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 薄く緑がかった石廊が続く。

 浅い階層は無機質な白黒の石だった。

 階層が深くなるにつれ石の色が変わるのもアトランティスの特徴だ。



亲爱的武(ダーリン)! 右手は任せるぞ!」


「りょーかい!」



 凛花先輩の掛け声で俺は飛び出した。

 俺の相手はミノタウロス2匹。

 体長3メートル近く、その背丈ほどもある斧を振り回す2足歩行の牛の化け物だ。

 浅黒い上半身の裸体に筋肉がくびれを作っており怪力であることが覗える。

 一般人があの斧に当たれば即死だ。

 もちろん俺も例外じゃない。



「うへっ!? あっぶね!!」



 飛び出した俺を待ち構えた2匹が交互に振り回す斧を何とか躱す。

 がきんどごんと斧が地面や壁を打ち鳴らす凶悪な効果音に背筋が冷える。

 絶対に当たらないよう余裕をもって大きめに回避する。

 動きが鈍いやつらなので壁を蹴って切り返し天井を駆けて方向転換。

 あまりの曲芸具合に自分で気分が悪くなるほどだ。


 疑似化で身体を強化しても判断力や反射神経まで早くなるわけじゃない。

 それには凛花先輩のように長年の修業が必要だからだ。

 俺ができることは人外となった身体の能力を単純に振り回すだけ。

 だからこういうアクロバティックな動きをしているとジェットコースター気分だ。



「くらえ!」



 3度目の壁蹴りで方向転換をして、1匹の顔目掛けて飛び蹴りを繰り出す。

 攻撃には丹撃を乗せる。乗せないと魔物にはダメージが通らない。

 死角からのそれを鈍重なミノタウロスが躱せるわけもなくクリーンヒットする。

 ばきりと骨が砕ける音がした。



「bumoooooo!!」



 悲鳴を上げて倒れるミノタウロス。

 仲間がやられても魔物は怯むことはない。

 残りの1匹は問答無用でやられた仲間ごと切り裂くよう俺に向かって斧を振り下ろした。

 目の前に鋭い刃が迫る。



「うおおぉっっち!」



 ぎりぎりで横に飛んで壁蹴りで躱す。

 危なすぎる!

 切り返した勢いで膝裏へ蹴りをお見舞いする。



「bumobumo!?」



 体制を崩して倒れるミノタウロス。

 今度は天井へ飛び上がり、天井を蹴って加速しながら倒れたそいつの頭へ足を振り下ろす。

 べこん、とちょっと嫌な感触がする。

 2、3回身体をびくびくとさせ、断末魔もなくミノタウロスは絶命した。

 2匹とも1分もしないうちに粒子になって霧散し始めた。



「やるじゃないか、さすが亲爱的武(ダーリン)


「やっぱ怖ぇよ。当たりそうで」


「そうですか? ワタシから見ても余裕そうでしたよ」



 自分では回避がギリギリな感覚だけど、傍から見ると楽勝。

 あの回避が「楽勝」と思えるくらいに慣らさねえと余裕で闘えねぇんだろうな。

 つかデイジーさんも闘いのセンスあるのね。

 聖女様と同じく戦闘力のない護衛対象として扱っていたのに。

 俺だけかよ、弱いの。


 俺が戦闘に参加するのはこれで3回目。

 自分の経験不足を改めて悟る。

 なんとか魔物を倒せるようになったけど、まだまだ抵抗が強い。

 蹴り飛ばした感触とかなんか残ってて気持ち悪いままだ。

 生き物の屠殺経験なんて、都会暮らしの一般人にあるわけもなく。


 せめて武器が欲しい。

 転移とか転生モノで平然と生き物を殺せる奴が羨ましいぜ・・・。


 というか。

 そもそも当初は自分で戦うつもりはなかったはずなんだが。

 いつの間にどうしてこうなった?



「ああ、今日は闘ってばかりだな。さすがにちょっと疲れたぞ」


「もうすぐ18時だし次のポイントでビバークするか」


「余裕の維持がベストだと思います」



 ビバークするポイントは地図上に記されている。

 最悪の事態の避難場所、という意味で。

 俺たちはそれをキャンプ場適地として利用していた。



「先に定時連絡するから準備しといてくれよ」


「はぁい。お待ちしております」



 まぁ野営と言っても火も起こさないので寝袋とか食べるものを出すくらい。

 人に任せても心が痛まない程度の内容だ。

 俺はPEで本部との通信回線を開いた。



『101隊より本部、応答せよ』


『――こちら本部だ。101隊』


『1800報告だ。今日も順調で、今19階の途中だから明日には20階に到達する見込み』


『想像以上の速さだな。楊 凛花だけでなく君のバックアップもあるのだろう』


『ああ、今朝から戦闘に参加するようになったよ。敵もしぶとくなってきた』


『何度も繰り返すが身の安全を第1に考えるのだ。絶対に無理はするな』


『わかってるよ、生き残るためにやってんだし』


『慣れた頃合いが最も危険だ。特に今日のように役割が変わった少し後などな』


『了解、意識しとく。そっちはどうだ? 動きはあったか?』


『特に情報は入っていない。彼らに関することであれば随時、連絡をする』


『ああ、頼むよ。とにかくあいつらとは接触しねぇようにしねえとな』


『・・・一刻も早く君が発見してくれれば事は済むのだ。この調子で深い階層を目指してくれ』


『はいよ。でも30階以下の未踏なんて行きたくねぇんだよなぁ~。途中でピックしねぇかな・・・』


『今更、泣き言を口に諦めるか? 君とは生死をかけて一蓮托生なのだぞ』


『わーってるよ。こんだけお膳立てしてもらって成果なしのつもりはねぇ。絶対に手に入れてやる』


『うむ。こちらも事態が動いたら随時連絡する』


『わかった、頼むよ。そんじゃまた明日、通信終了(オーバー)



 通信を切る。

 あいつらが動かない?

 修行と称し高天原学園を後にして約半月。

 見え透いた嘘すぎたけど、思ったよりも時間が稼げたか?


 もうとっくに気付いて行動してると予測していた。

 勘の良いソフィア嬢なら到着してる可能性もあると思ったのに。


 それとも下準備とかであれこれやってたのかな?

 こうして傍を離れてみると動向がわからなくなるのが不安だった。



 ◇



 ラリクエ(ゲーム)でもそうだったが、迷宮は潜るほど魔物もアーティファクトも質が上がる。

 迷宮がある場所には魔力溜まりがある。

 発生源に近づくことにより魔力濃度が上がるせいだろう。


 このへんはダンジョン探索ものと性質が似ているので納得できる現象だ。

 ほら、ゲームなんて進めば進むほど敵も装備も拾うアイテムも強くなるじゃん?

 アトランティスの場合、大陸が巨大な魔力溜まりみたいなものなんだろう。


 それはそうと、この迷宮。

 深層にダンジョンコアみたなものがあったりするんだろうか。

 勝手に再生するくらいだから何かあるんだとは思う。

 でも最深部なんて到達できてねぇからわからん。


 命を賭けている状況で無理して行きたいとも思えねぇ。

 あのフェイリム=クラークとミア=クラークでさえ途中で力尽きたんだ。

 ゲームと違ってチートがあると言っても過信なんぞできん。


 ただなぁ・・・。

 会長に言われた「キズナ・システム」が存在しない可能性。

 共鳴という現象があるのだから「キズナ・システム」が不要だという指摘。

 俺の戦略に不安をもたらす要素が怖い。

 無いなら無いでレアアーティファクトを狙うしかない。

 潜ればレアの確率が上がるのだから、そういう意味で深くへ進んだほうがよい。


 仮に「キズナ・システム」が無いとするなら。

 主人公連中と共鳴しないようにするという俺の戦略が間違っていたことになる。

 ああでも、仮にそうだとしても主人公連中同士で共鳴してもらったほうが良いに決まってる。

 俺が凛花先輩以外の人と組んだ時点で、俺は固定砲台なのだから。

 やはり戦いに素人の俺が陣頭に立つイメージが湧かねぇ。


 そもそも俺はモブだ。

 学園生徒みたいに頭がキレるわけでもない。

 気合で知識を詰め込んだだけの一般人だ。

 主人公連中みたいに基礎的な身体能力が高いわけでもない。

 どんなに頑張って筋トレして走り込んでも基礎能力はやつらが高い。

 モブ同士である凛花先輩やアレクサンドラ会長と比べてもさえ俺の能力は劣る。

 聖堂で修行を積んだ聖女様やデイジーさんのように白魔法の練度も高くない。


 自分が世界戦線で、魔王討伐のどこで役立つのか、まったく想像ができない。

 身体再生(ヒーリング)を活かして後方で補給や兵站を担当するほうがしっくり来る。

 だったら戦闘経験なんて死なない立ち回りの訓練、程度の意味しかない。


 ともすれば、ここの探索は何のためにしているんだ?

 深く潜って有意義なアーティファクトを拾うくらいしか価値はない。

 俺の最高記録の40階よりも下で、俺の知らないものを探す・・・?


 ・・・。

 そうして俺は考えるのをやめた。

 自分の行動すべてを否定できるほど、自分が強くなかったからだ。



 ◇


■■小鳥遊 美晴’s View■■


「――先輩、元気そう。良かった・・・」


「ああ。聞いてのとおり今のところトラブルもなく順調だ」



 私は通信機の前で、アレクサンドラさんと先輩の定時報告を聞いていた。

 先輩の声を聞き、安心感とともに妙な高揚感が私を支配している。


 アトランティス大陸へ向かうという時点で夢物語のように思えていた。

 でもこうしてこの地に降り立ってようやく実感が湧いた。

 もう、どうしようもない現実として私の前途が迫ってきていることを。



「しかし彼らはすでに地下20階近い。今から追いつくのは至難の業だぞ」


「でも、迷宮の罠や魔物が復活するまでは時間がかかるんですよね?」


「ほう、よく勉強しているな」


「レオンさんに教わりましたから。その間なら追いかけるのも楽だろうって」



 隣に立っているレオンさんに視線を向ける。

 レオンさんがこくりと頷いてくれた。



「罠や魔物の復活は早ければ1週間、遅ければ2週間程度。軌跡を辿るならばまだ追いつける」


「あとは私の体力がどのくらい持つか、ですね」



 こっそり護衛をお願いしたレオンさんは色々動いてくれた。

 ここに来るまでの船の手配も彼の力だ。

 「約束を違うことはない、武のところまで一緒に行こう」と。

 彼には頭が上がらない。



「アレクサンドラ、最終確認だ。ほんとうに美晴を連れて行って良いのか?」


「構わない。必要なことだという私の判断だ」


「そうか。では美晴、迷宮が復帰を始める前に可能な限り急いで駆け抜けるぞ」


「はい!」



 道中、レオンさんに喫茶店での話、聖堂での話をすべて伝えた。

 私の拙い話し方を、ずっと口を挟まず頷くだけで聞いてくれて。

 ひととおり話し終えるとレオンさんは難しい顔をしてから、深い溜め息をついた。

 話したことにお礼を言われ、そしてひとこと。

 「あいつに言いたいことがある」と。

 その言葉に込められた想いが、言葉以上であることはすぐに察することができた。



「そうだ、小鳥遊 美晴。君にこれを」



 アレクサンドラさんが白いお札のようなものを私に手渡してきた。



「これは?」


「『姿隠しの護符』というアーティファクトだ。名前どおり魔物から感知されにくくなる」


「あ、ありがとうございます!」


「レクチャーどおり補給と警戒は怠らぬこと。適度な休息もだ。長丁場だと忘れるな」


「はい!」


「レオン=アインホルン。彼女のことを頼んだぞ」


「言われずとも。武の横面を1発、殴ってやらねば気が済まないからな」


「ふふ。京極 武も良い友を持ったものだ」



 アトランティスの迷宮入りにあたり、私は半日ほど指導を受けた。

 なにせ戦うこともできない素人が迷宮入りしようというのだから。

 魔物や罠の避け方、身のこなし方。

 PEへのアプリのインストールと使い方。

 食糧や衛生面の対処法など。

 生き延びるために必要なことは山のようにあった。


 私が得られたのは最低限の知識と、物資と、装備だ。

 持っていけるものは少ない。


 危険な、無謀なことという自覚もある。

 しかも私にとってしか意味のないことかもしれない。

 それでも進む、あの人の隣まで。そう決めたから。



「小鳥遊 美晴よ」


「はい」


「その・・・死ぬな。安易に魂を手放してはならない」


「? あはは、先輩のところへ、皆で生きるために行くんです!」


「そうだな、そのとおりだ。我々は仲間だ、友達だ。必ず全員で生きて帰ろう」


「ああ、美晴、俺たちと武たちと、共に日本へ戻るぞ」


「はい! 頑張りましょう!」



 含みのある言い方が気になったけれど、アレクサンドラさん特有の言い回しかな。

 気合が入るよう元気に返事をした私はレオンさんと本部を後にする。


 これから踏み入る場所はレジャー施設じゃない。

 私が自分で選んだ、先輩と同じ過酷なステージの入り口だ。

 もういちど、自分にそう言い聞かせて。

 文字や映像でしか知り得なかったあの迷宮へ、とうとう私は足を踏み入れた。



 ◇


■■玄鉄 結弦’s View■■


「出雲へ?」


「ええ、最寄りの深い魔力溜まりがそこにあるの」


「魔力溜まりで何をするんだ?」


「調べたいことがあるのよ。闘神祭の事件に関わることなの」


「あの魔物が湧いて出て来ていた現象を検証するのか?」


「そう、だから魔物と遭遇する。闘神祭で守ってくれた貴方の実力を買いたい」


「なるほど、それで護衛を」


「具体的な場所は蹈鞴(たたら)の里、と言えばわかるかしら」



 蹈鞴(たたら)の里。

 親父から聞いた覚えがある。

 出雲の山奥にある、日本書紀に描かれる神話時代の鍛冶師の一族。

 何で聞いたんだっけ・・・銀嶺に関することだったと思う。



「ほんとうは3年生に依頼したかったのだけれど、生憎、出征中でしょう」


「武なら何とでもしてくれそうだけどな?」


「知ってのとおり彼は修行中。急ぎの用なの。地勢に理解のある日本人だと貴方しかいなくて」


「それでオレに。わかった、澪先輩からの頼みなら断れない」



 聖堂に呼び出されたと思ったらこの護衛の依頼。

 そもそも日本国内で護衛なんて必要ないと思う。

 特に澪先輩のような実力者には。

 それでもオレに頼むというのだから相応の理由があるんだろう。



「ところで、日本人同士なのにどうして世界語で話してるんだ?」


「世界語は聖堂で認定した公用語でもある。聖句も世界語で綴られているから、聖堂の司祭はよほどのことがない限り世界語で話すことになっているの」


「へぇ、そんな縛りもあるのか」


「・・・2か月も授業を受けられなくしてしまうのは心苦しいのだけれども」


「はは、それは武の奴も同じだろう? 同じ条件のほうがやりがいもある」



 不利な状況を覆す武の行動。

 オレにもそれができるはずだ。

 勉学が2か月くらい中断したところで武よりは有利なのだから。


 ぬるま湯で満足する生活は終わりにしたい。

 少しでも自分を追い込める状況を作りたかった。

 このあいだの失態を繰り返さないためにも!



「これは聖堂として必要なことだから、正当な報酬も支払うわ」


「お、それは有難く貰っておくよ」



 ちょうど仕送りだけでは足りないと思っていた。

 アルバイトという意味でもちょうどいい。



「ところでよく知らないから教えてほしいんだ。聖堂って何を信仰してるんだ?」


「聖堂の信仰は白の魔力。魔力そのもの。これを守ることを至上とする」



 澪先輩は両手を胸の前で組み祈るように言った。



「純粋無垢な魔力は白。その純粋さを信仰するのが聖堂の信仰」


「魔力そのものを・・・」


「既知の宗教で例えるならゾロアスター教の炎を神と見立てて崇拝するものが近いわ」


「なるほど」



 ゾロアスター教については調べたことがある。

 唯一神のアフラ・マズダの仮の姿を炎として崇めるという。

 聖堂ではそれが炎から白の魔力になったという理屈は理解できる。



「すると唯一神のような存在があるんだろう?」


「いいえ、神として崇めるものはないわ。あるとすれば世界そのもの」


「え? 世界を?」


「そう。強いて挙げるなら我々が世界の意思と呼ぶ、覚醒のときに聞こえるあの声を神と呼ぶ者もいる」


「あの声が・・・世界の意思」



 あれは『深淵の瞳』の声だと思っていたけれど。

 そうではないということなのか。



「そもそも白の魔力を扱う者が存在することが世界の意思と言われている」


「・・・確かに、アルビノみたいな突然変異とは違う気がする」


「ええ。4属性とは異なり、白の具現化(リアライズ)を使うために必要なことがあるのだから」


「必要なこと?」


「宗教ではよく悪魔と呼ばれる存在があるのはご存知?」


「ああ、ゾロアスター教で言えば破壊神(アンラ・マンユ)みたいなやつだろ」


「そう。往々にしてそういったものは例え。人間の心の弱さを体現したような存在」


「悪魔が囁いて人間が悪さする、というやつだね」



 ゾロアスター教も破壊神(アンラ・マンユ)を筆頭とする7大悪魔がいた。

 キリスト教やイスラム教も悪魔(サタン)がいるし、神道だって悪さをする神がいる。



「白の魔力はそういった負の情に流されては扱えない」


「扱えないって?」


「・・・例えば、貴方のように身体に色が刻まれた人は無意識に属性魔力を扱える」


「ああ、うん。感情なんて関係ないな。オレの風の魔力と、これを増幅するための感情論はやったけれど」


「その増幅方法がまさに感情の話。感情こそが魔力に色を付ける要因なの」


「・・・? そうするとオレの風属性は、オレ自身に感情があることにならないか?」


「それは生まれ持った性質だから感情とはまた異なる。これは魔力へ働きかける方法の話」



 澪先輩はティーカップに口をつけた。

 オレもそれに倣って喉を潤す。

 芳醇なアールグレイの香りが鼻腔をくすぐる。



「白の魔力は身体によりその色付けが為されない。だから感情を乗せないと具現化(リアライズ)しない。乗せるものが負の感情でもいけない」


「もしかして畏怖(フィアー)も?」


「ええ。攻撃的な畏怖(フィアー)でさえ、相手の心の傷を癒す意識をもってする」


「あれが!? ・・・信じられない」


「相手の精神増幅と記憶の再現が元になるからね」



 清純そうな澪先輩がよく脅しに使っている畏怖(フィアー)

 まさかそういった感情が裏にあるとは。



「話を戻すと、白の魔力は人間の正の感情を扱えることが前提なの」


「・・・そうすると白の魔法使いは、全員が真っ当な精神の持ち主ってこと?」


「そうなるわね。でも感情と行動が伴っていない人なんていくらでもいるわ」



 まぁそうだろう。

 殺傷に快楽を覚えるような奴なら、善意をもって人を殺めることもできる。



「聖堂がそういった高潔な人の集まりだってことは理解できた」


「そう。なら私のことも少しは信用してもらえるのね」


「澪先輩のことは最初から信用してるよ。武を鍛えてくれる人だしね」



 少し天邪鬼な彼を。

 入学時には闘いの素人だった彼を、あそこまで鍛えたんだ。

 それだけしっかり面倒を見てくれる良い人だっていうのはよくわかっている。



「認めてもらえるのは嬉しいけれど、そう鵜呑みにしないことも大切よ。さて、それじゃ出発の準備を至急、お願いね」


「え? 至急って、いつ出発するんだ?」


「今すぐよ」


「えええ!?」



 無表情の澪先輩にそう告げられ、オレは早々に諸々の選択肢がないことを悟った。







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