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新天地

三回目の投稿です。

異世界転生です。

「それで、妾たちはどこに向かっているのじゃ?」

キスカは座席に座って、足をぶらぶらとさせながら聞いた。

俺は手綱をしっかりと握りしめて、隣に座るキスカに答えた。

「とりあえずは西に向かおう。あっちはまだ未開拓の場所が多いから国の目も行き届かない。近場の町だと、デンバーかクインシーのどっちかだな」

「違いは?」

「デンバーは鉱山の町、クインシーは麻薬と移民の町、好きな方を選べ」

「デンバーの方がいい町のように聞こえるが」

「退屈な町だ。密造酒(ムーンシャイン)ぐらいしか、楽しい物はないぞ」

月光(ムーンシャイン)が特産品?変わった町じゃな。まあ、お主がそう言うのならクインシーの方でいい」

「余所者が多い町だ、俺たちでも目立ちにくい」

口が寂しくなったので、ポケットから飴玉を取り出して口の中に放り込む。

「あっ、ずるい。妾にもちょうだい」

「悪いな、最後の一個だ。飯は食べさせてやっただろう」

「ずるい、妾の!妾の!妾の!」

子供のように暴れるキスカに呆れながら、中級空間魔法大きい倉庫(ストレージャー)を発動して、飴玉をもう一粒取り出してやる。

「しょうがないな、ほら飴玉でちゅよ、お婆ちゃん」

「甘い!美味い!」

そういえば、こいつの歳を聞いていなかったな。

年上なのは間違いないだろうが、魔族は見た目と年齢が釣り合わないからな。

「ああ、そうだ。あんまり聞きたくないが、金は持っているか」

「何じゃ、その年からヒモになるつもりか?」

「旅をするには金が掛かるんだよ。で、持っているのか」

「高貴なる者は金子など持たぬ」

まあ、魔王ともなれば、買い物する機会などほとんど無いだろうから、分からないでもない。

だが、ここは資本主義社会。ドルを持たない人間に人権は無い。

「稼ぐしかないな。冒険者資格なら俺が持っているから、それで稼ごう」

「お主は腕は立つのか?」

「剣と槍、斧はそれなりに使える。魔法は、火、水、土、風の基本四種は中級まで。光と闇は初級。付与、召喚、音、空間、防御、結界、回復、強化魔法も中級まで使える」

「上級魔法は?」

「一つも使えない」

「変わった奴じゃな。それだけ適正があるくせに、一つも極められんのか」

耳が痛いね。

俺はいわゆる器用貧乏というやつだ。

どの魔法もある程度使えるが、それ以上は使えない。

魔法の階級は初級、中級、上級、最上級と分かれており、初級で生活に使える程度、中級で人を殺せる程度、上級で戦術兵器程度の威力がある。

最上級は戦略兵器クラスの威力があるが、使い手はほとんどいない。

「才能があるのかないのかよく分からん奴だな」

「師匠にもよく言われたよ」 

修行が辛くて逃げ出したが元気だろうか。

金目の物をくすねてから逃げたので、次に会ったら殺されるだろうが。

「偉そうにおっしゃりますが、お嬢さんはどうなので?」 

「フム、そうじゃな…。武器は全く扱えんが、魔法は全部最上級まで使えるぞ。貴様の言った魔法に加えて、転移、呪術、洗脳、重力、遠見魔法あたりが得意じゃな」

「マジ?」

「私は魔王だぞ」

その言葉は確かな説得力を持っていた。

こんなちんちくりんの見た目であるが、こいつは紛れもなく最強の生物なのだ。

「しかし、召喚魔法が使えるとは珍しいの。あれに適正があるやつは珍しいが」

「大して役にも立たん魔法さ」

召喚魔法は竜、悪魔、精霊などのありとあらゆる生物を呼び出すことができる。

しかし、召喚魔法はただ呼び出すだけだ。

そいつらに言うことを聞かせるためには、一度叩きのめして、どちらが上か分からせなければならない。

必然的に、召喚魔法で使えるのは自分より弱い相手だ。

「まあ、お互いそれなりに戦えるというわけだ。よろしく頼むぜ、キスカ」

「ああ、任せよ。守ってやるわ、フォード」

クインシーはまだ遠い。






「これで冒険者登録は完了です。クインシーへようこそ」

胸の大きな受付嬢が、気怠げな様子で差し出した冒険証を、僕は大きな喜びとともに受け取った。

冒険者。いい響きだ。実にファンタジー。


僕の名前は佐々晴政。戦国武将みたいな名前だが、家は先祖代々農民だ。

僕は都内の高校に通う、ごく普通の高校生だった。

本当に、ごく普通だ。ごく普通と言いながら可愛い幼馴染みがいたり、特殊な名前の部活に入ったりもしない、本当に普通の高校生だった。

趣味はサバゲー。好きな食べ物はオムライス。

そんな普通の僕が、何故こんな剣と魔法の世界に居るかというと、皆さんご存知のとおりトラックに轢かれたからだ。 

トラックに轢かれて死ぬのは、文字通り死ぬほど痛かった。

そして、この町の広場で、僕は目を覚ました。

その時の僕の感情は、恐怖でもなく、家族と離れてしまった悲しみでもなく、憧れの世界に来られた喜びだった。

何度も、何度も小説で読んだ異世界転生を、僕はついに成し遂げたのだ。いや、生まれ変わってはいないから、異世界転移か。

異世界といえば冒険者ギルドだろう、ということでここに来たのだが、あっさりと冒険者になれたのには驚いた。

それに、言葉も日本語を話しているのに、問題なく意思疎通できる。自動的に翻訳されているのだろうか。

ファンタジー世界だし魔法とかもあるんだろうなあ。

召喚魔法とか使ってみたいな。どんな世界でも大抵強いし。


「おいおい、ここはいつから託児所になったんだ?」

冒険者ギルドには酒場が併設されていて、そこで飲んだくれていたガラの悪い男が声をかけてきた。

客は、そのガラの悪そうな男と彼の仲間二人、隅で食事をしている男女だけだった。

平和な日本でこんな風に声をかけられたら恐怖で足が竦むが、ここは異世界だ。

酒場で絡んでくるのは、主人公のかませにされる哀れな名もなきチンピラAだ。

主人公の引き立て役にされる舞台装置を相手に、僕は堂々と言ってやった。

「失せな。ケンカを売る時は、相手を選ぶんだな」

チンピラAは一瞬だけキョトンとしたあと、チンピラB、Cと一緒に大笑いした。

「威勢がいいな兄ちゃん、ママは助けに来てくれないぜ」

「耳が遠いのか。失せろと言ったんだ」

チンピラAは拳を振り上げた。

拳が目の前に迫る。

僕はそれを華麗に避け…………られずに、顔面に強烈な右ストレートを叩き込まれる。

そのまま倒れそうになるが、相手に無理やり支えられて、腹に膝蹴りを喰らう。

口の中に酸っぱいものが広がり、夢見心地でいた頭が現実に引き戻される。

「おいおい、弱いくせにケンカ売るんじゃねえよ」

ケンカ売ってきたのはそっちからだろう。

「あんまり、やり過ぎるなよ。殺しちまったら面倒くせえ」

クソ、クソ、クソ。こんなはずじゃない。こんな雑魚共に負けるなんて。モブキャラだろう、こんなやつら。

「見ろよ、泣いてるぜこのガキ!悔ちいでちゅねー」

僕の頬に熱いものが流れた。それは血ではなかったが、僕は気づかないふりをした。

「気持ち悪いな。うざいから殺しちまうか」

チンピラはナイフを抜いた。

そうだ、ここは日本じゃない。命なんて、紙くず以下の世界なのだ。

僕は助けを求めて受付のお姉さんを見たが、退屈そうに爪の手入れをしていて、こちらに一瞥もくれなかった。

死。こんな、簡単に。まだ何もしてないのに?



「おいおい、喧嘩で得物抜いちゃ駄目だろ」


隅で食事をしていた男が立ち上がり、チンピラたちを制止した。

「何だ、手前。こいつの知り合いか?」

「そういうわけじゃないが、ちょいとばかしやり過ぎじゃないか」

「関係ないんだったら、黙って座ってな。失せろ、()()()


腰抜け、と聞いた瞬間、男の雰囲気が変わった。




「今、なんて言った?」


「腰抜けと言ったんだ。聞こえねえのか」


「俺はな、この世で我慢ならねえことが二つだけある。一つは馬の小便みたいに温くなったビールを出されること」

男は酒瓶を手に取った。

「そして、もう一つは。()()()と言われることだ」 

そして、思い切り酒瓶を叩きつけた。

小気味良い音を立てて、酒瓶とチンピラの頭が割れた。

「野郎!」

残りのチンピラ二人が、男に襲いかかる。

「ヤンキーに腰抜けと言ったんだ。五体満足で帰れると思うなよ!」

ぶおん、と空を裂き、男の右足がチンピラのこめかみに突き刺さる。

チンピラの意識は、一瞬で飛ばされる。

「ぶっ殺してやる!」

最後のチンピラはナイフを抜いて、男に向かって突き刺す。

迫りくる銀色の煌めきを、男は冷静な様子で叩き落とす。

「得物を使うってことは、相手を殺そうとするってことだろ。殺そうとしたんだから、殺されても文句は言うなよ」

男は、チンピラの襟首を掴んで、腰の回転を加えながら、床に向かって思い切り叩きつけた。

チンピラの首から嫌な音がした。

「ああ、クソ。またやっちまった。大丈夫か、坊主」

僕は二つ学んだ。

一つは、どうやら僕は主人公ではないらしいこと。

そして、もう一つは、しばらくはこの人についていけば命の心配はしなくてよさそうなこと。

僕は差し出された手を取った。


 



「ずいぶんと勇敢じゃな」

食事を済ませたキスカがそんなことを言ってくるのを、俺は羞恥心と共に聞いた。

「悪い、反省している」

男には逃げてはいけない戦いがある。

だが、これは逃げていい戦いだった。

短気なのは、俺の数ある欠点の内の一つだ。

だが、例え未来を変えるとしても、腰抜けと言われることだけは許すことができない。

「案外可愛いところがあるものじゃな、坊ちゃん」

「面目ない」

反論の余地は無かった。


「あの…」

「おう、怪我は……けっこう酷いな。治してやる」

俺は中級回復魔法良い回復(ヒーラー)を発動。

怪我は打身や打撲だけだったので、傷痕が残らずに綺麗に治った。

東洋系の顔立ちをした少年は、丁寧に礼を述べた。

そして、次によく分からないことを言い出した。

「弟子にして下さい!」

「は?」

キスカがニヤニヤと笑っていた。

「俺の耳がイカれたのか、それとも、お前の舌がおかしくなったのか。弟子と聞こえた気がしたんだが」

「はい、何でもしますから、どうか鍛えて下さい」

俺は露骨に嫌な顔をしながら、少年の申し出を断った。

「嫌だ」

「そう言わずに助けてやったらどうじゃ、人助けはしておくものじゃぞ」

横からキスカが口を出してくる。

「嫌だ、絶対に」

「そうおっしゃらずに、何でもしますから」

「それ以上、俺を不快にさせる言葉が聞こえたら、お前の歯をへし折るぞ。嫌だったらここから出て行け」

「でも…」

「あー、聞こえない、聞こえない」

俺は、抵抗する少年を無理やり建物の外へ押し出した。

「助けてやればいいだろうに」

「俺たちのようなお尋ねものといたら、命を狙われる。それに、そこまで面倒を見てやる義理もない」

「案外甘いの」

「自分のことしか考えてないだけさ」

俺のような弱者は、自分の身を守るだけで精一杯だ。


俺は受付嬢に近づいて、認定証を発行して貰えるように頼んだ。

暴れたことを咎めるでもなく、褒めるでもなく、受付嬢は気怠げに自分の職務を果たしてくれた。

冒険者ギルドは国の垣根を越えて世界に広がる組織であるので、一度冒険証を発行して貰えば、どこでも使うことができる。

ただ、魔物の狩猟などを行う場合は、現地のギルドの許可証が必要なため、今回は二人分発行してもらった。


「薬草採取は100グラムで5ドルか、しけてるなぁ。やっぱ狩りをするしかないか」

掲示板に貼られている依頼を確認するが、大して稼ぎのいい仕事はない。

都会のギルドとは違い予算が少ないため、依頼に出せる報酬が限られているからだ。

仕事は地方の方が多いが、報酬は地方の方が少ない。

どこもそんなもんだ。

「これはどうじゃ、ドラゴン狩り。一匹5000ドル。悪くないじゃろ」

「報酬はいいが、あいつら頭が良いから見つけにくいんだよなぁ。前にやったときも面倒だった」

ドラゴンは自分自身が強い分、他者の強さに関しても敏感だ。

自分より強い生物の匂いを嗅ぎ取ると、恥も外聞もなく一目散に逃げだす。

そして、俺の隣にいるのは魔王。

生態ピラミッドの頂点に立つ生物である。

「なんだ、お主そんなに強かったのか?」

「俺一人じゃ勝てなかったが、昔の相棒がやたらと強い奴だった」

クリスの奴は元気だろうか。

それにしても、何故俺の周りには強い奴が集まるんだ。

勘弁してくれ。

巻き込まれて死ぬ。



「ま、このあたりがいいんじゃないか」

俺はオークとゴブリンの手配書を指さした。

オークは一匹あたり25ドル、ゴブリンは15ドルだ。

生息数が多いので、見つけるのも容易だ。

「ゴブリンにオークか。楽勝じゃな」

冒険者にとってはゴブリンやオーク程度は物の数ではないが、一般市民にとってはそうではない。

街道を旅していた家族が襲われて全滅、珍しくない話だ。

そのような事件を減らすために、俺たちのようなカタギじゃない連中が奴らを狩るのだ。

ただ、完全に滅ぼしてしまうと飯の種が無くなるし、生態系も崩れるので、冒険者ギルドが一定数の狩猟制限を設けている。

「油断するなよ。いくら強くても、首を刎ねられたら死んじまうんだ」

「ああ、よーく分かっている」

俺たちは受付嬢に礼を言ってから、ギルドを出た。

キスカが実際に戦うところはまだ見たことがない。

お手並拝見といこう。



三回目の投稿でした。

今回のフォードのセリフは未来に戻る映画のパロディです。

あの映画は1、2、3全部面白いからすごいですね。

僕はパート2が好きです。

ホバーボードが格好いいんですよね。

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