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 3月の始め。

 北半球の風はまだまだ冷たい。

 甲板から見上げる早朝の空が青く高いはこの冷たい空気のせいだろう。

 この冷たい空気で深呼吸すると力が漲る。



「今日も1日、がんばろー!!」



 俺の横で一緒に満面の笑みを浮かべて深呼吸をするリアム君。

 ここ数日、久しぶりに一緒に過ごすと「家族だよね!」と傍で子供のようにはしゃいでいた。

 いろいろと迫るもので気負っていた俺だが彼の元気さに救われる。

 これからやるべきことを考えるとどうしても暗澹とした気持ちになってしまうからだ。



「いよいよね。あんたは甲板に出ちゃダメよ」


「わかってるよ。艦橋で大人しくしてるって」


「ほんとうかしら? いつも誰かが危なくなるとすぐ駆け出して行くくせに」


「ぐ・・・そりゃさ、誰かが危なかったら自然と身体が動くじゃん? 不可抗力だろ」


「ははは! 亲爱的武(ダーリン)らしいね。安心しな、もしそれで敵が来たらアタイが守ってやるさ」



 凛花先輩がばんばんと俺の肩を叩く。

 心強い。その力強さがそのまま頼もしさとして感じられた。



「武、油断はするな。船とはいえ海峡は狭い、陸から飛び移るやつらがいる可能性がある」


「白兵戦になったら頼りにしてんぜ、レオン」


「ああ、任せておけ。だがお前も美晴も身を守る行動を優先しろ。自ら危険に飛び込まないように気を配れ」


「はい、わかりました! よろしくお願いします!」



 俺の後ろで大人しくしていた小鳥遊さんが元気よく返事をした。

 厳しい言葉とは裏腹なレオンの優し気な目線に照れながらお辞儀をしている。

 小鳥遊さんはレオンと行動を共にすることが多い。

 アトランティスを駆け抜けたことで随分と信頼関係を築いたようだ。



「武さん、わたし、頑張ります! 見ていてくださいね!」


「うん、ありがとう。さくら、今度こそ危なくなったらすぐに艦橋に入れよ」


「はい! そのときは武さんのところへ逃げ込みますね! うふふ・・・」



 風にその長い銀髪をなびかせて立つさくら。

 心配する俺の言葉に破顔してとても嬉しそうだ。

 まるで桜坂中学の頃の学校からの帰り道のようだ。

 これから戦いが待っているなど信じられない。


 でも白魔弓(ザンゲツ)を携えたさくらの横顔はかつてパッケージで見た凛とした美しさを放つ彼女の姿を彷彿とさせるものだった。

 それを連想して思わず見惚れてしまう。



「皆様。ご歓談中でございますが間もなくダーダネルス海峡へ参りますわ。ご準備を」



 和やかな会話で空気が弛緩しているところを、総司令の肩書を持つソフィア嬢が正す。

 その一言で場の空気がひしりと締まった。



 ◇



 俺が提案した作戦変更は無事に受諾された。

 もっともそれはソフィア嬢とアレクサンドラ会長の後押しがあったからだ。

 会長は俺をバックアップすると約束してくれていたのを実践してくれたわけだ。

 でもソフィア嬢まで後押ししてくれるとは意外だった。

 なにせ彼女の立場はこの戦艦アドミラル=クロフォードを率いる総司令官。

 俺を慕っていたとしても軽々しく信憑性のない言葉に流されるわけにはいかないのだから。


 「武様のなさることに間違いなどございませんわ」とはソフィア嬢の言。

 あの会議の席で俺の発言を聞いて瞬時に俺をフォローする作戦を立案したという。

 根拠や理由など後付けできると考えているそうで、お陰様でそれっぽい作戦になった。

 なにこの軍師。俺にとって有能すぎワロタ。


 会議の後、アクレサンドラ会長が政治的権力?で世界政府に働きかけ。

 ソフィア嬢がクロフォード家の権力で欧州貴族連合に働きかけ。

 俺の預かり知らぬところで、相当な政治的駆け引きが行われたらしい。

 その成果がこの現状というわけだ。

 ほんとふたりには感謝しかねぇ。


 こうして高天原遠征部隊を実行部隊に加えた教団強襲作戦は実行されることとなった。

 戦艦えちごと戦艦アドミラル=クロフォードは一路、黒海を目指している。

 欧州を二分させている元凶、超人類救済教団という胡散臭い新興宗教を壊滅させるために。


 世界政府は人類と敵対する身を喰らう蛇(ウロボロス)が鞍替えした組織が教団だと把握していた。

 それだけでも教団を攻撃する理由は十分だそうだ。

 だが教団は表向き『救済』活動をしており、それを支持する世論が一定数ある。

 だからこそ秘密裏のうちにこの作戦を成功させる必要があった。


 俺が探究者(クアイエレンス)で仕掛けといてなんだけど、ここまで来ると絶対に後に引けねぇ。

 色々な意味で失敗ができない軍事作戦(キャンペーン)となっていた。



 ◇



 大西洋から黒海へ辿り着くまでの道中は長い。

 その中で海上ながらも魔物との会敵が想定される難所は3か所。

 陸から船への攻撃が想定される海峡が鬼門となる。


 最初の難所は大西洋から地中海への入口、ジブラルタル海峡。

 でもそこでの待ち構えはなかった。

 海峡北側、イベリア半島が世界政府と欧州貴族連合の管理下にあったからだ。

 魔物に占拠されているアフリカ側から距離を取り、イベリア半島沿いに進めば敵地からおよそ10キロメートルはある。

 イベリア半島からの援護もあるのでさすがにこの距離での襲撃は無かった。

 これ幸いと2隻の船は海峡近くジブラルタル湾にある港町、アルヘシラスに3時間だけ寄港した。

 特に戦艦えちごは1か月近く補給が無かったので物資に限界があったためだ。

 

 そして補給をしてから約2日。

 ジブラルタル海峡から地中海を横切ってエーゲ海までおよそ3000キロメートル。

 トルコの首都イスタンブールの手前に位置するマルマラ海。

 かつて欧州の火薬庫とまで呼ばれたバルカン半島の付け根に位置する場所だ。

 そのマルマラ海の前後にある海峡が残りの2つの難所だった。


 ギリシャ北側、エーゲ海からマルマラ海へと接続するダーダネルス海峡。

 そしてマルマラ海からイスタンブールの真ん中を抜けて黒海へ至るボスポラス海峡。

 このふたつの海峡は非常に狭い。

 温暖化で海峡の幅が一時的に広がったが現在は昔の幅に戻っている。

 ダーダネルス海峡は最も狭い場所で幅が1200メートルしかない。

 ボスポラス海峡に至っては狭いところで700メートル、広くても3700メートル程度。

 いずれも飛翔する魔物が容易に到達でき、跳躍力のある魔物ならば届く可能性がある距離だ。


 ・・・500メートル近く跳躍する、カエルやバッタ型の魔物なんているのに吃驚だ。

 ゲームじゃ船での戦闘がねぇから知らねえし。


 この海峡のバルカン半島側は、以前は世界政府軍が世界戦線を築いていた場所だった。

 ところが魔物の一斉侵攻後は教団の傘下に下り、今では魔物が闊歩する場所となった。

 つまり俺たちの周囲は敵だらけということだ。

 アトランティスの脱出時に苦労したことを考えるとこの海峡で何があってもおかしくなかった。



 ◇



 海峡突破は基本的に強行する方針となっている。

 戦艦アドミラル=クロフォードを先頭を切り開き戦艦えちごが後追いをする。

 想定されるのは魔物の妨害。

 進行方向を塞ぐ魔物は先鋒を預かる新人類(フューリー)が撃破する。

 その後、船の側面からの攻撃は合流した高天原の学生たちが結界を張ったうえで牽制してやり過ごす。

 その他の戦闘員はそのフォローをする。

 これが突破作戦の基本方針だ。


 その先鋒を担うのがさくらとリアム君。

 ふたりの射程距離、命中率、威力ともに他の追随を許さないレベルであり、自らその役を買って出た。

 曰く「絶対にお役に立ちますから!」、「武くんのために僕も頑張るね!」。

 俺にアピールしたいのか彼女らはとても張り切っていた。

 

 ダーダネルス海峡の距離はおよそ60キロメートル、約50分。

 ボスポラス海峡の距離はおよそ30キロメートル、約25分。

 これは最大戦速で駆け抜けた場合の時間となる。

 少なくともこれだけの時間、敵からの攻撃を防ぎ続ける必要がある。

 誰しもが緊張した面持ちで配置についていた。



「視界良好。目視で海岸沿いに魔物は確認できません」


「魔力レーダー、敵影多数! 両舷30(サンマル)から70(ナナマル)の範囲! 距離1500以上! 魔力の大きさ、動きより魔物です! 人間と思われる影はありません!」


「進行方向、艦影なし! 速力維持可能です!」



 概ね、想定通りの状況。

 人間がいるかどうかは懸念事項のひとつだった。

 教団が人柱的に人類を動員する可能性があった。

 大敵を抱えてこんな場所で同士討ちなんてできない。

 その可能性が消えただけで皆が安堵した。


 実はその点は俺が探究者(クアイエレンス)を使っていた。

 人類同士が争わないように教団の連中が西の方でミサをやってくれと想像した。

 その結果、ドイツ国境に布陣する世界政府軍の前で教団が謎の儀式をしているらしい。

 変に洗脳されたり争わなきゃ、今は何をやってくれてても良い。

 一触即発の状況かもしれないが教団さえ壊滅できれば覆せる。

 これも失敗できない理由のひとつとなっていた。


 俺は艦橋で指揮官であるソフィア嬢の近くに居た。

 何かあれば力を使って状況を好転させるため、全体を俯瞰できる位置を陣取っていた。

 ソフィア嬢は各報告を頷いてひとつひとつ把握していく。

 その真剣な表情はまさしく艦隊司令官。

 これが齢十六の人間の為せることなのか、と目を疑いたくなる。

 ラリクエの主人公たちは、ゲームでなくてもやはり優秀だった。



急ぎ駆け抜けなさい(シュネル ロス)!」



 ソフィア嬢の命令に呼応して船が加速した。

 ぐっと身体に加速による力がかかり、それを支えるために手すりに掴まる。

 戦艦アドミラル=クロフォードは堂々とダーダネルス海峡へと侵入した。



「正面、敵影ありません!」


「右舷50(ゴマル)、飛行する魔物です! 距離800、数30!」


「迎撃して出鼻を挫きなさい」



 艦橋のモニターにグリフォンとガーゴイルの姿が映った。

 先頭を走るこの船を狙っている。

 側面に構えている高天原の遠征部隊が迎撃のための遠隔射撃を行った。

 おそらく牽制攻撃だろう。

 まだ数百メートルはあるのに数発は命中していた。

 って、すげえなおい。当てられるレベルの人が混じってんのか。

 命中率だけならさくらやリアム君並みじゃねえかよ。

 さすが先輩たち。



「右舷全数、撃墜しました! 後続、来ます! 距離500,数120!」


「左舷40(ヨンマル)、陸上に敵影! 地竜などの大型種です!」


「結界に切り替えて。結界を突破する魔物のみ迎撃しなさい」


「右舷60(ロクマル)、海中に足場を作りながら前進する敵影あり!」


「リアム様に狙撃指示を」



 指示を受けたリアム君はスムーズに敵とその足場を破壊していた。

 成功してガッツポーズしている幼い雰囲気に可愛いと思ってしまう。


 艦橋では次々と状況報告と指示が飛び交う。

 こんな多数の人間で生命のやり取りを行う現場なんて初めてだ。

 これが戦場。これが世界戦線。


 安全な場所にいるはずなのに俺の脚は震えていた。

 身体を張っていた迷宮探索とはまた違った緊張感があったからだ。

 少しだけ呼吸が浅くなり、口ではぁはぁと息をしている自分に驚く。

 おいおい、俺が冷静さを失ってどうすんだ。

 戦闘のプロが集まってんだ、任せておけば大丈夫だ。

 それにいざとなれば主人公連中が助けてくれるんだ。



「先輩」


「・・・ああ。小鳥遊さん」


「怖い、ですよね。あはは、私も怖いです! 見てください、こんなに震えちゃって!」



 俺の傍でじっとしていた小鳥遊さんが俺の左手を握った。

 寒い時のように、ぶるぶると震えているのが伝わって来る。

 俺以上に一般人の彼女だ、恐怖を感じないわけがない。

 それなのに俺を気遣ってくれるなんて。

 弱いところは見せられないと何とか震えないよう気張った。



「はは、うん、怖ぇよな。アトランティスを潜ってた時よりどうして怖ぇんだろな」


「わかります。これに慣れるなんて無理です」


「慣れたら戦争屋になっちまう。小鳥遊さんはそのままで良いと思うぜ」



 空いている右手で彼女の頭をぽんぽんと撫でてやった。

 恐怖心で引き攣った顔をしながらも、彼女はぎこちない笑みを浮かべた。

 ああ、うん。脚の震えも収まらないし本格的に来てるな。

 こりゃ座ってもらったほうが良いかも。

 本気で怖がっている彼女が心配で自分の恐怖が薄まった。



「レーダーを過信してはいけませんわよ! 目視を怠らず前進!」


「正面、敵影! 距離2500、数1! 大型の魔物です! 竜種の可能性があります!」


「さくら様にお願いなさって!」



 海峡突入から30分くらい経過していた。

 今のところ防衛に問題があったりはしていない。

 これならこのまま突破できそうだ。

 震えが収まらない小鳥遊さんを落ち着かせるため、俺は彼女を椅子に誘導した。



「ほら、ここに座って。無理すんな、一緒にいるから」


「は、はい。す、すみません、しばらくこうさせてください」



 艦橋の端にあるベンチに彼女と一緒に腰掛けた。

 すると彼女は俺の身体にぐっと顔を押し付けて来た。



「ごめんなさい、少しだけ・・・」


「ああ、大丈夫だ。ほら」



 その頭に腕を回し、ぐっと抱えて俺の胸に押し付けてやる。

 俺も小さいころ雷が怖くて、こうやって親に抱きついたな。

 これでしでも怖さが軽減できるなら安いもんだ。



「・・・先輩」


「どした。怖ぇならしがみついとけ」


「はい。 私、自分が自分じゃなくなっちゃいそうで・・・」


「うん?」


あれ(・・)からずっと頭の中で何かが喋ってるんです。もう、怖くて・・・」



 おい、アイギス。

 なに小鳥遊さんを怖がらせてんだよ。



「あ~・・・うん、そっか。怖くなったら俺のとこへ来い、少しはマシになんだろ」


「・・・・・・」



 返事もせず小鳥遊さんはぎゅっと俺に抱きついた。

 黙って頭を撫でてやる。

 彼女が少しでも安らぐように。


 覚醒時にアイギスと交信したいとは思うんだけどさ。

 こうやって彼女の人格が壊されんならやんなくて良いんだよ。

 あいつ、彼女の知識や常識を使って話しやすくなったとはいえ、相変わらず勝手だしなぁ。



「海峡、突破しました!」


「このまま戦速を維持。ボスポラス海峡まで進みなさい」


了解(ヤヴォール)!」



 小鳥遊さんに寄り添っているうちに、気付けばダーダネルス海峡を突破していた。

 特に被害を受けたという言葉も聞かなかったから上々だ。

 想定以上に順調に進んでいる。

 でも次のボスポラス海峡が最も狭くて危ないとこなんだよな。



 ◇



 ダーダネルス海峡を抜けて3時間。

 その間に交代で休憩を取り、いよいよボスポラス海峡の眼前まで迫った。

 ここを抜ければその先が黒海だ。

 教団の本拠地まであと僅かとなる。


 結局、小鳥遊さんは怖がった後に疲れたのか眠ってしまった。

 彼女をベンチに寝かせると甲板へ出るときに着ていた上着をかけてやる。

 せめて少しくらい休んでほしい。

 ・・・アイギス、あまり余計なことをすんじゃねぇぞ。



「武様。予定どおりボスポラス海峡へ入りますわ。何か懸念事項はございますか?」


「このまま突破をかければ大丈夫だと思う。同じように気を付けてくれ」


「承知しましたわ」



 総司令官のソフィア嬢が俺に確認するこの構図。

 これじゃ俺が総司令官だろ。周りのやつも見ないふりしてないで何か突っ込んでくれよ。

 指揮系統がおかしくなんだろ。



「海峡、入ります!」


「繰り返しますわ。急ぎ駆け抜けなさい(シュネル ロス)!」



 ふたたび加速する戦艦。

 先ほどよりも陸が近い最大の難所だ。

 皆の警戒心もより高まっていた。



「右舷40(ヨンマル)、距離400に大型の魔物です! 数30!」


「左舷60(ロクマル)、距離1200、数・・・200以上です! 飛行する魔物です!」



 そしてその警戒が正しいと証明するかのように魔物の数も多い。

 次々と発見報告が入っていく。

 おいおい、この数、大丈夫かよ。



「結界でやり過ごしなさい」


「駄目です! 左舷、突破されます!」


「第2遊撃部隊を向けなさい」



 遠征部隊が複数人で協力して張る結界は相当に強力だ。

 AR値で言えば100前後の強度があるものが船の左右に張られているのだ。

 だけれどもそれを突破するくらいの物量でぶつかられている。



「左舷前方、甲板に侵入されました!」


「レオン様に対処を!」


「後続の戦艦えちご、左右の敵襲により甲板で白兵戦が起こっています!」


「リアム様を本艦後方へ! 援護射撃を依頼して!」



 刻一刻と変化する戦況に的確な指示を出していくソフィア嬢。

 モニターを見ながら状況を逐一把握できているのがすげぇ。

 俺はこの船の甲板とその周辺を見るので手一杯だというのに。



「正面、遠距離射撃を突破されます! メガリスです! メガリスが2匹向かってきます!」



 それは慌てたような声色の報告だった。



岩石竜(メガリス)だって!?」



 ラリクエ(ゲーム)じゃムー大陸でしかお目にかかれないドラゴンだぞ!?

 魔王近辺の雑魚としてエンカウントするやつで、無傷で倒すのが無理な相手じゃねえか。



「レオン様、凛花様を船首にお願いして!」


「おいソフィア、それで大丈夫なのかよ!?」


「ええ、実績もございます。それにおふたりにはシミュレートを体験いただいておりますので」


「実績? シミュレート・・・?」



 それって岩石竜(メガリス)と戦ったことがある・・・というかデータがあるってこと?

 主人公連中でも苦戦するはずだぞ?



「わたくしも倒したことがございます。最新のデータですわ」


「は? え?」



 さらっと倒した実績があると言われて驚く。

 つかシミュレートって? あのエリア博士が作ってたアレ?

 いつの間にそんなんを体験してんのよ。


 俺の知らない話が次々と展開されていく。

 ソフィア嬢に促されてモニターを見つめる俺。

 ・・・ほんとに大丈夫なのか?

 なんか手助けしに行ったほうが良いんじゃねえか?


 くだんの岩石竜(メガリス)は戦艦アドミラル=クロフォードの船首に迫った。

 そして当然に遠隔攻撃をすべく、2匹ともに吐息(ブレス)を甲板を目掛けて放って来る。

 だが吐息(ブレス)を放つ瞬間にさくらの弓が岩石竜(メガリス)の首を貫いた。

 おおう、あのタイミングで止められると不発になるのか!

 2匹の吐息(ブレス)はあえなく不発に終わった。


 首を貫通されても再生するようで、岩石竜(メガリス)が喰らった傷はふさがっていた。

 2匹は吐息(ブレス)が駄目ならと、次に物理攻撃をしようと飛来する。

 そこに構えているのがレオンと凛花先輩だった。


 高速での一撃離脱をしようとする岩石竜(メガリス)

 レオンには脚で、凛花先輩には嘴で。

 それぞれが時速100キロメートルを超える速度で突っ込んで来た。

 危ない、と思って、安全な場所から見ているはずの俺が目を覆いそうになってしまう。



「・・・マジで!?」


「ふふ、お見事ですわ」



 レオンは岩石竜(メガリス)の攻撃を側面に回り込むように避けた。

 ぎりぎりで躱しながら王者の剣(カリバーン)岩石竜(メガリス)の身体に突き立てる。

 なまじ勢いがあったせいで身体に刺さった剣が魚を捌くようにすっと走った。

 縦に胴体を2分された岩石竜(メガリス)はそのまま海へ落ちていった。


 凛花先輩はまさかの正面迎撃。

 ここまで聞こえるくらいの気合を入れて飛び上がり、その顔を蹴り上げた。

 体格差はどうなってんの!?と思うくらいの一撃で岩石竜(メガリス)は勢いを殺される。

 そのまま宙返りした後に海へ落ちていった。


 ・・・え?

 ふたりとも一撃?

 どうなってんの? 強すぎない?


 俺の中のラリクエの知識(常識)は悉く覆されていく。

 あのさ、これ。

 俺がいなくても強行突破できたんじゃね?

 思わずそう思ってしまうほどに、主人公を含めた高天原の学生たちは優秀だった。


 こうして俺は自分が活躍した実感は全くないままに、2隻の戦艦は黒海への侵入を果たしたのだった。

 楽で良いんだけどさ、なんかこう、ね。



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