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出来損ないの人器使い  作者: salt
第3章
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78話「首都防衛戦2」

 少しずつ降り出した雨はいつの間にか大粒の雨へと変わっていた。

 降り頻る雨によって街を燃やす業火は徐々に弱まり、広場を染め上げる血を洗い流していく。

 しかし、人器使い達と魔物の戦いは未だ終わる気配を見せなかった。


「シロ!!」


「任せて!!」


 エヴィエスが前方に迫りくる魔物に素早く剣戟を見舞う。

 シロはその美しい剣捌きを視界の端で捉えながらエヴィエスが討ち漏らした魔物に向かって立て続けに引き金を引く。


「流石だな!シロ」


「エヴィこそ」


「次!!来るぞ!!」


「おぉ!!」


 エヴィエスとシロ。

 2人は押し寄せ続ける魔物を全く寄せ付けない戦いを続けていた。

 それはミズラフの魔物に比べて敵が弱いということもあるのだが、息のあった2人のコンビネーションに依るところが大きい。


(シロさん!)


(……うん、分かってる)


(エヴィならオークの太刀を屈み込んで躱し、左側に回るよね……だったら左から迫る魔物に水弾を撃ち込んだ方がいい)


(完璧です!その方がエヴィさんは次の行動に移りやすいのはずです!)


 リリスの称賛の声が響く中、シロはエヴィエスの眼前でオークが野太刀を振りかぶっているのを見つめながら左の魔物に向かって水弾を放つ。


 そして次の瞬間、シロのイメージどおりにエヴィエスがオークを突剣で突き刺しながら左側に回ると同時にシロの水弾がエヴィエスの行手を塞ぐ魔物を貫いていた。


 エヴィエスがどう動くかが分かる。

 そして、どうサポートしてあげれば戦いやすいか分かる。


 感情と思考を共有するのは同調の特徴だ。

 しかし、今シロは同調していないエヴィエスの考えが手に取るように分かるような気がしていた。


 これが絆というものなのかは分からない。

 だがエヴィエスとならどんな敵、どんな絶望的な状況だって立ち向かえる。

 シロはそう感じていた。


(リリス。どう?)


(脇道に逸れて広場に入ってきている魔物も居ますが、皆さんで対処出来ています。ここが抜かれなければ大丈夫です)


(分かった)


 シロはそう短く答えると再び引き金を引く。


(それにしてウタさん……どこに行ったんでしょうか?)


(うん……)


 リリスの心配そうな声が脳裏に響く。

 確かにウタは中央広場に行くと言っていた。

 しかし、エヴィエスと合流していないということはここへは来ていないということだ。

 それにウタだけじゃない。

 ローレン、リディス、カリン、ヴァルツの仲間達は何処へ行ってしまったのだろうか。


 探しに行きたい気持ちに駆られるが、この場を離れることは出来ない。

 だが、彼らがそう簡単にやられるはずがない。

 きっとそれぞれの場所で自分が出来ることをしているのだろう。

 シロはそう気持ちを切り替えて再び眼前の魔物に向かって引き金を引いた。


(シロさん!!あれ見てください!!)


「!?」


 降り頻る雨が瞳に入るのを鬱陶しいと思いながらシロは目を細めてリリスの声が指し示す方向を見つめる。

 エヴィエスが魔物を放り伏せている先、魔物に追われている人影が見える。

 その自分にシロは見覚えがあった。


(あれは……)


「ヴァルツさん!!」


 シロは素早く建物の上に飛び移る。

 視線の先では人を背負った2人組が今にも魔物に捕まりそうになっていた。


「おい!シロ!!!」


「ヴァルツさんを見つけた!!エヴィ!ここは任せた!!」


 突然建物に飛び移ったシロに驚いた様子のエヴィエスに声を掛けると、全力でヴァルツに向かって屋根を蹴った。


 降り頻る雨を切り裂くような速度でみるみる2人が近づいてくる。

 シロは空中で2人を追う魔物に向かって幾度となく引き金を引く。


 ドンドンドンドンドンドンッという音と共に雨のように鋭い水弾が降り注ぎ、魔物達を貫いた。


「ヴァルツさん!!!……!?」


 シロはヴァルツと冴えない表情の男に素早く駆け寄ると、2人が背負った人物を見て声を失った。


(……嘘)


 リリスも動揺しているのが伝わってくる。

 2人が背負っていたのは、ボロボロになったローレンとカリンだった。


「……シロ」


 酷く憔悴しきった表情のヴァルツはシロに視線を向ける。


「ローレンさん……カリンさん……どうして?どうしてこんな!?」


 2人はシロの呼びかけに応えることはない。

 ダラリと力なく伸び切った腕が2人の状況を物語っていた。


「頼む!2人の傷を癒してくれ!!」


 いつも冷静沈着な彼からは想像できないほど悲痛な表情でシロに懇願する。

 2人が命に関わる程の重傷を負っているのはシロの目にも明らかだ。


「もちろんです!ヒールバレット」


 放たれた水弾はローレンとカリンを覆い傷を癒していく。

 しかし、2人が助かるかどうかシロに確信は持てない。

 それほど2人が負った傷は深いように見えた。


「ヴァルツさん……これは一体、何があったんですか?」


「おいシロ!!!危ねぇ!!!」


 ヴァルツに事情を詳しく聞こうと切り出した瞬間、危機を知らせるエヴィエスの叫び声が聞こえてくる。


 ハッとして通りの先に目を向けると、太陽のように眩い人影が腰を落としこちらに向かって両手を突き出していた。


「あれは……」


 その魔物は見覚えがあった。

 ミズラフに来た初日。

 これまでのシロの魔物という概念を撃ち砕いた存在。

 炎の化身イフリートだ。


 あの構えは……


(アリス!!!リリス!!!)


 シロは2人に心の中で叫ぶとイフリートに向かって銃口を重ねる。


 魂を注げ……


 シロの構えをみるやいなやイフリートは炎の光線をシロ達に向かって放った。


「デュアルバースト!!!」


 イフリートの放つ光線とシロの放った激流が轟音を上げながらぶつかり合う。

 その反動がシロを襲うが、ここで負けるわけにはいかない。

 負ければ、ここにいるヴァルツ達も光線に消し飛ばされる。


 皆の命はシロに懸かっているのだ。


(シロさん!!負けません!!私達なら!!!)


 リリスの叫びにも似た声が響く。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 リリスの声に呼応するように雄叫びを上げ、シロが放つ激流は勢いを増す。


 バチィィィィィン!!!と音が弾け、イフリートの放った光線はシロの放った激流で相殺されていた。

 その衝撃波で半壊していた建物がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 なんとか光線を相殺することには成功した。

 しかし、言いようのない倦怠感がシロを襲っていた。

 今日だけでデュアルバーストを2発、ヒールバレットを3発放っているのだ。

 それはシロ自身の限界が近いということを意味していた。


 しかし、そんなシロの状態に構うことなどなくイフリートは2発目を放つ体制に入る。


「くっ!」


 もう一発デュアルバーストを放って相殺することは出来るかもしれない。

 しかし、その後間違いなくシロは戦えなくなる。


 どうすれば……


 どんなに考えても答えは出ない。

 だが、ここでイフリートの光線を止めなければ皆死ぬのだ。

 仲間達を見殺しにすることはできない。

 シロは意を決して2つの銃口を重ねる。


(アリス……リリス……力を貸してくれ!)


(シロさん!!!止めて!!!)


 唐突にシロを制止するリリスの声が響く。


「え!?」


 自分と同じ考えだと思っていたリリスに制止され、シロは驚きの声を上げる。


 しかし、その理由はすぐに理解できた。

 イフリートが光線を放つのと同時に緑色の髪の女性がシロ達の前に立ち塞がったのだ。


「私が止めるよー!!!絶対障壁!!!」


 ナイは光り輝く盾を顕現させ、イフリートが放った光線を弾く。

 そして、次の瞬間にはナイの人器を手にしたエヴィエスが現れる。


「エヴィ!!!」


「シロ!!!俺達であいつを止めるぞ!!」


「でも広場は?」


「そっちなら大丈夫。みんなが加勢に来てくれたんだ」


 後ろを振り返ると広場に入った魔物を倒した人器使い達が魔物と戦っていた。


「あいつを倒せばここは守り切れる!!ヴァルツさんは広場の地下に避難してください」


「……分かった。エヴィ君。シロ君。すまないが、頼む」


 エヴィエスの言葉にヴァルツは頷いた。


「「任せてください!!」」


 2人は未だ太陽の如く輝きを放つ炎の化身に険しい眼差しを向けるのだった。

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