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『・・・こちらの声は聞こえるか、地球人の諸君』
「誰だあんたは」
『我々も地球人だよ』
「あん?」
映し出されたぴっちりスーツの怪しげな奴。
髪があって顔があって身体がある。
髪は短い金髪で特徴のなさが特徴という感じのパッとしない風貌。
声色でも男とも女とも判別がつかない。
でもこいつが宇宙人かと問われれば、地球生まれの人間だと言える。
こんな人間っぽい奴に「地球人」呼ばわりされたのだから意味が分からない。
「俺たちを地球人って言うなら、あんたらは宇宙から交信でもしてんのか」
『そのとおり。我らは地球へ戻る予定の地球人だ』
「戻る予定?」
『ああ、すまなかったね。代理人が十分な説明をしていなかったようだ』
「代理人って誰だよ・・・って、もしかしてあんたらは古代人か?」
『諸君から見ればそういうことになる。なるほど、守護の盾によりもたらされた情報もあるのだな』
守護の盾、という名を聞いて小鳥遊さんを見る。
彼女と目が合うとふるふると首を横に振った。
意味が分かりません、という意思表示。
今はアイギスが出てきていないらしい。
『先ずは君たちにおめでとうと伝えておく』
「おめでとう、だぁ? こんだけ世界中で人が殺されてて、めでたいわけねぇだろ!!」
『君たち人類は挑戦する権利を獲得したのだ。浄化の片輪であるユグドラシルを停止することによって、我らの計画を拒否する権利を』
「ああ? 権利ぃ?」
『その成就のためにも、現地球人を代表する諸君に包み隠さず我々の知ることを話そう』
そいつはずっと無表情だった。
祝福するという意図の破片も感じられない。
慇懃に一礼をするとこちらが話すのを待っているようだった。
「んじゃさ、俺たち人類が獲得したっていう権利についてもう少し詳しく説明してくれよ」
『端的に言えば、君たち現地球人は母体を停止させ、地球を自分たちのものとする権利を得たのだ』
「・・・俺たち地球人が地球を自分のものとする権利? なんで地球が、地球生まれの俺たちのもんじゃねぇんだよ。どう考えてもおかしいだろ」
『ふむ、古代人という言葉を用いていたことから知っていると思っていたが』
「んな悠長に歴史的経緯まで話してる時間なんてなかったんだよ! どうにかしてこいつを止めたとこだってのに!」
『なるほど、では諸君が知らないことを説明したほうが良さそうだ』
「京極 武、落ち着くといい。この場には事情を知らぬ者もいる。私から順を追って質問をさせてほしい」
キレそうになっていた俺の肩に会長が手を置いて宥めてくれる。
感情的なやり取りでは進展しないと気を遣ってくれたのかもしれない。
そうだよな、この場の全員が情報共有してるわけじゃねえし。
うん、理路整然と纏めてくれる会長に話を任せよう。
俺はこの中でいちばん頭が悪い自信がある。
「貴方がたが古代人だというのは承知した。だが私の知る限り、現人類が築いた文明はホモサピエンスとしての進化から始まったものだ。それ以前の考古学的遺跡などは地球上に存在しない。一体、いつの時代の人類なのだろうか」
『我らはおよそ2億3千万年前にゴンドワナを後にし、超長周期彗星エスペランサーを居として眠りについたかつての地球人だ』
「ゴンドワナ?」
「え! ゴンドワナって、あの超大陸パンゲアから分離した大陸のことですか?」
『そうだ。当時はまだパンゲア大陸より分離する前のゴンドワナ地方が存在していた。我らはゴンドワナ共生体と呼ばれていた文明国家の者だ』
「ふむ。その地球へ戻る意思があるという古代人が、何故、地球を脱することになったのだ」
『我々は地球の魔力を汚してしまったのだよ』
「魔力を汚した?」
「ああ、汚れってあれだ。黒い魔力があっただろ? 闘神祭で魔物が湧き出て来たやつとか、時空結界・・・この部屋の結界を構成してたやつ。あの黒いのが魔力の汚れらしいぜ」
疑問にフォローを入れる。
皆がなるほどと頷いていた。
『そう、君たちの命を脅かすものが魔力の汚れだ。我らは魔力の澱と呼んでいる。澱は人間を喰らい、その魂を喰らう』
「ほう。ならば我々が魔物に襲われているのは貴方がたの仕業と言うのだな」
『そうだ』
その肯定は皆の怒りを買うのに十分だった。
それはそうだろう、かつての大惨事、そして今起こっているその再来はすべて自分たちの仕業だと自白しているのだから。
『だが我々も放置していたわけではない。澱を消滅させる方法を研究した。そしてその方法を発見した』
「発見したのならば自ら清浄化すれば良かったのではないか? 負の遺産を我々に残す意図がわからない」
『そのとおりだ。だから我らは自ら浄化するための手段を打った』
「対策を講じたのならば、どうしてまだ汚れが残っているのか?」
『今現在、その浄化の途中だからだ』
『浄化』という単語。
何度か聞かされたそれは、少なくとも良いイメージがない。
俺たちにとって人を殺すと同義だったからだ。
『澱とは魔法を使用した人間の悪意だ。澱は、その存する悪意と等価な人間の精神を融合することで消滅することが確認された』
「それはまさか、人間を生贄にすることで消滅させることができるという意味か」
『事象だけで言えばそうなる』
その言葉に聖女様とジャンヌがはっとした表情を見せる。
「それは事実よ。魔物が人間を喰らって消えるといった事象が聖典に記録されているわ」
「あたしもメガリスが信者を喰って消滅するのをリアムと見た」
ふたりが肯定したことでレオンが怪訝な表情をした。
「現在、浄化中だと言ったな。それが間に合っていないせいで俺たちが犠牲になっているのか」
『・・・我らは同胞を生贄に捧げる文化はなかった。ゆえに別の手段が必要だった』
「結局、自らが生贄になるのを避けるため宇宙へ避難したというわけだろう」
『そうだ。そして我らは同胞を生贄にしない方法を考案した』
「その手段とは?」
『我らと同様の精神をもつ生物を創造し、彼らを生贄として捧げる方法だ』
「自分たちのクローンを作る? そんなことが可能なのか?」
『いや、我らの技術を以ってしても人間を複製することはできない。肉体を創造することは可能だが精神までは創造できなかった。これは我らの間でも神の領域だと考えられている。そして、複製した肉体だけを捧げても澱は消えることはなかった』
「待って。同様の精神を作り出すなら人間を増やすしかない・・・もしやそれが現人類、ホモサピエンスってこと!?」
『そのとおり、理解が早くて助かる。君たちはゴミを微生物に分解させる装置を活用しているだろう。我らの発想はそれと同じだった』
「・・・要するに、わたしたちがあなたがた古代人と比べて知性の劣る生物だ、そう言いたいのですね」
さくらの言葉には怒気が含まれていた。
当然だ、ここまでの話の流れで怒りを抱かないでいられようか。
俺たち人類はこいつらが作った汚泥を消すために生み出されたって話になるのだから。
『我らの中でそう考えた者が多かったのは事実だ。でなければこうして計画が実行され、諸君らが生まれることはなかった』
「・・・我々が知性のない生物と考えない人もいたのか?」
『少数派ではあるが、いた。実際、我らの中でもこの澱の浄化方法に関しては相当に議論がなされた。もっと知性の低い小動物で事足りぬのか、或いは微生物のような群体で代用できないか、等だ。同様の精神を持つ生物なら、それはもはや同胞と考えることもできたのだから』
「結局、別の手段は駄目だったというわけだな」
『結果としてそうなる。澱は宿主、生み出した我らと同等の精神を欲するという性質があった。結果、我らと同等の精神を持つ者を生贄とするしかなかった』
「そのために僕たちは作られたの?」
リアム君が不安そうに声をあげる。
出自・・・というか人間そのものの存在意義に関することだから当然だ。
彼自身が天涯孤独になったという話とは訳が違う。
ご先祖様も含めた、人類と言うアイデンティティの問題でもあるからだ。
『そうだ。君たち現地球人類は、我らの代わりに浄化のためにその精神を捧げるために創られた』
「随分と手前勝手だな。俺たちのような虫けらに人権の破片もないと判断したということだろう」
「うむ。お前たちの言い分を延々と聞くだけで虫唾が走る」
「自分たちが高度な生物って思ってる傲慢さであたしたちの人権まで否定しないで。どこのお貴族様よ!」
結弦とレオンにジャンヌ。
怒りを露にしている。これ以上、彼らの話を聞きたくないという様子だった。
正直、俺も耳を塞ぎたいくらいだ。
自分たちがこんな奴らに作られたなんて考えたくもない。
『諸君らの怒りは尤もだ。我らが同じ立場であれば当然に憤怒するところだろう』
「わかっているのならばこのような手段を取ることを愚かと言わずして何という。同様の知性があるとわかっているのならば、同様に権利も存在するのは当然だ」
『まさしくそのような考え方を持つものたちがいた。この浄化計画の推進を止めようとしたのだ』
「そんな殊勝な人もいたのですね。それが守護者ですか?」
『そうだ。この創造人類を用いた浄化計画の推進派を執行者と呼び、地球に生み出したその知性体の人権を尊重する計画の反対派を守護者と呼んだ』
「なるほど。すると今、話をしている貴方は執行者ということか」
『正確には執行者だった者、ということになる』
「うん? どういうことだ?」
そこまで無表情と思われる雰囲気だった古代人に表情の変化があった。
そいつは俯き加減で視線を逸らした。
『我らが最も問題としたことは、魔法が使用できなくなることだった』
「魔法の使用? 魔力があればどこでも使えるのだろう」
『そう、魔力は空気のようにどこにでもあるものだ。地球上であれば』
「魔力は地球外にはないということか?」
『少なくとも我らが地球上から観測した範囲に魔力が潤沢に存する居住可能な天体は発見できなかった』
「つまり、貴方がたが魔法を使い続けるには地球の魔力を浄化し、その後に戻るという選択肢だけだったというわけか。魔法を捨てるという選択肢もあったのではないか?」
『我らにとって魔法を放棄するということは、君たちでいう電気やガスなどのインフラを放棄するに等しい行為だ、とても耐えられなかった。だが耐えられると考え魔法を捨て、文明を捨てた者たちもいた。彼らは未開地であった大陸北部でローラシア共生体を作り上げた』
「そのローラシア文明はどうなったのだ。彼らが生き残っていれば、単に貴方がたの我慢が足りなかったという話になる」
『・・・我らの彗星が1周期で戻るまでおよそ3万8千年。分かたれた同胞の繁栄を期待していた我らも落胆した。彼らは跡形もなく滅んでしまっていた。原因はまだ活発だった地殻変動による気候変動と考えられた。現在の地球よりも環境変化の激しいあの時代に文明を放棄するのは死を意味していたのだ』
「そうか、残念な話だ。だがその論理からすると、今の穏やかな時代ならば魔法を放棄して住むこともできるのではないか?」
『それは事実だ。だが魔法という文明を放棄できない我らは浄化を選ばざるをえない』
「なるほど。だが先程、執行者としての役割を終えたという話をしていたな。地球の代替となるものが見つかったのか?」
『そうだ。約2万年前、このエスペランサ―の軌道先に我らの新しい移住先候補となる天体が発見された』
「魔力のある居住可能惑星が発見されたと?」
『そのとおりだ。発見後、我らは議論を重ね、ついに地球を放棄することが決まった』
「ならば余計に貴方がたがこの地球へ干渉する理由がないように思える。何故、このユグドラシルのような装置を作り出し我々を苦しめ続けるのか」
会長の言葉に古代人は首を振った。
どうやらそこに問題があるようだった。
『我らの中には望郷の念に駆られる者たちがいた。彼らは最後まで移住に反対し地球へ戻るという主張を続けた。我らが総体として移住を決定してからもだ』
「故郷を愛しいと想う感情は理解できるが・・・止められなかったのか?」
『最終的に我らは君たち現人類の意思を尊重するよう決議した。だが執行者はそれを認めていない。我らも当初は執行者であったから彼らの思想すべてを否定することはできなかった。だが同胞を追放するわけにもいかない。そこで我らは執行者に条件を課す代わりに、それが満たせない場合に地球を諦めるよう説得した』
「その条件とは?」
『現地球人類自らがその力を以って浄化を止めるのであれば、現地球人類は我らと等価の力と知性を持つ者として取り扱い、その生存権を認めること、だ』
「なるほど・・・我々がユグドラシルを排したことで得た権利とはそういうことか」
『そのとおりだ。残るマザーを停止させれば君たちの権利は確定する。ユグドラシルの停止により我らより地上への干渉は困難になったのだから』
古代人は画面上に図を示してきた。
宇宙空間の映像のようだった。
『我らが居住するエスペランサ―の公転周期はおよそ3万8千年。地球の近傍である近日点にあるごく短い期間だけ、我らは地球への干渉が可能になる。我らは過去に何度か地球への干渉を行ってきた』
画面には地球と、彗星エスペランサ―軌道、位置の予測が表示されていた。
細長く、回転する楕円の周期が、エスペランサ―が同一の宙域を通ることのない、原子核の周囲を回転する電子のような軌道を持つ彗星であるということがよくわかった。
『我らは浄化のため地球人類の進歩を促し人口を増やすよう、環境を整え文明を促進させるためのあらゆることをした。気象観測装置ユグドラシルを介して、地殻の誘導、大気成分の調整、害を成す生物の排除など、枚挙に暇がないくらいに』
「・・・このユグドラシルは貴方がたが設置した気象観測装置だったというわけか。話だけを聞くならば我々にとって神にも等しい装置に思える」
『ユグドラシルは地球上のすべての事象を把握することで正確な予測を可能とする装置だ。そして我らからの指示により地球環境への様々な操作が可能となるものだ。前回、6052回目の近日点通過時点で、地球人類は石器時代に入り文明が立ち上がるところだった。そのときにユグドラシルより次のような提案があった。我らが次に地球近傍へ戻る6053回目の時点で地球は人口爆発が生じ、浄化すべき澱の総量と釣り合うだけの精神が揃い、浄化を実行すべき段階に至ると』
「・・・確かに先史時代の数十万年と比して、歴史を紡いだこの2200年程度の短い期間で我々現人類は地球上を覆いつくした。だがそれが、生贄のための命であるはずがない」
『諸君らの言うとおりだ。だが前回6052回目のときに、我らはまだその考え方に至っていなかった。人口爆発に合わせ、我らが地球へ戻る準備を始めるべきだとの提案がなされた。我らはそのために魔力浄化装置を地球へ打ち込んだ。現在よりおよそ60年程度前、君たちの暦で言えば2150年ごろにそれが到着するように』
「2150年ごろ・・・まさか、大惨事ってそのせいで起きたの!?」
『そうだ。諸君ら人類が魔物との邂逅を果たしたそのときだ。浄化のため、マザーと呼ばれる魔力浄化装置を打ち込んだのだ』
「・・・・・・!」
『魔力浄化装置の打ち込みを実行したのが3万8千年前になる。我らは未だ移住先を発見できていなかった。これは仕方のないことだった』
絶句、とはこのことだ。
不幸にも移住先を発見できていなかった古代人は、3万8千年前に、西暦2150年ごろに魔王を、母体を地球に打ち込めるよう手配した。
だが2万年前に古代人は移住先を見つけてしまった。
この時点で魔王を打ち込む理由は無くなっていたが、既に発されたものを止めることができなかった。
そして浄化が始まり、人類は魔物との戦いを強いられた、と。
「それで・・・不要となってしまった行為によりこれだけの犠牲を我々に強いたというのか・・・!」
『我らには必要なことだった。謝罪しきれぬことをしていることは認識しているが、どうか許してほしい』
「・・・許せぬ、許せぬな・・・」
会長が低く震える声で呟いた。
俺はその姿を見て驚いた。
怒りに任せて魔力が巡り、彼女の髪がメデューサの蛇のように踊っていたのだから。
皆が抱いた自らの怒りを忘れるくらいの光景だった。
「許せぬ。到底、許すことはできぬ。親兄弟が、同胞が、我らの先達が、どれだけ犠牲になったと思っている」
その地面から響くような低い声が、あの女神を彷彿とさせるアレクサンドラ会長から発せられたものだとは、俺にはとても信じられなかった。
「貴殿らに我々の無念がわかるものか! 前触れさえなく訪れたあの悪夢を!! 同胞が黒い悪魔に冒され死んでいくのを眺めるしかなかったあの屈辱を!!!」
会長の怒りに震える言葉は現地球人すべての代弁であった。
地球人という同胞を殺された怒りのため、人類の存在を否定された悲しみのため。
その両方だったのだろう。
あの冷徹な会長が、感情を震わせその瞳から涙を流していたのだから。
屈辱的な口惜しさ。絶望さえ感じる自身のアイデンティティの喪失。
言葉にならない怒りと、不安と、喪失感で視界が滲んでいた。
気付けば誰もが涙しているほどだった。
「我々の先達、魔物と戦う新人類たちは魂抽出という技法を編み出していた。魔物に魂を捧げることを良しとせぬがゆえに、死に際して自らの魂を宝石に収めるというものだ。外法だと言われ封印された技法だったが、まさにそれが正しい行為だったと、今、初めて合点した。人類の誇りを汚すことを良しとせぬ崇高な技法であったと」
古代人は答えなかった。
答えるべき言葉がなかったからだろう。
「我々地球人類の法からすれば、貴殿らの犯した罪はA級戦争犯罪を遥かに凌駕する。死刑でも生温い」
会長が憤怒を浮かべていた。
後にも先にも、彼女のこの表情を見たのはこのときだけだった。
「我々を、我々の祖先を貴殿らの欲望を満たす浄化のための家畜だと宣うだけでも許し難い。我々は貴殿らとの全面戦争も辞さぬ。誰ひとりとして我々地球人類の誇りを汚すことは許せぬ!!」
この星の怒りをすべて集めてきたかのような憤怒。
その怒りの炎に見るだけで焼き尽くされてしまいそうだった。
しばらく誰も言葉を発することはなかった。
彼女の気迫はそれほどまでに苛烈なものだった。
数分は経っただろうか。
やがてアレクサンドラ会長は震える拳を握りしめ、俯き加減に大きく3度呼吸をした。
「・・・だが・・・」
俺は会長の顔を見て驚いた。
その頬には一筋の涙が流れていた。
「我々は、地球人類は理性的な生物だ。過ちを、罪を憎み人を憎まぬ。過ぎたる咎を責めるよりも、明日をより良く生きるためにあがく。それが我々地球人類だ。互いに憎しみ合い、殺め合うことがあっても、過ちを越え、前へ進む歩を止めぬ。これは貴殿らと我々の最も異なるところだ」
そして古代人を指し、高らかに宣言した。
「我々は貴方がたに犠牲を求めぬ。貴方がたに何も求めぬ。ゆえに貴方がたに従うこともない。我々の問題は、地球の問題は我々で解決する。我々の命は地球で生きる我々のためにある。それが地球人が地球人たる誇りだからだ! 命を賭す責任を放棄した貴殿らとは異なるものだ! 金輪際、我々に干渉することを望まぬ! 即刻、ご退場願おう!!」
溜息がいくつも漏れた。
その言葉に皆が救われたように思った。
それほどまでに、アレクサンドラ会長の言葉は、この上なく高潔で崇高なものだった。
『諸君ら、現地球人類の意思は受諾した』
古代人は片手を上に挙げ、唄うように発した。
『聞け、エスペランサ―に存する者よ! 我らは写し子たちが自らの手でマザーの排除を完遂した刻をもち、今後、地球人類に対し我らからの一切の干渉を禁ずることを、ここに宣言する! これは未来永劫変更されることのない決定事項である!』




