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出来損ないの人器使い  作者: salt
第3章
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82話「首都防衛戦6」

「おぉぉぉぉぉ!!!」


 エヴィエスは炎の魔人イフリートの放つ炎弾を低い姿勢で掻い潜り突きを数発放つ。

 その神速とも言える突きはまるで本物の炎に打ち込んでいるかのように揺らめき全く手応えがない。

 しかし、エヴィエスの狙いは別にあった。


「シロ!!!」


 シロはエヴィエスの問いかけに答えるようにイフリートに向かって水弾を放つ。

 乾いた音と共に放たれた水弾は全身が超高温の炎で覆われているイフリートの身体に命中する前に蒸発してしまう。

 ミズラフで対峙していた魔物であれば容易に身体を貫くほどの力込めているのにだ。


「くっ!!」


 エヴィエスはイフリートが無造作に行った横薙ぎを紙一重で躱す。

 そして続けざまに放たれる炎弾を突剣で素早く弾きながらバックステップで距離を取る。


「エヴィ!!!」


 シロはエヴィエスの背後から再度水弾を放つが、イフリートはその水弾を気にする素振りも見せずに突進しエヴィエスに拳を見舞った。


「ぐあっ!!」


 エヴィエスはその拳を突剣で受け止めるが、その勢いに押され後方に勢いよく吹き飛ばされる。


「エヴィ!大丈夫!?」


 吹き飛ばされたエヴィエスの背中を支えながらシロは声を掛ける。


「ああ、だけど受け止めた右手が火傷でもうダメだ。キッツイなこれ」


 エヴィエスの突きもシロの水弾もイフリートに傷を与えられていない。

 2人の息のあった連携をもってしても徐々にイフリートに押され始めていた。


「「!?」」


 イフリートは間髪入れずにシロとエヴィエスが足を止めたのを見計らうと両手を突き出し光線を放つ。


「チッ!!ナイ!!!」


 エヴィエスは瞬時にナイと交代しシロ達を守る盾を顕現させ光線を防ぐ。


「あぁぁぁ!!!」


 渾身の力で光線を受け止めるナイであったが流石に連戦の疲れが出ているのだろう。

 ナイはその勢いを殺し切ることはできず、シロと共に後方の建物の中に吹き飛ばされた。


「シロ!!大丈夫か!?」


(シロさん!!!)


 ガラガラと瓦礫が音を立てる建物の中で素早くナイと入れ替わったエヴィエスが身を屈めながら声を掛ける。

 心配そうなリリスの声も脳裏に響く。


「ゲホッゲホッ……うん大丈夫」


 吹き飛ばされた時、建物に背中を強く打ち付けてしまったシロは咳き込みながらエヴィエスに答える。

 シロ達が吹き飛ばされた建物は飲食店だったのだろう。

 建物内にはテーブルや椅子があちこちに散乱している。

 シロ達は身を屈めながら外の様子を伺うとイフリートはゆっくりとこちらに近づいてくるのが見える。


「シロ……アレはあと何発打てる?」


「……1発が限界だと思う」


 エヴィエスが問いかけたアレとはシロの最高火力であるデュアルバーストのことだ。

 シロは今日既に2発放っており、1日の限界3発まで残り1発しか放てない。

 しかも、既に癒しの弾も数発放っており、あと1発のデュアルバーストでシロは恐らく気を失うだろう。


「1発か……じゃあぶっつけ本番だな」


「……でも躱されたら終りだよ。絶対に当てないと」


「ああ、分かってる。俺が必ずあいつの動きを止める。シロはそこで隠れたまま準備をしておいてくれ」


「!?でも……」


「……死にに行くようなもんだって顔してるな。大丈夫俺は死なない。なぁ……ナイ?」


 ただでさえイフリートの放つ炎の弾を掻い潜るのにエヴィエスはかなり無茶をしている。

 いくつもの火傷を負い、突剣を握る右手は火傷で黒ずんでしまっている。


「……信じていいんだよね?」


「ああ……俺は絶対に死なない。やっと大切な者に気づけたんだからな」


 そう言いながらエヴィエスは優しげな笑みを浮かべた。


「分かった」


 エヴィエスの真剣な眼差しを見たシロは深く頷く。


「ありがとう。じゃあ俺は建物の裏手に回ってあいつの気を引く。シロはここでタイミングを図っていてくれ」


 そう言うとエヴィエスは身を低くしたまま建物の奥へと進んでいった。


(シロさん……エヴィさんは大丈夫でしょうか……)


(うん……でもエヴィが出来るって言ったんだ。僕達は信じて待とう)


 そこにはシロのエヴィエスに対する揺るぎない信頼があった。


 ◆◆◆◆◆◆


(エヴィ様……本当に私達に出来るかな?)


 身を屈めながら建物の裏手に回っている最中、ナイの不安げな声が脳裏に響く。


(出来なければ俺達もシロ達も死ぬだけだろ)


 エヴィエスがイフリートの足止めをしてシロがデュアルバーストを当てる。

 それしか勝ち目がないことはナイも分かっているはずなのだ。


 建物の裏口から外に出たエヴィエスは左右を見渡しイフリートの背後に回れる道を探す。

 普段であれば人々で賑わう通りも今や誰もいない。

 二軒先の曲がり角を曲がればイフリートの裏に回れるだろう。

 エヴィエスは勢いよく駆け出しその角を曲がるとすぐに開けた大通りが見える。

 大通りに出る手間で立ち止まり、そっとシロが潜む建物を覗き込む。

 すると降り頻る雨の中燃え盛る炎の魔物の背中が見える。

 シロの水弾も蒸発させる高音を発しているのだから当然だが、雨の中でもその炎の勢いは弱まる気配を見せない。


(行くぞ、ナイ)


 エヴィエスは心の中でナイに問いかける。


(でも……練習じゃ一度も……)


(分かってる……)


 エヴィエスはぶっきらぼうに答えた。

 不安げなナイにどう声を掛けてあげればいいのか分からなかったのだ。


 やるしかない。

 やるしかないのだ。


(上手くいかなかったのは私が足手纏いだからだよ。どうしようエヴィ様……私が失敗したらみんな死んじゃう)


 ナイの不安な気持ちは痛いほど分かる。

 最も護りたい最愛の女性が震えている。

 こんな時にどう声を掛けるのが良いのか分からない。

 だが、エヴィエスはどうしても否定したいことがあった。


(ナイ……違う。お前は足手纏いなんかじゃない!)


(!?)


(大切な事に目を背けていた俺について来てくれたのは誰だ!?俺が最も信頼しているパートナーは誰だ!?俺が守りたいと思っている女は誰だ!?)


(エヴィ……様)


(俺がお前の存在にどれだけ救われたと思ってるんだ!!足手纏いなんて……そんな悲しいこと言うなよ)


(エヴィ様……ありがとう)


 ナイの温かくて穏やかな気持ちが伝わってくる。

 それは陽だまりのようにエヴィエスにとって心地よい。


(……それに、お前1人じゃない。俺達でやるんだ!)


(うん!!)


 そこにはもう弱々しいナイの気持ちは感じられなかった。


(行くぞ!!)


 エヴィエスは意を決してイフリートに向かって地面を蹴った。


 人間と魔物。

 再び激動の時代の幕開けとなった首都防衛戦は最終局面を迎えていた。

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