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出来損ないの人器使い  作者: salt
第3章
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80話「首都防衛戦4」

 人々を守り導く英雄として、そして父親として全ての力を込めたラウドの槌とアルクの大剣がぶつかり合う。

 それは見渡す限りの草木を吹き飛ばし、地形を変えるほどの衝撃だった。


 全てを込めるラウドの槌の力に圧されながら、アルクは自身の行動に違和感を感じていた。

 なぜ自分は馬鹿正直にラウドの攻撃を受け止めたのか。

 自身との実力差は明白であり、力比べに付き合うなどという愚行を犯すより、より確実に息の根を止める方法があった筈なのだ。

 しかし、気が付いた時には真正面に受け止めていたのだ。

 アルクはその時、確かに自身の心を揺さぶる何かを感じだ。


 だが、その事に想いを馳せる余裕などない。

 アルクにはアルクの……全てを犠牲にしてでも成し遂げなければならないものがある。


 ここで負ける訳にはいかないのだ。


「グッ……グォォォォォォォ!!!」


 アルクもまた全力を出す決意をしたのだった。


 ◆◆◆◆◆◆


「おぉぉぉぉぉぉ!!!」


(父さん!!!負けないでぇぇぇ!!!)


 魂の力は全て使い尽くしているだろう。

 ボヤけてきた視野の中で、娘の叫びだけがやけにはっきりと聞こえていた。


 当然だ。負ける訳にはいかない。

 娘に父さんのカッコいいとこ見せてやらんとな。


 ラウドを支えていたのは父としての意地。

 そして生涯愛すると誓った女性との絆だった。


 マーレ。

 ここで負けたらあの世でお前に胸張れねぇもんな。


「おぉぉぉぉ!!いっけぇぇぇぇ!!!」


 ラウドの咆哮がこだまする。

 もう視界は失われている。


「グッ……グゥゥゥ……」


 しかし、カーミラから流れてくる感情が、アルクの苦悶の声が自分が優勢であることを教えてくれていた。


 マーレ。カーミラ。

 俺は……救世主を超えるぞ。

 後は愛すると娘の人器を振り切れば良い。

 それで全てが終わるのだ。


 ラウドは娘の人器を今一度強く握りしめた。


 その瞬間。

 僅かな違和感に気付いた。


 カーミラの人器にヒビが入っていたのだ。

 これだけの衝撃だ。

 人器に相当な負荷が掛かっているのは間違いない。

 人器が砕けた場合、カーミラという存在は失われる事になる。


 いつから?

 もしやこの衝突の最初から……!?


 目の前の敵に集中するあまり最も大切なことを忘れてしまっていたのだ。


 それに気が付いた時。

 ラウドの答えは決まっていた。


(……カーミラ。父さん……また間違いをしちまうところだった。だが今度は気が付けた)


(!?父さん!!!何を……)


 カーミラが問いかけるのを待たずにラウドは自らの力をフッと緩めた。


 ◆◆◆◆◆◆


 ラウドが突然力を抜いた為、2人の激突の衝撃は全てラウドに注がれた。


 大地を揺らす程の轟音が響き渡るなか、大剣によって身体を切られたラウドはまるで重みを失った紙人形のように宙を舞った。

 そして、程なくドサっとという音と共に地面に落ちた。


「父さん!!!」


 人器を解除したカーミラは枯れるほどの声を張り上げながらラウドに駆け寄る。


「……良かった。無事だったか……」


「良かったじゃないわよ馬鹿!!!なんであのまま振り切らなかったよぉぉぉ!!!」


 カーミラは切られた身体から溢れ出る血を止めようと精一杯抑えるが、それは誰の目から見ても致命傷だ。

 今会話出来ているのすら奇跡に近いだろう。


「馬鹿な男だ……自らの命を捨てるとはな」


「……アルク。お前には分からないか。その力がお前を追い詰めたのだがな……」


「だか、結局負けたのはお前だ。その最愛の娘とやらもあの世に送ってやろう」


 アルクが再び炎を纏い大剣を振り上げた瞬間、ラウド達の前にある男が降り立った。


 美しい金髪に女性と見紛うほど端正な顔立ちの男は烈火の如く怒りの表情を浮かべながら剣を構える。


「英雄の次は勇者か……つくづく人間は大層な名を与えるのが好きだな」


「……救世主だって同じようなもんだろ」


 必死に平静を装うヘリオスだったが、共に人間を支えてきた同志であるラウドの姿を見て怒りに震えていた。


 降り頻る雨がより一層強まるなか、アルクとヘリオスは視線を交わす。

 間髪入れずに動いたのはヘリオスだった。

 光の速度とも称される神速の斬撃をアルクの首に向かって放つ。


「!?」


 その斬撃は確実にアルクの首を切り落としているはずだった。

 しかし、斬り落としたはずの首は炎の揺らめきのように全く手応えがなかった。


「……勇者。お前にはまだ役目がある」


 そう言いながらアルクは身に纏う炎を激しく燃やし、その場から蜃気楼のように消えていった。


「ラウド!!」


 ヘリオスは周囲に気配がないのを確認して、後方に倒れるラウドに駆け寄る。


「ヘリオス……か。全く……お前は遅いんだよ……」


「ラウド……すまない。俺は……また間に合わなかった」


「……いいんだ。カーミラが助かった。お前は間に合ったんだよ」


 その声はとても穏やかで英雄としてではなく父としての言葉だった。


「父さん!!!うっぅぅぅぅ」


「カーミラ……」


 人器化を解除したルーが嗚咽を漏らすカーミラの背中にそっと手を触れる。


「ヘリオス……ルー……カーミラ。俺は……ここまでだ……後はお前達に託す」


「ああ」


 ヘリオスはラウドの手を握り力強く答える。


「カーミラ」


「あぁぁぁ、駄目駄目駄目駄目。父さん行かないで!!」


「……聞くんだ」


「うん、うん、聞くから、聞くからもう喋らないで!」


「何があっても……生きろ。そして幸せになれ。それが俺と母さんの願いだ」


「父さん!!!嫌!!!いやぁぁぁぁぁ!!!」


 カーミラの悲鳴がこだまするが、その声に応えるものは誰も居なかった。

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