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出来損ないの人器使い  作者: salt
第3章
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79話「首都防衛戦3」

 シロとエヴィエスがイフリートと対峙した時、ある人物がギルドの屋上から周囲を見渡していた。


 中央広場付近では同調が使えない人器使い達と魔物が入り乱れている。

 しかし、マライアを始めとするギルド職員達が人器使い達に指示を送り、統率の取れた動きで魔物達を次々打ち倒していた。

 個の力では魔物達に劣るが所詮は烏合の衆。

 皆が協力すれば負けることなどないのだ。


 そして、その奥に若い2組の人器使いが眩い光を放つイフリートと対峙している。

 そのうちの1人。

 鈍色の髪の少年は見覚えがあった。


 ラウドが以前見込みがあると嬉しそうに言っていた青年。

 確か、名はシロだ。


 そして、シロの隣に立つ人物も立ち振る舞いに風格がある。

 恐らく、あの2人がイフリートに遅れを取る事はないだろう。


 すぐさま中央広場での戦いの状況を判断すると次は北に視線を向ける。


 北は竜巻にも似た火柱がいくつも上がっている。

 降り頻る雨の中、その炎は一切弱まる様子を見せない。

 あれだけの力を放出出来るのはウタに間違いない。


 ウタなら例えテラーであっても負けることはないだろう。


(ヘリオス……ラウドが不味いぞ)


 唐突にアーチェの声が脳裏に響き、その言葉に胸がドクンと脈打つ。


(アーチェ……ヘリオスの場所は?)


(東。城壁の外だ)


(分かった……ルー。行くぞ……)


(ええ、急ぎましょう)


 中央広場の戦いにヘリオスが助太刀すれば魔物を瞬く間に殲滅することが可能だろう。

 しかし、ラウドをここで失う訳にはいかない。


 ヘリオスが助太刀しなかったことで命を失う人器使いも居るだろう。

 だが今、この瞬間ラウドに加勢できるのはヘリオスだけなのだ。


 失った人々の命の重みも背負って戦う。それがヘリオスの揺るがぬ意思でもあった。


「……すまない」


 ヘリオスはこれから激戦が予想される鈍色の髪の少年に視線を送りなら一言呟くとその場から消えた。


 ◆◆◆◆◆◆


 ケントルムの東で始まった救世主と英雄の戦いは決着を迎えつつあった。


「ぐ……」


 ラウドは苦悶の表情を浮かべながら片膝を付いた。

 かろうじて致命傷は免れていたが、全身は火傷で燻り眼前に佇むアルクとの力の差は歴然だ。

 しかし、ラウドの瞳から光は失われていない。


「……惜しいな」


 アルクは身に纏う炎の熱とは裏腹に冷ややかな眼差しをラウドに向ける。


「ぜぇ……ぜぇ……何がだ?」


「お前の練度……そして気概。過去の俺達と遜色ない域に達している。だがパートナーに気遣っていてはその実力も発揮できるものではない」


(!?……父さん、ごめん。やっぱり私……母さんのようには出来なかった……)


 アルクの言葉に反応したカーミラの悲痛な声か脳裏に響く。

 人器使いはお互いの能力が近い程、力を発揮することができる。

 しかし、英雄と称されるラウドとカーミラの力の差は明白だ。カーミラは自身がラウドの足手纏いになっているのを自覚していたのだ。


「あぁ……?何言ってんだ?俺の娘だぞ。最高のパートナーに決まってるじゃねぇか」


 ラウドはカーミラの咽び泣く声をかき消すように答えるとゆっくり立ち上がりカーミラの人器を構えた。


「これが最後の一撃だ。力比べといこうじゃねぇか。なぁ?救世主さんよぉ……」


「……面白い」


 アルクはラウドに向かい禍々しい大剣を構え、全身に纏う炎の勢いをさらに上げる。


(泣くな……カーミラ)


(……でも、このままじゃ父さんが……)


(……大丈夫。父ちゃんは負けねぇよ。お前を行使して負ける訳ねぇじゃねぇか……)


 なぁマーレ……


 ◆◆◆◆◆◆


「子供にする?」


「ああ、この子を私達の子供として育てようと思うんだけどどうかな?」


 マーレは穏やかな笑みを浮かべながら、先程保護した子供の頭を撫でていた。

 余程辛い思いをしたのだろう、その子供は眠りながらも涙を流していた。

 子供が住んでいた村はラウド達が駆けつけた時には既に魔物に襲われて壊滅していた。もし両親や兄妹がいたのであれば、残念ながら既に殺されているだろう。


「お前なぁ……その子がどんな想いをしたかは分かるぜ。だけど、そんな簡単に子供にして俺達に育てられる訳ないだろ?」


「そうかなぁ?ラウドはいいお父さんになると思うんだけどね」


 そう言いながらマーレはシシッと笑みを浮かべた。


「ラウド……私さ。もう長くないし子供も産めない。でも、貴方との子供欲しかった。普通に子供を産んで幸せな家族を築く。そんな幸せな日々を過ごしたかったんだよね」


「……」


「だから、私がいなくなってもこの子も貴方も独りぼっちにはならないんだよ」


「分かった……そんなこと言われたら反論出来ねぇじゃねぇか。全く……」


 ラウドは困惑した表情を浮かべながらもマーレの申し出を渋々受けることにした。

 しかし、マーレは一度言い出したら聞かない性格ということもラウド自身が一番分かっていた。


「やった!!じゃあ、起きたら名前を聞いて私達と一緒に暮らしていこうって伝えるね。あっ!服探してくるよ!!」


 パァっと笑顔が弾けたマーレは急ぎ立ち上がると隣に立つラウドの肩に手を当て一言耳打ちした。


「これからよろしくね。お父さん」


 ◆◆◆◆◆◆


 その後、マーレはこの世を去った。

 そして、俺は一戦を退き人器使い達をまとめる為にギルドという組織を作った。

 その為に多くの物を犠牲にしてきた。時には汚い方法も使った。


 だが、カーミラ。

 お前がどんな気持ちを抱えていたのか知らなかった。


 馬鹿な父さんを許してほしい。

 父さんや母さんが目指したのはお前や先の世代の子供達が理不尽に命を脅かされる世界を終わらせるためだ。


 だから、こんな所で負ける訳にはいかない。


 マーレ。

 このクソみたいな世界を終わらせて、皆が笑顔で暮らせる日々を作るために力を貸してくれ。


「おぉぉぉぉぉぉ!!!」


 俺の全てを使っていい!

 目の前の救世主を超える力を!!!


 救世主は神の化身とも呼ばれている。

 それはすなわち、神と同等と呼ぶに等しいほどの力を有していたからだ。


 その日。

 ラウドの繰り出した一撃は神にも届き得る程の力だった。

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