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出来損ないの人器使い  作者: salt
第3章
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66話「穏やかな日々1」

「シロ!シロ!起きてったら!!」


「……え、ああ……アリス……」


 自分の部屋で眠っていたシロは身体を揺すられて目が覚めた。

 まだ重い目蓋を擦りながら目を開けるとアリスがベットの脇で見下ろしている。


「どうしたの?」


「もう……どうしたのじゃないわよ。今日は私とのデートでしょ?」


 アリスはため息混じりに呆れた表情を見せるが、当然シロも忘れていた訳ではない。

 ミズラフに行くことになった朝、くじ引きでアリス、ウタ、リリスの順番でデートをすることに決まっていたのだ。


「いや、忘れてないよ。でも早すぎない?」


 部屋の窓から見える外はまだ薄暗い。


「馬鹿ねぇ、シロは……1日しかないんだから早く出掛けるのは当然でしょう?さぁ!さっさと準備して!」


「分かったよ。じゃあ急いで準備するから、下で待っててもらっていいかな?」


「分かったわ。すぐに来なさいね」


「うん」


 そう言うとアリスはシロの部屋から出て行った。

 シロはすぐにベットから起き上がると素早く出掛ける準備を整えるのだった。


 昨日は夜通しアリスを探し待ったのだが、結局見つけることは出来なかった。

 深夜一旦家に戻ったところ、もう既にアリスは家に戻っていて、彼女達はいつもの仲の良い姉妹に戻っていた。


 自分いない間に何かあったのは間違い無いのだが、アリスのリリスももう解決したからと言い張り何も教えてはくれなかった。

 しかし、自分の鈍感さが2人を傷つけたのは揺るがない事実だ。

 シロは今日、アリスとその話をしておきたかったのだ。


 出掛ける準備を整え家の玄関を出るとまだ薄暗い中、アリスは玄関横のベンチに腰掛けていた。


「お待たせ」


「早かったじゃない」


 アリスは素早くベンチから立ち上がるとシロの目の前でクルッと一周回る。

 彼女はいつも動きやすいピッタリとしたパンツを履いているのだが、今日は女性らしいワンピースを着ており、スカートがふわりと浮いた。


「….…どう?」


「どうって….…?」


「あのねぇ……せっかく可愛い格好してるんだから褒めなさいよ」


「ああごめん……とっても……可愛いよ」


 慣れない言葉を口にした瞬間、自分の顔が熱くなるのを感じる。


「よろしい!」


 そう言ったアリスはシロに満面の笑みを見せた。


「それでどこに行くの?」


「んー、別に行きたい場所がある訳じゃないのよね。だから今日は街を見て回りましょうか」


「そうだね、じゃあ行こうか」


 するとアリスはおもむろにシロの腕を取り自分の腕を組ませた。


「え!?」


「なによぉ……今日はデートなんだからこれくらい良いでしょ」


 肩口から覗く彼女はやや頬を赤らめながらシロを見つめる。


「いや……なんでもないよ」


 上目遣いの彼女はいつもより数段可愛く見えて、シロの心臓はバクバクと音を立てていた。


 ◆◆◆◆◆◆


 まだ陽が昇っていない時間に家を出た2人は、その後、東の住居地区や南の農村地帯をブラブラと歩き、北の商業地区に来た頃には陽がすっかり高くなっていた。


「これ美味しいわね!」


「うん!本当に美味しい!」


 シロは達は商業地区で一番美味しいと言われている料理店で昼食をとっていた。

 出された料理はミズラフでも食べたことがないほど美味しい料理だった。


「……ほんと平和よね」


「そうだね。こんな日がいつまでも続けばいいのに……」


「ミズラフを見てから、この日常が本当に尊いものなんだって気付かされたわ」


「……うん。今も戦ってるのかな?」


「多分ね」


 この街だけでなく、今人間が平和に暮らせているのはミズラフの人器使い達が魔物と戦っている成り立っているのだ。


 もしかしたら、今もパートナーを失って泣いている人がいるのかもしれない。


「あっ!今なんか暗いこと考えてたでしょ?」


「えっあっ……うん」


「まあ、どうせアンタのことだから、私かリリスが死んだら……とか、自分が死んだら….…とか考えてるんでしょ?」


「え!?」


 見事に考えていることを言い当てられたシロは目を見開いてアリスを見つめる。


「アンタは考えてることが顔に出るから分かりやすいのよね」


「顔に出てる?そうかな?」


「出てるわよ。少なくとも私とリリス。あと釈だけどウタも分かってると思うわ」


「ウタも?」


「うん、アイツは気に入らないけどアンタのことを考えているのは確かね。さっ!この話は終わり。次行くわよ!」


 話題を切るかのように勢いよく立ち上がったアリスはシロに店を出るよう促す。


「次はどこ行くの?東も南も行ったから次は西?」


「シロ……アンタは本当に分かってないわね。次は….…買い物よ!!!」


 そう言ったアリスはニヤリと笑みを浮かべたのだった。


 ◆◆◆◆◆◆


 陽が傾き始めるまで服や装飾品を選ぶアリスに延々と付き合わされたシロはいつしか両手一杯に荷物を抱えていた。

 そしてそのまま街の西にある小高い丘を2人で登っていた。


「買いすぎたんじゃない?」


「いいのよ。お金使う機会なんてあんまりないし、使いたい時にパァっと使っちゃえばさ」


 上機嫌なアリスは軽やかな足取りで頂上への坂道を登っていく。


「さぁ、急がないと陽が暮れちゃうわよ!」


「あっ!ちょっと待って!」


 両手に抱えた荷物をガサガサと鳴らしながら、シロはアリスの後を追った。


「わぁ!凄いわね、街の壁の中にこんな街を見下ろせる丘があるなんて!!」


「本当だね……」


 丘の頂上からは街を一望することができ、夕陽に照らされて街は美しいオレンジ色に染まっている。


「あーあ!今日は楽しかったなー」


 アリスは夕陽を一身に浴びながら、両手を上にあげながら身体を伸ばす。

 しかし、シロにとって今日はまだ終わりではない。

 昨日のことを話しておかなければ。


「……アリス」


「ん?」


 アリスが振り返ると夕陽に照らされた金髪がキラキラと輝く。


「あの……昨日のことをなんだけど……」


「あー、あれ?心配掛けてごめんね。もう気にしないで大丈夫だから……」


「大丈夫じゃない!」


 シロはアリスの言葉を遮る。


「シロ……」


「大丈夫じゃない。僕はアリスとリリスを絶対に傷つけない。守るって誓った……でも、結局僕の所為で2人を傷つけてしまった……」


 シロはウェステから2人が付いて来てくれると言った時、そう自分に誓っていた。

 それを破ってしまった自分が許せなかったのだ。


「僕は……もしかしたらまたアリスを傷つけてしまうかもしれない。でも……でも一緒にいて欲しいんだ」


 アリスとリリス一緒に居たい。

 それなシロの心の底からの願いだった。


「シロ……そこまで私達のことを想ってくれてるんだね……でも私達は変わるの。リリスは変わったわ。前なら私以外に自分の意見を言うことはなかったし、シロに指示するなんてもっての外だわ。それは私も同じ……」


 アリスはシロから街に視線を逸らしながら続ける。


「前の私達だったら、シロに守ってもらえるって安心してた。でも、それじゃダメなの。シロが答えを見つける為には守っもらうだけのパートナーなんて要らない」


「……」


 パートナーを解消するという最悪の結論がシロの脳裏を過ぎる。


「シロに必要なのは共に歩むパートナーよ。だから、私もリリスももっともっと強くなるわ」


「それって……」


「当然これからも私達はシロと一緒に居るわ。あっ!もしかして、パートナー解消されるかもって思ったんでしょ?」


 そう言いながらアリスは悪戯っぽい笑顔を見せる。


「うん、もう一緒には居られないかと思ったよ」


「あはははっ!!!そんなわけないじゃない!シロが答えを見つけた時、隣にいるのが私の願いなんだから」


「アリス……ありがとう」


 目頭が熱くなる。

 シロは涙を流さないようにグッと堪えた。


「それはそうと、ちょっと手を挙げてもらっていい?」


「うん?」


 シロはアリスに促されるまま両手を挙げると、アリスは腰のベルトに何かをカチャカチャと付け始める。


「これは?」


「これは私からのプレゼント。私達の人器って両手が塞がって不便な時があるじゃない?これなら人器化したままでも身に付けたままに出来るかなって作ったのよ……これでよし!」


 シロは腰に視線を向けると、ベルトに人器を収められるホルダーが括り付けられていた。


「もう片方はリリスが作ってるわ。本当は一緒に渡そうって話してたんだけど、まあいいでしょ」


「ありがと……!!!」


 感激したシロはホルダーから顔を上げた瞬間ーー


 アリスと口付けを交わしていた。


 柔らかな彼女の唇の感触。

 そして、吹き抜ける風が彼女が愛用する石鹸の香りを運んでくる。


「好きよ……シロ」


「アリス……」


「いいの。何も言わなくて、リリスもウタもシロにとって大切な人ってことは分かってるから……あの2人の想いも聞いてあげて」


 そう言うと彼女は呆然とするシロに逃げるように背を向ける。


「あっアリス!!」


 遠ざかるアリスを慌てて呼び止めると、彼女はくるっとこちらに向き直る。


「そうそう!シロの初めては私だからね!!」


 頬を赤らめた彼女はははにかみながらそう言うと、1人街へ戻って行った。


 その後、丘の頂上に残されたシロは未だぼんやりと街を眺めていた。

 少しずつ周囲を暗闇が包み、街には光が灯り始める。


 恋という感情はシロには分からない。

 だが、この胸の高鳴りが恋だとしたら……


 頬を赤らめて笑う彼女の表情がいつまでもシロの脳裏に焼き付いていた。

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