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実戦

七回目の投稿です。

今回は戦闘シーンがあります。

「お?」

「ん?」

「あれ?」

酒場から帰る途中でキスカとサッサに出会った。

「何だ買い物は終わったのか?」

女の買い物は長いから苦手だ。

「ああ、そっちこそ飲み足りたのか?」

「ま、多少は満足できたさ」

まだまだ足りなかったが。

「何か良い物はあったか?」

「光魔石は必要な分揃ったのじゃ。あとは少々の嗜好品と酒じゃな」

「酒も嗜好品じゃあないんですか」

サッサが不思議そうに尋ねた。

「「あれは燃料だ」」

珍しくキスカと意見が合った。

「ああ、そうだ。そろそろ違う街に行こうと思うんだが、どうだ?」

「なんじゃ、ずいぶんと唐突じゃな」

「金は十分稼げたし、ここに留まる必要もないだろ?それに、俺たちを狙っている奴がいるっぽい」

俺は先ほどの酒場での会話を思い出していた。

追手ならば殺して片付けてもいいが、逃げてしまった方が面倒は少ない。

「お主がそう言うなら反対はしないが……」

キスカはサッサの方を見た。

ま、そう思うだろうな。

「お前はどうする、ついてくるか?」

俺はしばらくの間はキスカと連むと決めている。

一人旅よりは二人旅の方が楽しそうだし、一応命を救ってもらった恩もある。

だが、サッサは俺たちに付き合う義務はない。

ついて来てくれるなら勿論歓迎するが、俺たちの旅は危険を伴うものになるだろう。

わざわざ危険に付き合わせる必要もない。

「そうですね、どうしましょうかね」

「一人旅でも問題ない実力はある。どっちでもいいぜ」

「そうじゃな、魔法に関しても一人前にはなっておる」

結論を急がせる必要はない。

一応追手の危険性を伝えてみたものの、実のところ俺はそこまで心配はしていない。

俺はそれなりに、キスカはかなり腕が立つため殺される心配はないだろう。

ただ殺してしまったときが面倒だ。

通報されたら警察に追われるし、死体の処理もしなければならない。

まったく面倒だ。

「そうだな、一週間くらいはこの街にいるから。それまでに考えておいてよ」

休息期間はまだしばらくは続く。

そう思っていたが、俺の考えは甘かったようだ。


チンピラといった風貌の男たちが二十人ほど、俺たちを取り囲んだ。

白昼堂々、衆人監視の状況でよくやるものだ。

「この前は世話になったな兄ちゃん。アンタをぶちのめしてやりたいところだが、今日の用事はアンタじゃない。痛い目にあいたくなかったら、そこのガキを置いてさっさ消えな」

「誰だお前は。殺すぞ」

ん?ああ、あれか。酒場でぶっ飛ばしたやつか。殺しておけばよかった。

「なあ」

「ん?」

キスカが真面目な顔をして聞いてきた。

「ガキとは妾のことなのか、サッサのことなのか。どっちなんじゃろ?」

なんか可愛いな、こいつ。

「さあ?まあ、どっちでもいいんじゃねえの」

俺は剣を引き抜いて、近くにいたチンピラの一人を切り殺した。

「どうせ殺すし」

「それもそうじゃな」

キスカは炎魔法を発動、二人を焼き殺した。

「話の通じない馬鹿共め、野郎共やっちまえ!」

「良いね。そっちの方が話が早くて助かる」

その声を合図にチンピラたちが動き出すが、大して強くはない。

まあ、それもそうだ。実力があるならこんなところで腐りはしない。

ふと、サッサの方を見ると一人を切り殺したところだった。

「どうだい、童貞卒業の気分は?」

「人を殺してしまった時みたいな気分です」

「つまり?」

「最悪ってことです!」

サッサは二人目を切り殺した。


ものの一分も経たないうちに、チンピラたちの数は半分程度まで減っていた。

軍人とごろつきの違いは意思決定の速度差にある。


敵が来た。どうしよう。殺した方がいいかな、半殺しでいいかな。よし、殺すか。これがごろつき。


敵が来た。殺す。これが軍人。

過酷な訓練によって、自らの感情と肉体を切り離して引き金を引くことができるのが軍人だ。

故に、俺がこの程度のチンピラ共に負けるのは有り得ない。

「ふざけるな!ガキを拐うだけの簡単な仕事だって話だったじゃねえか!」

「やってられるか!俺は逃げるぞ」

「あ、おい!逃げるな!」

チンピラたちは仲間割れを起こしてくれたようだ。

鹿狩りが獅子狩りに変わったら、そりゃあ誰だって逃げるだろう。

俺は走り去るチンピラの背中に向かって、短剣を投げつけた。

狙い通りに心臓へと突き刺さり、ゴボゴボと赤い泡を吹きながらチンピラは死んだ。

「なっ!お前背を向けた人間を…」

チンピラは非難するような視線をこちらに向けた。

一度人に殺意を向けたなら、殺される覚悟はすべきだろうに。何故非難されなければならないのか。

「逃げる奴は追わない、なんて格好いいことを言えるほど俺は強くないんでね。後で復讐にでも来られたら怖いからさ。ここで死んでいってちょうだいよ」

「いかに強固な要塞であろうと蟻が開けた小さな穴のせいで破られることもある、か。羽虫であろうと叩き潰すのに容赦はいらんな」

キスカは魔法を展開しながら、言葉を続けた。

「それに魔王からは逃げられぬと相場が決まっておろう?」

「さあて、兄さん。あとはあんた一人だ。このまま殺してもいいが、あんたの雇い主について教えてくれないか?教えてくれたら、あんたの処遇を多少マシにしてやる」

「教えたら見逃してくれるのか?」

「いや殺すけど、拷問はしない」

テロリストとスパイには拷問してもいいよってジュネーヴ条約で決まってる。

それを考えれば十分人道的な措置だ。

「クソッタレ!どうせ死ぬならお前らも道連れだ!」

チンピラは懐から奇妙な道具を取り出した。

それはおそらくは武器なのであろうが、到底人を傷つけられるような見た目ではなかった。

子どもが持つ光線銃のおもちゃのような、どこか笑いを誘う幼稚な武器の引き金を、チンピラは震える指で引いた。

俺は反射的に前に飛び出した。この場において最優先防御目標はキスカだ。

キスカの回復魔法があれば、首か心臓が潰されない限り生き残ることができる。

だが、この行為は徒労に終わった。

チンピラが引き金を引いても何も起きなかった。

ただ、少しだけ耳鳴りがしたような…。

「何かあったか?」

「いや、何も起きておらんようじゃが」

「僕も平気です」

二人とも困惑していた。俺も困惑している。

「それで終わりかい、兄弟?」

「なっ!そんなはずは!」

チンピラも困惑して、光線銃を弄くり回していた。

ぶっつけ本番で武器を使うな。

「ぬおっ!」

キスカが素っ頓狂な声をあげた。

「魔法が使えん!」

俺も魔法を発動しようと試してみるが、上手くいかない。

魔力の存在が上手く感じられず、なんだか奇妙な感覚だ。

箸の持ち方を忘れたり、歌の歌い方を忘れたような、当然出来ることが出来なくなった奇妙な喪失感だ。

「面白い道具だが、俺は素手でもあんたを殺せる。それによ、そいつは戦士の持つ武器じゃない。無力化できるだけの武器なんて女々しいじゃないか。ドタマをぶち抜いた方が早い」

酒に酔ったときのようなふわふわとした感覚が面白い。

武器としては二流だが玩具としては悪くない。殺したら鹵獲しておこう。



「いやはや、お見事。お見事。やはり数では押せませんか」

声のした方を振り返る。

そこには黒いスーツを着た優男が立っていた。

ウィンザーノットに結ばれたネクタイが鼻につく。

ウィンザーノットとはネクタイの結び方の一つで結ぶのに手間がかかり、面倒くさい。

ネクタイなんてのは適当に結べばいいのだ。あんな面倒な結び方をしているやつはよほどの暇人だけだ。

「おい!話が違うぞ。あのガキ以外、やっかいな奴は居ないって話だったじゃねえか」

「失礼、こちらも相手方の戦力を見誤っていました。魔王さえ無力化できれば大丈夫かと思ったのですが、なかなか腕の立つ方がいらっしゃるようで。こちらの判断ミスですので報酬は倍払います」

「ヘイ、お坊ちゃん。俺たちを無視しないでくれよ」

スーツ男はこちらに向かって深々と頭を下げた。それは礼儀正しく紳士的な態度であるが、どこか不快感を覚えた。

「失礼、私はチャーリー・アビントン。とあるお方にお仕えしております。そのお方にそちらのお嬢様を連れてくるようにと命令されまして、伺った次第であります」

「レディを誘うには作法がなっておらんな。貴様のようなカスの誘いに乗るのは一晩10ドルの安物淫売だけじゃ」

言うねえ。嫌いじゃない。

「淫売…レディがそのような言葉を使うのは感心しません」

「女に過度の幻想を抱くのは童貞の証拠じゃな。女を抱いたこともないやつの主人など大した人間ではなかろう。妾が着いていく程の価値があるとは思えんな」

やるう。ミスターチャーリーは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「フッ…。いくら吠えようとも今のあなたは魔法を使えない小娘。あなたの感情は別として、着いてきてもらいますよ」

「兄さんよ。あんたのガラス玉じゃあ見えないのかもしれないが、ここには剣を持った男が二人いるんだぜ」

チャーリーはこちらに一瞥をくれるとため息をついた。

そして、出来の悪い生徒に教えるように俺たちに説教をくれた。

「失礼ですが、あなた方では私を止められそうにありません。傲慢でも油断でもなく、事実としてこの場では私が一番強い」

「やってみるかい?」

「そうしなければ分からないというのであれば、そう致しましょう」

言うじゃない。

「フォードさん、手伝います」

サッサが心配そうに言ったが、俺は手をあげて制止した。たまには頼りになるところを見せなきゃならん。

俺は剣を正眼に構え、スーツのチャーリーは拳を軽く握って目より少し高い位置に構えた。

「得物はいいのかい?」

「素手の方が強いので」

「そうかい。ん?靴紐が解けているぜ」 

「それはどうも」

チャーリーがしゃがむや否や、俺は前方へと踏み出した。

彼我の距離は八メートル。俺ならばコンマ五秒もかからん。そして、奴の首を落とすのに一秒。計一コンマ五秒で奴を殺せる。

少々卑怯な気がするが、勝った方が正義だ。

「遅すぎます」

「なっ!」

奴は俺より遅くスタートして、俺より早く走った。

腹部に衝撃。殴られたと理解するのに時間はかからなかった。

吹き飛ばされ、胃液が口内を満たした。

体が警報を鳴らす。こいつは俺より強いと。

チャーリーは勝ち誇ったようにこちらを見下した。

「まだ続けますか?」

「諦めは悪いほうでね」

とは言ったもののどうしたものか。

サッサと協力して倒す。不可。サッサは俺より確実に強くなるだろうが、今は俺より弱い。二人で手を組んだところでぶちのめされる。

一目散に逃げる。不可。俺の逃げ足よりも奴の足の方が早い。誰かが囮になれば逃げられるかもしれんが。


いや、違うな。奴を殺すことなら出来なくはない。

全盛の俺ならば奴を殺すことなど容易い。

だが、魔法を使えない今の状態ではそれも厳しいか。

そして、それは俺の秘密を晒すことにもなる。

「フォード」

キスカは少しだけ笑った。それだけで俺は理解できた。

「悪い」

「なに気にするな。妾に用があるようじゃし殺されることはあるまい」

全く情けない、格好つけたくせにこのざまか。

「ただな、フォードよ。必ず助けに来てくれ。放っておかれるのは寂しい」

「ああ、誓おう。男としての誇りと名誉にかけて、必ず戻る」

この約束は違えてはならん。これを破ったら、俺は生きている価値もないクズだ。

「サッサ!」

「はい!」

何も言わなくてもサッサは理解してくれた。

俺たちは一目散に逃げた。

無様に、みっともなく、惨めに。



「追う必要はありませんか。所詮小物だ」

チャーリーはハンカチで手を拭くとそう吐き捨てた。

弱くはないが、強くもない中途半端な男だった。

チャーリーは守るべき婦女を捨てて逃げ出すような輩に拳を振るったことを恥じた。

奴は戦士ではない。美学も誇りもなくただ今日を生き延びることのみに必死になる畜生である。

「失礼、お嬢様。これで着いてきてくれますか」

「断ったところで無理やり連れていくのじゃろう」

「それはそうですが。形式というものがあるでしょう。ああ、それと…」

チャーリーはキスカの腹部を思い切り殴りつけた。

短い悲鳴を漏らしたあと、キスカは気を失った。

「これは私に対する侮辱への怒りではなく、我が主人に対する侮辱への報復です。そこに私個人の感情は含まれておりませんので、お忘れなきよう」


めちゃくちゃキレてんじゃん、とチンピラは思った。




撤退と逃走は違う。目的を持って逃げるのが撤退で、みっともなくただ逃げ出すのが逃走だ。

そして、今回のは逃走だ。

俺とサッサは情けなく逃げ出した。

その判断が間違いであったとは思わないが、それでも。

「情けねえと思うだろ。大の男が、女を見捨てて逃げたんだ。笑ってくれよ」

俺はそんな情けないことを言った。慰めの言葉を期待する、振られた女のような醜さだ。

「いえ、あなたが逃げるべきだというなら、それが最善手だと、僕は信じます。その程度には、僕はあなたを信頼している」

若者特有の真っ直ぐな瞳が俺を貫いた。

信頼が痛いな。まったく。

「それに、このまま終わるつもりはないんでしょう?」

「ああ、やるしかあるめえよ。女の子の信頼を裏切るわけにはいかんからな。夜になったら仕掛ける。準備しておいてくれ」

戦士としては奴の方が俺よりはるかに強い。

だから、俺はどこまでも卑劣で卑怯な手段を使うとしよう。

戦争を始めよう。


七回目の投稿でした。

戦闘シーンって書くの難しいですね。

戦ったことがないもんで、うまく書けません。

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