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出来損ないの人器使い  作者: salt
第3章
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81話「首都防衛戦5」

「終わったのか……」


 ラウドは自身の亡骸を抱えて泣くカーミラの傍で悔しそうに呟いた。


 今ここに居る自分は想いの残滓のようの存在で、いずれ消えるだろう。

 自身の命がもう既に消えているということはラウド自身がよく分かっていた。


 ヘリオスとルーには悪いことをした。

 今までにないテラーの襲撃。

 これからテラーとの戦いが激化していくだろう。

 だからこそ人々の力をまとめなければならないのだが、その役目を負わせることになってしまった。

 そして、ギルドの仲間達。

 俺を慕ってついて来てくれた奴らが沢山居る。

 そいつらを置いて去る事になってしまった。

 まだまだ仲間達と共に成し遂げたいことがあった。

 しかしそれはもう、二度と叶うことはないのだ。


「……すまない」


 その想いは後悔と自責の念に満ちていた。


「なーに一人で落ち込んでんのよ?」


 唐突に後ろから声を掛けられたラウドは驚きながら振り向くと、生涯愛すると誓った女性マーレが亡くなった時と変わらない姿で見つめていた。


「マーレ!!!」


 ラウドは彼女に駆け寄り思いっきり抱きしめる。


「痛いわよ……それに貴方……老けたわね」


「当然だろ。お前が逝ってから何年経ったと思ってるんだ」


「それもそうね……でもずっと見てたわ。才能のない貴方がまさかここまで頑張れるとは思わなかったわ」


 マーレはラウドの背中に手を回し優しげに答える。


「だが、結局俺は何も成し遂げられなかった」


 ラウドの瞳から一筋の涙が溢れる。

 彼女を失ってから、人々を導く存在としてずっと糸を張り詰めていた。

 それが、初めて切れたのを感じていた。


「大丈夫。貴方の想いは受け継がれているわ」


 マーレは今もラウドの亡骸を抱きながら泣き叫ぶカーミラに視線を向ける。


「カーミラ。大きくなったわね」


「……ああ。だが、俺は父親として良い父ではなかった」


「でも貴方なりに必死にやったんでしょ?それに……貴方だからここまで来れた。そう私は思っているわ」


 マーレはカーミラに近づき、そっと背中を抱き寄せる。

 しかし彼女の熱を、そして想いをカーミラは感じることはない。


「さあ、待ちくたびれたし行きましょうか」


 満足したと言わんばかりの晴れやかな口調でマーレはラウドに明るく問いかける。


「……何処に行くんだ?」


「さぁ?私にも分からないわよ。でも貴方となら天国でも地獄でも着いていくわ」


 そう言いながらマーレは悪戯っぽい笑を浮かべた。


 その笑顔を見てラウドは思い出していた。

 彼女の自身満々で不遜な態度。

 そして、試しているかのような悪戯っぽい笑みが好きだったと。


「ああ……お前がいれば何処でも退屈はしなそうだな」


 それを思い出したラウド笑みを浮かべながら答えた。


 人々の平和を願い、英雄と称された男。

 ラウドは笑顔でこの世を去った。

 彼の自身の、そして彼女の想いが受け継がれていくことを信じて。


 ◆◆◆◆◆◆


 救世主と英雄の戦いが終結した頃、北では人間最強の一角である人器使いウタとルガートの戦いが続いていた。


 降り頻る雨をもろともせず、複数の炎の竜巻が立ち登るその空間は息を吸うだけで肺が焼けるほど超高温になっていた。


「おら!!!」


 轟々と燃え盛る炎の竜巻を突き破ったルガートは瞬く間にウタに接近し拳を繰り出す。


「ふっ!」


 その拳を軽やかに躱したウタはリディスの人器を鞭のように振るい炎の渦を放つ。

 リディスの人器は本来、短剣の切先から伸びる炎の刃が伸縮自在であるという能力だったが、ウタが注ぎ込む桁違いの魂によって限界を超えた力が引き出されていた。


 ルガートはウタが放った炎の渦を正面から受けるが、全身がやや焦げただけで踏み止まりニヤリと笑みを浮かべた。


 人間最強の一角であるウタをもってしてもルガートに致命傷を与えることはできず、戦況は膠着状態が続いていた。


「全く……どんだけタフなのよ……」


 高温の空間での戦いで額に汗が滲むウタは呆れた表情で黒髪を掻き上げながらポツリと呟く。


「ははははははは!!!いいねぇ……姉ちゃん最高じゃねぇか!!」


 ルガートは歓喜に心を躍らせていた。

 強者との戦いを何よりを欲するルガートにとってまさにウタとの出会いは求めていたものそのものであったからだ。


 ウタの佇まいはもはや美しいとさえ感じていた。

 嬉々とした笑みを浮かべながらウタを真っ直ぐに見つめるその瞳はまるで子供のようにキラキラと輝いていた。


 一方、ウタは戦いを楽しむつもりなど微塵もない。

 早々にこの戦いにケリをつけて街へなだれ込んだ魔物との戦いに向かいたかったのだ。

 恐らくシロ達もそこで戦っているはず。

 シロ達であれば大丈夫だと確信しているのだが、それでも心配という気持ちは拭えなかった。


「……生憎アンタとこんな所で戯れてる時間はないの。さっさとケリをつけましょう」


 ウタはリディスの人器をヒュンヒュンとしならせながら構える。

 しかし、ウタの力をもってしてもリディスの人器ではルガートに致命傷を与えることはできない。

 ここまで互角に戦えていたのは、ウタの人器使いとしての能力の高さに他ならない。


「相変わらず連れねぇ女だな。ますます気に入ったぜ……だが楽しくなってきただけに残念だ」


 そう言うとルガートは不意に上空を見上げる。

 ウタもその視線の先を追うと上空から大型の物体が猛スピードでルガートの隣に降り立った。


「……!?」


 ウタはその物体が着地した時に起こした爆風を避けるため素早く後ろに飛び退く。


 それは飛竜と呼ばれる東の果てに存在しているとされる最上位の魔物。

 ウタも聞いたことはあるが見るのは初めてだ。


「飛竜……そんなもの連れてきてどうするともり?」


「こいつは俺の乗り物だ。姉ちゃんとこのまま戦い続けてもいいんだが、今日は引かせてもらうぜ」


「これだけの事をしてあっさり引くって言うの?」


 ウタは飛竜に跨ったルガートに問いかける。

 このまま攻め続ければ人間を滅ぼす事だって可能な筈なのだ。


「まあな。今日は十分楽しめたし、これからもっと楽しいものを見せてもらえる約束なんでな」


「へぇー、アンタみたいな戦闘馬鹿が他人の言うことなんて聞けるのね」


「ああ!?そんな訳ねーじゃねぇか!!姉ちゃんの使ってるリディスって姉ちゃんの人器じゃ俺に勝てねぇんだろ?次は本気でやろうぜ……お互いにな」


 ルガートは牙を剥き出しにして満面の笑みを浮かべる。

 そして、飛竜は羽ばたきを初めて少しずつ空へ浮き上がっていく。


「あっそうだ!!姉ちゃん……これからこの飛竜で街を焼き払おうと思うんだ」


「な!?」


「それが嫌なら……名前を教えてくれねぇか?」


 突然のルガートの申し出にウタは驚いた表情を浮かべる。

 流石のウタもリディスの人器では空高く舞い上がった飛竜を素早く落とす事は困難だろう。

 街が更に焼かれることがあれば、この街は終わってしまうかもしれない。

 街と自分の名前を教える事、ウタには断るという選択肢はなかった。


「……ウタよ」


「ウタか!!覚えておくぜ、今度はお互い本気で戦おうぜ!!」


 そう言いながらルガートは飛竜と共に飛び去って行った。


「また会うのはごめんだけどね」


 既に小さくなったルガートの背を見つめながら呟く。

 しかし、ウタにはこの場所でゆっくり休む時間はない。

 早くシロ達の所へ向かわなければ。


 そう思いながら足を進めた瞬間、ウタの中に何が流れ込んでくる。


「これは……」


 それはウタにとって見たこともない光景。


 燃える世界……

 笑う女性……

 そして、自らの血……


 その光景が何かを考えることもなく、ウタは意識を失っていた。

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