異世界
九回目の投稿です。
ようやく主人公が強キャラになります。
殺人という行為への嫌悪感は、標的との距離に比例して減少すると言われる。
ナイフより銃の方が殺しやすく、銃よりミサイルの方が殺しやすいというわけだ。
んなわけないだろ。
殺しは殺しだ。
引き金を軽いと思ったことのある兵士は存在しない。
剣で殺そうが、槍で殺そうが、弓で殺そうが、殺したという感触は変わらない。
俺は、ブローニングM2重機関銃の押金を押しながら、そんなことを思った。
この世界には似つかわしくない鉄の異物が咆哮を上けげる。
風切り音を立てる12.7mmの曳光弾が人体をバラバラに引き裂いた。
穴が開くというより、命中した部位が弾け飛ぶという表現の方が適切だろう。
「命中。一名無力化」
自分でも驚くほど、冷静な声が出た。
重機関銃なのでフルオートで発射することもできるが、キスカに命中したら困るので単発射撃だ。
敵との距離は六百メートルといったところか。
ハスコックのように二千メートル越えの狙撃とはいかないが、この程度なら俺でも当てられる。
夜風の冷たさが心地よい。感覚が研ぎ澄まされ、標的のリアルな血の匂いを、脳が感じとる。
再度、押金を押す。心地よい振動が肩を通り抜ける。
マズルフラッシュが暗闇を真白く照らし、弾丸が空気を裂いた。
スコープ越しに、肉塊と化した標的が映った。
「二名無力化。周辺に敵は?」
「連中以外には見えません」
サッサが双眼鏡から目を外して、答えた。震える手が、サッサの緊張を伝えてくれた。
「そうびびるな。一方的に殺すだけだ」
俺は苦笑しながら、そう言った。
これは決闘ではなく戦争なのだ。戦士でなく兵士である俺には、そんな戦い方しかできない。
もう何人か殺してやると、連中は建物の中に逃げ込んだ。
「白兵戦やるつもりか?いい度胸だ。挽肉にしてやる」
俺はイサカM37ショットガンを空間魔法で取り出した。銃器の中では比較的軽量でありながら、その威力は他の散弾銃と遜色ない。近距離戦ではこれ以上ない、最高の武器だ。
俺は、弾丸を一発ずつ丁寧に装填した。
ハンドガードに触れた右手から、金属の冷たさがじんわりと伝わってくる。
「ブローニングにイサカ…フォードさん、やっぱり、あなたは…」
「こいつらを知ってるってことは、お前も俺と同じだったか」
俺は軍靴の紐を締め直し、アーミーナイフをベルトのポケットに差し込んだ。
「前にさ、召喚魔法は使いにくいって話をしたことがあったろ。あれはよ、半分は本当だが、半分は嘘だ。たしかに、生物を召喚するときは自分より弱い生物しか召喚できない。だが…」
「武器ならば別、ということですか」
「いや、それもちょっと違うんだ。この世界の名剣や名刀ってやつらは、大抵自分の意思を持っている。手前の気に入ったやつにしか、自分を使わせねえんだ。
だから、普通の人間が召喚できるのは二流の数打ち品だけだ。だが、もし、意思も持たず、誇りも持たず、殺戮のみを目的とした量産品があるとしたら…」
そんな悍ましいものを使おうなどと、この世界の人間は思わないだろう。
「その答えは僕たちのような異世界人しか知らない、というわけですか」
「そうだ。数万年に及ぶ殺人の歴史が生み出した、最も効率よく殺せる、誰にでも使える武器がこいつらだ」
銃の恐ろしいところは、射程距離でも威力でもない。
誰でも使えるという、そのシンプルさだ。
小汚いスラムのクソガキでも、3日も訓練してやれば一端の兵隊になる。
この世界の人間は強い。俺たちよりも遥かに。
だからこそ、銃を作るという発想が生まれない。
皆が強いのならば、弱者を強者にする武器など必要ない。
おそらくはその方が正しい。
こんなものがなければ、子供たちが兵士になるなんて、狂った戦争は起こらない。
あの戦争は正しく地獄だった。
本来なら、こんな醜いものを見なくてもいいはずの子供たちが、内臓を撒き散らして血の海に沈む。
同じ娼婦を抱いたこともある気のいい僚友が、血走った目をして子供の首をへし折る。
殺して、殺されて、あの戦争は誰も彼もが命をすり潰した。
ああ、嫌だ。昔のことを思い出した。だから、銃を使うのは嫌なんだ。
意識を現実に戻す。
「さぁて、戦争の時間だ。連中に俺たちの戦争を教えてやる」
九回目の投稿でした。
スターリングラードって映画があるんですが、見たことある人いますかね。
ジュード・ロウとエド・ハリスが出てるやつです。
フランス映画は子供でも容赦なく殺しますから、びっくりしますね。