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■■レオン=アインホルン's View■■
大陸中央にある火山は今にも噴火せんともうもうと煙を吐き出す。
地鳴りは止まらず、そこかしこに湧いて出た魔物が闊歩する。
崩壊するアトランティス大陸は傍目に見ても地獄絵図だった。
ある者は襲い来る魔物に恐怖して逃げ回る。
果敢にも立ち向かって闘う者もいた。
その場に腰を抜かして座り込む者。
生命の危機を感じて叫び出す者。
何をしてよいのかわからず右往左往する者。
優秀なはずの高天原の学生たちが突然の状況で混乱の極みにあった。
3年の先輩でさえあの有様だ。
俺も地上に戻されたところで一時的に混乱してしまった。
死地を潜った経験がなければ似たようなことになったかもしれない。
武たちを逃がした後、周囲で闘うやつの手助けをした後に本部へ向かった。
そこには大勢の学生が集結していた。
だが集まったところで状況が掴めぬ者たちは大騒ぎしたままだった。
「静まれ!!」
ばしん。
そうした有象無象の混沌を吹き飛ばす一条の波動。
広がる波紋は突如として起こった変異に動揺する者たちを正気付けた。
一般人の群衆であればそれくらいでは混乱は収まらないだろう。
だが高天原学園で3年間修業を積んだ彼らは一般人と一線を画していた。
その静まりようにさすがだと思った。
「速やかに円陣を組むのだ! 迎撃せよ! 近接戦闘可能な者は集団の外周につけ!」
凛とした声で騒動を収めたのはその場の誰もが知る人物。
高天原学園生徒会長、アレクサンドラ=メルクーリ。
ガラスのように透き通った声は聞く者の心を掌握した。
彼女は小高い岩の上に立ち、皆が見える位置から声を張り上げていた。
そしてその号令に皆が迷いなく集合し円陣を完成させていく。
「我らはこれよりクリティアスへ撤退する! 方角200へ陣形Δを構成せよ!」
会長のその号令に皆が動き出す。
陣形を整えるようあちこちで学生たちが走り出した。
さすがに人数が多い、時間がかかる様子だった。
その間に俺は陣の中央へ潜り込む。
内側には怪我人や精神的に不安定となっている人が集められていた。
彼ら彼女らは互いに手を差し伸べ、皆で生還するという意思が形成されていた。
「武! 無事だったか」
「レオン! お陰で助かった!」
「ありがとうございました、レオンさん!」
武と美晴の顔を見つけてほっとする。
これだけの学生がいればよほどのことがない限り大丈夫だろう。
「レオン=アインホルン。そこにいたか」
「む、アレクサンドラか。指示は良いのか?」
「陣替えに数分かかる。その間に話をしておきたい」
「京極 武、小鳥遊 美晴、それにデイジー=グリフィス殿もよいか」
「はぁい。皆様もご無事で何よりです~」
「! 無事だったか、デイジー」
アレクサンドラの言葉にデイジーが無事だと知る。
人ごみに隠れて彼女の存在に気付かなかった。
地下で魔物に囲まれて分断されてから互いの無事を確かめる間もなかった。
よく生き延びてくれた。
「おい、アレク。あたしも混ぜてくれよ」
「もちろんだ。君は言うまでもなく一緒だ」
「へへへ、そう来なくっちゃ」
凛花も無事だったか。
デイジーもそうだがあれだけの魔物を相手に無傷だというのは大したものだ。
俺でさえ相当に苦戦してしまったくらいだからな。
「皆、よく聞け。この後、皆が無事に生き延びるにはえちごへ乗船する必要がある」
「ああ、これからアトランティスが沈むからな」
「なに!?」
アレクサンドラが方針を示したところに武が補足する。
その内容が突飛過ぎたので思わず声をあげてしまった。
「この大陸が沈むだと!?」
「詳しく説明してる暇はねぇ。とにかく船まで戻んなきゃ駄目だ!」
「そうですね~、火山も噴火しそうですし~」
気の抜けるような声で恐ろしい見通しを口にするデイジー。
思わず火山を見上げてしまう。
「京極 武。私がわかるのは皆で撤退することと、誰かが殿を務めることだ。ほかに補足事項はあるか?」
「それで良いと思う」
「では京極 武、小鳥遊 美晴は集団の中央に位置して撤退をしろ」
「は、はい!」
「わかった」
戦闘力の乏しい武と美晴が守られながら戻ることに皆が頷いた。
「問題は殿だが・・・」
「俺がやろう。アレクサンドラは全体の指揮があるだろうし、アレクサンドラの護衛には楊 凛花が適任だからな。デイジーはいざというときのために武たちの傍に居たほうが良い」
戦闘力、体力等を考慮しても消去法で俺が殿になるべきだ。
――俺はそう主張をしたはずだった
「俺は武と美晴の傍で護衛する。デイジーもいざというときのために傍にいてくれ。殿はアレクサンドラと凛花でどうか」
「ほう? 私と楊 凛花で、か。吝かではないが指揮はどうするのだ」
「ひとこと添えてくれ、俺が引き継ごう。なに、進むだけだ。指示することも多くないから大丈夫だ」
俺はそうしてアレクサンドラに提案していた。
――どうしたというのだ? 俺は何を主張した?
おかしい。どうして俺は思ってもいなかったことを口にした。
まるでそうすべきだと言われたかのように振る舞っている。
疲労で幻でも見ていたのだろか。
「良いだろう、では委譲を宣言する。間もなく陣形が組み終わる、各自配置につけ」
「「おう」」
アレクサンドラの言葉で各自が持ち場へと向かった。
ともかく言ってしまったのだからそうせざるを得ない。
もともと武を日本に連れ帰るのが目的だ。
船まで俺がついていたほうが美晴を危険に晒す可能性も少ない。
この方が都合が良い、そうすべきだ。
「耳を傾けるのだ! これよりえちごへ進軍する。ここから先の指示は生徒会役員のレオン=アインホルンが引き継ぐ! 彼の言葉を聞き漏らさぬようにせよ!」
即席で代理を言い渡される。
俺の言葉で皆がどこまで指示に従ってくれるものだろうか。
だが迷っている暇もない。
武たちが無事に帰還できるよう俺にできることはやろうじゃないか。
「指揮を受け継いだレオンだ! 全員で生きて帰るぞ! クリティアスに行軍開始!」
俺は声を張り上げ、進行方向を指し示した。
彼女の計画を無事に遂行するだけだ。
◇
■■京極 武's View■■
指針を得た彼らは強かだった。
倒れた者を助け起こし、互いに励まし合い、クリティアスのある南海岸を目指して行軍を開始する。
周囲から襲い来る魔物は前衛が押し止め、内側にいる後衛が間接攻撃で殲滅する。
或いは風魔法で行軍速度を上げ、水魔法で襲い来る熱波を跳ね飛ばし、土魔法で荒れた地面を整地する。
それぞれが有機的に連携して進む様は圧巻だった。
「・・・あとは我らが殿を務めれば完成だ。楊 凛花、付き合ってもらえるな」
「おいおい、アレクとは一蓮托生だぜ、当たり前だろ」
俺たちの後ろで速度を落として進むアレクサンドラ会長。
その隣にはいつもどおりちょっと眠そうな凛花先輩。
こんな状況でもふたりが平常運転を見せてくれるおかげで何だか安心できた。
この落ち着いた空気も会長のカリスマのお陰なんだろう。
「京極 武。無事に乗船するのだぞ」
「当たり前だ、会長も凛花先輩もみんなで戻ろうぜ。俺は足手まといにならねぇようにするよ」
「レオン=アインホルン、デイジー=グリフィス殿。すまないがこのふたりを戦艦えちごまで頼んだぞ」
「うふふ、承知しましたわ~。これもシスター澪からの依頼のうちですから」
こうしてえちごが停泊するクリティアス目指して遠征部隊は進軍した。
結局、俺は地下で起こったことを説明してる暇がなかった。
地上に出たら魔物が暴れてるし、火山は噴火して地震が続いている。
こんな状況でのんびり話なんてできない。
むしろ混乱して右往左往していた彼らのほうが正常なんじゃなかろうかと思うくらいだ。
だというのに、何が起こったか理解していないはずの会長が最も冷静だった。
もしかしてこの事態さえも彼女の固有能力で視ていたんだろうか。
撤退を含めて計画をしていた可能性もあるな。
「行くぞ武!」
「・・・ああ!」
危ねぇ、ぼけっとしてしまった。
情報の整理も終わらぬまま彼の後をついていく。
いつの間にか噴火した火山から噴石がどしんどしんと飛んで来る。
さっきまで皆が居た場所にも降って来ていた。
危なすぎる。まさに間一髪だ。
あちこちから魔物が襲い掛かってくる。
陣の中央にいるとはいえ安全じゃない。
空中から襲って来る小翼竜、ワイバーンが頭を掠める。
それをレオンが飛び上がって一撃で斬り伏せる。
守りが薄い側面を突破して走って来た大型の熊、ダークベア。
デイジーさんが輝く十字架で弾き飛ばしていた。
こうして鉄壁の護衛に守られながら、俺たちはただ『えちご』を目指して歩いた。
◇
常に振動する地面と発せられる轟音はとにかく不安を煽る。
気が気でないまま俺たちはようやく搭乗すべき戦艦、えちごを視界に捉えた。
それで助かった気になりほっとしてしまうのは俺がまだ戦場の素人だということだろう。
「っ! 武、気を抜くな!」
頭上から飛びかかって来た大猿の魔物を一刀両断にしレオンが俺を気付ける。
「うおっ! すまねえ」
「まだ少しあるぞ! さぁ、行くんだ」
「行きましょう、先輩!」
小鳥遊さんが俺の手を引いた。
まるで俺を誘導してくれているようだ。
・・・守る側のはずの俺が誘導されるってどういうこと?
不思議と彼女の意思は強そうだ。
「うん、行こう」
彼女に引かれるままえちごを目指した。
もう立場がどうとか考えないことにした。
誰が優れているとか偉いとか、死が身近なこの場で考えても意味がないことだから。
いよいよえちごに近づくと、既に到着した人たちが搭乗を始めていた。
船から降ろされた階段を順に駆けあがっている。
「! あれは・・・!?」
「あら~、まずいですね~」
俺たちもあと少しで搭乗できる、というところで。
今にも沈みそうなアトランティスに影響されて波立った海の中。
大きな触手のようなものが数本、海面から顔を出していた。
1本1本がゆうに人の胴の5倍以上の太さがあるそれが、えちごの後方、機関部に絡みつく。
えちごはまるでウィリーしているように後方が沈み、前方が海面から持ち上がった。
そして掴みかかった怪物が海面から顔を覗かせる。
ダイオウイカを彷彿とさせるような青黒い巨大な生物だった。
「なんだと!? あれはまさかクラーケンか!?」
「はぁ!? こんなときに!?」
そう、本当にこんなときに!
桟橋に降ろされた階段が跳ね、搭乗中の学生たちは振り落とされてしまう。
幸い海に落ちた者はおらず、桟橋に落下したくらいだ。
受け身を取っていたのはさすがだと言うべきか。
既に搭乗して甲板にいる者たちも悲鳴をあげていた。
傾いた甲板など恐怖でしかない。
あのイカ、鋼鉄製の船なんて旨くもないだろうに、どうして襲いに来てんだよ!
「余裕がある者はクラーケンを攻撃するんだ! 海へ引きずりこまれるな!」
レオンが声を張り上げる。
甲板にいる人たちの魔法がクラーケンの脚を目掛けて放たれた。
いくらかはダメージを与えたようで、えちごを掴む力が弱まったようだ。
船体が水平に戻ったところで水飛沫があがった。
「くそ、奴が先か! デイジー、ここを頼んだぞ!」
「はぁい! お土産はゲソをお願いしますね!」
「食べる場所が残っていればな!」
レオンはクラーケンに向かって駆けていく。
くそ、いくらレオンでも水中じゃ無理だろ!
せめてモーターボートの類はないのか・・・!?
「うおぉぉぉぉ!」
雄叫びをあげながら、レオンが波打ち際から飛びあがる。
船を掴んでいた3本の脚のうち1本を王者の剣が切り落とした。
すげえよ、あんな太いのを1撃で!
レオンは切り落とされて水面に落下した脚に着地すると、それが沈む前に再び飛び上がる。
おいおい曲芸かよ!?
ボートなしであんだけ闘えるのか!
「武! 早く搭乗するんだ!」
その言葉に呆然と成り行きを見守ってしまっていた自分に気付く。
「先輩!」
「ああ!」
レオンが身体を張ってくれているのだ。
俺がのんびりしていてどうする!
俺と小鳥遊さんは搭乗の列の最後尾に並んだ。
よし、あと数人で乗り込める。
超人的な動きをするレオンが脚を捌いてくれれば船が発進できる。
そうすればクラーケンから逃げられるはずだ。
希望が見えたところで俺は後ろを振り返った。
搭乗者は俺たちがほぼ最後のあたり。
デイジーさんが桟橋の入口を守っていてくれた。
あれ、殿のアレクサンドラ会長と凛花先輩はどうした?
来た道へと目を移す。
すると随分と離れた場所でふたりの姿を見つけた。
彼女たちの活躍は凄まじかった。
巧みに土魔法で足場を形成し、縦横無尽どころか空中までも駆け回る凛花先輩。
1撃1撃に籠められた魔力は、あの俺と撃ち合った丹撃ほどもあるだろう。
大型の恐竜サイズの魔物、グレイトドラゴンやワイバーンといった魔物でさえ1撃で弾き飛ばしている。
そして彼女らから迸る魔力は茶緑色。
ふたりが奏でる魔力の相乗効果はその潜在能力を十二分に引き出していた。
だが、多勢に無勢。
超人的な活躍を見せるふたりであっても四方八方から魔物に囲まれると防戦一方となる。
結界を張れない彼女たちは体力が尽きるまで戦い続けるしかない。
「凛花先輩!! 会長!! 早くこっちへ!!」
「先輩! 今はとにかく登ってください!!」
「ぐ・・・わかった!」
諭されて俺がボトルネックになっていることに気付く。
残っている会長も凛花先輩もレオンもデイジーさんも身体能力は俺よりあるんだ。
足手まといがさっさと搭乗しないでどうすんだ!
「先輩、早・・・きゃっ!?」
「ほらほら~、早く登ってくださいまし。来客は多いですよ~」
小鳥遊さんを狙って飛んできたグリフォンををデイジーさんが弾き飛ばす。
彼女は俺たちに促した。
「あ、ありがとうございますデイジーさん! さぁ、先輩!!」
「わ、わかった」
俺は必死になって小鳥遊さんの後を追った。
素人然の小鳥遊さんと俺が先に避難しなければ彼ら彼女らも搭乗できるわけがない。
俺はようやく甲板まで登りきった。
甲板はさながら野戦病院のような様相だった。
傷ついた生徒を手当するために何人もが走り回っている。
たまに飛来する魔物や、海岸に近づく魔物がいたが、そいつらは船へ辿り着くことはなかった。
3年生の先輩たちが船上から必死に弓や銃、魔法で応戦していたからだ。
空中から襲って来る翼竜型や鳥型の魔物は打ち落とされ。
海岸に近寄ろうとする魔物たちは威嚇射撃で牽制され。
魔物たちをとにかく寄せ付けまいと奮戦していた。
その姿に感心していると、急にがくんと船体が動いた。
「うおお!?」
「きゃぁっ!」
必死に振り落とされないようしがみついて状況を確認する。
またクラーケンに掴まれたのか!?
そう思って甲板の端の手すりに手をかけ後方を覗き見た。
だけれどもクラーケンに捕まれた様子ではなかった。
「船を出せーー!!」
誰かが叫んでいた。
船を出す!?
さっきの揺れは動き出した振動か!
あれはノーベルト副会長!
ずっと陣頭で指揮を執っていたのか。
「おい待て! 待ちやがれ! まだ4人! 会長と凛花先輩と、レオンもデイジーさんも乗ってねぇだろ!! 見殺しにすんのか!?」
声が闘いの喧噪にかき消されないよう必死に叫びながら俺は甲板を駆けた。
すると、またがくんと甲板が動いて転倒した。
船が最大戦速で完全に動き出したのだ。
「おい待て! 待てって言ってんだろ!!」
「速やかに離岸せよ!!」
「ふざけんな!!」
必死に叫びながら、人を押し退けて、指示を出しているノーベルト副会長のところへ辿り着く。
「おい副会長!! まだ乗ってねぇ奴がいるだろ!!」
俺の必死な表情を見たはずのノーベルト副会長はなぜか能面のような表情をしていた。
「我らの使命は君を逃がすことだよ、京極 武君」
「はあ!?」
「そのように会長から厳命されている。知ってのとおり、会長の選ぶ最適解によってね」
「んな馬鹿な話があるかぁ!!」
頭がかあっとなる。
思わずノーベルト副会長へ殴り掛かるが簡単に腕を掴まれてしまう。
「落ち着きたまえ」
俺は腕を掴まれたまま副会長を睨み返す。
「先輩! いけません!」
「離せ!! どうして全員で逃げねぇんだよ!!」
小鳥遊さんが暴れる俺を副会長から引き離すよう身体にしがみついた。
「離してくれ、あのままじゃ4人が!!」
「いけません!! ノーベルトさんの言葉はほんとうです! 先輩を搭乗させたら出航するよう、アレクサンドラさんに頼まれています!!」
「え!?」
泣き叫ぶような小鳥遊さんの声に俺は思わず彼女の顔を見た。
その大きな瞳に涙を浮かべ、引き攣りそうな悲壮な表情で、彼女は俺に訴えていた。
「何があっても! 先輩が搭乗したら船を出すよう! 皆が強く言われたんです!!」
「馬鹿な! それじゃ4人はどうすんだよ!!」
「わからないんですか! それが・・・それが!! 皆さんの意思なんですよ!!」
「!?」
命を捨てて俺を逃がすだって!?
そんな物語の死にキャラ的な役割を引き受けてんじゃねえよ!
なんだって自分たちよりも俺なんかを優先すんだ!
前近代の日本兵じゃねえんだぞ!?
「全員は無理だからです! これしかないんです!!」
「どうしてだよ! まだあそこで戦ってんだろ!!」
「賢明な君ならば理解できるだろう。我々とて仲間を見殺しにする決断などできぬことを!!」
「!!」
能面から一転、副会長の恨むような怒りの表情に気圧される。
気付けば周囲の人からも俺は睨まれていた。
彼だって、いや、この船の誰もが、仲間を好き好んで切り捨てるわけがない。
――ならば誰が決断した?
そう問おうとしたところで俺は察してしまった。
そして取り返しのつかないその決断にぞっとした。
いったい何と比較して俺の命のほうが重いなどと判断されたのか。
「そうしないと、ここで大勢が死んでしまうからって・・・!!」
「・・・」
そう、アレクサンドラ会長の決断だ。
そうしなければ誰しもが無事でないということだ。
会長が最も効率が良くなるように差配した。
その結果がこれなのだ。
会長は自身の死さえ視て受け入れたってのか。
ほかの3人もそれを受け入れたってのか。
あの船での言葉は嘘だったのかよ。
凛花先輩と共に生きるために征くって言ってただろ。
「があぁぁぁぁ!! なにやってんだよーー!! 会長ーー!! 凛花先輩ーー!! レオン!! デイジーさん!!」
俺はその場で崩れ落ち甲板を殴った。
何度も何度も殴った。
拳が切れて血が滲んでも、痛みを感じても、それを止めることはできなかった。




