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お待たせしました、タイトル回収がようやく始まる高天原学園編の始まりです。

当面、投稿ペースは2日に1度くらいで進めていきます。


=============作者注==============

高天原学園編より会話はすべて世界語でなされます。

桜坂中学編までは世界語会話を【 】としていましたが逆転します。

日本語等の特定言語の場合に【 】を使用します。

==============================




 ――高天原(たかまがはら)学園。

 新人類(フューリー)の育成のために設立された教育機関だ。

 新人類とはAR値(魔力適合)を持つ者を指し、特にAR値が高い者は魔力を物理現象に変換する具現化(リアライズ)という能力を使える。

 高天原学園は新人類の具現化能力を向上させ、魔物と戦う力をはじめとした応用能力を育成することを理念として掲げている。


 俺、京極 武(きょうごく たけし)は3年前に老舗VRメーカーの傑作『虹色ルシファークエスト』(Rainbow Lucifer Quest、略称RLQ、俗称ラリクエ)の世界に転移した。

 このゲームは高天原学園にて繰り広げられる6人の主人公たちによる物語を描いたものだ。

 主人公相互(・・)の学園モノ恋愛AVGを経たうえで、魔王を倒しに行く攻略RPGがある。

 後者RPGパートの難易度は鬼畜で相当なやりこみをしないとクリアできない。

 クリアできなければ魔王に世界が滅ぼされて終わる。

 俺が異世界転移したのに終わっちゃ困るんだよ。

 だから俺は何としてもゲームをクリアしなくちゃならん。 


 転移先の俺の立場はモブ以下。ゲームに出てくるサブキャラはおろか一般人でもねぇ。

 RPG部分は主人公全員で臨まないとクリアは不可能に近い。

 この時、主人公同士(・・・・・)の信頼や愛情が能力値に影響するから俺は主人公と絡んじゃまずい。

 主人公たちが自分たちで魔王を倒してくれれば何もしなくて良いんだがそんな保証は無い。

 俺は主人公たちをコントロールして魔王を倒すところまでサポートすることにした。

 そのためにこの高天原学園に入る決意をし、紆余曲折を経て本日より入学する運びとなった。

 ここまで本当に長かったけど、これからが本番だ。



 ◇



 2210年4月2日、高天原学園の入学式。

 日本にある学校はほぼ必ず桜が植えてある不思議。

 降り注ぐ桜吹雪の中を歩くと祝福されている気分になれる。

 この桜の魔力はリアルでもゲームでも変わらない。

 散々苦労をしてこの場所に立っているからこそ、俺はその魔力に魅せられていた。



【綺麗ですね】


【うん、お祝いされてる気分だ。九条さんも桜は好き?】


【はい。この短い時期にだけ感じられる力がありますから】



 俺の隣に立つ女の子は九条(くじょう) さくら。ラリクエの主人公のひとり。

 雪のような白い肌。整った顔つきは誰が見ても見惚れるほどの美しさ。

 銀色の睫毛の下に覗く銀色の瞳が優しげに俺を映している。

 腰まである長い銀髪がさらりと風に流れていた。

 九条さんは俺が通っていた桜坂中学校で3年間を一緒に過ごした人だ。

 彼女とも色々あったけれども、また改めてここで一緒に過ごすことになる。



【名前と同じ花だから思い入れもある?】


【そうですね。わたしの名前は母がつけてくれました。桜の美しさと力強さがあるように、と】


【良い名前だね】


【は、はい】



 あ、九条さんの頬が少し赤くなっている。

 よく考えたらいきなり口説いてんぞ俺。入学式前に何やってんだ。



【ん、行こうか】



 俺は誤魔化すように促し、ふたりで歩き出した。

 舞い散る桜が講堂までの道を華やかに彩る。

 うん。この学生だけの特権はモブの俺でさえ主人公という気分にさせてくれるほど素敵だ。



「武!? 武じゃないか!!」


「!? レオンか!?」



 隣から大声で名前を呼ばれた。呼びかけられた言葉は世界語だ。

 この学校は東亜で唯一の具現化に特化した訓練校であるため世界各国からの留学生を受け入れている。

 だから学内は世界政府が定義した人造言語の世界語が標準となっている。


 声に振り向くと俺の知っている男が立っていた。

 身長190cm、見上げるほどなのに引き締まった体躯のおかげで細く見える。

 収まりの悪い癖のある金髪に鋭い碧眼が生粋の欧米人であることを物語っている。



「良かった!! 無事だったんだな!!」


「ぶはっ!?」



 彼はいきなり俺を抱きしめてきた。

 うぉい! 入学式前に何を衆目に晒しとんじゃ!

 この世界が同性愛に優しいと言っても俺はまだ心構え出来てねぇんだよ!

 俺は彼を無理矢理に引き剥がす。



「お前、いきなりびっくりすんだろ!」


「俺の前で死にかけただろう! 当然の反応だ!」


「あの。そちらは?」



 俺とレオンのやり取りを見て九条さんが聞いてきた。



「こいつはレオンだ。南極へ行った時に一緒になったんだ」


「レオン=アインホルンだ。武の友なら敬語は不要だ、レオンと呼んでくれ」


「レオンさんですね。わたしは九条 さくらと申します」


「さくらと呼ぶ。よろしく頼む」



 俺を介していきなり知り合いになるふたり。

 剣呑となるよりよっぽど良いんだけどさ、予想外だよ。

 ラリクエをプレイすると彼らが最初に知り合うのは教室での自己紹介だ。ここじゃない。

 やっぱり俺という異分子がもたらすイレギュラーは気をつけねぇと。


 レオン=アインホルン。

 彼もラリクエ主人公のひとり。

 イギリスの侯爵位を直系にもつ正真正銘の貴族階級の男。

 主人公らしく整った精悍な顔つきの美男子だ。

 引き締まった金の眉が彼の意思の強さを物語るようだ。



「話は後で落ち着いてからな。ほら、時間がないぞ」


「ああ、行こう」


「はい、行きましょう」



 3人で並んで歩き出す。

 また風が吹いて桜吹雪が舞った。

 祝福の花道は奥に見える講堂へと俺達を導いていた。



 ◇



 ラリクエのオープニングは校門の桜吹雪を歩くシーンから展開される。

 次に講堂での入学式。これが終わったらオープニングムービーが流れる。

 そして教室に集まった主人公たちが自己紹介を始めるところから物語が始まる。


 入学式はゲームどおり厳かに恙無く終了しクラス分けが発表された。

 俺とレオンと九条さんは予想通り、Aクラスとなった。


 高天原学園は普通科高等教育に加えて具現化能力を鍛える学校だ。

 具現化能力はAR値に依存して効果が強くなる。

 だから高天原学園の募集要項にAR値が30以上という制限が設けられている。

 そしてクラス分けはAR値の降順で行われる。

 順にAクラスから始まり最後はGクラスだ。

 つまりAR値が近い者たちは自然と同じクラスとなる。

 個人情報であるAR値が互いに分かるようにするのは、それだけ特殊な学校と理解したい。


 教室はリアルにある普通の高校っぽい雰囲気だ。

 2210年の未来なので黒板はない。

 教師は壇上のスクリーンにホログラフィで資料を示すからだ。

 生徒もテクスタントと呼ばれる棒状のツールを教科書兼ノートとして持ち歩く。

 このへんも未来仕様の素敵なところ。


 ところで高天原学園の制服はかなり雰囲気が硬い。

 男も女もスーツのような雰囲気の制服だ。

 上下ともびっちりした白スーツに、襟や折に金銀色のラインが入っている。

 その下は水色のシャツに赤色のタイをする。

 リアルでいう自衛大学校の格好に近いかもしれない。

 この制服、着てみるとパンツやジャケットに伸縮性があり意外に動きやすい格好だったりする。

 この格好のまま激しく動くことも想定しているのだろう。


 そうした軍隊的な雰囲気が漂うのはこの学園の性質を表している。

 将来的に世界戦線で闘うことを想定しているからだろう。

 卒業生の相当数がその道に進む。世間的にそれだけ期待されているのだ。



 ◇



 各自、好きな席に座る。これ、桜坂中学のときを思い出すな。

 どうもラリクエの世界には出席番号という概念が無いらしい。

 俺は最後列に座ると、右隣にレオンが、左隣に九条さんが座った。

 九条さんはともかくレオンも隣。まぁ他に知己がいなければそうもなるか。

 皆が落ち着いたところで担任が自己紹介をし学校の基本ルールの説明をしていく。



「我が校は互いにファーストネームで呼ぶルールとなっている。日本人同士でも徹底するように」



 そういえばそうだった。

 例えばレオンを「アインホルン」と家名で呼ばない。

 そりゃね、国際色豊かなキャラゲーで無礼だからと名前呼びしないなんてどんなクソゲーよ。

 だから互いに名前で呼ぶのは当たり前。

 当たり前・・・なんだけど。



「武さん! 名前呼びですよ♪」


「・・・」



 俺の隣の席でとても嬉しそうな顔をする九条さん。

 まぁそうだよね。

 桜坂中学では散々、彼女の名前呼びを拒否した俺だ。

 俺と親密になりたいと思っている九条さん的には願ったり叶ったりの状況だろう。

 強制的にそうせざるを得ないとはいえ急に切り替えるのは難しい。

 これはもう仕方ない。意識をシフトするしかない。


 自己紹介が始まった。

 各自、名前と出身国、加えて一言を告げるだけのシンプルなもの。

 しかしAクラス。癖のある奴が多い。

 チンピラ風の奴(偏見)とか、マッドサイエンティスト風の奴(偏見)とか。

 確かにラリクエの中でそんな雰囲気のキャラが背景に描かれていたけれど。

 あれってネタかと思ったらほんとに居るわけね。しかもAクラスに。

 外国人も多いから、ほんとこのクラスだけ見た目のまとまりがねぇ。

 髪の色も目の色も金銀赤茶黒だけでなく緑とか青とかいるし。タイトルどおりレインボーしてる。

 知らねぇ人が見たら何の集団だよって思うぞ、これ。

 このへんがキャラゲーたる所以か。桜坂中学みたいに日本人ばかりの環境とは大違いだ。

 アルビノの九条さんが普通に見える。まさにゲームの世界だ。



「オレは玄鉄 結弦(くろがね ゆずる)、日本人です。天然理心流(てんねんりしんりゅう)を継ぐ修行をしています」



 自己紹介が始まってすぐ。

 ラリクエの男主人公のひとり目、結弦が名乗った。

 中肉中背、烏羽色の長い髪から覗く穏やかな褐色の目が特徴的な顔つき。

 目尻が下がって人当たりの良さそうな印象を受ける。

 うん、やっぱり格好良いね! さすが主人公!


 彼は物静かな性格で天然理心流という剣術道場の息子だ。

 父親が居合の達人で免許皆伝を目指しているはず。



「わたくしはソフィア、ドイツ人よ。クロフォード公爵家の長女。よろしくお願いしましてよ」



 彼女、ソフィア嬢は女主人公のひとり目。

 金髪縦ロールの髪型は典型的なザ・お嬢様。

 吊り上がった金色の目が加わって悪役令嬢風味。

 しっかり扇子を持っているあたり、その拘りが伺える。

 それでもさすが主人公、煌めいて美しい。

 言葉尻からも分かる通り強気な雰囲気が彼女の特徴だ。

 見た目とは裏腹にちょっと臆病だったりもする。



「僕、リアム=グリーン、アメリカ出身。・・・その、煩いのは苦手」



 いきなり弱気発言のリアム君。男主人公のふたり目。

 欧米人なのに身長は俺より低く157cmくらい。かなり小柄だ。

 ストレートの栗毛色の髪に琥珀色の瞳をしており、特徴的な銀縁の丸眼鏡をしている。

 全体的に線も細め、ショタ風味。

 その手のお姉様方に人気で庇護欲を唆るタイプ。

 お察しのとおり、ちょっと内気なやつだ。

 彼には病床の姉がおり、色々と心を砕いている。



「あたしはジャンヌ=ガルニエ、フランスのパリ出身。ここにそんな奴は居いないと思うけど女だからって舐めないでよね」



 強気の啖呵を切ったジャンヌ。女主人公のふたり目。リアム君とは正反対だ。

 肩まで伸びた波打つ紅蓮の髪と燃えるような真紅の瞳が印象的。

 端的に言えばツンデレロリ美少女。

 なのに姉御肌で勇敢。

 白人なのに小麦色の肌が情熱的な健康美というか、そういった引き込まれる美しさを備えている。

 雰囲気はオトナなんだが小柄で背が低い。体格はリアム君と同格。

 過去のトラウマからちょっと疑い深いところがある。



「俺はレオン=アインホルン、イギリス出身で侯爵家の者だ。俺の隣に立てる奴を探している」



 長身のレオンが立った。男主人公の最後のひとりだ。

 彼の精悍な顔つきと金髪碧眼は非常に絵になる。乙女購買層のイチオシの筈だ。

 このまま格式張った良い服を着れば王子様にもなれるほど。

 ゲームパッケージで前面に推されているだけはある。


 ちなみに彼の言う「隣に立てる奴」とは、彼を攻略する上で必要な話。

 その辺はイベントに沿って考えていこう。


 レオンの番が来たらすぐに俺の順番だ。



「京極 武、日本人だ。特技はないけど仲良くしてくれ」



 何度も聞いた憧れの主人公連中の自己紹介を生で聞いて少し興奮気味の俺。

 だけどその中に混じって目立っては困ると、ごくシンプルに自己紹介をした。


 うん? 何故か主人公6人全員がじっと俺の方に注目している。

 え? 睨まれてる? 何この視線?

 レオンとさくらさんが俺を見るのはわかるけど、他4人まで。

 他のクラスメイトは気にも留めないのに、なんで君らだけ反応してんの。

 ・・・何かやらかした? 俺?

 ちょっとたじろぎながら席に座る。

 おかしいな、妙な点は無いと思うんだが。



「わたしは九条 さくら、日本人です。弓術を嗜んでいます」



 最後の女主人公、九条さん・・・改め、さくらさん。

 彼女もゲームパッケージで一番手前に描かれており、非常に立ち姿が様になる。

 色白で銀髪なんて日本人離れしているのに日本人って設定が憎い。

 純白のドレスを来たら西洋の王女様でも通りそうな雰囲気だ。


 そして性格は控え目だけど彼女の芯はとても強い。

 俺がどんなに頑張ってもフラグを折れなかったのだから。


 さくらさんで自己紹介は終わり。

 トリだからと緊張していないあたりはさすがだ。

 ここまで主人公6人は皆ゲームと同じように自己紹介をしていた。

 けれど、さくらさんだけ雰囲気が異なる。

 ゲームの開始直後はオドオド系の雰囲気だったが、今はすっかり自信に満ちている。

 これは俺と桜坂中学で絡んでしまった結果だろう。

 やはり本来のシナリオとのズレが既に生じている。

 近いうちに今後の方針とともに、一度整理をしなければ。


 そうこう思索しているうちに担任がこの後の話をしていた。

 昼休みを挟んで生徒会による学校紹介や部活紹介があるとのこと。

 よって教師による話は本日はこれで最後らしい。

 明日の授業開始時刻が8時と確認して解散となった。


 さて、ここからが本番だ。

 ゲームで主人公たちが最初に行動するシーン、昼休みだ。

 全員がNPCとなった主人公たちがどう行動するのか観察させてもらおう。





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