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079

 ――闘神祭。


 高天原学園が始まった当初から開催され続けてきた学園祭。

 趣旨は『己が積み上げたものを示す』こと。

 家族や友達を呼び、学園での学びを見せることが主題となる。

 その意味では一般の高校が行う文化祭と同じだ。

 学生や関係者による出店が立ち並ぶ、いわゆるお祭であることは間違いない。


 だが高天原学園といえば戦闘力偏重の価値観。

 期間中、それをわかりやすく示すための武闘大会が開催される。

 その頂で戴天する者は学園での栄誉を欲しいままにする。


 で。

 この武闘大会はパートナーとの参加が必須とされる。

 つまりペアで闘うトーナメント戦だ。

 エントリー制で3つの部にわかれる。

 ひとつはスサノオの部。

 学園内でのトップを争うもの。

 1年生はこの部門への参加のみ許されている。



「武さん、結局、誰とも組んでいないのですか?」


「やらねぇって言ったじゃん!」


「歓迎会の件もある。アレクサンドラが黙っていないように思うが」


「エントリーしてねぇからな、今更、どうにもできねぇだろ」



 午後にその予選が行われる土曜日。

 生徒会所属とされた、ジャンヌとリアム君を除く5人が招集された。

 生徒会による警備や誘導等の人手に駆り出されたのだ。

 でも1年生の負担は軽く、午前中で終了とのことだった。



「お前らは予選を頑張ってくれ。何かアドバイスできそうだったらするからよ」


「武様の活躍するお姿を拝見したかったですわ」


「ははは、俺は死にたくねぇ。この間ので改めて実感したからな」


「残念だよ。武の実力ならパートナー次第で良い線いけると思うのに」



 そう。

 当然ながらさくらもレオンもソフィア嬢も結弦も、俺に参加を促した。

 エントリーが締め切ってトーナメント表が完成しているであろう今日に至ってもだ。

 あんだけお前らの前で死にかけてんだろうに・・・そんなに俺を殺したいのか。

 とにかく舞台の上には立たないという決心を固くしていた。



「よし時間だ、行こう。終わったら11時半に食堂集合で良いのな?」


「はい。ジャンヌさんもリアムさんもそこで合流の予定です」


「・・・そういえば、さくら。香もそこに来るってよ」


「橘先輩が! ふふ、皆さんを紹介しないと、ですね」



 生徒会の詰め所から皆が出立していく。

 俺たちもばらばらの行き先に向かって行った。


 ま、半日くらいのお勤めなら大したこともないだろう。



 ◇



 ――と思っていた自分を引っ叩いてやりたい。



「キャベツが足りない!」


「ああもう、俺が切るから玉で10個持って来い!」


「今、15人待ち!」


「列を整えろ! ロープを使って誘導すんだ! 待ち時間の目安も伝えんだぞ!」


「そろそろあがるよ~、5食分」


「もっと焼けよお前! その大きさなら10人前一気に焼けるって教えただろ!」


「あの、この豚肉はどうすれば・・・」


「そこに補充して! あとネギとモヤシも補充しといて!」



 ここはフードコートの一角にある焼きそば屋台『エクスグランド』。

 生徒会が毎年出しているブースだ。

 リアルでも祭りの出店にある屋台焼きそば屋。

 何の変哲もない屋台だ。

 それに対してこのネーミング。

 おかしいと思うのは俺だけのようで誰も突っ込まない。


 俺は数名の生徒会メンバーと共に、ここに配属されていた。

 誰だよ俺が料理できるってリークしたやつ。



「武、なんでそんなに手際が良いの!?」



 キャベツを乱切りにしていると2年生の女子に感心される。

 かつてリアルの学祭でこうした店を運営した経験が生きている。

 それに社会人経験から何をどうすりゃいいか見当もつく。

 久々の大人知識・経験無双・・・って、こんなんで役立っても嬉しくねえ!


 つーか、こんなん、この時代の自動調理機マンセーな奴らにやらせちゃいかんだろ。

 未経験で現物(屋台)を見たことがない。

 だから、どいつもこいつも手際なんてわかっちゃいない。

 マニュアル渡して「頑張ってね」って、未経験者を配属しちゃいかん。

 それで出来ないのは中学の林間学校で嫌というほど見た。


 配属を聞いて嫌な予感がしたから、先輩そっちのけで出張ってみればこの有様。

 他の店も手際が悪そうで、このエクスグランドだけがフル回転で提供していた。



「美味しい! やっぱり目の前で焼いてると格別!」


「おかーさん、あれ、おいしそう!」



 そんなエクスグランドを評価する声がフードコート内からちらほら聞こえる。

 うん、現物での焼き物は匂いが唆るからな!

 頑張ってる意義を少しは感じられたよ!


 キャベツを刻んだ俺は金属ヘラを両手に鉄板の上を混ぜていた。

 外国人から年配者から子連れから、様々なお客さんがやって来る。

 他の屋台は鯛焼きとかたこ焼きとか焼きもろこしとか、動きが地味なやつが多い。

 ダイナミックに音を出しかき混ぜる焼きそばが目立っていた。

 しかも他は提供が遅いので必然的にこの屋台に集中している。



「待ち、30人だよ!」


「ちょ・・・今できたこの10人分にマヨと青のりかけて提供して! 次、15人分やるから! 材料!」


「はい!」



 もはや戦場だった。

 自然と俺がリーダーとなり他のメンバーに指示を出す。

 いくら焼いてもお客さんが途切れない。むしろ列が長くなる。

 どうすんだよこれ。材料、足りんの?


 ずっと鉄板の前に立っていて熱に晒されていれば汗も滴り落ちる。

 首から下げた手ぬぐいで拭いて、また鉄板に向かった。



「そこの格好良いおにーさん! 15食お願いしたいんだけど」


「褒めたって待ち時間は変わらねえぞ! 20分待ち・・・って!?」



 焼きそばの玉をがばっと鉄板に放り込んだところで。

 鉄板越しに話しかけられた聞き覚えのある声。

 顔を上げるとその特徴的なポニーテールが目に入った。



「香!?」


「やっ! 武、頑張ってるね!」


「ちょ、えっ!? あれ、食堂でって・・・」



 見れば緑峰高校の制服姿。

 私服で会ってばかりだからなんか新鮮。一瞬、目を奪われてしまった。

 コスプレ!? と思ってしまうあたり、未だ思考は四十台。


 ・・・向こうは俺を見てどう思うのか。

 頭はタオルを巻いて、エプロンに手拭いを首にひっかけた姿の俺に。

 いやこれ、完全に屋台のおっさんルックじゃん!

 「格好良い」って暗にからかわれてる?



「え~、もう12時だよ? お腹すいたから買いに来たの!」


「は!? げ、俺もう上がりの時間、過ぎてんじゃん!」



 焼きそばを混ぜながらちらっと時計を見る。

 うん、12時5分だって。

 なんで俺、30分もオーバーしてお勤めしてんだよ!

 まさに忙殺!


 ちらっと他のメンバーを見る。

 整列してる人、材料を刻んでる人、補充で駆け回ってる人、会計と商品渡ししてる人。

 ・・・うん。フル回転。

 皆、手際が良くはなってきたけど疲労も見える。

 これで俺が抜けたら間違いなく崩壊する。

 つか、崩壊は時間の問題なんじゃね?



「ごめん! 今は抜けられねぇ!」


「あっはっは! 大繁盛だもんねぇ。こんな美味しそうに焼くの、初めて見たよ」


「褒めたってどうにもならんって!」


「仕方がないなぁ。助っ人を連れてくるよ」


「あ!? 助っ人!?」



 そう言って香はどこかへ走っていった。

 ・・・と、とにかく!

 今は目の前のお客を捌かないと!



 ◇



「50人超えて、ロープはみ出ちゃった!」


「またキャベツ足りない! 切るのが追いつかない!」


「ああ、マヨネーズ切れた!」


「自分でどうにかしろよお前ら!」



 思わず叫ぶ俺。

 いやね、君たちは頑張ってくれてるんだよ。

 未経験にも関わらず、休憩なく3時間以上フル回転してんだ。

 でも俺に指示を仰ぐ体制を改めないと回転率が上がらないわけで。



「もうだめ、疲れたよ~」


「わたしも・・・」


「おい、こんだけ待ってる人がいるんだぞ!?」



 弱音、というか限界が来ている。

 彼らももう限界だ、こりゃもう店仕舞するしかない。

 そもそも3時間半でこんだけ捌いたんだ、褒めてくれよ。



「キャベツ切り、私がやります!」


「ほんと!? ありがとう!」



 え? 交代要員?

 焼きそばをひっくり返したところで目をやると・・・。



「は!? 小鳥遊さん!?」


「先輩! 助っ人です! キャベツ、いきますよー!」



 桜坂中学の制服姿にエプロンをつけた小鳥遊さんがそこにいた。

 どうして彼女が!?

 唖然としていると反対側でも声がした。



「あ~、お客の整列ね~。だりぃーけどやっとくよ~」


「ああ、助かるよ! ロープをもう少し伸ばせば良いから!」



 聞き覚えのある声!

 同じく桜坂中学の制服の、褐色肌のコギャル風ルック。



「え!? 工藤さん!?」


「むっつり先輩~。待ちくたびれて来ちゃったぜ~」



 待たせてた!?

 そういえば卒業時に遊びに行くって言ってあった気がするけど!

 そんなん、社交辞令じゃねぇのかよ!



「何、調味料足りないの? 私が買ってくるよ、どれ?」


「あ、ありがとう! マヨネーズと、青のりと・・・」



 そしてまた反対側で別人の声。

 てきぱきとした事務員のような声色が印象的。



「はえ!? 花栗さんも!?」


「武さん、相変わらず助けの求め方が下手ね。こっちは任せて」



 おおう、緑峰高校の制服だよ!

 半年で見違えるように大人っぽくなってんな。

 すっかり暗い雰囲気も無くなって、艶のある笑顔してんぞ。

 


「俺は補充しとけば良いんだな?」


「助かるよ! 在庫はあそこにあるから、適宜、持ってきてくれれば」


「・・・は? え? 御子柴まで!」


「よう武! 相変わらず良い男してんな! 若菜だけ来るわけないだろ!」



 さらさら栗毛色の金髪は健在の御子柴君。

 同じく緑峰高校の制服姿だった。

 そして俺に向ける輝くような笑顔に朱がさしている。

 ・・・見なかったことにしよう!



「私が渡す係をやるよ~。青のりとマヨネーズでパックすれば良いんだよね~」


「ああ、ありがとう・・・もう限界だったの」


「ふふふ、マヨネーズ・・・白い粘り気・・・」


「なんでいきなり怪しい発言してんだよ! 先輩!」



 こっちはまさかの飯塚先輩!!

 やべぇ、ちょっと懐かしさでウルってきそう。

 残念な雰囲気が変わってねぇとこに!


 つーか連絡もしてねぇのにどうやって来たんだよ!?

 これ全部、香の仕業なのか!?



「ん、会計と割り箸は私。割り箸も補充が必要ね」


「は!? 聖女様までなんで来てんだよ! あんたはお客側だろ!」



 いつもの真っ白シスター法衣のまま、相変わらず無表情な聖女様。

 つかあんたが会計やるとお客さん怖くねぇの!?

 ・・・あ、お客さんが拝んでる!

 『白の女神様だ!』『あの人が!?』と。

 OB、OGらしき人たちが囁いていた。

 あんたが崇拝対象なんかい!


 というか、なんだよこの混成部隊!



「お前ら生徒会どころか学園の生徒でもねぇだろ!? なんで手伝いに来たんだよ!」


「「「え?」」」



 あまりの展開に突っ込んでしまうと、6人とも一瞬、俺のほうを見た。

 そしてにこりと笑って作業を再開した。



「なんでって、先輩に会いに来たんですよ!」


「むっつり先輩、ど~んか~ん」


「お前、友達以上(・・)が助っ人に来たってのに冷たい奴だな!」


「あれだけ仲睦まじく過ごしたのに、ねぇ?」


「・・・!!」



 え、ちょ・・・。

 や、やばい。

 なんでこんなんでじんと来てるんだよ、俺!



「あれ~? 京極君、このマヨネーズ、出が悪いよ~」


「ひっくり返して振れば良いだろ! だからなんであんたはそんなに残念なんだよ!!」



 感動がすっとんじまったじゃねえか!



「武さん。恵、悪気はないから許してあげて」


「え? 恵?」


「あれ? 知らなかった? 私の妹よ」


「は!?」



 驚愕の事実、発覚。

 聖女様の妹が先輩だった!!


 ・・・いや、確かに苗字、同じじゃん。

 でも普通、名字が同じ=姉妹なんて考えねぇだろ!



「じゃ、皆、元気に終わるまで頑張ろう――祝福(ブレス)


「え!?」



 聖女様が手を広げ、この場にいる全員に祝福(ブレス)を放つ。

 皆、自身の変化に驚きながらも、さらにやる気になって仕事をしていた。

 ・・・なるほどね、こういう使い方もあるんだ。



「戻ってきたぞ~武!! ほら、交代交代! 鉄板は私がやるよ!」


「香! お前か、こいつら呼んだのって!」


「え~? 貴方の人望よ、これ。皆、返事ふたつでOKしたよ」



 言いながら俺からエプロンと金属へらを奪い取る香。

 ポニーテールに三角巾を被せて腕まくりをしていた。

 ぐいぐいと場所を占領され、端に追いやられる俺。



「ちょ、待て! 主催の俺たちが全員抜けたらダメだろ! 俺は残るぞ!」


「駄目だよ武、貴方も休む! これ持って裏で食べてなさい!」


「は!? いや、んな無責任なことできるか!」


「駄目!! そんなだから、いつも倒れたりするんだよ!?」


「ぐっ・・・」



 俺が抵抗すると香が結構な剣幕で俺を睨みつけている。

 ・・・駄目だ、この視線には逆らえねぇ。

 前科がある身、こう言われると弱い。



「・・・ハイ」


「まぁ見てなさい。私、これでも屋台の達人だよ?」


「はは、なんだよ達人って。・・・すまん、休憩中は頼んだ」


「ま~っかせなさい!」



 押し付けられた何かを受け取り、俺はすごすごとテントの裏へ回った。



 ◇



 戦場みたいなお昼の時間はあっという間に過ぎた。

 休憩した生徒会メンバーも復帰して、10人を超える大所帯で屋台を回した。


 俺は香とふたりで鉄板を担当。

 左右で混ぜているのに息が合っている。目を合わせずとも自然にできる。

 それをまるで夫婦のよう、とからかわれたりした。

 香が輝く笑顔で頬を染めていた姿が印象的だった。

 

 助っ人連中は優秀で、どうにも高天原生徒会メンバーが劣っているように感じた。

 人間、成績だけじゃねぇな、と改めて思ってしまうほどに。

 あ、もしかして祝福(ブレス)の効果?


 お客さんも徐々に捌けて、ようやく待ち人数が10人前後になる。

 午後の担当者たちがやって来て、午前メンバーから引き継ぎをして。

 ようやく俺を含めた午前の担当者たちは解放された。



「あ~終わった~! くそっ、なんで午後当番の連中が遅かったんだよ!」



 思い切り愚痴る。

 香との待ち合わせに間に合わないどころか、SS協定の連中とも会えなかった。

 俺に負担が集中したところもなんか許せん。

 助けられて嬉しさ半分でむかむかしていた。



「わ、私! 先輩と一緒にお仕事できて楽しかったです!」


「そ~だよせんぱ~い。皆で何かやんのが楽しいんじゃ~ん」



 小鳥遊さんと工藤さんが俺の顔を覗き込んで来る。

 楽しかったですよねって。



「・・・ああ、そだな。皆でやったのは楽しかった」


「そうだぞ武。お祭りみたいで楽しかっただろ」


「ほんとうに。諒と私だって、貴方と過ごすために来たんだからね」


「ん、悪い・・・ありがとな」



 こうして御子柴君と花栗さんに畳みかけられるのって、桜坂中学を思い出す。

 まだ半年前なんだよな、こうして話してたのって。

 高天原学園があまりに濃いから遠い昔に感じてしまう。



「ほらほら、武! 皆、貴方のために、なんだよ!」


「うん。なんだ、その。・・・香もありがと。先輩も聖女様も」


「どういたしまして、だよ~京極君。元気そうで何より」


「そうだ、聖女様。先輩が聖女様の妹だっての知らなかったんだけど。どうして教えてくれなかったんだ?」


「武さんの修行に恵の情報は不要だったから」


「ええ~、酷いよお姉ちゃん。私、要らない子だったの~!?」


「うん」



 ええと、まぁ、うん。

 とにかく彼らの助力のおかげで俺のお勤めが無事に終わったわけだし。

 香をはじめ、皆に感謝していることは間違いない。


 ・・・。

 それ以上に、こんなに慕って来てくれていることに驚愕だ。

 だって俺、御子柴君や花栗さんはあんだけ拒絶したし、引っ掻き回したし。

 後輩ふたりなんて最後は放置プレイしてた気がするし。

 先輩くらいかな、ずっと良好だったの。

 聖女様に至っては仕方なく面倒を見られてるもんだと思ってたし。



「ん~? 武、どうしてこんな俺に会いに来てくれたのかって顔してるね?」


「なんでわかんの!?」


「ふっふっふ、香さんを舐めてもらっちゃ困るよ。武のことなら全部わかるからね~」



 俺の隣で胸を張って得意げな顔をしている香。

 ・・・いや、うん。もう香には敵わねぇよ。



「あ、なら質問。武さんが感じること教えて」


「ええ~、澪さんてダイタン! えっとねぇ~」


「わああぁぁ!? や、やめろ!」



 何を質問してんの! この変態聖女様!!

 香も答えようとしてんじゃねえ!!



「あ、あの! 先輩!」


「あん?」


「先輩は、その・・・橘先輩が1番なんですよね!?」



 俺を下から見上げながら、小鳥遊さんが聞いてきた。

 ・・・真剣な表情で。



「・・・うん。香は俺の1番だよ」


「うっそ~!? むっつり先輩なのにむっつりしてないんだ~」


「あっはっは! そうだね~、武、ほっといたら独りになろうとするし!」


「そ、その! ・・・2番、は・・・いるんですか?」



 恐る恐る、発言する小鳥遊さん。

 香が1番ってのは認めるって?

 その次は誰だって?



「そんなの俺に決まってるだろ!」


「諒、さくらさんを忘れてない?」


「あ! そうだった! じゃ、俺は3番だ」


「・・・そ~かしらね~」


「え? だって俺たち、2年間一緒だったぜ!?」



 御子柴君と花栗さんのコントを小鳥遊さんはハラハラと見守っていた。

 このふたりは置いておいて。


 ・・・う~ん。小鳥遊さんがこうやって突いてくるのって。

 本気、なんだよな。たぶん。


 ・・・俺だって独りが好きなわけじゃない。

 だけどさ、ラリクエ攻略って観点から親しくできなかったんだよ。

 俺が気を許したのが香だってだけでさ。


 小鳥遊さんや工藤さんだって、出会い方次第ではもっと仲良くなったと思う。

 それこそしがらみもなければ共鳴していたかもしれない。

 そういった可能性を考えると・・・この場の誰が好き、嫌いと言えなくなる。



「今、2番はいない」


「あ、あの! だったら、私が・・・なれるかもしれないってことですよね!」



 その力強い言葉に俺は足を止めた。

 一緒に歩いていたほかの皆も足を止める。

 小鳥遊さんはそのつぶらな瞳で俺の目ををじっと見つめていた。


 ・・・俺の言葉を待っているわけじゃない。

 そのくらいはわかった。

 でもその次に来る言葉まではわからなかった。



「わ、私・・・先輩の、ことが・・・好きなんです」



 ひゅう、と吹いた風にかき消されそうなくらい小さな声。

 でもそれははっきりと、忍び込むように俺の耳に届いたのだった。






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