅ、でもアニマが出なかったらどうすんだよ」
「その時はひろ氏の母上の記憶をいじるでござる」
こいつ人の母親だと思って...。
田中は、「はーやーくー」と言うと鼻息荒く俺を見つめる。
「し、仕方ないな...山本、頼んで良いか?」
「もちろんだよ」
その言葉を聞き、俺は静かに目をつぶる。
すると心の中が暖かくなってくる。
そして自分の姿を確認しようとして...。
「ひろたんキター!」
田中の声ですでに変身している事に気がつく。
俺はこれで満足かよと田中を見ると、田中は何故か少し悲しそうな顔をしている。
「ひろたんは変身パンクがないのでござるな...」
「変身パンクってなんだよ」
田中が何を言っているかわからんが、そういえば田中の目の前で変身した事なかったな。
俺がそんな事を考えていると、田中は「まぁ良いでござる」と、百合園の制服を手渡してくる。
「ささ、これに着替えるでござるよ、ひろたん」
「はいはい...あとひろたんやめろ」
俺は制服を受け取ると、お決まりの脱衣所に向かう。
そして制服に着替えると鏡を見ながら一言。
「へぇ、やっぱ可愛いな」
「そうだね」
いつの間にか俺の背後に浮いていた山本に驚く。
「うわ!?いつからいたんだ!?」
「最初からいたよ」
てことはさっきの独り言聞かれたのか...。
俺は顔を真っ赤にしながら山本を睨む。
「まぁ良いんじゃないかな、事実なんだし」
山本はそう言うと脱衣所の壁をすり抜けて田中の元に向かう。
それに続いて俺も脱衣所から出ると、唐突にフラッシュがたかれ、目がくらむ。
何事かと思って目をこすりながらよく見ると、田中がカメラを構えて立っていた。
「お前...!なんだよそれ!」
「ひろたんの姿をいつでも残せるように、こっそり買っといたのでござるよ〜」
田中はもう何回かパシャパシャと音を鳴らすと、興奮したように鼻息荒く俺に詰め寄る。
「やっぱり似合ってるでござる!可愛いでござる〜!」
「そ、そうか?」
俺は三つ編みをいじいじ。
まぁ可愛いって言われるのは悪くないな。
そんな俺に田中は近づくと、俺のタイを直してくる。
「ひろたん、タイが曲がっていてよ」
「お、おう、ありがとな」
「ひろたんには伝わらないでござるか」
俺が素直に例を言うと、田中は少し不満そうに呟く。
「そういえばひろたんは確か妹属性があったでござるな」
「…あるけどなんだよ」
「折角だから、誰かとスールにでもなって、おねぇ様と言われるでござるよ」
こいつはさっきから何言ってんだ?
ええと、確かスールは姉妹って意味だっけ。
「いや、俺お兄ちゃんって言われたい派だから」
「デュフフ、その内おねぇ様も良くなるでござるよ」
そんな不吉な事を言う田中は、「まぁ良いでござる」と言うと、いそいそと外出の準備を始める。
「どっか行くの?」
「何言ってるでござるか、百合園に行くのでござるよ」
「今から!?」