表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/21

酒と買い物

六回目の投稿です。

日常回です。

サッサと会ってから二週間ほどが経った。

この二週間、討伐依頼を受けたり、模擬戦を行ったりしてサッサを鍛えてみたが、サッサの能力の高さに驚いた。

最初は素人同然の戦い方だったが、3日後には剣を手足と同じ感覚で振るえるようになり、一週間後にはオークを単独で倒せるようになった。

戦士は二種類の能力で評価される。肉体能力と戦術判断力。フィジカルとセンスと言い換えた方が分かりやすいか。

元々、サッサのフィジカルは十二分に優秀であった。

初の実戦で、ゴブリンを倒したのがその証拠だ。

だが、センスに関してはあまり優れているとは言えなかった。

剣で斬るのか、防御するのか、魔法を使うのか。

そのような選択をより素早く、より正しく行うのが戦術判断力だが、これはすぐに身につくものではない。

何度も戦いを行い、多くの経験を積むことで手に入る能力だ。

だが、サッサはそれをわずか二週間で身につけた。今のサッサならば、そこらの冒険者など物の数ではないだろう。

優秀な若者を見るたびに自分の無能が嫌になる。

才能の違い、と言い訳したいところだが、サッサの努力の賜物だろう。

いや、あるいは…。

ある可能性が頭の中を巡ったが、俺は口にはしなかった。

サッサが自分から話さない限り、余計な詮索はするべきではない。



そして、今日は十三回目の模擬戦の日だ。

模擬戦は木剣で行う。

この世界のホテルは修練場を有していることが多い。

普段は他の客も使用しているが、今は早朝なので俺たち以外はいない。

三回目までは真剣で行っていたが、サッサが強くなり手加減できなくなったため、木剣に変えた。

今のところは俺の全勝。

年上の意地、というところだ。

「そろそろ始めてもいいですか?」

「おう、好きなタイミングでいいぞ」

「じゃあ、遠慮なく」

俺は中級強化魔法(ストロンガー)を自身にかけて、身体能力を上昇させる。

サッサも同様に強化魔法をかけている。

強化魔法は剣士にとっては必須の技術だ。

初級の強化魔法であっても、身体能力が1.5倍程度上昇する。


サッサが地面を強く踏み込み、飛ぶように直進する。

本人の性格を表すように、小細工なしの単純な突撃だ。

サッサは速度を生かし、走り抜けるように木剣を横から振り抜いた。

音を立てながら迫るサッサの大振りに、俺は自分の木剣をぶつけて弾き飛ばす。

お互いの木剣がミシリと悲鳴を上げる。


思ったよりも、重い。

右手が少し痺れる。


渾身の一撃を潰されたサッサは一度引いて、突きの構えを取った。

俺は間髪入れずに前進し、そのままサッサを蹴り飛ばした。

吹き飛ばされ、苦悶の声を上げるが、サッサは素早く体勢を整え直した。

追撃すればそのまま倒せそうだったが、俺はそうしなかった。

倒すことが目的ではない。

「この距離で突きを打つのは、あんまり良い手じゃないな。隙が大きすぎる」

「なるほど、勉強になりました!」

言うや否や、サッサは素早く踏み込み、上段の振り下ろしを打った。

これは悪くない手だ。

純粋な身体能力ならば、俺よりもサッサの方が上だ。

小細工を弄するよりも単純な斬り合いをした方が勝率は高いだろう。

サッサの振り下ろしを受け止める。

やはり、重い。

サッサは振り下ろしを防がれたのを確認すると、素早く連撃を繰り出した。

重さよりも速さを重視した攻撃。

なんとか防ぎながら、次の一手を考える。

剣士としての俺はよくて二流だ。

真っ当な斬り合いならば俺が負ける。

正々堂々とやって勝てないならば、邪道を使うとしよう。

俺は全身の力を緩めてサッサの攻撃を喰らい、わざと吹き飛ばされた。

みっともなく地面を転がり、外套が砂埃で汚れる。

サッサは何もせずに、突っ立ったままこちらを眺めている。

「追い打ちしなくていいのか?」

「はい。先ほどされなかったので」

サッサは不敵に笑った。

それは油断であるが、俺は嫌いじゃない。

「そりゃあご丁寧にどうも!」

俺は手につかんだ砂をサッサに向かって投げつけた。

剣や石ならば、打ち払って防ぐことができる。

だが、粒度の細かい砂ならば、いくら剣を振ろうと防ぐことはできない。

視界を奪われたサッサは木剣を闇雲に振り回すが、俺には当たらない。

俺はゆっくりとサッサに近づいた。

ここで、焦って近づくのは三流だ。

むやみに前進すればラッキーパンチを食らって、こっちが伸びるはめになる。

サッサの闇雲な攻撃に注意しながら、背後に回る。

俺は木剣を持ち上げると、サッサの頭に向かって軽く振り下ろした。

コツンと乾いた音が辺りに響いた。

「痛っ!」

「得物にこだわりすぎるのは二流だ」

とりあえずは今回も俺が勝つことができた。

俺は水魔法を発動して、サッサの顔の砂を洗い流した。

「冷たっ!」

しまった、勢いが強かったかもしれない。

「悪い悪い」

ま、死ぬわけじゃないしいいか。

サッサは手拭いで顔を拭うと、残念そうに言った。

「いやー、今回は勝てると思ったんですけどね」

「悪くはなかったが、剣筋が正直すぎるな。もっと搦め手を覚えた方が良い」

「努力します」

サッサは確実に成長している。だが、まだ俺に追いつけるほどじゃない。

いつかは俺より強くなるだろうが、それは今じゃない。

それまでは俺が先輩風を吹かせていられる。

「なんじゃ、朝からずいぶんと元気じゃな」

欠伸をしながら、キスカが眠そうに現れた。

「お前もたまには鍛えろよ。怠けてると弱くなるぞ」

「あいにくと、可憐で高貴なる妾はナイフとフォークより重い物は持ったことがないのじゃ」

「ま、年寄りに運動させるのも酷な話だな…ぶへっ!」

顔に水をかけられた。

いや、正確には高圧の水流を顔に発射された。

「それで今日の予定はどうします?」

キスカとの戯れつきを無視して、サッサが話を続けた。

「そうだな、最近はずっと働き詰めだったし、たまには休みでも取るか」

自由に休みを取れるのがフリーランスの良いところだ。その分給料は安いが。

「野営用の光魔石が切れておったな。妾は魔石店にでも行くとするのじゃ。少年も来るのじゃ。魔法使いにはあまり必要ではないが、勉強にはなる」

「はい、分かりました」

「お主はどうする、フォード」

「女の買い物に付き合ってもろくなことにならん。酒でも飲みに行くとするよ」

「昼間から酒か。ずいぶんと不健康じゃな」

「みんなが一生懸命働いてる時間に飲むビールは美味い」

久しぶりの休日だ。無駄に使い潰してやるとしよう。





汽笛の音が力強く空気を震わせる。

少し甲高いそれは休日の午後には騒々しい。

目の前を走っていく機関車を眺めがら、僕はそんなことを思った。

僕がこの世界に来て二週間ほどが経った。

僕は、思ったよりも簡単にこの世界に馴染めそうだ。

元の世界に居た時よりも僕の身体は大幅に性能が上昇しているし、魔法についても特に問題なく使用できる。

これが所謂チートというやつだろうか。

まあ、深く考える必要はない。理由は重要ではないから。

また、この世界の技術力についても話そう。

先ほどの機関車もそうだが、思ったよりも機械技術が発展している。

動力源はよく分からない。僕らの世界と同じ石炭なのか、それとも魔力などのファンタジーなエネルギーで動いているのか。

また、ファンタジー世界といえば胡椒などスパイスの値段が高いイメージがあるが、この世界では庶民でも十分手の届く価格で販売されている。

乗り物が発達しているおかげだ。

ありがとう先人。

「こら、前を見て歩かないとぶつかるぞ」

「おっと、すみません」

キスカさんに注意されて、思考の海から抜け出す。

この世界の技術について考えるのは楽しいが、今は必要ない。

土埃の多い道を抜けて、目的地に進んでいく。

獣人、エルフ、リザードマン。多種多様な種族でごった返す市場を抜けると、一軒の大きな建物に到着した。

「よし、着いた」

「これはまたずいぶんと大きい店ですね」

元の世界のビルほどは大きくないが、中世風の街並みには不釣り合いなほど大きい。

三、四階程度はありそうだ。

大きな看板にはキッドマン商会クインシー支店と書かれている。魔石店の標準サイズがどのくらいかよく分からないが、それにしたって大きい。

「どんな田舎から来たんじゃ。キッドマン商会の支店くらいどこにでもあるだろうに」

「まあ、東の方の国から」

転生者お決まりの出身地だ。

「面倒だから深くは聞かんよ」

キスカさんが建物の入り口に立つとドアが自動で開いた。

すごいな、異世界で自動ドアを見ることになるとは。

感圧式だろうか。

僕も続いて中に入る。

「おお!」

僕は思わず感嘆の声を上げた。

建物の中は思ったよりも現代的だ。

階数は三階まで。中空の構造になっており、上部に設けられた天窓から太陽の光が優しく注ぎ込まれている。

食糧、衣服、本、武器、防具、生活雑貨が区分けされて並べられている。

分かりやすく言えばデパートのような内装だ。

そして溢れ返りそうなほどの人の群れ。現代人には見慣れた光景であるが。

「さて、魔石売り場は…二階か」

キスカさんは建物の見取り図を眺めると、足早に階段に向かった。

僕はキスカさんに遅れないように急いだ。

階段はエスカレーターじゃないのが少し残念だった。

「中々便利な店じゃぞ。少々割高になるが、なんでも揃っている。商店街の連中には目の敵にされているがな」

「それは世知辛い」

異世界であっても、商店街とショッピングモールの対立は避けられないようだ。

キスカさんとしばらく歩くと、魔石取り扱いと書かれた看板が目に入った。

「ここだ」

店の中に入るとマネキンが一体。それと何やら数字と文字の書かれた木箱が整理されて並べられていた。

光15。火260。水380。

光や火と書かれた文字は魔石の種類だろう。

だが、数字はよく分からない。

ss400みたいなものだろうか。いや、この世界にJISはないだろうが。

「イラッシャイマセ」

「うわ!」

マネキンが喋った。

「そんなに驚くほどでもないじゃろう。ゴーレムくらい、今日日珍しくもない」

「ゴチュウモンハオキマリデショウカ」

「ああ、光魔石を二十個くれ。等級は初級で構わない」

「ショウショウオマチクダサイ」

そう言い終えると、ゴーレムは動きを止めた。

ファンを猛烈に回転させて、激しく排熱しているが。

「また、これか。全く、安物は計算に時間がかかっていけんの」

キスカさんは棚に並べられていた本を一冊手に取ると、それを僕に手渡した。

「こうなるとしばらく動かんの。妾は他の物資を買ってくるから、ここで本でも読んで待っていてくれ」

「あ、すみません。待ってます」

キスカさんに手渡された本は絵本だった。

親についてきた子供が、親の買い物が終わるのを待っている間退屈しないように読むための本だろう。

タイトルは古い神々。


始まりは一。八に分かれ、一つだけが残る。


かつてこの世界はドミナントという名の女神が支配していた。

ドミナントは暴君であり、大地は人々の血で赤く染まり、精霊たちの涙が湖を塩の沼へと変えた。

ある時、ドミナントは自らの従者として使役するために異界から神々を召喚した。

呼び出された神は七つ。

一人目は軍人の神キャプテン。

二人目は統治の神アイリ。

三人目は人形の神エイティ。

四人目は商人の神キッドマン。

五人目は科学の神ヴァシリ。

六人目は扇動の神コーポラル。

七人目は剣術の神リシン。

七人の神々はドミナントと共にしばらく暮らしたが。虐げられる人々を見ると彼女に反旗を翻した。

ドミナントは強力な神であったが、七人の神々は人間と力を打ち合わせてドミナントを殺した。

ドミナントは死際に一つ呪いを残した。

裏切りによって事を成した者は裏切りによって滅びる。

その言葉とは裏腹に、それからの時代は黄金の時代と呼ばれるほど繁栄を極めた。

泉からは蜂蜜酒が溢れ、人々が食べきれぬほどの果実が実った。

ある時、神々は七人だけでは手が足りないことに気づいた。

故に、彼らは新たな神を作った。

最も若き神エンシン。

かの神はこの名でも知られる。

裏切りの神エンシン。

何故裏切ったのか、悠久の時の中で翻意の理由は失われてしまったが、その最期は皆が知っている。

裏切りの神は六つの神を討ち滅ぼすと軍神キャプテンと相討ちになり、自らも虚空の彼方へと旅立った。

ただ一人戦いに加わらなかった商人の神キッドマンは、この世界を支配しようとはせずにただ見守り続けた。友も敵も失った世界で、人間たちの行く末を静かに見届ける。

故に、始まりは一。八に分かれ、一つだけが残る。


「すまない、少し時間がかかってしまったか。いやはや、中々悪くない品揃えじゃ。良いワインが手に入った。チョコも買ってきたから、あとで一緒に食べるのじゃ」

丁度読み終わったくらいでキスカさんが帰ってきた。

「良いですね、甘いもの」

中世の常として、この世界では甘味が貴重品だ。

そういえば何故現代では砂糖が安いのだろうか。

輸送技術の発達が原因ならば、この世界でも砂糖は安くなるはずだ。

低コストで大量に精製する方法が開発されたのだろうか。砂糖の歴史には詳しくないからよく分からないが。

「そろそろ動いたかの?」

ゴーレムの方を見ると頭から煙を上げながら歯車の軋む不快な音を響かせている。

壊れてないよな?

じっと見つめていると、ゴーレムは甲高い音を鳴らした。

「ケイサンガオワリマシタ。サンジュウドルニナリマス」

「丁度払える。これで頼む」

キスカさんは紙幣を三枚手渡した。

「オカイアゲアリガトウゴザイマス。ショウヒンヲオモチシマス」

ゴーレムはぎこちない動きで木箱を一つ持ってきた。

光120と書かれている。なるほど、数字は等級と個数か。

「マタオコシクダサイマセ」

ゴーレムは深々と一礼した。

「ああ、ありがとう」

「あっ、持ちますよ」

「ん?ああ、いや大丈夫じゃ。ありがとう」

キスカさんが指を鳴らすと、木箱はどこかへ消え去ってしまった。

空間魔法で収納したのだろう。便利なものだ。

「さぁて、必要な買い物も終わったし、後は少年の買い物じゃな」

「え?僕ですか、いいですよ、特に必要な物もないですし」

「子供は必要なものではなくて好きな物を買うものじゃ。飴ちゃんを買ってやろう」

そこまで子供ではないのだが、お言葉に甘えるとしよう。それに、この世界の商品にも興味がある。





酒。

偶然からそれを手にした人類は、何千年にもわたってその魅力に惹かれ、執着してきた。

腹も満たさず、大して栄養にもならないこの液体は、人類にとって良き友人でもあり、人生を破滅させる性悪女でもある。

皆大好き。俺も大好き。

そして、昼間から飲む酒は格別だ。

ホテルの部屋で飲むのも味気ないので、近くにあった酒場に入ることにした。

軋む扉を開けると、人影は少ない。

平日の昼間だから当然だろう。

「へへ、旦那。占いに興味はないかい。格安で占うよ。これからのこと、今までのこと。何でも占えるよ」

酒場に入ると小汚い老人が話しかけてきた。

酒場には占い師や吟遊詩人などが常駐して、酒場にやってきた客を楽しませてお金を取っている。

特別珍しい光景ではないが、俺は占いが嫌いだ。

「占い?本当に何でも占ってくれるのか?」

「何でもいいよ。女のこと。金のこと。仕事のこと。全部占えるよ」

「なら、明日の天気でも占ってくれよ」

「そんなので良いのかい。20ドルだよ」

俺は快く金を払った。

「ああ、これで頼む。ただ、外したら殺すからな」

「は?」

「当たり前だろう。俺は金を払ってる。リスクを負ってるってことだ。お前もリスクを負うのが筋だろう」

占いの気に入らんところは失敗しても何の責任もないところだ。連中は占いが当たっていても、外れていても同じ金額を要求してくる。

それが気に入らない。

俺は報酬を払っているのだから、失敗したら何かしらの補填をするべきだ。

一方的な契約は資本主義の原則に反する。

「また、明日来るからさ。何て言うかしっかり考えてよ」

「………」

占い師は無言で金を返した。

「なんだよ乗らないのか、つまんねーの」

この時期なら天気なんて晴れか雨のどっちかだ。

二分の一で勝てるなら、十分美味いギャンブルなのに。

「お客さん、あんまりいじめないで下さいよ」

酒場のマスターが迷惑そうに注意した。

「悪い悪い、もうしないよ」

「ご注文は?」

「カウボーイを一杯くれ」

「あいよ」

マスターは氷の入ったグラスを取り出すと、そこにウイスキーを注いだ。

透明な氷に薄茶色のウイスキーが降り注ぎ、酒精の強い香りが辺りに広がった。

そして、そこにミルクが注がれる。比率としてはウイスキー1、ミルク3といったところだ。

茶と白が混ざり、何とも言えぬ絶妙な美しい色に変化する。

出来上がったカクテルをかき混ぜると、カランコロンと心地よい音が響いた。

スパイスを少しだけ振りかけて、カクテルに薄化粧を施す。

差し出された酒を無言で受け取り、一口含む。

酒精の辛さとミルクの優しい甘さが口の中に広がる。

美味い。

ウイスキー独特の酒臭さがミルクによって中和されて、ウイスキーの上品な風味だけが上手く取り出されている。

また、この少量のスパイスが良い働きをしている。

甘さと辛さだけで単調になりがちなカウボーイに複雑な変化を与えてくれる。

良い腕だ。

「美味いな」

「仕事だからな」

最近は酒を呑んでいなかったから体に染みる。

あっという間に飲み干してしまった。

「代金は?」

「8ドルだ」

まあ、そんなものだろう。

俺は800ドルを払った。

「おいおい、面倒事はごめんだ」

酒場のマスターは露骨に嫌な顔をした。

「大したことは聞かねえよ。最近、制服きた軍人や見慣れない奴、誰かを攫うとか殺すとかの話をしている奴がいないか?」

「酒場でそんな話をする馬鹿がいると思うか?」

まあ、それもそうか。

「ただ、冒険者崩れのチンピラが最近人を集めている。暴力沙汰を厭わないようなタチの悪いごろつき共が何十人かつるんで何かやろうとしているようだ」

「目的は?」

「余所者の女がどうとかって言ってたが、詳しくは知らん」

俺に恨みを持っているような野郎は基本的に殺しているし、サッサは来たばっかりでそこまで深い恨みは買っていないだろう。

となると、キスカの奴が狙われている可能性が高い。

もちろん、俺たちに無関係の女が狙われているかもしれんが、この街では余所者は珍しい。

それに元魔王なんてのは、面倒事の種にしかならん。

警戒しておくに越したことはない。

「助かった。代金はここに置いておく」

「一杯で良いのかい」

「もっと飲むつもりだったが、仕事をしなきゃならなくなった。じゃあな、美味かったよ」

そろそろこの街を離れる潮時だろう。一つの街に留まれないのは慣れている。






「酒を一杯くれ。強いやつなら何でも良い」

「珍しいな、あんたが飲むなんて」

酒場のマスターは占い師にウイスキーを一杯出した。

ショバ代は貰っているので、飲まなくても儲けは出るから構わないのだが。

出されたウイスキーを、占い師は一気に飲み干した。

「おいおい、いくら何でも体に悪いからゆっくり飲みなよ」

マスターは占い師の手が震えているのに気づいた。

「大丈夫か、風邪か?」

「占った、占ったんだ!さっきの男!」

占い師は喉を震わせながら、言葉を絞り出した。

「そしたら、死体だ。死体が見えた!過去も未来も!何万もの死体で覆われていた!何をしたんだあいつは、何人殺したんだ!」

占い師は今まで何人も占ってきた。その中には人殺しもいた。だが、あれほどの数の怨念を背負った男は初めてだった。

そして、何よりも恐ろしかったのは、あの男が平然としていたことだ。

あれほどの怨念、あれほどの地獄を背負いながら、発狂せずにまともでいられるはずがない。

それが何よりも、恐ろしかった。









六回目の投稿でした。

今回は説明回になってしまいました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ