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■■ジャンヌ=ガルニエ’s View■■


 スラムに居たころは替えの服という概念すらなかった。

 いつも同じ服を着て、稀に水で洗うだけ。

 持ち物なんて持っているほうが邪魔だったから。


 あの豚貴族(オルレアン)に拉致されて。

 諜報活動の訓練を課された地獄のような数年。

 それから着替えは変装のためのもので仕事の一環だ。


 訓練を完璧にできなければ仕置きと称した体罰。

 その痛みの恐怖から逃れるために、心を無にした。

 そうして感情を切り離して動くのは当たり前。

 捕まった際の拷問への対策でもあった。


 だからお貴族様のように色々な服を持っていても愉しいと思ったことはない。

 潜入先で性的な視線に晒され「可愛い」「綺麗」と持て囃されても何も感じない。

 むしろ人間はこうも簡単に騙されるのかと失望と侮蔑を抱いたくらいだ。


 だけど。


 そんな「可愛い!」「綺麗!」という定型句を彼に言われるだけで心が躍った。

 もっと見てほしい、もっと褒めてほしい。

 何の役にも立たない服に着替えるたび、失われた自尊心が満たされ、心の底から喜びが溢れて来る。

 あたしは失われた自分を取り戻す作業に没頭していた。


 思えば弟や妹たちのことばかりで自分を優先したことなどなかった。

 すべてが打算で動き、行動原理は「生きるため」「弟妹を生かすため」。

 自分のための時間。自分のためのお着替え。

 時代遅れの偏見なんて知ったことじゃない。

 あたしがあたしを作る時間。

 それを手助けしてくれる彼に、それを教えてくれたあの人に、今日も感謝の祈りを捧げた。


 そして、今日はこの環境を与えてくれた姉貴に呼び出された。

 姉貴から個別の話があるなんて珍しい。

 あたしにできることなら何でもやろうと思った。



 ◇



 高天原学園の寮の裏に作られた庭園。

 姉貴が手塩をかけて育てたこの庭園は学園生徒に好評だ。

 緑が多いこの学園でも、さすがに手の込んだイングリッシュガーデンはない。

 慎ましい大きさでありながら、目を奪う大胆な色使い。

 この庭園は姉貴の華麗さをよく体現していると思う。



「そっか。あたしの因縁を断つってことね」


「ええ。本来であればわたくしが陣頭指揮を執るつもりでしたが・・・」



 身を喰らう蛇(ウロボロス)の暗躍がこの学園にまで及んでいる。

 あたしがその最たる例で、その後も姉貴の暗殺未遂や、先日の闘神祭の件もある。

 どうしてキャメロットではなく高天原学園を目の敵にするのか。

 その答えも本拠地にあるだろう、というのが姉貴の見立てだった。



「勿論、あたしに任せてくれていいよ。姉貴に貰ったものはそのくらいじゃ返せないから」


「ふふ。わたくしは手配したに過ぎませんわ、過剰に心酔なさらないでくださいませ」


「ううん、ほんとに感謝してる。今、あたしは自分を作れるのがとっても楽しいの」



 今の自分を見て、心の底から浮かべる笑顔。

 諜報活動で浮かべる張りぼてのそれとは無縁な表情に、姉貴も口元を緩めてくれた。

 輝く金色の縦ロールに金色の瞳。

 まるで絵本の中のお姫様のような微笑みだった。



「良いお顔ですわ。わたくしも嬉しい限りです」


「それで。姉貴はアイツのところへ行くんだよね?」


「ええ、誓いましたから。彼の剣となり盾となると。仮に今のように彼にとって不都合であろうとも、お傍を離れるわけにはまいりません」


「あ~あ、アイツも馬鹿だよなぁ。こんな素敵な姉貴がいるのに逃げてばっかりで」


「ふふ、逃げられれば追いたくなる、それが燃えるのですわ」


「姉貴のその気概、尊敬するよ」


「・・・そういう貴女は彼のことはもう良いのですか?」


「あたし? あたしはもうリアムでいっぱいよ。1番同士。アイツも好きだけど高根の花だしね」


「そう、踏ん切りもついた様子ですわね。改めておふたりを応援させていただきますわ」



 にこりと肖像画にしてしまうのも勿体ない笑顔を向けてくれる。

 姉貴の祝意に心が温まった。

 あたしが欲しかったのもがここにある。

 この場を守るためならなんだってするつもりだった。



「ねぇ姉貴」



 姉貴の指示で気になっていることがあった。



ゴミ屑(やつら)を完全に掃討するのは難しいと思う」


「あら、ジャンヌ様を以てしてもですか?」


「謙遜じゃなく勘なんだけどね。狡猾というよりも先を読まれる感じ」


「どうしてそう感じますの?」


「あたしさ、何度かあたしや姉貴の様子を見に来てる奴をヤッてるの」


「・・・それは、報告が欲しかったですわ」


「ごめん。始末はできたし騒がすようなことでもなかったから。でね、そいつら、やたら勘が良いんだよ」


「勘が良い?」


「うん。あたしが気付いて到達する経路がわかって逆を行くとか、罠を仕掛けてるとか」



 姉貴が驚いている。

 姉貴はあたしが諜報員として工作も優秀だと知っている。

 身のこなしが日本の忍者と遜色がないレベルだということも。

 そのあたしが苦戦するという話なのだから。



「ま、あたしに近付いた時点でアウトなんだけど。でも通信は止められなかったの」


「情報は漏れている、と」


ゴミ屑(やつら)司令部(ブレーン)にキレる、というか、先を読める奴がいるんじゃないかな」


「先、というと未来視ですの?」


「うん、たぶん。それなら幾つか説明がつくこともあるんだ」



 実際、死ぬ間際までの情報を端末に打ち込んでからあたしに刺された奴がいた。

 気付いて抵抗もしないなんて、いつ自分が死ぬかを知っているかのような行動だ。


 十分に警戒してこちらの動きを一切、わからないようにしているのに、逃げることが多い。

 それがいちどなら単に用心深い奴だった、偶然だと言える。

 でも数回、同じ状況を見るとそうとしか思えなかった。



「なるほど。彼ら(・・)が細かな指示をしているという話はありましたの。合致しますわ」


「うん。だから完全には無理だと思う。でも拠点を破壊するならできる」


「それで構いませんわ。身内に爆弾が無くなるだけでも僥倖というもの」



 何度か頷く姉貴。この方向性で良いということだ。



「じゃ、リアムは連れてくよ。武が帰ってくるまでだよね? このターゲットの数なら2か月あれば十分」


「お願いいたしますわ。・・・折角のお勉強の機会をお邪魔してしまい謝罪いたします」


「やめてよ、そんな他人行儀なの」


「いいえ、身内だからこそ礼を尽くす。そういうものですわ」



 姉貴のような公爵令嬢という身分の人が頭を下げる。

 日本人でもない姉貴は、その意味するところを知っているはずなのに。

 そんなこと、姉貴にしてほしくない。



「わかった、わかったから! 姉貴の謝罪も受け取るから、頭を上げてよ」


「ふふ、慌てるそのお顔も素敵ですわ」


「~~~!?」



 揶揄われた!?

 羞恥で顔が染まるけれど、何だかそれも心地良い。

 本当に、この人と、彼と。あたしが失ったものを渡してくれる。



「あ、そ、そうだ。姉貴!」


「ふふ、どういたしましたの?」



 温かい目であたしを見守る姉貴。

 取り繕うような雰囲気になったけれど、言っておかなくてはいけないことがあった。



「あのさ。怒らないで聞いてくれる?」


「何でしょう? わたくし、怒りで我を忘れるようなことはございませんのよ」



 嘘だ、と突っ込みたくなるけど、それはアイツのノリ。

 姉貴はこのままでいてほしい。



「アイツのことなんだけど」


「武様の」



 平然としている態度の姉貴だったけどぴくりと表情が動いた。

 やっぱり、アイツの話題には弱い。



「冷静に聞いてよ? 入学式の後、自己紹介して皆でアイツのところへ行ったじゃん?」


「ええ、参りましたわね」


「あたしさ、どうして漫画のネタになりそうな展開になったのか不思議だったんだ」


「まぁ、どうして? 武様が特段、優れていらっしゃる証拠ですのに」


「それ、それ。あたしもアイツのことが気になったのは確かなの」


「ふふ、奇跡のようなものと受け止めることはできませんの?」



 思い出しながら、嬉しそうな表情を浮かべる姉貴。

 うん、それで終わるならそれで良いんだ。



「あたしさ、何でも疑ってかかる性格なんだよ。こうして諜報やってるから」


「よく存じ上げておりますわ。今のように素直になられたほうが、もっと楽に生きられることも」


「も、もう! そうじゃなくて!」



 暗にリアムとの関係を持て囃してくる。

 また顔が赤くなってしまう。

 もう、どうしてこんなに表情に出ちゃうようになったの!?



「アイツに、皆が同時にアイツに惹かれたなんておかしいんだよ!」



 あたしのこの言葉で、姉貴はすっとにこやかな表情を仕舞った。

 真顔であたしに向き合っている。

 ・・・怖い。

 けど、言わなくちゃ。



「よく考えてよ? 姉貴だけが気になる、あたしだけが気になる、それならわかる」


「ええ」


「でもさ、4人同時だよ? 冷静に考えておかしいよ」


「・・・そのことも食堂での話し合いで武様がご指摘してらっしゃいましたでしょう」


「アイツの魔力が見えるってことでしょ?」


「ええ。例えあのときでなくとも、わたくしが声をかけるのは時間の問題でしたわ」



 姉貴は自分の行動を肯定している。

 過去の追認は自身の思考の裏付け。

 それは自我を、自信を保つ意味で、皆が無意識にやってしまうことだ。



「あたしは違うと思ってる」


「どう思われておりますの?」


「・・・何か知らない力が働いたんじゃないかって」


「荒唐無稽ですわ。あの出会いが人為的なものと?」


「うん。でも、無理やりに意識を向けさせられたような気がしてるから」



 恐らく6人の中であたしがいちばん、アイツから遠い。

 理由はわからないけど、きっと最初は敵対していたから意識を背けていたせいだ。

 だからこそ思う。

 当初、あたしは誰にも気を許していなかった。

 だから親しいのもフリだったし、周囲に同調したのもそれを隠すためだった。


 なのにいつの間にか本当に惹かれていた。

 魔力的な相性があるというのは聞いたことがある。

 でもそれは波長が偶然に合致した場合だ。

 SS協定の6人、全員の波長と一致したなんてありえない。

 その理屈ならあたしたちも互いに同じくらい惹かれ合うはずだ。



「・・・なるほど。ご指摘は理解いたしました、意識には留めておきますわ」


「ごめん、変なことを言って」


「ですがジャンヌ様、これはご理解ください」



 姉貴はずい、と身を乗り出してあたしに顔を近付けた。

 その綺麗な金色の瞳に吸い込まれそうになる。



「たとえそれが何者かの思惑であったとしても。わたくしが武様と過ごした日々は偽りではございませんわ」



 あたしは頷くしかなかった。

 口調は静かなのに、その気迫で押さえつけられたようだったから。



「そして武様が何度もわたくしを守ってくださった事実は揺るぎませんもの」



 それは確かめるように、言い聞かせるように。



「どのような理由であれ、それらは武様がわたくしにお気持ちを向けられた証ですの」



 ◇


■■京極 武’s View■■


――23階


「狙いは足の付け根だ。片側をぜんぶ落とせば良いはずだ!」


「よし任せろ!」



 俺のガイドで凛花先輩が飛び出す。

 巨大な蜘蛛の化け物の足が、順次打撃によって吹き飛んでいく。

 全身を甲殻で覆われているが、機動力がなくなれば大した脅威ではない。


 すぐに行動不能となった魔物に凛花先輩がとどめをさす。



「だんだんと敵が巨大化してきたな」


「まだアタイが投げ飛ばせる重量だ、数が少なけりゃ問題はない」


「え・・・こういうのが複数出るようになんの?」


「アタイが澪に引っ張りまわされたのは35階だぞ。このサイズがたくさん出る」


「えええ!?」





 明け方、凛花先輩と俺が見張りの時間帯。

 彼女とは他愛もない話をすることが多い。

 ふと、気になっていたことを聞いてみることにした。



「なぁ凛花先輩。会長とは1年のころから知り合いだったのか?」


「ああ。アレクには昔から世話を焼いてもらってた」


「世話?」


「ほら、アタイは歓迎会でやられて裏庭で寝るようになっただろう」


「それであの定位置を確保したんだよな」


「ははは、通っていたら誰も来なくなったからな」



 そりゃまぁ、鬱々とした人がいる場所なんて行きたくないだろう。



「そうしてしばらくしたころ、アレクがアタイに会いに来たんだ」


「へぇ、会長が?」


「あのころはまだ固有能力(ネームド・スキル)を覚醒していなかったし、アタイもアトランティスへ遠征する前だった。お互いに正体も知らない同士だ。純粋にアタイに興味があったんだろうな」


「会長は何をしに?」


「寝そべってるアタイの横に立って、挨拶もなしにいきなり『答えろ。君が背負った罰は、いったい誰の罪なのか』ってな」


「ほんとにいきなりだな」


「その問には答えられなかった。アレクもそれ以上は言わず、しばらくして帰った」


「ほー」



 話だけ聞くと何をしに来たんだよって感じだな。



「それからだな、アレクがたまに来るようになった」


「へぇ?」


「やれ、こういう課題が出たとか、演習があるとか。進級に必要な最低限のことをアタイにやらせようとしてね」


「世話焼きだな。凛花先輩はどうしたの?」


「一緒にいるのが嫌だから裏庭にいるんだぞ? なのに来いって言われてもやるわけないだろう。ぜんぶ、突っぱねてやったよ」



 ははは、と凛花先輩が乾いた笑いを浮かべていた。



「アタイは『深淵の瞳』で覚醒しなかったんだ、ずっとサボっていたからその授業を受けなかったからな」


「歓迎会の後からずっと裏庭にいたのか」


「ああ、どうにでもなれと思っていた」



 涼しい顔をしたまま凛花先輩は続けた。

 言葉どおり、どうでも良いと思っていたんだろう。

 皆から疎まれていたんだ、自棄になる気持ちはよくわかる。



「アレクは覚醒してからも態度を変えなかった。アタイと関わるとどう未来が変わるのかを視なかったんだろう」


「凛花先輩が居ない未来は視なかったってことか」


「たぶんね。でもその時点でアタイは完全に落ちこぼれだ」


「まぁ、何もやってなかったもんな」


「それでもアレクは来た。だからあるとき言ったんだ、どうして相手もしないこんな落ちこぼれのところに来るんだって」


「うん」


「なんて言ったと思う? 『私が君を利用するためだ』ってな」


「・・・そりゃまた、すげぇ表現だな」


「そんな露骨な言い方じゃこっちもカチンとくるだろ? これ以上、アタイから何を奪うのかって怒鳴ってやったよ」


「ふむ」


「そうしたらいつもの澄ました顔で『奪うのではない。私の学園生活を彩るには楊 凛花の存在が私の隣に必要不可欠なのだ』って言いやがってさ」


「すげぇ言い方だ・・・」



 思い浮かべる凛花先輩の口元は緩んでいた。



「アレクの奴、冗談なんて言わないだろ?」


「うん。真面目な姿しか見たことがない」


「あいつはいつも本気で、アタイみたいに不器用なやつなんだよ。それしか人付き合いの方法を知らないんだ」


「・・・」


「アレクは他のやつみたいにアタイを蔑んだり文句を言ったりしなかった。だからその言葉が悪い意味じゃないことはすぐわかったんだ」


「ふむ」


「それがわかるようになってからは、アタイはアレクに言われたことはこなすようになった」



 本気でぶつかってくる相手だから、凛花先輩も心を開いたってことか。



「不思議だな、会長はどうして最初に凛花先輩の面倒を見ようとしたんだろ?」


「アタイにはよくわからない。最初に聞かれたあの質問に意図があるとは思うけれど」



 凛花先輩は頭の後ろで手を組んで天井を見上げていた。



「とにかく、そうやってアタイのところへ来てね。たまにぽつりと言うんだ『いつか必ず原罪を清算する』ってな」


「『原罪』か。そんなん、あの宝珠を最初に使った連中のもんだろ」


「ああ。誰でも1年間も抑圧されれば、抑えられて鬱屈した部分を他に向けたくなる。それを受容し止めなかった歴代生徒会の置き土産だ」


「迷惑な話だよな。んな統制されなくても自分を鍛えられるってのに」


「まったくだ。でも影響を受ける側から誓約を破ること、例えば宝珠を破壊することはできない」


「そうなのか」


「1年生の段階で全員が誓約の影響を受けてるだろう。だから誰にも破壊はできなかったんだ」


「あの玉、いつかぶっ壊してやろうと思ってたのに・・・俺にも無理ってことか」


「ははは、できるならアタイがやってるさ。でもアレクはそれを諦めなかったんだ、方法があるはずだって」


「・・・すげえな」


「ああ、アレクは凄い。そのために生徒会長にもなった」



 そんな理由で生徒会長に・・・。

 会長は喫茶店で話したときに俺が「打ち破った」と言っていた。

 それは、この慣例の負の連鎖を、『原罪』を終わらせたという意味だったのか。



「歓迎会で解放されてからだな、アレクがアタイを引っ張りまわすようになったのは」


「あの勉強から逃げてたやつも?」


「『先ずはその頭脳で、勉学で見返せ』ってよ。正直、澪に連れられてここで見た地獄より酷かった・・・」


「はは、会長に缶詰にされりゃ厳しそうだよな」



 ゲンナリした様子で言う凛花先輩。

 それでも楽しそうに語っているのはそういうことなんだろう。



「ところでさ、凛花先輩はアレクサンドラ会長のことをどうして好きになったんだ?」


「あ~・・・不器用なところ、だな」


「不器用なところ? 冗談が言えないってやつ?」


「う~ん、それじゃなくてだな。ほら、アレクは先のことがわかるだろ?」


「うん。視てるって言ってるな」


「だから不器用なんだよ」


「?」



 俺が疑問符を浮かべていると凛花先輩はちょっと照れ臭そうにしながら話した。



「視えるから、何でも最善手を尽くそうとしてしまうんだ」



 それはまぁ、先が見えるならそうしてしまうだろう。



「考えてもみろ。最善手しか取れないんだ。その結果がわかってしまうから」


「・・・そいや、会長がゆっくりしてるところなんて見ないな」


「そうしなければならないと、自分で自分を縛ってるんだ、あいつは」



 未来のことがわかる。

 それが自分の行動を縛る。


 かつて、未来のシナリオを知っている俺自身がそうだった。

 そして俺はその呪縛で自分を壊しそうになったこともあった。

 だからサボタージュする言い訳を作り、何もしない時間を作るようになった。

 香との逢瀬だってそのひとつだ。



「そうしてさ、自分のためだけじゃない、人のために未来を創ろうとしてる」


「うん、凄いよな。俺もそこを尊敬してる」


「それで、そんな懸命に思い描く未来に、アタイを中心に据えてくれてるんだなって思ったらさ」


「・・・なるほど」



 そこでニヨニヨしている凛花先輩。

 そうだよな、強く想ってくれるってわかると、コロっていっちゃうのはわかる。

 共鳴せずにそれを感じたんだから猶更なんだろう。


 アレクサンドラ会長も凛花先輩も、互いの話になると「中学生か!」と突っ込みたくなるくらい奥手になる。

 互いに凡人にはない実力もあり、互いの凛々しい姿も知っている。

 だからこそ、その姿を崩して幻滅されるのを怖がっているフシがあるからだろう。

 この世界で、こうじれったいのを見るとは思わなかったよ。


 このふたりを応援したい。

 戻ったらできるだけ便宜を図ろうと思った。






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