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■■小鳥遊 美晴 ’s View■■


 ぼんやりと意識が戻る。

 知らない天井・・・いや知ってる天井。

 ここは保健室だ、高天原学園の。

 あれ?



「ん・・・」



 身体を起こす。

 寝起きの気怠い感じはするけど平気そう。

 身体は動く。怪我はしてない。

 私、どうしたんだっけ。



「みーちゃん、おはよ」


「響ちゃん」



 隣のベッドに響ちゃんが座っていた。

 私と同じように布団を膝にかけた格好で。



「あたしもさっき起きたとこ」


「そうなんだ。えへへ、一緒だね」


「うんー。仲良し仲良し」



 ふたりで笑った。

 状況はわからないけどやることはやった。

 夏休み序盤に夏休みの宿題が終わってるくらいの気分だった。

 とてもすっきりしていた。



「ここ、高天原学園だよね。あーあ、お祭り終わっちゃったかな」


「むっつり先輩の世話、焼きすぎだーね」


「そっか、先輩を助けようって頑張ったんだっけ」


「うんー。むっつり先輩、あの女をぶっとばしてくれてたぜ~」


「良かった、どうにかなったんだね」



 先輩を助けるために躍起になって頑張った。

 助けたところで気を失ってしまったのを思い出す。

 うん、私の役割を果たせたから満足感があるんだ。



「ごめんね? ずっと大変なことに付き合わせちゃって」


「なんとおっしゃるウサギさん。みーちゃんのためなら苦じゃねーの」


「あはは、ありがとね」



 響ちゃんは響ちゃんだった。

 桜坂中学に入ってからずっと一緒のマブダチ。

 こうして一緒にいるだけで安心した。



「もう終わったんだね」



 こうやってのんびり寝ていられるのだから。

 きっとぜんぶ終わったんだ。

 魔物が暴れる事件もぜんぶ。

 中途で退場していたことが私が脇役だったという証だ。


 あんなに頑張ったのに先輩は今、傍に居ない。

 私の立ち位置をよく物語っていると思った。



「みーちゃんさぁ」


「うん」


「むっつり先輩んこと、好きなんだよね」


「うん」


「あたしはさぁ・・・LoveじゃなくてLikeの好きなんだ」


「え?」



 響ちゃんは気不味そうに鼻をかいていた。



「ほら、みーちゃん頑張ってんじゃん? あたし、一緒が良くて合わせてたんだ」


「そうなんだ」


「ん。あたしの1番はみーちゃんだからさ」


「・・・うん、ありがと。私も響ちゃん好きだよ」



 私と競合しないように言ってくれてるわけじゃない。

 それはすぐにわかった。

 私のために。私が好きだから、私に合わせて動いてくれていたんだ。

 ライバルじゃないから心配しなくて良いよってことだ。


 響ちゃんが一緒にいてくれたから私は頑張れたし勇気を出せた。

 ひとりだったら招待されても来ていなかったかもしれない。

 ぜんぶ、ずっと傍にいてくれた彼女のおかげだ。



「私ね。ずっと怖かったんだ。嫌われてたしひとりぼっちだったし」


「うん」


「でも具現化研究同好会で先輩に迎えられて。響ちゃんと一緒に過ごせてさ」


「うん」


「ようやく居場所ができたんだ」


「あたしもだよ」



 響ちゃんは隣のベッドを降りて私のベッドへ座った。



「粋がってるってハブられてさ。陰険な女子連中から追い出されて」



 響ちゃんは私の手を取った。

 寝起きのせいか、とても温かかった。



「みーちゃんが居てくれたから」


「うん」


「むっつり先輩はきっかけだけど、そっからずっと一緒に居てくれて」


「うん」


「あたし、ほんとに嬉しかったの」



 響ちゃんは私の身体に手を回して抱きついてきた。

 くっつくとどきどきする。

 でも心地良かった。

 とても安心できた。



「ぐすっ・・・みーちゃん・・・」


「響ちゃん」



 ぎゅっと抱きついてくる響ちゃん。

 泣いちゃった彼女の肩に手を回して。

 優しく抱くように力を入れた。


 先輩への恋慕の気持ちはある。

 でも。

 今、私の中でいちばん大きい存在。

 それは響ちゃんだった。

 響ちゃんの告白でようやく私は気付いた。


 響ちゃんの身体にそっと手を回す。

 まだ気持ちの整理ができていない。

 先輩への気持ちもなくなったわけじゃない。

 でも、何か変わるような気がしていた。



 ◇



 落ち着いてからふたりで保健室から出た。

 待っていても誰も来ないんだもの。



「今、何時くらい?」


「17時過ぎ~。お腹減った~」


「あ! 焼きそば買ったのに食べてなかったね」


「あの騒ぎじゃ~ね。仕方ない」



 楽しみに後に取っておいたら事件が起きたせいで置いてきちゃった。

 勿体なかったけど、もう諦めよう。



「ね」


「んー?」


「先輩、どうしてるかな?」


「あー、薄情だよな~。恩人のあたしら寝かして放置だぜ~」


「うんうん」



 先輩を助けたかったのは私。

 恩着せがましいことこの上ない。

 でも響ちゃんと私と、ふたりを放置したことを思えば言いたくもなる。



「あれ?」


「どーしたん?」


「まだお祭りやってる・・・?」


「ん、ほんとだ」


「あ~、あれって・・・」



 建物から出ると噴水の広場。

 植栽や花壇が荒らされた跡があるというのに。

 焼きそば屋台、エクスグランドが営業していた。



 ◇


■■京極 武’s View■■


「美晴さん、キャベツが足りません」


「どんどん切ります! レオンさん、箱ごと50個くらい持って来きてください!」


「わかった」


「九条先輩はほかの具材の補充をお願いします」


「はい」



 腕まくりをして網籠に大量のキャベツの千切りを生産していく小鳥遊さん。

 その腕前は料理人顔負けというくらいの速度。

 調理場の仕切りまでしてしまうくらいに有能だった。

 彼女がいなければこの調理場は回らないだろう。

 料理はできないが力仕事ならばとレオンは裏方を買って出ていた。

 さくらも小物の補充や洗い物など裏方のサポートをしている。



「列が100人を超えましたわ」


「あ~、ソフィアお姉さん、ロープ張ろう。引っ張って」


「承知ですの。目安の立て板をポール代わりにいたしましょう」



 工藤さんとソフィア嬢が客を誘導する。

 慌てていたソフィア嬢を工藤さんが宥めて整然と動く。

 こちらの工藤さん様々だ。


 コギャルとお嬢様とか見た目からシュールな組み合わせ。

 ソフィア嬢は見た目麗しく工藤さんも可愛らしい。

 趣味の合う人にはご褒美らしく魅せられて視線を奪われる人がちらほら。



「こっち、そろそろあがるよ! 10食分」


「もっと焼けよ結弦! そっちの鉄板なら15食はいけんぞ!」


「手厳しいな、初めてだっていうのに」


「今は言い訳よりも焼きそばだ!」


「ははは、わかってるよ」



 料理経験があり屋台を「見たことがある」と言う結弦に鉄板を任せてみた。

 そこそこ焼くことができたので焼く台を1台追加した。

 少しでも生産量をアップさせるために。



「ほら武、香。次いくわよ」


「よし!」


「おいでー!」



 ジャンヌが大量の焼きそば生麺を、俺の目の前の大きな鉄板の上に投入する。

 すぐに俺が均すと香が寄せてひっくり返す。

 それを俺がまた均す。香がひっくり返す。

 ジャッ、ジャッ、ジャッ。

 自分でもわかるくらいに香と息が合っていた。



「ふむ、『おしどり(・・・・)焼きそば』などと揶揄される訳が理解できる」


「あんたがやれって言ったんだろ!」


「借りは直ぐに返したほうが気分が良いだろう」


「ぐっ・・・そうだけど!」



 様子を見に来たアレクサンドラ会長に揶揄われる。

 それでも互いに笑みを浮かべていたのは無事に事件が収拾したことへの安堵だろう。



 ◇



 高天原襲撃事件の騒動が収まると緊急で生徒総会が開かれた。

 決が採られ後夜祭が行われることになった。

 体育館は状況が酷いのでフィールドで仮設舞台を設置しての実施。

 アレクサンドラ会長が各部署に設営指示を出した。


 だが催し物や設備が騒動で台無しになったこの状況下。

 集められる部材で楽器演奏や踊りだけでは物足りない。

 せめてお祭りっぽい雰囲気を!


 そういう意見が出て「最低限の飲食があれば」という話になり。

 奇跡的に無事だった屋台エクスグランドの稼働が決定されてから営業開始まで僅か30分。

 初日午後の活躍により推挙された俺を中心としたメンバーがその運営に当たった。

 ゲルオクの件で会長に頼み込んだ借りを返済しろという、会長のお言葉とともに。



 ◇



「武くん、できたよ」


「おし、こっちに寄こせ!」



 横で炒めていた野菜や豚肉といった具材をリアム君から受け取る。

 麺とそれらを絡め合わせ調味料を投入して。

 あっという間に30人前を焼き上げる。


 それでも追いつかない。

 なにせエクスグランドは学園に滞留する1000を超える来校者のための屋台だ。

 食堂も稼働していたけれど、人情としてお祭りなら屋台。

 1回10分50食としたって1000人分なら3時間はかかる。

 後夜祭のステージ設置や諸々の準備が終わるまでに来客者の腹を満たせ。

 時間制限付きのトンデモな指令だった。


 皆であれだけ頑張ったのに追加でそんなに拘束されんの!?

 そう抗議したけれど「君にできなければ誰にもできない」なんて言われれば断れるわけもなく。

 仕方なしに俺がやると言うと寸刻開けず皆がその手伝いをしてくれると申し出てくれた。



「できあがり!」


「よし、盛りつけるぞ」



 エプロン姿の凛花先輩。

 いつもどおり着崩している制服。

 戦闘で制服が破れたりしてるからちょっと胸元とか見えそうになっていた。

 ボーイッシュだけど見る人によっては煽情的かもしれない。

 お客の中には凛花先輩の姿で顔を赤らめる生徒も。


 闘神祭前、彼女は悪役(ヒール)として皆に認知されていた。

 そんな彼女がピンチに駆けつけて敵を倒して颯爽と去っていく。

 それを6か所の迎撃箇所でやってのけたのだ。

 悪役の座を返上して一躍、英雄(ヒーロー)扱いとなっていた。


 「凛花さんだ!」「あの助けてくれた人!」とたまに聞こえる。

 名前を呼ばれると、にかっとして軽く手を振り返していた。

 彼女の姿を見るためにここに並ぶ人がいるほど。

 それを見て、ようやく彼女の居場所ができるんだなと悟った。

 うん。あんなすげぇ人が敬遠されるなんて間違ってるからな。


 しかし格闘技を修めると手の動きや反射神経が器用になんのかね。

 トングでばばっとソバを宙に浮かせ、容器にすぽっと入れていく。

 1個5秒もかからない。それでいてほぼ等量なのだから盛り付けの達人だ。

 手品みたいに見惚れる。お客さんが「おお!」と嘆息するほど。

 ほんと規格外だな、この人。



「あれ~、京極君、ケチャップないね?」


「焼きそばにケチャップなんて使わねえだろ! マヨネーズと青のりはそっち!」


「追加トッピングは20円。お勧めは揚げ玉、唐辛子、紅生姜」



 飯塚姉妹はトッピング&レジ打ち。

 もっともレジはIDs決裁なので値段設定して渡すだけ。

 こんな調子なのに息があってるのはさすが姉妹だ。



「ああ『白の女神』様! なんて尊い!」


「ほら邪魔。終わったら会場で食べなさい」



 声をかけられても無表情でつっけんどんな対応。

 その塩対応で喜ぶ奴がいるという不可思議。

 俺だったらあんな接客みたら普通にクレーム案件。

 だのに誰からも文句を言われないあたり有名なんだろうか。

 もしかして畏怖(フィアー)による恐怖政治でもした結果が『白の女神』?

 聖女様伝説は謎が深まるばかりだった。



 ◇



 伝統ある闘神祭が中止なんて後味が悪い。

 そんな結末は在学生も来校者も望んでいなかった。


 生徒会は襲撃事件というイレギュラー対応も死者を出すことなく収拾させた。

 怪我人は救護班・・・俺や聖女様の身体再生(ヒーリング)で回復。

 人的被害はその時点で実質的に無くなった。

 後夜祭の実施は学園祭が学園祭として終わるための儀式とも言えた。


 闘神祭の本来の目的は『己が積み上げたものを示す』場。

 今回の騒動で多くの学生が魔物と闘っている姿を来客者に見せた。

 それは舞台上の闘い以上に来場者に感銘を与えた。

 学園の生徒たちが目指しているのは魔物と闘う世界戦線なのだから。


 思えば来場する親族は戦時に学徒出陣を見送る親の心境なのだ。

 だから来訪者は学生の姿を見たいのだ。

 身に付けた具現化(リアライズ)を自在に操る姿。

 力強く、前向きに、仲間と協力する姿。

 生き長らえるための精神的、肉体的な強靭さ。

 何よりも今という生を熱く燃やすその様。


 図らずもそんな想いを成就する場となった。

 今年の闘神祭は過去最高の舞台だと言わしめるくらいに。


 その素晴らしい催し物の最後を飾る後夜祭。

 歓迎会のときのように魔法のぶつかり合いで散る花火を背に開始が宣言された。



 ◇



「ああ疲れた。もう帰って寝てぇ」


「あっはっは! なにおじいちゃん言ってるの!」


「いてっ」


 夫婦漫才のように香に叩かれる俺。


 ここはフィールド一面を使った巨大な会場。

 来校者も在学生も入り乱れ、全体が熱気に包まれていた。


 今日が終わればまた外部とは接触できない日々が続く。

 親に、祖父母に、兄弟姉妹に、友達に、想い人に。

 高天原という場所にいる自分を伝える最後の時間。

 僅かな千金の間を惜しんで共に愉しむのだ。



「あーあ。やっぱりあんたに付き合うと波乱万丈だったわ」


「俺だって好きでやってんじゃねぇよ!」


「どうだか。ま、皆に感謝することね」


「・・・おう。皆、ほんとに有難う。俺を助けてくれて」



 エクスグランドでのお勤めも終わり解放された俺たち。

 自分たち用の焼きそばや飲み物を確保してフィールドへ来た。

 すぐに後夜祭が始まって、溢れる熱気に気圧されたところだった。


 有耶無耶にならないうちに、皆に感謝を示して頭を下げる。

 俺の礼に皆が優しい表情をして頷いた。

 いじられたりはするけれど、主人公連中を含め、誰も彼も人が良い。

 いつの間にか、俺は皆に支えられていると実感していた。



「先輩、あたしら頑張ったんだから。褒めて褒めて」


「ほんとです。文字通り生命をかけたんですよ」


「ああ、ほんとに良くやってくれた、有難う!」


「うひゃー!」


「きゃー!」



 可愛い後輩のふたりの頭をわしゃわしゃとかき回す。

 ああ、なんか懐かしいなこれ。

 感謝も込めて嫌がるくらいにしつこく激しくわしゃわしゃとしてやる。

 きゃーきゃー言いながらも、ふたりとも嬉しそうな歓声をあげていた。



「なんだか子犬とじゃれてるみたいね」


「あはは、武くんも犬みたいで可愛いなぁ」



 ジャンヌとリアム君にまとめてわんこ認定される。

 なんで俺までわんこなんだよ。



「さすがに空腹だ。先に食べよう」


「そうですわね、このあたりで良いでしょう」


「お茶類はこちらです。甘い飲み物はここにありますから」


「え? さくら、焼きそば食べながらそれ?」


「はい♪」



 レオンとソフィアが皆が食べる準備を始める。

 さくらが用意したのはお茶と、どこから持ってきたのか砂糖マシマシのカフェオレ。

 お茶と同じボトルにそうラベルが貼ってあるのだからきっと屋台で売っていた。

 たぶん闘神祭の観戦時に、ツマミと飲むもんだと思うんだよね、それ。

 塩っけのあるお菓子の受けで飲むやつ。



「・・・武、お茶どうぞ」


「あんがと。さ、俺たちも食べようぜ」


「私もいただきます! あ、お茶をお願いします」


「オレもお茶をお願い」


「す、すみません、私もお茶を・・・」


「わたくしもお茶をお願いしますわ」



 この選択肢なら迷わずお茶。

 皆、迷わずお茶。

 カフェオレのボトルを構えたさくらが「どうして私だけなのですか!」と目を丸くして震えている。

 そう思うならデザートにして今はお茶を飲めば良いのに。



「う~、京極君、ひどいよ。私だけ退け者だったなんて」


「先輩はちゃんと避難してたんだろ? 一般人の鑑。無事で良かったじゃねぇか」


「だって震えてただけだもん!」


「ふつうはそうだから」



 この面子の中、しっかりひとりで避難していた先輩。

 変にうろついて怪我されるよりもよっぽど良い。

 正しい判断だと思う。



「つか、ひとりでフィールドへ移動したんだよな? よく無事だったな」


「お姉ちゃんに教えてもらっていたから何とかなったよう・・・」


「ほら、役に立ったでしょ。アトランティスの生き延び方」


「うん」


「え?」



 迷宮化した学園をフィールドまで避難する。

 そんな危険な場所を、一般人がひとりで移動した。

 あのおっとりした先輩が、だ。



「魔物、けっこういたもんね」


「大先輩、あの試練で訓練できてたんだーね」



 そこを歩いた一般人の小鳥遊さんと工藤さんの感想。

 聖女様直伝の警戒方法で無事に突破したという話らしい。

 ほんとよく無事だったな、おい。



「焼きそば、美味しいね!」


「『アオノリ』の香りが良いな」


「『ベニショウガ』がよく合いますわ」


「あたしはこの『テンカス』が好きね」



 リアム君、レオン、ソフィア嬢、ジャンヌの感想。

 銘々、焼きそばに手を付けていた。

 欧米勢にもトッピングが理解されていて日本人として嬉しい。

 もちろん、さくらや結弦といった日本人勢も美味しそうに食べていた。



「響ちゃん良かったね。焼きそばをちゃんと食べられた」


「みーちゃん、こんなの労働の対価だぜー」


「あはは、でもみんな一緒で楽しかったよ」


「保健室に付き添ってられなくてすまねぇ。ほんと手伝ってくれてありがとな」


「放置されてんのかと思ったぜ~」


「ごめんって」



 まさかの2回目の屋台運営で俺はふたりの付き添いが出来なかった。

 それなのに俺たちがてんやわんやしている姿を見て迷わず合流してくれた。

 ほんと、後輩ふたりには頭が上がらない。


 そしてそれが皆の結束を固くしたように思う。

 後夜祭の音楽が鳴り響く中、俺たちはこの場の一体感を満喫していた。



「あ、そういえば」


「どうしたの、恵さん?」


「七試練の結果はどうなった?」



 結局、トラブルで有耶無耶になっていた七試練。

 でも頑張ったんだから結果と景品はあっても良いんじゃなかろうか。

 ・・・景品が俺っていうのはなんか納得できねぇんだけど。



「じゃ、順に聞きましょう! レオンから!」


「俺は1つだ」



 スタンプカードを皆に見せてレオンが答えた。

 それに倣い、皆が順にカードを見せていく。



「わたくしは1つです」


「わたしも1つでした」


「あたしは1つね」


「僕は1つだよ」


「オレも1つだ」



 SS協定、同列ビリっぽい。

 えええ、あのアトラクションってそんなに難しいの!?

 ラリクエ(ゲーム)じゃ、ばんばん攻略してたじゃん。



「さすが七試練ね。学園生徒には厳しい」


「そんなに難しいのか?」


「おそらく武さんはひとつもクリアできない」


「は?」


「AR値の高さに比例して難度が上がるの」



 なんだそれ。主人公に厳しいボーナスイベント。



「え? あのクイズもですか?」


「ええ、AR値が高いと難しい問題が出るはずよ」


「あ~、なるほど~」



 小鳥遊さんと工藤さんが納得したようにうんうんしていた。



「工藤さんはいくつだった?」


「あたしは3つ」


「え!? すごい!」


「やりますわね!」


「美晴ちゃんは?」


「え? え? わ、私は5個です・・・」


「「「5個!?」」」



 皆が驚嘆していた。その声に小鳥遊さんがびくっと驚いている。

 レオンたちの反応を見るに、それだけ難しい内容だったんだろうな。



「あ、あの~。私・・・」



 最後になって小さくなった先輩が恐る恐る手を挙げていた。



「私、7個だったの」


「「「「「えええええ!?」」」」」


「ひゃっ!? ぜ、全部、簡単だったんだよ~」



 さすがAR値3だぜ。

 むしろリア研のメンバーは有利な内容だったんじゃなかろうか。



「じゃ、決まりね。1位恵さんはデート権、2位の美晴ちゃんはダンスパートナー権よ。おめでとう!」



 ぱちぱちぱちぱち、と拍手に包まれる先輩と小鳥遊さん。

 気が弱いふたりは縮こまりながらも頑張ったことに胸を張っていたのが印象的だった。


 うんうん、よく頑張ったよ、ふたりとも。

 気の弱さに比例しないんだなと感心しきり。

 そうして俺はこの後に訪れる危機についてまったく意識をしていなかったのだ。





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