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友達

作者: レンコン


 昨日一緒に帰った友達が自殺した。遺書は見つからなかったらしい。


「どっか遠くに行きたいなー」それがアイツの口癖だった。そいつの家はとんでもない金持ちだから行こうと思えば毎日だって遠出ができるから「どこにだっていけるだろ」といつも僕は返していた。そう言うと必ず「そういうことじゃないんだよなぁ」と返ってくる。よく覚えてないけど多分昨日も同じようなくだりをこなしたと思う。今思えば、その表情はいつもより翳っていたかもしれない。


 死因と共に訃報を聞いた時、最初に抱いたのは疑問だった。もちろん驚いたし、悲しみもしたけど、最初は「何故」だった。


 あいつとは幼稚園からの幼馴染で付き合いはもう14年に差し掛かるところだった。示し合わせたわけでもないのに同じ私立中学に通うことがわかったときにはお互いうんざりした顔をしたものだ。表には出さなかったけど、内心はとても嬉しかった。


 小学校の頃、ませたガキだった僕たちはどう言う経緯か自殺について討論したことがあった。あいつの結論は今でも覚えている。「恥ずかしいから絶対にしない」だ。


 アイツの親御さんが学校に来た。教室に乗り込もうとしたのを俺が止めた。どうやらいじめがきっかけと断定しているらしく、なかなか話が噛み合わなくて、むず痒かった。アイツは昨日、家に帰ってからも普段通りだったらしい。ゲームばっかりして、怒られて宿題やって、夜ご飯を食べて、妹と喧嘩して、親に楽しそうにその日学校であった出来事を話す。そして眠る。朝首をつっているのを妹が発見したと言う。


 たとえ自殺だったとしてもいじめではない。あいつは俺と違って人に好かれるやつだった。俺の今の親友たちは大体があいつ経由で出来た連中だ。どいつもこいつもいい奴ばっかりで、いい奴にはいい奴が集まるんだろうなといつも思っていた。そのいい奴らを今、あいつの父親が殺気立った目で睨んでいる。


 校長室に俺と担任が呼び出され、学校生活についての報告を彼らにすることになった。残念ながらうまく事は運ばず、お父さんが担任の胸ぐらを掴んだところで騒ぎを聞きつけたあいつの妹ちゃんが飛んできて仲裁に入ってくれた。お父さんもお母さんも、妹ちゃんも俺も、みんな泣いていた。


 妹ちゃんはあいつと三歳違いで、今年中等部の一年として僕らの学校に入学を果たした。あいつに似て陽気な子だが学校で会うのは気恥ずかしいらしく、たまにすれ違った時などはいつもそっけない感じで会釈だけする。二人っきりの時はとても饒舌になるそうで、妹ちゃんがやつが忘れたお弁当をクールに届けに来た後、LINEの履歴を見せてもらったときはその余りのギャップに教室中が湧いたものだ。外から見る分にも本当に仲の良い二人だった。


 明日葬式があると親に話し、自分も出ようと思っている旨を伝えるとあっさりと学校を休む許可がおりた。念入りに式場の住所を聞いてきたから二人ともくるつもりなのかもしれない。ちょっと嫌だった。


 当日踏み入れた式場は想像よりもずっと大きかった。知ってる人も知らない人も皆揃って暗い顔をしているが、どうやら死因が自殺とは聞かされていないようだった。心不全という説明があったらしい。


 友人代表としてスピーチをやるハメになった。親族代表の後にやるらしく、突然のことだった。一時間後と言うから急いで原稿を書こうと思ったのに、ふと、場内に並べられた花たちが目に入ってきて、気づいてしまった。花の束の中に俺の苗字があった。親が住所を聞いてきた理由はこれだったらしい。なんかもう心がぐちゃぐちゃになってしまった。


 親族代表の妹ちゃんのスピーチの間、意地で涙を止めたものの、自分の番が回ってきた時には原稿なんてできていなかった。内容は省くが、即興でやったにしても我ながらひどいものだった。本来拍手なんてもらえるような上等なものではなかったと思う。


 火葬場にも同席した。骨を持って帰ってもいいと言われたから、たまたまバックに入っていたなんの用途で使っていたか全く不明のジップロックに適当に詰めた。「私の骨はどうせ墓に入れられるだろうけど、海洋散骨って素敵じゃない?」そういえばそんなことを抜かしていたので、今度海にばら撒いてやろう。手持ちは大腿骨のかけらだけだが。


 多分奴は飽きたんだろう。昔から好みの移りやすいやつだった。人生にも見切りをつけてしまったのだと思う。自分にはそれが残念でしょうがないが、でもそれほど悲観すべき事じゃない。あいつは満足して逝ったと言う事だ。


 でも、僕には相談して欲しかったな


 



 




 



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