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出来損ないの人器使い  作者: salt
第3章
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77話「首都防衛戦1」

 人々の首都であるケントルムを突如襲ったアルク、ルガートのテラーと魔物達。

 後世、この出来事について記された書物では主に3つ主戦場があったとされている。


 一つは街の東。

 アルクと対峙したラウド。所謂救世主と英雄の戦いである。


 一つは街の北。

 戦いを好み強者求めるテラーであるルガートと人間最強の一角であるウタ、リディスの戦い。


 どちらも後世に名を残す人物の戦いだ。


 そして、最後は中央広場付近。

 街へ雪崩れ込んだ無数の魔物と名もない人器使い達の戦い。

 この戦場が最も熾烈を極め、かつ多くの犠牲者を出した地でもあった。


 ◆◆◆◆◆◆


 中央広場へと押し寄せる魔物達とそれを阻止するべく勇敢に戦う人器使い達。

 そして、広場地下へ避難しようとする人々が入り混じり中央広場付近は混迷を極めていた。

 人々の悲鳴や魔物の咆哮が入り混じり、多くの人々がパニックに陥るなか、エヴィエスとナイは必死に魔物達と戦っていた。


「はぁはぁ……どうすりゃいいんだ」


(エヴィ様……腕の傷大丈夫?)


(……ああ、でもそんなこと言ってる場合じゃないだろ)


 突然街を襲った業火が降り注いだ時、エヴィエスとナイは中央広場付近にいたのだ。

 その時にナイを庇ったエヴィエスは左手に重度の火傷を負っていた。

 今も左腕からは血が滴り、戦いには使い物にならない状態であったが間髪入れずに押し寄せた無数の魔物との戦いで手当てをする暇などなかった。


「おい!危ねえ!!」


 視線の先では前方に気を取られた人器使いの男が背後から斬り付けられそうになっている。

 エヴィエスは一瞬で最高速まで加速するとその魔物の頭をナイの突剣で突き刺す。


「……ありがとう」


「あんまり出過ぎるな!囲まれるぞ!」


「ああ」


 エヴィエスはなおも増え続ける魔物達に険しい視線を向ける。


(ナイ!!来たか?)


(いないよ!みんな全然来ないよ!)


(シロ……ローレンさん….…一体どうしちまったんだ)


 押し寄せる魔物達は同調を会得している人器使いであれば難なく倒せる強さなのだが、同調が出来ない人器使いが単独で倒すことは難しい。

 それでも普段であれば非同期者でも役割分担を明確化したパーティーで戦えば倒せる敵だ。

 しかし、突然の襲撃で誰もが仲間達との合流もままならない。

 そして、押し寄せる魔物達の数が多すぎる。

 エヴィエスはまるでミズラフで戦っているような錯覚に陥っていた。


 皆混乱のなかで戦っていたため、また1人、また1人と勇敢な人器使いが倒れていっていた。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


 今度はエヴィエスの後方で悲鳴が響く。

 振り返ると今度は別の人器使いがフェンリルに首元を噛まれていた。


「クソッ!!」


 あの人器使いは致命傷を受けているかもしれない。


 助けないと。


 そう思った矢先ーー


「きゃぁぁぁぁ!!!」


「嫌だ!!助けてくれ!!!」


「誰か!?うわぁぁぁぁぉぁぁ!!!」


 至る所で悲鳴や助けを求める声が響く。

 その数はどう考えてもエヴィエスとナイで対処できるものではない。


「グハッ!!!」


 そして、目の前でもまた人器使いが倒れた。


 クソックソックソックソッ!!!


 一体どれだけの人が死んだんだ。

 どれだけの想いが消えていったんだ。

 大人達だけじゃない。

 死んでいった人達の中には子供だって沢山いるはずなのだ。


「どうして……どうしてこんな!!」


 エヴィエスの心を怒りが埋め尽くしていく。


(……ヴィ様……エヴィ様!!!)


 ドス黒い感情に囚われかけていたエヴィエスはナイの声でハッと我に帰る。


(エヴィ様……気持ちは分かるよ。でも、私達が足を止めちゃ駄目!みんなを助けられるのは私達しかいないの!!)


 ナイの言うとおり、この場に同調が可能な人器使いはエヴィエスしかいないのだ。


 同調しているナイはエヴィエスの気持ちを理解している。

 それでもなお、自分を失わずに出来ることをしようとしている。


 その言葉はまごうことなきパートナーとしての言葉だった。


(……ああ。お前の言うとおりだ。必ず助けは来る。俺達で守ろう。みんなを)


 エヴィエスが足を止めたのは一瞬だったが、大切なものをナイからもらった気がしていた。


 彼女はもう何も出来ないあの頃の少女ではないのだ。


 しかし、エヴィエスの奮闘虚しく屍の山は増加の一途を辿っていた。


 ◆◆◆◆◆◆


(シロさん!!もうすぐです!)


(うん!)


 シロとリリスは焦っていた。

 合流してから中央広場に行くまでに思った以上に時間が掛かってしまったからだ。


 シロは建物から建物へと飛び移りながら中央広場へと急ぐ。

 本来であれば中央広場までは一本道なのだが、無数の瓦礫や業火で道が塞がれていたため飛び移りながら進むことを選んだのだ。


 しかし、飛び移りながら進むといっても簡単ではない。

 燃え盛る建物から上がった黒煙があたりを覆い、その煙に巻かれながら進むのだ。視界が悪く時に咳き込みながら進んでいた。


 広場に近づくにつれて人々の悲鳴や叫び声。

 そして魔物の咆哮が聞こえて来る。

 広場で戦いが起きているのは明らかだった。


 この煙を抜ければ広場が見える。


 シロは意を決して朦々と立ち込める黒煙の中へ飛び込んだ。


「なっ!!」


(ひどい……)


 シロとリリスが目にしたもの。

 それは目を覆いたくなるような光景だった。


 広場は倒れた人々と魔物達で血に染まっていた。


 しかし、人器使い達と魔物達との戦いはなおも続いている。

 中央広場の噴水横に開いた地下へと降りる階段を守るように人器使い達が懸命に魔物と戦っている。


 その中にエヴィエスやローレン、ウタ達の姿は見えない。


 何故誰もいないのか。

 そんな戸惑いを抱きながらシロは広場中心に向かって飛び上がると魔物に向かって水弾を放つ。


 ドンドンドンドンっと乾いた音が響き、水弾に急所を貫かれた魔物達がドサドサと音を立てて崩れ落ちた。


「大丈夫ですか!?」


 シロは人器使い達を指揮していたショートヘアが似合うギルド職員の女性に駆け寄る。


「ありがとう……貴方シロ君ね」


「僕を知ってるんですか?」


「ええ……私はマライア。カーミラとは同期なの。でもはそんな事話してる場合じゃないわね。エヴィエス君が広場の北で戦ってるわ……助けてあげて」


「お願い!あの人……たった1人で魔物を食い止めてるの!」


 別の人器使いの女性が声を上げる。


「……分かりました。ここは任せます」


 シロは北の方角に向かって全力で地面を蹴った。


(シロさん!!あそこに……!!)


 リリスの声が響くのと同時にシロも視線の先で1人の青年が魔物と戦っているのを捉えていた。


 その後姿を見紛うことはない。

 シロの友エヴィエスだ。


「エヴィ!!」


 シロは姿を認識するやいなや全力でエヴィエスに向かって飛び上がり前方の魔物に向かって二丁の銃口を重ねる。


(アリス!リリス!出し惜しみはしないよ!)


(任せてください!)


「デュアルバースト!!!」


 シロの放った激流がエヴィエスに迫る魔物を消し飛ばす。


 その間にシロはエヴィエスの横に着地した。


「エヴィ!!」


「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……よう。遅かったじゃないか」


 彼は無数の傷に塗れ、憔悴しきっていた。

 特に左腕の火傷が酷い。


「ごめん!すぐ回復するから……」


「いや、俺はいい……」


 ヒールバレットを放とうとエヴィエスに銃口を向けるが彼はシロに鋭い視線を返す。


「なんで!?」


「俺より必要としてる奴がいるはずだ。それに……俺はまだ戦える」


 そうは言うもののエヴィエスに限界が近いのは誰の目にも明らかだ。

 彼ほど近接戦に長けている人器使いがこれだけ疲弊しているのだ。

 どれだけこの戦いが激しいかったのか想像に難くない。


 魔物達は新たに合流したシロを警戒しているのか少し距離を保っている。

 しかしそれも長くは保たないだろう。

 エヴィエスを回復させるチャンスは今しかないかもしれないのだ。


(シロさん!!)


(うん……分かってる)


 リリスの声にシロは小さく頷くと魔物に視線を向けているの隙をついて背後から無言でヒールバレットを打ち込んだ。


「なっ……!?シロ……どうして……」


 癒しの弾丸を撃ち込まれたことに気づいたエヴィエスは自身の身体に纏わりついて傷を癒していく水を見ながら驚きの声を上げる。


「エヴィ……駄目だ。この状況を見ればエヴィがどれだけ必死で戦ってきたのか分かる……でも自分を犠牲にしても失った命は戻ってこない」


「シロ……」


「この場には僕達しかいない!!僕達が倒れたら誰がみんなを守るんだ!!負けたらみんな死ぬんだぞ!!意地張ってる場合じゃないだろ!!」


「……遅れてきたのに偉そうに言うじゃないか」


 そう言いながらエヴィエスはフッと笑みを浮かべる。


「だがシロの言うとおりだな……こっから先も俺は全力で戦う。シロ!遅れんなよ!」


「エヴィこそ!!」


 シロとエヴィエス。

 肩を並べあった2人は前方の魔物に向かって鋭い視線を向けたのだった。

 いつの間にか快晴だった空は黒い雲が覆い雨が降り始めていた。

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